第二十三話
「……どうして、私がここに?」
ミリアは白い石の床に膝をつき、視線を上げた。
目の前には、荘厳な祭壇と、冷たい眼差しを向ける大神官。
「聖女候補ミリア・フォン・エーデルシュタイン。あなたは戒律を破り、他者を不当に貶めた」
その声は、神殿の壁に反響し、重く響く。
「不当に? 私は正義を――」
「正義を語る資格は、戒律を守る者にのみ与えられる」
ミリアの胸に、苛立ちが募る。
どうして? 私はヒロインなのに。悪役令嬢を追放したのよ? それが何で罪になるの?
「第一戒律。虚偽をもって他者を傷つけること、神は許さない」
大神官は分厚い戒律書を開き、淡々と読み上げる。
「あなたがセレナ・フォン・グランツを『悪役令嬢』と断じ、追放を主導した行為――これは、戒律違反であり、名誉を損なう罪」
「そんな……だって、彼女は悪役令嬢で――」
「その言葉に、神の証はありますか?」
ミリアの喉が詰まった。
「ここは戯れの舞台ではない。神殿は、あなたの信じる幻想を裁く場だ」
大神官の声は冷徹で、慈悲の欠片もない。
「再教育の第一課題。戒律を写経し、その意味を理解せよ」
侍女が差し出したのは、白紙の羊皮紙と黒い羽ペン。
「一文字でも誤れば、祈祷の時間が倍になる」
ミリアの指が震えた。
どうして? 私はヒロインなのに――どうして、こんな……。
白紙に、戒律の言葉が刻まれていく。だが、その意味は、彼女の信じた世界を否定する刃だった。




