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嫌がらせ少女は大志を抱けない。~めっちゃ強い少女はただ無双する事が出来れば良いなぁって思いました~  作者: せいゆ


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百歩進んでニ十歩くらい下がって その6



 ミナモは次の村に辿り着いたのだが、そこには見知った人物がいた。

 見知ったと言っても、ミナモはその人物について記憶は朧気で、すれ違っても気付く事はない。


「ひっ」


 プリスター、彼女はミナモを見て可愛いと直感に従い目を輝かせるが、取り巻く不気味さに小さな悲鳴を上げた。


「あ、あわわわ、グロ制限を貫通していますっ!」


(え、まじ?)


 ミナモはイトウを眺め、目を細めて溜息をついた。

 そしてその小さな悲鳴を上げたプリスターへ近づき。


「ねぇ」


「は、はい」


「この子、バグってる?」


「それは、……はい」


 申し訳なさそうに謝り、ミナモは逆に申し訳なさそうに頭を下げた。


「いやぁ、ごめんねぇ、…そっかぁ、なんか貫通しちゃうのか…」


 モザイク処理も、人形に見えるような処理も無い様であった。前の村でやたらと見られてついてきたのは、そのグロテスク表現が貫通していた事も理由の一つであった。

 流石にそれを連れ回すのは聊か気が引け、困ったように腕を組む。


「布で隠せば、どうでしょうか?」


「ああ、良いアイディア、ありがとう」


 素直に礼を言い、取り出した布をかぶせる。


「…幽霊みたいです」


「……ふ~む」


 白い布の奥底から赤い不気味な色が浮かび揺れ、状況はさらに悪い。


「イトウさんどうしようかねぇ 流石にこればかりは悪目立ちだよ」


「いとう、さん?」


 プリスターはその名前に聞き覚えがある。

 そして話す声に、あの村での事がふと浮かんだ。


(あれ? もしかして姫? え、でも、名前違うし…、髪の色も違うし、従魔の名前が一緒なだけ?)


 背丈が一緒で、既視感が強くなっていく。

 一度意識してしまうと、どうしても気になっていき、思わず口を開いた。


「あの、失礼ですけど」


「ん?」


「姫、…ミナモさん、ですか?」


 ミナモはきょとんと眼を開くと、慌てて目を閉じた。

 そして表示された名前が何処か聞き覚えがあり、焦り出す。


「え、えっと、…ど、何処かで、会ったでしょうか?」


「あ、あの、メルテトブルク、その近くの村で、…メイアさんと」


「あっ」


 そこまで言われ、やっと彼女の事を思い出す。

 ミナモはぎこちなく微笑み、軽く頭を下げた。


「あ、あはは、ど、どうも。

 はは、…いやぁ、……まさかこんな所で再会するとは思いませんでした、はは…」


 再会は無いと思っていたばかりに、突然の再開にミナモもどの様に反応すれば良いのか困った。


「姫は、その、どうしてこちらに? というか、…あの魚のイトウさん、なんですか?」


「まあ、こうなっちゃって。

 こっちに来たのは、…聖獣って言うのを見たくなってね」


「そうだったんですか。

 私も聖獣を目的に来たんです」


「聖獣を?」


「はい、…テイムできればなと」


「結構野心的ですね」


「…力の無さを痛感してしまって」


 記憶の中にある彼女は明るいのだが、今は落ち込んでいる様な様子だ。


「何かあったの?」


 それを尋ねれば、まるでよくぞ聞いてくれました、そう言わんばかりに顔を上げた。


「すっごくすっごっく、…あの時、何も出来なくて悔しかったんです。

 メイアさんは一体撃破していたそうなのに、私は手も足も出なくて。

 それにメルテトブルクがあんなことになっちゃって、…友達も、辞めちゃって」


 あの出来事で盛り上がったのは間違いないが、愛着ある者こそメルテトブルクの件は大きく尾を引いていた。

 他に定住する気も無く、そのままこのゲームを去る事になった。


「けど、私は去れなくて…、去れないのに、…何もできなくて」


 そして力を得るために聖獣をテイムするという選択肢に辿り着いた。


「異世界とか、行ったりしないの?」


「…場所も分かりませんし、まだ眉唾ですし」


 異世界への扉が分からない。

 現状のプレイヤーの認識は、強いプレイヤーが異世界から帰って来た『らしい』という曖昧なものだ。

 間違いなくあるのだろう、ただまだそこへと踏み出せていないのが現状であった。


「それに、…お恥ずかしながら、一人で行くのが、寂しく」


 周りには誰かが居る、この広い世界でそれは大きな力になる。

 ミナモの様に一人ぶらぶらしている事に馴れても、人恋しさをNPCで埋める事もある為、他人の存在はそれだけ大きい。


「普通の従魔でも寂しさは埋まるよ」


「普通の従魔…」


 ミナモの周りを見回し。


「…普通?」


 ミナモもその事に気が付き咳払いをした。


「私は普通ではありませんが、一般的な話で言うならば寂しさは埋まります。

 いざという時はNPCにダル絡みすればいいだけですよ」


「ず、図太いですね…」


「ソロとはそういうものです」


 説得力があるのかないのか、どちらにしろ踏み出す為の背中を押すには十分な言葉であった。


「ただ、やっぱり色々聞くので、聖獣様というのをテイムしたいです」


「…チャレンジは誰にも平等にあると思うので、頑張ってください」


 試す事はタダである。

 それに関わる危険度もまた存在する。


「けど、拗らせなくてよかったね」


「拗らせ、る?」


「力を渇望するばかりに病むとか、病的に求めるとか。

 あの手は面倒になるからねぇ」


「め、面倒…」


 言葉の一つ一つが突き刺さり、若干その様子になっていたが、ここでブレーキがかかった。


「健全に強くなっていくのが良し、それに聖獣テイムできても結局操れなくて駄目だろうし」


「…そうです、よねぇ」


 プリスターはその小さな可能性を賭け、ここに来たのだ。


「…そう言う意味では、あの子達は健全に育ったのかな」


「あの子達?」


「暇つぶしに適当に話そうかぁ」


 ミナモは木陰でシェーロ達の事を話した。


「つ、連れ去られたぁ…って、た、助けなかったんですか?」


「物語としては放置が面白い」


 ミナモは目を輝かせて答えた。

 プリスターはあの村であった惨劇に渋々手を貸していた事を思い出す。

 一般人視点では語れない、それは傍観者側の視点であった。


「あれ、という事は、ここの聖獣様も、危ない?」


「そうなんじゃない? 今居るか分からないけど」


「え、居ないかも、しれないんですか?」


「何処にいるか分からないからねぇ」


 プリスターは汗がにじみ出て、慌てて立ち上がる。


「ひ、姫、い、行きましょう!」


「まあまあ、そう焦っても仕方ないよ。

 攫われそうでも、私は何もしないから」


「ええ!?」


「何するのか知りたいじゃん、傍観が確実に良いよ。

 こういうのは見れる距離で眺めて楽しむのが一番」


「ど、うして、困ってるのに」


「それ、困って手を指し伸ばしたらさ、私の場合結構届いちゃったりするんだよ。

 けど、私のキャパシティは低い、だからプリスターちゃんの背中くらいしか押して上げられないのさ」


「えっ、それって」


 プリスターはトキメキを感じるが、首を振ってそれどころじゃないことを自分に言い聞かせる。


「正直、…羨ましいです」


「ま、気長に強くなってきな」


「…気長、です、か」


 力のある者の気持ちが分からず、そして力の無い自分の気持ちも分かって貰えない。

 プリスターはもやもやとした気持ちを吐き出せずにいた。


「お、闇ゲージ溜まってるねぇ、拗らせちゃう」


「ちゃ、茶化さないでくださいよ」


「力がある人は弱い自分の気持ちが~~ってどうせ思ってるんでしょ」


「うっ、そ、それは、…そう、ですけど」


「私だって最初は無力だったんだから、ここまで強くなるのにどれだけかかったと思ってるの?」


「えっと、どれくらい?」


「アウトセンスに費やした時間は二年、只管毎日限界を越えようと現実の肉体をボロボロにしてきたんだよ」


「え?」


「毎日走り込み、筋トレ、イメージ修行、それをずっとずっとつずけて疲労骨折もしちゃったり、現実のフィジカルも大事なんだから」


 プリスターは聞き間違ったのかと首を傾げる。


「君ぃ、ゲームと関係ないと思ったね?

 ふっふっふっ、これだからゲーム素人は困る」


「本気なんですか!?」


「本気だからこそ骨も折ってる、疲れて意識がぶっ飛ぶ事だってある。

 休息を極める為に、そしてプレイ時の姿勢すら只管詰めないといけない」


 ここでプリスターは根本的に、自分がこのゲームに向き合う姿勢が違う事に気が付いた。


「ゲーム内の強さというよりは、フィジカルを鍛えて、それを内部に反映させる努力が必要なんだよ」


 勝ち誇ったように楽しく語るミナモ、嘘を言っている様には聞こえないが、それでも信じがたい。


「そ、それ以外で強くなるというのは?」


「知らん、才能あれば出来るんじゃない?」


「才能ですか?」


「こっちが知りたいくらいだろ。

 あ、でも楽に強くなるなら――」


 楽、それがみそだ、プリスターは直ぐに構えて耳を澄ます。


「楽をする為に努力しよう」


「ええー、そこで努力何ですか!?」


「そうだよ、結局才能が無ければ努力で穴埋めしなくちゃいけない。

 そしてこの子を見よ」


 人形のを突き出す。


「な、なんですか?」


「この子は今努力中のプレイヤーなのさ」


「ど、どうも」


「しゃ、喋ったっ!?」


「色々あって軟体生物になり、体一つ動かせない。

 強制的に楽の状態になっているのだが、その状態から這い上がろうと努力している最中。

 いわば君の先輩さ」


「い、いや、私はその、まだ数時間程度しか努力始めてないので…」


 サラナは嘘か誠か分からない話を聞き、まだ努力を始めたばかりの自分には何も語れないと口を閉ざす。


「なんか、…凄い事なってますね」


「は、はは…」


「せ、先輩は、…どうやってお強くなろうと」


「なんだか、超能力みたいにサイコキネシスで身体を動かす様にしないといけないみたいで、…よく分からず」


「大変、ですね…」


「何始まったばかりだ、焦るでないぞ」


 そしてミナモが立ち上がる。


「まっ、そういうわけだから、聖獣の場所に行こうか」


「はい…」


 プリスターが新たに加わり、先導の元聖獣の居る場所へと向かう事にした。

 向かう先は丘陵地帯、うねりにうねり、何処を歩いているのかすらも分からないほどだ。

 一部は崩れて崖の様になっていたり、空から移動しなければ前に進んでいるのかすらも分からないほどだ。


「がんばれがんばれっ」


 ミナモは宙に浮かびながら、へろへろになって歩くプリスターを応援する。


「これ、ゲーム内なのに、疲れるぅ。

 ひ、ひめぇ」


「この悔しさをバネに浮遊の魔法を覚えるのが良いぞ」


 縋るプリスターを払いのけ、笑みを振りまけば、プリスターは気合で這い上がる。

 しかしミナモは進行方向に視線を向け、さらに笑みを強めて。


「先客が逆側から移動しているようですよ」


「え?」


「祭りに送れますよー、がんばれー」


「祭りって、…ひーっ」


 プリスターは足の感覚が無い状態だが、必死になり足を動かす。

 ミナモが魔法を使えば、疲労感が無くなり、その歩く速度が速まっていく。

 どうせなら飛行して連れて行って欲しいが、それを言える立場に無かった。

 三十分ほど歩き続け、そして目的地へと辿り着く。

 目的地は丘陵、中央側がくり抜かれている場所だ。


「声が、聞こえます…」


 拾った枝を支えに一歩二歩と踏み出し、丘のくり抜かれた傘の下から聞こえる声などに眉を顰める。

 その声は怒号に近く、まるで戦場の音であった。


「何が起きてるんですか?」


「見てからのお楽しみ」


 山を越え、崖付近に近づき背を低くして眺める。

 そこにはNPCの兵士たちが、背にトサカが生えたステゴザウルスの様な生物と対峙していた。


「兵士? なんで?」


「この国の兵士みたいだね。

 どうやら狙っているのは何もプレイヤーばかりじゃない様だ」


「ど、どうしましょう…」


「そんな目で見られても何もしないよ。

 私の仕事は観察と情報収集、それ以外の事はしないんだ」


 仕事、その言葉にサラナはここに来る前のやり取りを思い出した。


(自由意志か、依頼か…)


 自由意志という選択なら何をしていたのだろう、そんな疑問を聞けずに狼狽えるプリスターと共にただ眺める。


「……ほい、一人回収っと」


 ミナモは戦闘の際に踏みつぶされ死亡しそうな兵士を異空間へと送り情報を履かせる。

 肉塊になり元の場所に転がり、似た様な事を死にそうな兵士から情報を引き出すために連れ去り殺していた。


「なるほどねぇ」


「どうしたんですか?」


 ミナモのしている事など知らず、プリスターが尋ねる。


「どうやら聖獣を手懐けその力を利用しようとしているらしい」


「そ、そんな」


「君も同じことをしようとしていたじゃないか」


「そ、それは、…そう、ですけど」


 囲んで袋叩きにしている風に見え、自分が同じと言われて心が歪みそうなほどの衝撃を受けた。

 実際にその目で見れば、何をしようとしていたのか、そんな罪悪感すら湧く。


「…村で、守り神だからって、……言われてましたけど」


 覚悟はしていたつもりでも、改めて見ればその決心が意味を失くす。


「では、…どうすれば、このままじゃ」


 飛び出す勇気もない。

 例え飛び出してもNPC一人に気圧されるのが目に見えている。

 余計に力の渇望が強くなり、悔しさに拳を強く握りしめた。


「…悔しい、です」


「それが良い。

 けど飛び出す事も一つの選択だと思うよ」


「え?」


「結局行動しなければ意味がない。

 行動に移してこそ、得る物も失うモノもある」


「失うもの…」


「そればかりを見るよりも、行動せず後悔した方が禍根を残すと思うよ」


 握っていた手の力が緩む。

 ゆっくりと呼吸をし、自分の心に問いかけた。


(助けたい?)


 もう一つの本音が答える。


(無理、突撃すればただ無駄死にするだけ)


 理解している、意味の無い突撃だという事は。


(それでも、私は、救ってみたい)


(誰の為に?)


 帰って来た問いに答える事は出来ない。


(…自分の為?)


(そうかもしれない…)


 自分の為と言われると、無性にそれを否定したくなる。


(自分の為、なんで否定するんだろ?)


(……図星をつかれた時みたい)


 心が二人しょげ始める。

 うだうだと思い悩んでいる様子を見て、ミナモはその頭を小突いた。


「考え過ぎ」


「へ?」


「何考えてるか分からないけど、本能と、欲望はなに?」


「本能、欲望…」


「君のしたい事はそれ。

 あの中に飛び込んで独り勝ちしたい? それとも悲劇のヒロインの様なりたい? もてはやされたい? 何がしたい?」


「欲望」


「取り繕う必要なんてない。

 大儀も正義も、結局奥底の欲望を覆い隠すだけの偽装。

 誰かを助けて満たされる、大儀に良い安寧を求める、それは自分の為に」


 再び自分の中で問う。


(何をしたいの? 力を得て)


(…自由が欲しい)


 拘束された日々、只管表情を取り作り笑みを振りまく。

 誰かが応援し、それに応じる為に必死に踊り歌う。

 振りつけ、歌唱の練習、そんな日々が長く続く。

 知らない相手に微笑を向け、かつて憧れていた煌びやかな舞台がセピア色へと変わっていく。


(マネージャーに止められるまで、自由なんて無かった…)


 最初に悲鳴が上がったのは身体であった。

 血を吐き身体が動かなくなる。

 生放送中に起きた事件に、世間は彼女の引退を囁いた。


(もう駄目だって言われて、全て真っ白に見えて…)


 まだやれるのに、それを振り払うだけの意思はない。

 燃え尽きた様に身体が動けなくなった。


(振り回されるのは嫌、自由に、自由になれる力が欲しい)


 そして自由な世界へと踏み出し、不自由を手にした。

 やろうとしたことに力が付いてこない。


「…自由になる力が、欲しい」


「何故?」


「私はまだ動けるって、知らしめるために」


 ミナモはその意思の根本を知らない。

 彼女の過去も思いも何一つわからないのだから。


「じゃあ、力を与えましょう」


 悪魔が微笑み、つゆ知らず、その手を取った。

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