第十七話
裁判長の声が低く響いた。
「次に、聖女候補が主張する『被害者によるイジメ行為』の有無を確認します」
傍聴席がざわめき、視線が証言台と魔導記録石に集まる。
記録官が術式を起動し、結界に淡い光が広がった。
魔導映像が浮かび上がる――池のほとり、制服姿の少女が立っている。
裁判長が説明する。
「これは学園の監視術式による映像記録です。聖女候補が主張する『池に落とされた』場面を確認します」
映像が動き出す。
少女――ミリアが、池の縁で立ち止まり、周囲を見回す。
次の瞬間、彼女は自ら足を踏み出し、水面に飛び込んだ。
傍聴席がどよめく。
「……自分で……?」
裁判長の声が冷徹に響く。
「映像に、他者の干渉は確認できません」
ミリアの顔が青ざめる。
唇が震え、声にならない言葉が漏れた。
「そんな……違う……これは……」
裁判長は続ける。
「次に、教科書破損の件について。学園側の記録を確認します」
学園長が証言台に立つ。
白髪の老教師が、厳粛な声で告げた。
「セレナ・フォン・グランディールが、その教室に入った記録はありません。出席簿にも、懲罰記録にも該当事項はない。教科書破損は、確認できませんでした」
さらに、周囲の生徒たちが証言する。
「普段、クラスも授業も違うので、関わりはありません」
「池に落とされたなんて、見たことがない」
「教科書が破れていた?そんな話、聞いたこともない」
魔導結界が淡く光り、嘘はないことを示す。
弁護官が立ち上がり、声を張った。
「裁判長、映像は角度が悪い。水に落ちたのは事故の可能性もあります。教科書についても、誰かが持ち出した可能性は否定できません!」
その瞬間、王子が椅子を蹴るように立ち上がった。
「そうだ!この証拠は捏造だ!俺を貶めるための偽りだ!」
法廷が騒然となる。
裁判長の声が鋭く響いた。
「静粛に!殿下、これ以上秩序を乱すなら退廷を命じます」
王子はなおも叫ぶ。
「俺は騙されてなどいない!これは陰謀だ!」
裁判長が手を振り下ろす。
「退廷を命じます。廷吏、殿下を控室へ」
廷吏が王子の腕を取り、傍聴席がざわめきに包まれる。
ミリアは震える手で胸を押さえ、視線を落とした。
――断罪劇の正義が、音を立てて崩れていく。




