第二十四話
「……王家より正式な通達だ」
侯爵の低い声が、広い謁見の間に響いた。
使者が差し出した封書には、王家の紋章が刻まれている。
セレナは静かにそれを受け取り、封を切った。
『王太子の瑕疵により、婚約は無効とする。王家はこれを深く詫び、賠償金を支払うものとする』
その文言を目にした瞬間、胸の奥に張り詰めていた糸が切れた。
「……ようやく、認めたのね」
セレナの声は冷たく、しかし震えていた。
侯爵は娘を見つめ、静かに告げる。
「セレナ。王家は、今後お前が誰と結婚しようとも、制約はしないと明言した」
「……そう」
セレナはゆっくりと息を吐いた。
けれど、このままでは終われない。私の名誉は、まだ傷ついたまま――。
「父上、私から王家に条件を提示します」
侯爵の眉がわずかに動いた。
「条件?」
「外交官として海外に赴任させてください。王家の名において、私を派遣する。それが、私の名誉を回復する唯一の方法です」
侯爵はしばし沈黙し、やがて深く頷いた。
「……お前らしいな」
こうして、セレナの和解条件は王家に受け入れられた。
数週間後、港町。
白い外套を翻し、セレナは船の甲板に立っていた。
「必ず、取り戻してみせる。私の名誉も、未来も」
海風が彼女の髪を揺らし、遠い異国への航路が開かれる。
これは敗北ではない。新しい戦いの始まりだ――。




