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そして旅に出るその7



 ミナモ達が向かったのは商店街裏にある倉庫群だ。

 その一角で複数の馬車があり、その馬車に積荷の詰め込み作業をしていた。

 積み込み作業をしてる中にはプレイヤーも混じりっているのを見つける。そのプレイヤーの殆どが頼りない見た目の装備をしてる低レベルのプレイヤーという事が一目でわかる。


「初心者も居るの?」


「護衛を初心者には任せられないから、あっちが護衛の人達」


 積み込み作業をしている者達から離れた場所で、しっかりとした装備を着込むプレイヤー達の姿があった。

 護衛の打ち合わせをしては計画を再確認している所だ。


「初心者は積荷の仕事よ。

 一部がそのまま乗って積荷を降ろす仕事もしなくちゃいけないの」


「帰り大変そう」


「大変でも冒険にはなるから楽しいものよ。

 ギルドの信用も手に入るしね」


 転移装置の使用許可を貰うのが今後の足掛かりなる、その為の一歩である以上苦労は避けて通れない。

 エルニカは商人と依頼について話がある様で、近くに居た商人に連れられて別な場所へと向かって行った。

 残されたミナモは適当に気怠そうにする初心者達を眺める。


「サボってないで手伝えよ」


 その積荷を片付けている1人がぶっきら棒に話しかけて来るが、積荷を片付ける仕事をしていない以上手伝う義理も無く。


「私依頼受けてないよ」


「は?」


「街まで相乗りするだけ」


「んだよ……」


 大きなため息を吐き苛立ちながら再び積み込み作業を始める。

 少し離れたレンガの壁にもたれかかりながら作業を眺めていた。

 エルニカが戻ってきて、同じように壁にもたれかかり話しかけて来る。


「どう、みんなこうやって立派になっていくのよ」


「立派ねぇ」


 嫌々とやっている姿を見て、本当に楽しくゲームをしているのかと疑問に感じた。

 ゲームにでも嫌な事はあるが、彼等の作業姿は嫌悪に近い行動にしか見えない。


「好きなこと以外の嫌な事もあるけど、楽しむための下準備よ」


「個人的には苦労の中に楽しむ要素が欲しいけど。

 この際街から出て、徐々にギルドの信頼を得ていくってプレイスタイルでも良いとは思う」


「人間、そんな柔軟に物事をできないのよ。

 それにね」


「それに?」


「この街、プレイヤーの拠点でもあるから、できる限り離れたくはないのよ。

 露店も多いし、人も多い。至れり尽くせりな場所から遠ざかって、1人地方で生き延びるのは大変よ」


「まあ、確かに」


 エルニカの言っていることは間違いない。

 MMOという意味性質上、他者との助け合いも加味され、プレイヤーにとってこの街は楽園の様な場所だ。

 1人で何でもこなせるわけではない為、人の少ない地域での活動には不便が出る。


「ところで」


「はい」


「ミナモちゃんは何が不満だったの?」


 今が効くタイミングだとエルニカは思い立ち、出会った時ミナモが抱えていた不満を尋ねた。


「不満? ああ。

 なんと例えればいいのか、……まあ簡単に言ってしまえば過去からの侵略者と言うか、楽しむのを阻害するために生まれた存在というか」


「よ、よく分からないわね。

 人間関係?」


「ゲームの仕様ですかね。

 あれがなければ素直にこのゲームを楽しめてたはずなんですけどねぇ。はぁ、後一日遅く始めてたら知るのはもっと先になってただろうに」


 自分には解決できない悩みという事が分かり、これ以上は解決に動けそうにも無かった。


「他のゲームをしてたのね、前まで何をしてたの?」


「これの前はスペコン。

 スペースコンバットシム系です、宇宙船でバンバンと撃ち合う」


「全く違うジャンルなのね、ファンタジー系は初めてってわけじゃないわよね?」


「そうですね。

 ファンタジー系はここ二年はやってませんねぇ」


「結構前ね、じゃあ一応ネットゲームの先輩さんなのね。

 私はこれの前に一年くらいしかしてないから、まだ合計で二年もしていないの」


「結構長くしてるね。

 人居ない所だとすぐにサービス終わってしまうのに」


「私がやっていたのはまだ続いていますよ、けどもう人が居ないみたいですけどね」


「このゲームに人が集中してるからねぇ、量産型じゃ太刀打ちできないよね」


「量産型?」


「目新しい要素がない、王道な作りの作品。

 そういうのを総じて量産型って言われてるの」


 レベルがあり、敵を倒して強くなり、モンスターからレアアイテムを手に入れたり、そんな当たり前なゲームの常識を取り入れた王道的な作品が世に溢れている。

 目新しさや売りがあればまた違うのだが、多く長くゲームをしているプレイヤー層から見れば、変わり映えのしない味の無いガムだ。


「だから他のと違う要素が多いこのゲームが人気になったんだろうけど」


「自由を売りにしてるって公式が言ってるものね。

 確かに前やってたのより比べ物にならないわ」


「自由ねぇ、まあ自由の中の秩序という事で、ああなってるんだろうけど」


 間違いなく自由なゲームではある、しかし目の前の苦行僧を眺めていると本当に自由なのかと疑問に思う事もある。

 やろうと思えば本当に自由だ、けどプレイヤーの作り上げたルールに縛られ苦労しているだけに見える。

 何処か現実と同じ光景に複雑な思いを二人は抱えた。


「秩序があるから面白いってのもあるんだけれどね、量産型にはそれがある。

 独特なルールとかそういう仕様、あれはあれで掘り当てられたなら楽しい」


 王道は王道だからこそ素晴らしいものでもある。一部は味の無いガムではなく、噛めば噛むほど旨味がでるスルメであることは間違いない。


「噛めば噛むほど味は出るけど、……まあ、人も居なくて結局味が出る前に辞めるが殆ど」


「……ミナモちゃんはこのゲームを、どう思ってますか?」


「え? …う~ん、二日目だしどうとは言えないかな」


 ミナモ自身もこのゲームの面白さという要素を全くつかめていない。


「オリジナルの技とか作れたり、いろいろ自由ってのも何となく分かるけど。

 分かるってだけで、今の所他のファンタジー系と変わりはしないかな、むしろ横に広がった分途方も無くなってる感じがするよ」


 自由だからこそ、何をして良いのか、その明確な目標が存在していなかった。


「ストーリーもないし、プレイヤーに明確な目的を開示もしてない。

 私みたいな目標もしに飛び込んでくるとある意味苦労するだろうね」


 面白さを感じさせ要素を見つけられていないというのが、今の状況に拍車をかけていた。


「エルニカさんは何を目的で始めたの? どうやって面白い物を見つけたの?」


「私? 私は……」


 エルニカが何を目的で初めて、今の面白さを見つけたのか、その事が気になり尋ねる。

 しかし何処か浮かない顔をしてから答えた。


「お姉さんに誘われて、それで、気が付いたらハマってた」


 新しいゲームに右往左往していたら、いつの間にか気になるのもを見つけてのめり込んでいた、ただそれだけであった。


「うん、そう、…面白かった」


(ん?)


 何処か憂いを帯びた雰囲気に変り、違和感を覚えるが、丁度その時詰め込み作業と点検などの確認を終えた商人が声を上げる。


「冒険者さんたち、こちらは準備が終わりました。

 速やかにそちらの準備を済ませてくださいませ」


 若干消化不良感が否めないが、これで話を区切り、2人は指定された馬車へと乗り込む事になった。

 乗り込んだ馬車には荷物が多く積まれているが、開いてる場所もありそこにプレイヤーが5名ほど座っていた。

 馬車は前方の座席側と後方が開いてる為閉塞感は無いが、プレイヤー達の中には先程ミナモに話しかけて来た不愛想な者も居る為、雰囲気的にも窮屈感があった。


「こんにちは」


 そんな中でも女子三人は笑みを向けて挨拶し、釣られてもう一人の男子も挨拶をする。ぶっきら棒なもう一人の男子は視線を送るだけで挨拶をする事は無かった。


「よろしくね、何かあったら私に何でも聞いてね」


「よろしく~、私は昨日始めたばかりだから初心者だよ」


「という事は私が先輩だ! 初めての後輩、燃えてきた!」


 1人の少女が意気込み始める。その隣に居た相方らしき少女はぎこちなく笑いツッコミを入れようとしていたが、微笑ましくも思えて話を割る事はしなかった。


「あたしはトリシャ、こっちはピーファちゃん」


 トリシャは槍を持った、サイドテールの活発そうな赤髪エルフの少女。

 隣に居るのはヒューマンの大人しめに見える緑髪のツインテール少女であった。


「ピーファだ、よろしく頼む」


「アイゾーっすよろしくっす」


 アイゾーは短髪のトリシャ同様活発な印象を受ける黒髪のヒューマンだ。

 三人は護衛の人間ではなく、荷物運びに駆り出された一般的なプレイヤーであった。

 男子二人は自己紹介はしないが、ぶっきら棒な二枚目な見た目がセブラ、糸目の男子がニュートと言う名前であった。


「よーし、お姉ちゃんがアーツの事を教えちゃうぞ」


「わーい」


 初心者だという事を真に受け、トリシャが楽しそうに話し始めた。ミナモは素直にそれを受け入れ、少しやる気のある返答をして三人の輪に入っていった。


「まずはバフのアーツ、これ大事」


(知ってる)


 バフとは、強化効果の事だ。ステータスを強化したり、有利に働く効果全般をバフと言われ、逆に不利に働く効果をデバフと言われていた。


「神聖魔法とかにバフのアーツが一杯あるよ。

 あ、バフって言うのはね強くなるんだよ」


「力強くなるんですか?」


「うん、動きが速くなったりするんだよ。

 ミナモちゃんは何の魔法をセットしてるの?」


「精霊魔法です」


「精霊魔法? 聞いたことない」


 トリシャは初心者の様で、使えないと評判の精霊魔法を知らなかった。

 助け舟を求めてピーファに視線を送るが首を振り、ピーファも知らない事を伝える。


「精霊魔法って言うのは、精霊を使った魔法の事っす」


「アイゾーちゃん! 流石ね」


「そんなことないっす」


「それでアイゾーちゃん、どんなことできるの?」


「え? い、いやー、それは」


 アイゾーは評判の悪さを知っている、だから言い淀んでしどろもどろしていた。

 そして別に混ざる予定が無かったのだが、ぶっきら棒のセブラが徐に口を開いた。


「雑魚だよ雑魚、今じゃ一番使えないスキルだよ」


 包みなく一般的な意見を投げかけた。

 しかし包みが無いからこそトリシャには反感を買い。


「感じ悪っ」


「ケッ」


 互いにそっぽ向き場の空気が悪くなる。

 距離的に真ん中に居た細目のニュートは苦笑いをして二人を交互に見てはオロオロとして心配し始める。


「さっ、女子は女子で楽しく話しましょ」


「あ、あらあら」


 エルニカは何も言えず、板挟みにあい居辛そうにする糸目顔のニュートを励ますべく、軽くポンと叩き、そして自分は女子の輪に入っていった。


(う~ん、シャルが空気悪いと長旅も辛くなるって言ってたけど、確かにこれはちょっと辛そうだな)


 これから先の事が不安になり、道中何事もない事を祈るのだが、事が上手くいく事は無かった。


 馬車の中でログアウトしても、ログアウトした座標にログインするわけではなく、馬車の中で再びログインする事になる。

 つまりいつでもログアウトできるが、ログアウト中はゲームに干渉できない為、その間に事件が起きれば問題になる。


「敵襲!」


 突如馬車内部に響く声に、トリシャが驚き慌てて周囲を見回した。


「え、な、なに?」


「落ち着いて」


 エルニカが眺める間、セブラが剣を構えて飛び出そうとする。

 急いでエルニカが止めようとするが、伸ばした手は届かずセブラが馬車から飛び出していった。


「もぅ、三人はここに居てね」


 現在この場に居るのはトリシャ、ピーファ、ニュートの三人のみで、ミナモとアイゾーはログアウトして居なかった。

 エルニカも武器とする刀を二本づつ両腰に身に付け、セブラの後を追った。


「盗賊、かしら」


 外に躍り出て前方の馬車に視線を向けると、喧騒が響き、同時に鉄がぶつかる戦闘音が聞こてくる。戦闘がすでに始まっていて、主要の護衛パーティーが盗賊を迎撃していた。


「セブラくん、戻りなさい、初心者じゃ無理よ」


 相手はプレイヤー、つまりバンディット相手の対人戦闘である。

 経験の浅いセブラには荷が重いと察し呼び戻そうとするが、セブラは言う事を聞かずに一人戦闘の渦へと近づいていた。


「ほんとにもう、貴方を狙ってる人が居るのに」


 エルニカは矢のように飛び出し、一瞬でセブラを追い抜くと、セブラを狙っていた射手との射線の前に立つ。


「なっ!?」


「下がりなさい」


 そして風切り音のしてきた方へと刀を抜刀し振りぬく。薙いだ風圧で矢の軌道は逸れて行き、あらぬ方に矢が落ちると、射手へ向かって駆け出した。

 一気に距離を詰められ、射手がその速度に驚き下がろうとしたが、すでに目前に迫っていて、慌てて腰から短剣を引き抜き応戦する。

 だが獲物の長さ違いから、エルニカの一撃が体を捕らえ一刀両断する。


「嘘だろ……」


 目で追っていたセブラはその光景に度肝を抜かされ唖然としていた。

 エルニカは消えていく盗賊を一瞥したのち、周囲を見回し他のバンディットを探し、見つけた相手に襲いかかっていく。

 突然の来襲であったが、終わりも突然やってきて、気が付けば被害無く盗賊の迎撃に成功しているのであった。


 ミナモがログインすると、トリシャに抱き着かられ、熱烈に頬ずりされる。


「仮面がぶつかる」


「それはそうだよ」


 仮面が邪魔をしていた為、軽く外すと再び頬ずりを再開した。


「何があったの?」


「盗賊が来たみたいだ。

 私は馬車の中にいたから詳細は分からないんだが」


「私もログアウトしてて知らなかったっす」


「へぇ」


「怖かったよぉ、ミナモちゃんは居なくて正解だったよ」


「大丈夫だよ」


「いざって言う時怖いよ、強がらなくても大丈夫!」


 しばらくすると頬ずりを辞め、落ち着いたのか、ホッと一息ついて愚痴を零す。


「もう、なんで盗賊なんて居るんだろ、居なかったらもっと安全なのに」


「そうだね、もう少し平和なゲームなら良いんだけどね」


「…そうっすね」


 アイゾーが一瞬きゅっと拳を握り俯くが、すぐに顔を上げて普段と変わらない顔をしていた。

 一瞬の事だったがミナモは少し気になるが、個人的な事だろうと思いすぐに興味を失う。


「確かに平和が一番だけど、刺激にはなるよね」


 平和が悪いわけではないが、ぬるま湯に長く使っていると、新たな刺激を求めてしまうものだ。

 特に三日前まで宇宙海賊をしていたからこそ、接敵した時の高揚感が堪らず、盗賊達の気持ちも少しは察せる。


「刺激?」


「ほら、甘いものだけだと飽きるけど、辛い物も食べたくなるというか」


「分かる様な、分からない様な。

 けど迷惑かける事は駄目よ」


「う~ん、でもゲーム的には盛り上がるかも。

 塩で甘さを引き立たせるって感じ」


「え?」


「運営もそういうのを想定してると思うし、人間の特性をよく利用したゲームを盛り上げる一番手っ取り早い方法だと思うし」


「盛り上げるって……」


「モンスターだけならそこまで数を揃えなくてもいいけど、不確定要素のプレイヤーが混じると余計緊張感も増して護衛という仕事も増える。

 犯罪者になって指名手配になると懸賞金とかも掛けられるよね?」


「ええ、そうね」


 プレイヤー同士が戦えるというゲームで、バンディットになれるシステムがあるのなら、それに合わせて指名手配や賞金が設定される場合もある。

 その事を予測し、エルニカに尋ねると頷いた。


「そうなるとバウンティーハンターとかも出てくるし、護衛の為の稼業とか、傭兵とかの職業も増えるし」


「バ、バウンティ?」


「賞金稼ぎの事っす。

 結構多いみたいっすよ」


「へ、へぇー、そんな人たち居るんだ。

 あれ? ミナモちゃんよく分かったね」


「ログアウトした時護衛とかについて調べた」


「勉強家さんだ、私も勉強しないと」


 調べたという体にして、遠回しに盗賊達のフォローを入れた。

 それはさておき、男子たちの一角では、空気が悪く、セブラが不貞腐れていた。


「ところでそっちはどうしたの?」


「戦力外で不貞腐れてるだけだよ」


「るっせぇ」


「だって本当の事じゃないの。

 エルニカお姉さん凄い活躍だったって護衛の比と言ってたもん」


 それを言われると辛いのか、黙りそっぽ向いてしまった。

 争っていたトリシャは鼻を鳴らしドヤ顔をして、出発した時同様に勉強も兼ねてゲームの話をし始めた。

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