第十八話
――どうして、こんなことになっているの?
ミリアは証言台の端で、震える指先を必死に握りしめていた。
視線の先では、魔導結界に浮かぶ映像が淡く消え、傍聴席のざわめきが波のように押し寄せてくる。
私は乙女ゲームのヒロインに転生したはず。
この世界は、原作通りに進むはずだった。
王子に愛され、断罪劇で悪役令嬢――セレナが追放される。
それが、私の「幸せなルート」だったのに。
――なのに、どうして私が裁かれているの?
悪いのはセレナよ。
原作通りなら、彼女が罪を認めて泣き崩れるはずだった。
それなのに、何故……何故、私がこんな目に?
「私は悪くない……悪いのは、セレナ……原作を無視した彼女が……」
ミリアの唇が震え、声にならない言葉が胸の奥で渦巻く。
だが、法廷の空気は冷徹だった。
裁判長が次の証人を呼ぶ声が、彼女の幻想を切り裂く。
「学園長、証言台へ」
白髪の老教師がゆっくりと立ち上がり、証言台に歩み出る。
魔導結界が淡く光り、術式が起動する。
裁判長が確認する。
「学園長、断罪劇当日の状況について証言してください」
老教師は深い皺を刻んだ顔で、静かに告げた。
「断罪劇は、学園規定に反する行為です。
第一王子殿下が主導した場面は、事前の許可なく行われ、学園側は強く制止しましたが、殿下の命令により中断できませんでした」
傍聴席がざわめく。
魔導結界が淡く光り、嘘はない。
次に呼ばれたのは、生徒代表の令息だった。
緊張した面持ちで証言台に立ち、声を震わせながら語る。
「……あの日、断罪劇の場にいました。
殿下は……普段よりも、落ち着きがなく、迷っているように見えました。
でも、ミリア様が『その令嬢は罪を犯しました』と強く言った瞬間……空気が変わったんです。
殿下の目が……決まったように見えました」
魔導結界が淡く光り、嘘はない。
傍聴席がざわめく。
「聖女候補が……?」
「王子は退廷したし……これは前代未聞だ」
――違う。違う、違う、違う!
これはバッドエンドなんかじゃない。
そんなはずない。
私はヒロインなのよ。
この世界は、私のためにあるはずなのに……。
「悪いのはセレナ……原作を壊したのは彼女……私は……」
ミリアの視線が泳ぎ、魔導結界の光が淡く反応する。
その意味を、彼女はまだ理解していなかった。




