第五話
◆リュシアン(第一王子)
監察院の特別室。
王族専用の隔離室は、豪奢でありながら、どこか冷たい。
リュシアンは窓辺に立ち、外の景色を見つめていた。
その瞳には、怒りでも悔しさでもない、ただ“理解できない”という困惑が浮かんでいる。
(なぜ、誰も俺の言葉を信じない? 俺は、正しかったはずだ)
だが、心の奥に、ミリアの笑顔がちらつく。
あの笑顔に、何か“抗えないもの”を感じていたことを、彼はまだ認めようとしなかった。
◆ミリア・フォン・エーデルシュタイン(聖女候補)
聖女候補用の隔離室は、魔力封印の魔道具が設置された特別仕様。
ミリアは、ベッドに腰掛け、頬を膨らませていた。
「なんでこんなことになるの? 私、ヒロインなのに……」
彼女は、まだ“ゲームの世界”だと思い込んでいた。
自分が選ばれた聖女であり、逆ハーレムの中心であることに疑いを持っていない。
(きっと、イベントが進めば、みんな私を助けに来る)
その思い込みが、彼女を現実から遠ざけていた。
◆アレク・フォン・ヴァルシュタイン
騎士団長の息子であるアレクは、隔離室の壁に拳を打ちつけていた。
「くそっ……俺は、ミリアを守っただけだ!」
だが、拳の痛みが、彼の中の“違和感”を呼び起こす。
(あの時、なぜあんなに怒りが湧いた? 彼女の言葉に、なぜ逆らえなかった?)
騎士としての誇りが、彼に冷静さを取り戻させようとしていた。
◆ユリウス・フォン・エルンスト
ユリウスは、机に向かい、事件の経緯を整理していた。
論理的に、冷静に――それが彼の信条だった。
「……感情的な判断だった。あれは、俺らしくなかった」
彼は、ミリアの言葉に従った自分を分析しようとしていた。
だが、分析すればするほど、説明できない“感情の揺れ”が浮かび上がる。
(魅了……そんな馬鹿な)
彼は、初めて“魔法による干渉”の可能性を考え始めていた。
◆レオン・フォン・マルグリット
魔術師の息子であるレオンは、魔力の流れを確認しようとしていた。
だが、いつものように魔力が“応えて”くれない。
「……俺の魔力が、揺れている?」
彼は、魔術師としての直感で、何かが“干渉”していることを感じ取っていた。
(魅了魔法……まさか、俺が?)
その可能性に、彼は震えた。
自分の魔力が、誰かに操られていたかもしれないという恐怖。
◆カミル・フォン・ドレイク
外交官の息子であるカミルは、静かに窓の外を見つめていた。
彼は、ミリアの笑顔を思い出していた。
「……あの笑顔は、嘘じゃない。そう思いたい」
だが、彼の中に芽生えた疑念は、消えなかった。
(なぜ、俺たちは、彼女の言葉に逆らえなかった?)
外交官としての冷静さが、彼に“感情の異常”を認識させていた。
このようにして、隔離された者たちはそれぞれの部屋で、
自分の行動と感情に向き合い始めていた。
そして、裁判の時は、刻一刻と近づいていた――。




