そして旅に出るその6
様々な事を試み、ある程度結論が出た。
「別にそこまで頭を悩ませなくても良い様な?」
新規のゲームに過去あったゲームの要素があるだけ。
危ない物もあるが、あったからと言ってもミナモにはさほど関係は無い。
関係がさほど無いからこそ頭を悩ませる意味もなく、存在しているならそれで良いという、吹っ切れた様な結論に至った。
「悩んでいても仕方ないし、うん」
ミナモが街に舞い戻り、これからどうするべきかと頭を悩ませる。
道中何度も考えていたが、何処に行き、何を調べればいいのか答えを見つける事が出来なかった。
(そもそもシャルがメインで調べる事だしな、魔法が使えるってだけ教えたんだ、私の役目は終わり)
やれることはやった、後はこれからゲームを続けるか、そのまま辞めるかの二択だ。
(この神器も影響出てるからな、ある意味縛りプレイだけど)
現在ヘカトンケイルはガントレット型からただの腕輪へ変わっていた。見た目の変化も機能の一つであり、見た目が変わったからと言って強さは変わらない。
そもそも強さと概念が存在していない、ステータスに一切影響もなく、防御力は存在していない、さらに攻撃力に至っても影響が無いのだ。
無駄に腕部装備箇所に固定され、取り外す事もその上から何か装備する事も出来なくなっていた。
(呪われてるみたいなもんだな、おまけにスキルスロットも一つ埋まってるし、休眠とかなってるし、起きろよ…)
装備にも状態異常があるのか、休眠という事が書かれていた。
他にはヘカトンケイル固有スキルというものが存在しており、スキルスロットが強制的に固定化されていた。アーツはヘカトンケイルを使用した技や、ヴァルアクにあった技全般がある。
(スキルスロットの残り一つも斧関連のスキル付けるだけだろうしな、余裕が一切無い)
精霊術は現在精霊と契約していない為完全にお荷物である。
戦斧がメインウエポンである以上、斧のスキルを付けないという選択肢はなく、ほぼ固定状態であった。
(とりあえず斧スキルセットしておこ、何処かな?)
スキルの数は多い、その中から探すために、検索機能が付いている。
入力できる場所に斧と入力すると、該当するスキルが表示された。
(手斧スキルと……殲滅戦斧術、なにこれ?)
戦斧スキルがいつの間にか消えていて、壊滅戦斧術というものに変っていた。
すでにシステムログで追える範囲を超えていて、何時変化したのかが不明であった。
スキルの中身を確認すると、初期状態のアーツ以外にも増えているのだが、ミナモには判別付かず、ネットの情報を探して照らし合わせ始めた。
(大切断と、ハイパワースラッシュ、スピナー、クイック、意外と多い)
その中のいくつかはミナモが開発したアーツと言う事になっている。
こちらもいつの間にか増えていた物で、アーツについている説明を見て何時覚えたのかを予測する事は出来た。
(多分猪に打ち上げられたときとか、モンスター攻撃した時だ。
なんとなくアーツ化される原理は分かった)
行動がアーツ化されるかどうかは、何度か同じ行動をするか、技の様な行動をすればアーツ化されるという、少しあやふやな方法であった。
(まあ増えるなら勝手に増えててもらうか。
あっ、そういえば精霊術っていうの調べてなかったな)
メインジョブである精霊使いのスキルを調べようとしていたのだが、いろいろあって調べることすらしていなかった。
期待していない為興味が沸かない、今調べないとまた存在を忘れる可能性が高いため、急いでアーツを確認しはじめる。
(精霊契約、精霊探知、え? これだけ?)
現在使えるのはその二種で、他のアーツは使用ができない状態であった。
まずは精霊探知というアーツを使い、それで周囲の精霊を見つけ、精霊相手に契約をするという仕様であった。
(精霊探知にヒントが書かれてる、……自然がある場所で使うと精霊が多い。
つまり町中じゃなくて外で使えって事か)
契約は後回しにして、街に戻って来た一番の目的を果たすべく露店の中を探し始めた。
(何をするにしても行動資金は必要だし、拾ったアイテムを売っておかないと)
モンスターからドロップしたアイテムを売却し、遠出をする予定なのだが。
(露店で売れるって聞いたけど、どこも買い取りしてないし、これは普通にNPC売りかな)
プレイヤーの露店でアイテムの買取を行っている。
しかし人気の素材ばかりを買い取り、ミナモが入手したアイテムに関して買取を行っている場所は見つけられない。
持ってるだけ邪魔な為、お金になるならお金にしようとしたのだが。
「うちじゃ駄目だね、買い取れないよ」
買取を行うNPCの雑貨屋に行ったのだが、買取を拒否されてしまった。
「何故?」
「そういう素材は飽和してるんだよ、売りたいなら別なの持ってきな」
眉間にしわを寄せ渋々と雑貨屋を後にする。
納得いかない為、即座に外部ツールの検索エンジンを起動し、WLM内部の売却について調べると。
「えぇ!? プレイヤー達がこぞって売ってるから、NPCの買取は近年できない様にって、えぇ……。
んな現実じゃないんだから……」
「物流がある世界だよ、売り時も買い時をしっかりと見極めないとね」
「ん?」
近場で露店を出す準備をしていたプレイヤーが話しかけて来る。
大人びた20代後半ないし30代ほどの頭部に赤い稲妻の様な角の生えた紫髪の女性であった。フリルの付いたワイシャツとロングタイトスカートを着こなしていた。次に目を引くのは長い髪で、額の片サイドでピンで留め、頭部後方で髪を結い短くまとめているが、それでも長いと分かるほどボリュームがある。
「初心者ちゃんはこういうの初めて?」
「物流があるというのは初めてじゃないですけど。
人が多くて買取拒否というのは新鮮です」
「でしょ、こんなゲーム全くないもの。
大変だけど、買取してるところもあるのよ」
表情はニコニコと変わらず、楽しそうに話していた。
純粋に楽しんでいる様で、その様子にミナモは眩しさを覚えながら売却場所について尋ねた。
「何処で買い取ってくれるんですか?」
「物によっては私が買い取るわよ」
「じゃあ頼みます」
「任されたわ」
女性は露店前まで移動すると、いらっしゃいと手招きする。
ミナモは露店触れると交渉モードという枠が表示され、その中に売る予定のアイテムをアイテム欄からドロップして移動させる。
「あら珍しい。確か人気の無い狩場のアイテムよね、道中にある素材も目ぼしい物が無くて、取りに行く人本当に居ないのよね」
マイナーなアイテムではあるが、女性はしっかりとした知識を持っていた。
「ひょっとしてアイテム殆ど覚えてる?」
「ええ、そうじゃなきゃ買い取らないもの」
片っ端から次々と鑑定していき、査定を表示させる。
予想以上の値が付いたことに驚き、正気なのかと視線を送ると。
「大丈夫よ、これでも昔は結構人気の素材だったのよ。
30レベルくらいまでの素材としては逸品だったんだから」
「今も通用するの?」
「無理ね。
人気の狩場で同等の性能の素材が手に入るもの。
ちなみに使い道が無いわけじゃないのよ、色々と研究してる人が居るから、そういう人が買ってたりするの」
「研究?」
「そう。
何時何処で何に使うかも分からない、そして人気がない物ほど研究で使い道が増えるかもしれないからね」
「なるほど」
温情で買ったわけではなく、先行投資的な意味合いで買い取りをしていた。とは言え二束三文な値段には変わりがない。
「最近なんか、型落ちの素材を一部に使う事で性能が向上して、過疎地に人が増えた例なんてあるのよ」
楽しそうにしながらしゃべり続ける、本当に見るものすべてが楽しいとしか思えないほどであった。
「なんか、とても楽しそうですね」
「え? そうね、楽しいわよ。
貴方はどうなの?」
「私? 正直まだ分からないです、昨日始めたばかりだし」
「まだ始めたばかりなのね、それじゃ右往左往で大変でしょうね」
「そうですね」
別の意味で右往左往していてる状況だ。本来なら新しいゲームの仕様を堪能しつつ右往左往して楽しみたいのだが、その過程が抜けている状況であった。
「う~ん」
女性は目を細めて眉をハの時にして少し考え、何か思いついた様である提案をする。
「そうだ、今暇かしら?」
「え? まあ、これからどうしようかと考えてたので、非常に暇ではありますね」
「じゃあ一緒に旅なんてどうかしら?」
「旅ですか?」
「そう、旅、と言っても北西にある街まで馬車で移動だけれど」
ミナモはこれと言った目標も無い為、退屈潰しにその提案を受ける事にした。
「いいですよ」
二つ返事で返したものの、何故見ず知らずの相手に旅の誘いをしたのか、迂闊な自分の行動に悩む。
(初心者を利用した詐欺か何かかな?
とは思ったもののなんか違う気がする、…むしろ私に気を遣ってる様な?)
女性はミナモの顔色を窺っている様子であった。
何故初対面の相手に気を遣っているのか不明であるが、その様子から推測し。
(……ひょっとして楽しませようとしてる?
私ってそんなにつまらなそうな顔してたかな? 返答は素っ気なかったけど)
実際にその考えは当たっていた。
初心者だと察しこのゲームを楽しんでもらおうと思っていたのだ。
「そうだ、まだ自己紹介がまだだったわね。
ああ、メニューを開けば見えるって言うのは野暮よ、私はエルニカ」
「ミナモです」
「ミナモちゃんね、よろしくね」
「よろしくです」
お節介を受け入れ、差し伸べたエルニカの手を握り返して握手を交わす。
「じゃあ準備しましょ、何か分からない事があったら言ってね、何でも教えてあげるから」
エルニカが歩き出したのを見てミナモもその後ろを歩き、街の大通りへと向かうのであった。
人が多くなってくると、はぐれない様にとパーティー(以後PT)を組み。PTを組む事でマップを見た際にPTメンバーの位置が把握できるため、はぐれる事は無い。
他にも専用のチャットで会話も可能で、その会話が外に漏れる事がないようにすることも可能であった。
「まずはギルドに行きましょ」
「ギルド? ってなに? このゲームではちょっと分からないです」
ギルドについては他のゲームにも登場していて意味は理解できているが、このゲームにおけるギルドというものについては理解していない。
「え? 一度も行った事ないの?」
「ないです」
「えっとね、物を預けたり、クエストを受けたりする場所なんだけど」
「ああ、倉庫兼斡旋所」
「そうそう、纏めて冒険者ギルドなんて言われてるの」
「へぇ」
「さらに大きな街の冒険者ギルド間での転移が可能なのよ」
「やっぱり転移はできるんだ、まあ、無いと不便で仕方ないでしょうしね」
広い世界だからこそ移動手段と言うのは重要である。一々移動しなくてはならないと苦労では済まない。
そこで一瞬で街を移動できる転移装置の出番であった。
しかし問題がある。
「けど、ギルドの信頼を勝ち取らないと使えないのよね」
「……えぇ」
利用に当たってクエストを熟していき、ギルドの信頼を得て初めて利用可能となっていた。
つまりそれまで徒歩が必須であり、そして街を離れられないという事でもある。
「クエストも常に転がってるわけじゃないし、早い者勝ちだし、大変なのよね。
それでこの街以外でポイント稼ごうって思う人も多いし」
不便で仕様に訝しんでいると、エルニカがフォローを入れ始めた。
「あ、心配しないで、ある程度ギルドから信頼を得ていると紹介制度があって、使えるようになるわよ。
私が紹介してあげるわ」
有難い話ではあるのだが、ミナモは首を横に振った。
「紹介後は一蓮托生みたいなものでしょ? そういうのなら遠慮させてもらうよ」
「え? ひょっとしてバンディットプレイするの?」
バンディットはその名の通りで、盗賊などアウトローな存在達を呼ぶ名称である。
基本自由なプレイという事で、人の者を襲い略奪するなど、盗賊や海賊などに身を堕とすプレイヤーも存在している。
その為もしもミナモが迷惑をかけた場合、エルニカに影響が出てしまう。
「いや、まだ決まってないよ。
このゲームじゃ大人しく普通のプレイでもしようかなって思ってるし」
その普通はミナモ基準の普通であり、時に物を奪うなどと言う可能性もある。
「なら問題ないわ。
それに何かあっても別にそこまで私は重い罰は受けないもの、だから気にしなくていいわよ」
「そうなんだ、……じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」
「甘えられたわ、さ、ギルドに行きましょ」
本人が気にしないなら素直に受け入れる事にした、のだが。
(なんでそこまでやるんだろ?)
その親切が少し不気味であった。
冒険者ギルドは三階建ての石材と木材で作られた場所で、大通りの建物の中では一番大きな作りとなっていた。一階は食堂、受付、依頼なのが張られたクエストボードの三区画で別れている。
中はプレイヤーでごった返しており、食堂で屯い、一部のプレイヤーがクエストボードの前で張り付いていた。
「こっちよ」
できるだけ人の少ない受付へと向かい、そこでエルニカと共に冒険者ギルドに登録し始める。
「はいカード」
受付の女性にエルニカがカードを差し出すと、それを見て目を見開き驚き、エルニカとカードを交互に見ながら慌てて頭を下げる。
「この子をギルドに招待したいの、登録一式してくれるかしら?」
「は、はい、直ちに致しますっ」
NPCは慌てて登録の際に使う用紙などの準備を始めた。
その様子からエルニカがギルドにとって重要な人物に近い人物と察したが、紹介されたミナモに対して関心を抱く事は無かった。
登録を進め、転移装置の利用許可も貰い、完全に作業が終わったところで、一枚の会員証を貰う。
「どうも」
「け、決して、この方に迷惑をおかけにならない様に、お願いしますね。絶対にですよ」
「お、おう」
招待主に迷惑を掛けない様にとNPCが念を押され登録を完了する。
これで用事が終わりではなく、エルニカは受付にここに来た一番の用件を尋ねた。
「後依頼を見せてほしいのだけれど」
「かしこまりましたっ」
普通はクエストボードに張られている場所の依頼を確認し、自分に合ったものを選びそれを受付で精査し受理するという流れではあるのだが、エルニカが特別なのか、クエストボードにはない特別な依頼書を取り出し、それをエルニカへと見せた。
「あっ、丁度良いのがあるじゃないの、これ、受けるわ」
「えっと、セレンへの護衛依頼ですね、かしこまりました」
受けたのは北東にある、隣国の都市ヘレン。その護衛依頼であった。
ミナモはそこまで遠出ではないと思っていた。しかし地図を探したところで、徒歩で何日かかるか分からない距離を移動する事に驚く。
「大丈夫よ、街道をずっと行くだけだもの、半日程度で着くわ」
「そんな早いの?」
「早いわよ」
半日と言っても現実で半日、つまり湿地帯に向かう時同様ゲーム内で二日かかる。
用事もない為素直に受け入れ、護衛対象の出発前まで準備を整える事にした。
「依頼の前金よ、さ、これで準備を整えましょ」
「あい~、食料だぁ」
「不測の事態に備えて食料は欲しいけど、護衛依頼側が出すから大丈夫よ」
「へぇ、じゃあこれと言ってないかな」
しかしエルニカは首を振った。
「ミナモちゃんの装備を整えましょうか」
「装備? いや、別にいいよ、これで十分だから」
「とても失礼かもしれないけど、見た目が駄目よ」
「あー、まあ、そうだよね、そうだよね……」
ミナモはファッションセンスに関してはかなり壊滅的である。性能面や機能面を重視するあまり、デザイン性など二の次にしていた。
段ボールとポリバケツが最強装備と言われれば、恥ずかしげも無く着てしまうだろう。
しかしこれでも即席で作ったわりに、悪くない出来とミナモは思っていた。
「これでも頑張って自作したんだけどね」
「性能はどうなの?」
パーティーの機能から、装備の一部を公開して見せると、エルニカは首をひねって、装備のちぐはぐさに首を傾げた。
「……テトラエリドの革って、別大陸で入手するものよね?
こっちもそうだけど、何処で手に入れたの?」
「袋から拾った」
「デスペナ品ね、というと昨日のユニーク騒ぎの時…。
ま、まあそれはいいとして、けど本当に自作? これなんか加工に向かないわよ、低レベルなら無理に近いわ」
「自作、油に付けて燃やして一時的に柔らかくしたりして作った」
「鉄みたいなやり方ね…」
ぎこちなく笑い返すが、変わった加工の仕方に感心しつつ、拾った物を咎めることなく本題に戻った。
「性能面がとても良いわ、レベル40までずっとこれでも良いくらいね。
見た目をしっかりとしたかったのに、これじゃ下手に変えれないわね」
しっかりとした見た目で、同等の性能に変えると前金だけでは足りない。
しかしエルニカはどうしてもミナモの見た目に手を咥えたいようで、1人唸っていた。
「あら?」
そんな唸ってる間にもミナモは一人露店にふらりと立ち寄り、奇妙な物を手に取り購入していた。
「な、何を買ったの?」
「じゃきん」
徐に装備したのは狐の顔を模した鼻から下がないドミノマスクであった。
先程表情でつまらなそうに見られたと思い、その表情を隠す為に身に付ける事にしたのだ。
「あ、……うん」
より壊滅的な見た目になったところで、エルニカは見た目改革を諦める事にした。
「見た目で意外と精神面とか変わるのよ、気分を変えるのには良いのに」
「善処はする」
善処が出来るとは言っていない。
どうでもいいけどwin11使い辛い