最終話
神界の空は、淡い金色に染まっていた。
無数の神々が、光の帳の中で忙しく働いている。世界の均衡を保つため、彼らは日々、膨大な調整を続けていた。
その静謐な空間に、ひときわ異質な影が現れる。
地上の服装――黒の礼服に身を包んだ男が、転送の光を纏って降り立った。
「お疲れ様、カイ」
「また地上帰りか」
神々はちらりと視線を向けるが、驚きはない。彼がこの役目を担って久しいからだ。
カイ・フォン・レオンハルト――地上では法務省の検察官を名乗っていたが、その正体は、世界修正を司る神。
彼は無言で礼服の裾を整え、奥の回廊へと歩みを進める。
上司神の間。
巨大な円卓の前で、白銀の衣を纏った上司神が彼を迎えた。
「戻ったか、カイ。今回の顛末を報告せよ」
カイは淡々と語り始める。
「対象世界における異常は、犯罪神の干渉によるものと判明しました。ゲームの世界や物語を実際の世界に投影し、断罪劇を発生させる――その目的は、感情エネルギーの収奪」
上司神の眉がわずかに動く。
「聖女候補の転生は、修正できなかったのか?」
「不可能でした。気付いた時には既に転生済み。加えて、犯罪神を特定するには、断罪劇の『エンドロール』まで進める必要があった」
「……なるほど」
カイは続ける。
「被害者であるセレナ・フォン・グランディールには、極力ミリアと関わらないよう意識調整を施しました。最終的に、裁判という形でエンディングを書き換え、名誉回復を実現。犯罪神は力を奪い、人として有限の命を全うするよう転生させました」
上司神は深く頷いた。
「よくやった。世界の均衡は保たれた」
その言葉に、カイはわずかに肩をすくめる。
「……やれやれ、毎度のことながら骨が折れる」
だが、休息は許されなかった。
「次の任務だ」
上司神の声が、静かに響く。
「別の世界で、また神が干渉している。修正せよ」
カイは短く息を吐き、礼服の袖を整えた。
「了解」
光が彼を包み込む。
次は、どんな世界だ――。
神界の空に、再び転移の光が走った。




