早め早めにするべき その2
新たなLo10のメンバーがクランメンバーを募集し始めた動画を眺める。
たどたどしく、何度取り直したのか分からない様な棒読み。
幸いLo10語りと言われる事は無い、何故なら会議室から撮影している為、それがLo10であることを物語っていた。
(自由と言ったが、地位を求めたか)
卑屈な考えではあるが、バルトハイネ視点から言えば、突然降って湧いた権力を活かして地位を向上させている様にしか見えない。
正義の為と言っているが、そう言う目的ならば、別にLo10という事を名乗らずに少しずつメンバーを集めて行けばいいだけである。
(行きつく先はエンパイアと同じかもしれんな。
アイツ、入って来たメンバーに良い様に使われそうな気がするな、まあ、俺には、…関係ないと良いな)
エンパイアは解散した。
クランリーダーが最後まで大丈夫と言っていたが、事実上のリーダー格の人物やその下の者が抜けていくとすぐに瓦解していった。
いずれエンパイアのメンバーは現在募集している場所に移動する事だろう。
(傀儡になって、前と代り映えしない、なんて展開になりそうだ。
良くも悪くも、最初のLo10発言権が強すぎて、今のこのゲームの基盤が出来てしまったんだよなぁ)
当初は他のネットゲームと変わりない、馴染み深い雰囲気であった。
しかし人気になり新規が入る事で、雰囲気が変わって来て、右往左往するプレイヤー達の見本になるように独自のローカルルールなどが増えて行った。
(ローカルルールも覚えるの面倒だったな、本当に主義思想、個人で言ってるのが変わるし、解釈もバラバラ…)
トラブルを避けるための措置ではあったが、それが歪んで行き神聖化し公式ルールかの様に定着してしまった。
半年前から始めたバルトハイネにとっては、その独特のルールに馴染めずにいた。
(なんか嫌なんだよなぁ、運営が禁止している事以外にプレイヤーが独自にルールを付け足すの。
円滑に事を進める為でも、遊びの幅が狭めてる感じで)
これからも一部プレイヤーによって独自ルールが追加される事だろう。
それを見るのが嫌でソロプレイをしていると言って過言ではない。別に人付き合いが苦手というわけではない。
(誰かアンダーグラウンドじゃなくて、Lo10側でカウンター組織作らないかな。
正直組織内でもパワーバランスは取った方が良いと思うし…)
性格が控えめな者が多く、新たにクランを作った者にパワーが傾くと反論する者が無くなっていく。
特にエンパイアのメンバーなどが入って来れば、他のメンバーも指示に従っていればいいという安心感が出てしまう。
それを避けるためにも力を付けてバランスを取らなければ、独裁者が誕生してしまう可能性があった。
(何かあった時の為の組織、……このゲームでフレンド作ってこなかったツケがここで来たか)
対抗する組織を作ると呼び掛けて集まる者は少ない。対抗というワードだけで警戒する者は多い。
それに誰でも良いわけではなく、常識を持った人でなければいけない。
(変なのが集まって暴れてさらに悪印象って言うのも困る。
……他のメンバーは正直頼りないし、今からでも根回しして、暴走を止めるか?)
そこまで考えて、まるで別なゲームが始まった様で呆れた。
(ファンタジー系しに来たのに、こういうのしに来たわけじゃないんだ。
とは言え、このまま放置も出来ないのが質が悪い)
放任すれば必ず何処かでつけあがる、前のLo10は戦力や発言権が程よい塩梅であった事は間違いない。
(考え過ぎなら良いが…)
杞憂で終わればいい、しかし不安がしこりの様に残り続けていた。
気晴らしに一人旅を再開するも、時間が経てば経つほど取り返しがつかない気がしてならなかった。
「あ~、もう駄目だ、考えても仕方ないのに頭がぐるぐるする。
そもそも元の世界に帰れないのに、メンバーも糞も無いだろ」
様々な理由が重なりプレイヤーを集める事は叶わなかった。
残された手段ただ一つ。
(別ゲーの知り合いに、…って言っても全然連絡とってないから今更だけどさ)
かつて渡り歩いた他のネットゲーム友達に連絡を取る事にした。
しかし疎遠になって以降連絡も取っておらず、話しかけるには勇気が必要だ。
(今更、そう今更、それに悪く考え過ぎだ、大丈夫)
悪い方へ進む事は無いと思いながら二日が経過した。
バルトハイネは大丈夫と言い聞かせていたが、事はまた違った方へ進んでいった。
緊急招集がかかり、何事かとバルトハイネが会議室へ向かえば、少し自信がついた者と、それに対して羨まし気に話かけている者が居た。
「なんだ? 何かあったのか?」
「ん? ああ、皆に聞いて欲しい話があってね」
「話?」
適当な席に座り、10分で7人のメンバーがそろった。
これ以上待っても集まる事は無いだろう事を察し、呼び出したクランを作ったデウシンが立ち上がった。
「突然呼び出してすまない、皆に聞いて欲しい事があるんだ」
バルトハイネは頬杖をついて耳を傾ける。
他の者の一部は嫌な予感がしてたのか、あまりいい顔をしていなかった。
「Lo10にはリーダーとして私が就任したいと思う」
(何言ってんだコイツ)
それが一部の反応であるが、ある者は頷いていた。
(…まさか嫌な予感が当たったか)
その話す内容が手に取る様に分かり、デウシンの言い始める言葉に次第に頭を抱えていく。
「私は解散したエンパイアのメンバーから前の話を聞いた」
(予想通りの展開になった)
「組織をバラバラにしない為にも取り仕切るリーダーが不可欠、そこで私はサブリーダーとして活動していたマシュイさんの話を参考にしたいと思う。
まずは思想を統一する為にも―――」
(もう洗脳されたのか、これは良い傀儡になってるな…)
話し続けるデウシンと共感する一部メンバー、何処かその光景が異界の光景に見えていた。
「―――という理由で以上の活動をここの皆でして行こうと思う」
「ちょっと待って」
「何か?」
「お前がメンバー集めた段階でこうなると想像はしてたが、簡単に洗脳され過ぎだ。
お前のクランが勝手に行動するなら分かるが、それを俺達に押し付けるな」
「せ、洗脳?」
バルトハイネと同じ気持ちを抱いていた者も反発する様に声を上げる。
「最初に方針は決まったはずだ、必要に職権乱用しないと、今の貴方はその傾向が強くなっている、このままだと言いくるめられてマシュイって人の好き勝手に命令で動く人形になるぞ」
「ちょ、ちょっと待ってて、マシュイさんはそんな人じゃない」
「それは無いだろ、君が気と意思が弱いのはすぐわかるはずだ、それを見抜いて良い様にされてるのは俺だって分かる」
「待ってくださいよ、マシュイさんはエンパイアの有名人なんですよ? そんな悪い人じゃありません!」
女性のデウシンを後押ししていた一人が割って入り、マシュイの印象を否定した。
「有名人でも犯罪犯してるだろ、聖人君子って言われる奴だって薬で捕まってるじゃないか」
「そう言う人とは違います!」
(うわ、面倒な陶酔型だコイツ、あっちは混乱してるし、…面倒な面子が集まったなぁ)
妄信的になると周りが見えなくなる傾向がある、特にエンパイアという有名クランというブランドはそれだけ大きく容易く洗脳も可能になっていた。
「一先ずもう少し頭を冷やしてから話してくれ、そして活動するなら独自で頼む、押し付けてくれるな、後権限も好き勝手に使わないでくれよ」
それだけ言い残してバルトハイネはこの場から去った。
続いて去ろうとしている者も見えたが、その光景をバルトハイネは見る事無く会議室から離脱した。
「…厄介な事になった」
誰かが何とかしてくれる、そうもいっていられない事態になっていた。
例えあの場で諭そうとも、再び同じ事で洗脳されてしまうだろう。
そして同じく元エンパイア組に取り込まれるLo10のメンバーもまた現れるだろう。
(戦力じゃなくて、影響力、それが必要だが、……駄目だ俺の環境じゃ無理ゲーなんてもんじゃない)
武力で解決できる問題ではない、一応武力でも実力を示して影響力を広める選択もあるが、エンパイアという組織相手には力及ばない。
(というか飛び出してきちゃったけど、アイツ等やろうとすれば間違いなく名前晒しすらやるはずだ、エンパイアの事は詳しくは無いが、正義の為とか言って何でもする気がする)
行き過ぎた正義は悪でしかない。そして誰かの正義は誰かにとっては悪である。
「……もう四の五の言ってらんねぇ、昔の伝手を頼るしかねぇ」
バルトハイネは躊躇していたSNSの連絡先一覧を開き、一つ前にやっていたゲームメンバーに連絡を取る。
一人目はパーティクルというネーム。
「あ、あの、ササクレーです、お久しぶりです」
「え? ササやん? 久しぶりー元気?」
気さくな男性の声が聞こえ、馴染みの声と反応に安堵した。
ササやんというのはあだ名で、前のゲームではササクレーという名前でプレイしていた為、そう呼ばれるようになっていた。
「いや、今何やってるのかなって、WLMやるって言ってたし」
「あ、勿論してるよ、今度はちゃんと真っ当に生きてる。
ササやんこそ今何してるの?」
「あ~、その、色々巻き込まれてさ」
「え? じゃあバンディットプレイ?」
「何でそうなる」
「前だってそうだったじゃん」
「確かにそうだけどさ、…俺なりに真面目にはしてて異世界から帰ってこれないって状況」
「えっ、異世界? マジで? 良いなぁ」
久しぶりに羨ましいといわれ、不思議な気分に襲われる。
(うっ、もしかしれこれが肯定感? まあ、洗脳されるわな……)
しかし羨ましがられても事態が変わらない。
「という事は、異世界で助けてって話?」
「いや違う、それなら三か月前に連絡してるよ」
「えっ、そんな前から異世界に行ってたの!? 言ってよぉ、本当にあるんだねぇ…」
三か月前は異世界など存在しないという認識しかない。
最近は異世界の存在が噂になり盛り上がって来ていた。
「けど、そうじゃないなら何なの?」
「ちとまずい状況に追いやられてな、…けど善良にやってるならちょっと話難いな」
「えー、話してよ、余計気になる」
バンディットとして悪評が広がる可能性がある為、下手に勧誘も出来ない。
しかし相談程度なら良いかもしれないと思い、概要を濁して相談する事にした。
「一部プレイヤーが暴走しててな、変に影響力があるから、それを止める為に新しい組織でも作ろうかなって思ってるんだよ」
「えぇ、異世界って今そんな混迷してるの?」
「いや、異世界じゃなくて、そっちの事。
ぶっちゃけ俺は帰れないから、外部に頼るしかない状況なんだ」
「…どういう状況なの?」
「だから困ってる」
「確かにそれは困るね」
パーティクルは複雑な事情を察し、何かできないかと考え、妙案を一つ思い浮かんだ。
「あー、良い方法あるよ」
「え? どんなだ?」
藁にもすがりたい気持ちであった為、すぐに飛びつくが、パーティクルのその案に思考が停止した。
「ポコ太郎に頼もうよ、なんかすぐに解決してくれる気がするよ」
場が凍るような感覚。
パーティクルも息を飲んだ感覚を察しているが尋ね返す。
「お~い、寝ちゃった?」
「…起きてる、起きてるが、ポコ太郎かぁ」
すっぺらポコ太郎、通称ポコ太郎。
バルトハイネからしてみれば、あまり触れたくはない名前の一つだ。
「嫌なの?」
「嫌って言うか、サ終前にやらないって言ってた気がするが」
「けど、今他のゲーム目ぼしいものないし、やってると思うよ」
「確かにそうだな…。
けど、ちょっと、……気が引ける」
「確かに」
ポコ太郎は前やっていたゲームの中でも別格。何処か次元の違う存在で、不沈のポコと言われるほどの二つ名があった。
頼ると負けな気がして、頼るに頼れなかった。
「けどノリは良いし大丈夫じゃない? 二つ名聞いてダセーとかいってふちんちんとか言うくらいだし」
「下ネタで無駄に笑ってなぁ…、ふふ」
下らないギャグを思い出して笑ってしまう。釣られてパーティクルも笑い、当時を懐かしむ。
「ボクもまたポコ太郎に会いたくなったなぁ、半年以上経ってるけど半年ぶりの同窓会しない?」
「他のゲームでか?」
「このゲーム」
「俺は異世界から帰れないよ」
「えー、無理なの?」
「一方通行だったからな、落ち合う事は出来ないよ」
「じゃあ他のゲームで、かな?
そう言えばマっくんには連絡した?」
「マツルクスか? いや、今から」
「結局一緒にしようって言ってあれから集まらなかったからね、今何やってるか気になる」
「そうだな、ちょっと通信してみるか」
もう一人マツルクスという人物にコンタクトを取ろうとしたが、連絡先が潰れているのか、使われていないIDですという一文が表示された。
「あれ? 居ない、ってか連絡先のアカウント消してる」
「え? 嘘?」
パーティクルも連絡を試みるが、バルトハイネ同様な一文が表示された。
「えー、アカウント削除なんてしたんだ」
「何かあったのか、それともゲームから離れたか」
「社会人なら忙しいもんね」
「言うても当時アイツ大学生だって話だったが」
「就職したんじゃない?」
「それもそうか。
……それでポコはどうしようか?」
「切羽詰まってるんでしょ?」
「それはそうなんだが、……まあ、お手上げだし良いか」
最終兵器として利用していた相手へ連絡を試みる。
マツルクスとは違い、しっかりと使われているIDの様で連絡音を鳴らしていた。
しかし応答した時に聞こえてくる声は、全く違うモノであった。




