第十九話
裁判長の声が、法廷の空気をさらに引き締めた。
「証拠調べは終結しました。これより、最終弁論に移ります。検察官、発言を許可します」
カイ・フォン・レオンハルトが静かに立ち上がった。
その姿は冷徹で、声は澄んだ刃のように響く。
「本件の本質は、第一王子殿下の故意性ではありません。
断罪劇における判断は、魅了魔法の影響下で行われた可能性が極めて高い。
魔力波形の解析結果、証人の証言、そして学園監視術式の映像記録――これらは一貫して、殿下の意思が歪められた事実を示しています」
傍聴席がざわめく。
カイは淡々と続けた。
「よって、殿下の責任は限定的であり、むしろ聖女候補ミリア・フォン・エーデルシュタインの過失が重大です。
彼女は、神殿より推薦を受けた立場でありながら、無意識下とはいえ魅了魔法を発動し、王家の判断に影響を与えました。
さらに、神殿の管理体制にも重大な瑕疵が認められます」
カイの視線が一瞬、ミリアを射抜く。
彼女の肩が震え、唇が白くなる。
「本法廷は、王国法と神殿法の両方に基づき、これらの責任を明確にすべきです。以上です」
カイが静かに一礼し、席に戻った。
裁判長が視線を弁護官に向ける。
「弁護側、発言を許可します」
弁護官が立ち上がり、声を張った。
「殿下は魅了魔法の影響下にあり、責任はありません!
むしろ、神殿の管理不備こそが問題であり、聖女候補の過失も故意ではない以上、軽微なものです。
本件で過度な処分を下せば、王国の政治的安定を損なう恐れがあります!」
傍聴席がざわめく。
弁護官はさらに続けた。
「よって、殿下には免責を、聖女候補には教育的措置を――」
その声は必死だったが、論理は崩れ始めていた。
証拠の重みが、言葉を押し潰していく。
ミリアの視線が宙を泳ぐ。
――これは、バッドエンド?
そんなはずない。
私はヒロインなのよ。
この世界は、私のためにあるはずなのに……。
「悪いのはセレナ……原作を壊したのは彼女……私は……」
彼女の胸の奥で、必死の言葉が渦巻く。
だが、法廷の冷徹な空気は、その幻想を容赦なく切り裂いていた。




