おい、今この情報特価セール中だぞ! その9
ルーキーと言い放ったベテランプレイヤーが闇に飲まれる。
「虫の様にわんさかいて困る、だが冥王殺しが居なくて助かった」
「数日姿を現さないって聞いて安心したよ」
冥界から脱走した者達は安堵するが、それにグレイ型巨人が現れる。
「あ?」
不意打ちであった。
嫌な波動を感じ、次の瞬間には光線を浴びて重傷を負う。
普段なら傷が即座に回復するが、傷の癒える速度が遅い。
「チッ、厄介な波動を感じたが、面倒な奴が来た」
そこからは到底何時ものゲームとは違う、常識はずれのバトルが常に繰り広げられた。
その話を聞きミナモは小指を鼻の穴にツッコミソファーに寝っ転がっていた。
「…で?」
「貴方が化け物染みた者達に警戒されているという事を掴んでいます」
「で?」
やる気のない反応にギルドの一人が怒りに任せて立ち上がった。
しかし後ろの者が服を掴んで無理矢理座らせる。
「…異世界へ続くゲートの魔法も失敗、…手の施しようがありません」
「あの大穴に飛び込めば異世界に行けるよ、鍛えるには丁度良い場所だよ」
「生きていくには辛い場所という認識です…」
ミナモは視線を合わせない、そして何事も無かったように欠伸をして時計を眺め始めた。
「ここまで言っても駄目ですか?」
「君ら説明しただけじゃん」
助けてほしい、ミナモは直接それを口から聞きたかった。
「助けてと言えば助けていただけるのですか?」
「いいや、無理」
「では何を対価に動いてくれるのでしょうか?」
「いや、だから私自身は動けないって事。
それに他の奴が動くだろうから、黙って静観してればいいじゃない」
「動くのですか? それはどういった方なのですか?」
「この先は自分の目で確かめてくれ」
ミナモも分からない。
はっきり言えばガイア達意外にも、色々と不確定な存在がまだいるのだ。未来がどうなるかすらも分からない。
「また昔の攻略本の様な事を…」
シェドが小声でツッコミを入れると、一部ギルドの者が睨みつけて来る。
「解決はするのですか?」
「知らん。
ってか自分の思い通りの結末にならない想定で動いたら? 下手すりゃあの世界普通に滅ぶし。
プレイヤー減少でサ終も視野に入れて行け」
「…それでは困るのです」
「困ると言われてもこっちが困る。
別に良いじゃん、どうせこれ系のコピーゲーとか出るだろうし」
代表者の男性が口を開こうとするが、ノイズの様な物が走り口を閉ざした。
「――――――――」
「ん?」
それを見たハルシーとシェドが首を傾げる。
ミナモは目を細めてその光景を見ていたが、適当に手を振った。
「よく分からんけど、このゲームに命を懸けるほど熱心ぽいのは分かったよ。
けど無理な物は無理だよ」
「その理由をお伺いしても」
「う~ん、まあいいよ、今後何かあって私に縋られても困るし。
様はこの身体とか暴れ回ってるのは義体、本体は特定の世界意外立ち入り禁止って状態なの」
「三日という理由もそこに起因すると?」
「そう言う事」
「なら何らかの手段で入れるという事ですよね?」
「…諦めてないなこの子達。
無理だよ、龍脈の巡るエネルギーの二倍、か、それ以上は欲しいし」
「は?」
そんなエネルギーがあったなら今回の計画を自力で行っているだろう。
「で、君達の目的というのは何? こちらも話したんだから言ってもいいよね」
「それは無理です、先程のノイズが走った様に口を封じられます」
「あっそ、じゃあ良いよ」
聞き分けが良いというわけではなく、ミナモは純粋に興味が無さそうであった。
そんな時についに死神部隊が来たのか、目撃していた者達がギルドの者達に伝えてきた。
「新たな門と新たな者達が現れたという話を聞きました、…その者達が解決しれくれると?」
ミナモは片目を薄っすら開けて確認後に、思わず両眼を開けるほど驚いた。
「何やってんだアイツ等…」
「何か?」
「また御輿にするつもりか…、自分で解決しろよ」
苛立ち舌打ちをした瞬間、ミナモの手が緑色の粒子になり消えていく。
それが体の端々から事態が起き消えていこうとしていた。
「何が起きるんですか?」
ハルシーが目を輝かせて尋ねるが、ミナモは失った手で頭を抱えて無言で消えて行った。
そして次ミナモが見たのは戦場のど真ん中であった。
赤い空が広がり、地の底から沸き上がる軍勢が暴れていた。
プレイヤーは抵抗しようと必死になり食い止め、死神部隊は冥界からの脱走者と対峙している。上空から見えるその様は蟻達の戦争だ。
そんな中特殊な気配を放つ一人、一柱のガイア、その分身体がミナモを見上げて笑う。
「何をしたいんだよ」
呟いた言葉は風を生み砂ぼこりを上げる。
既にガイアの姿はなく、死神部隊も相手を追いやり撤退行動へと移っていた。
「意味が分からん」
ミナモが目を開く、世界の色が反転していき、時間の流れが極端に遅くなった。
ミナモの白い服装が変化していき、金色の帯を纏い、幾多もの巨大なガントレットが宙を舞う。
左手にはいつの間にか真っ黒な黒い草刈鎌を持ち、振り上げるとガントレットが次々と降り注ぎ、地を揺らし地底より現れた者達を消滅させていく。
さらに振り上げた鎌を振り下ろし、空間が裂いて射線上に存在する者が全て裂けて行き、回避行動をとっていた脱走者を切り裂く。
「まだこの世界に―――」
切り裂かれた脱走者は時空が歪むかのように身体を捩じれ塊となると異空間へ消え去って行った。
「冗談じゃ――」
また別な物が消えていく。
ある者は逃げるのではなくミナモに果敢に挑んでいく。
「ずっと戦ってみたかったんだぁぁ!!」
挑む度胸があり、そして力も確かである。
動かないミナモに槍を突き立てる、ミナモはそれを何もせずに防ぐが、ぶつかり合うと時空が歪み、波紋となりが大気を荒れ狂わせる。
ミナモも下手に動けばこの世界が一瞬で破壊してしまう、簡単に身動きが出来ない。
「動こうとしないならぁ!」
自らを縛る首輪を破壊する。
神器は己を縛る楔、そして解き放たれるという事は神そのものが降臨する事になる。
人型であった彼は一瞬にして下半身を蛇とする5メートルのほどの男性へと身を変えた。
「これで動けるだろ!」
ひび割れがこの世界を侵食する。
次の瞬間にはミナモは矢のように飛び出し、かの者とぶつかり世界崩壊への一歩を踏み出した。
地が裂け火が噴き出す、光の速度でぶつかり、そしてミナモは相手を削り取っていく。
「くっそたれがぁぁ!!」
鎌で草を刈るかのように、そして肉塊となり消えていく。
「何をしろって言うんだよ」
敵は消え去った。
しかし世界は既にガラスの様に複雑にヒビが入っている。もうミナモにはどうする事も出来ない。
「終わりだよこんなの」
この世界が崩壊する様子を見続けるしかないのだ。
『治すのです』
耳元でガイアの声が聞こえる。
無理難題を吹きかけられるが、目の前に魔法陣など様々な情報が表示された。
「これを使えってか、ぶっつけ本番で…」
四の五の言っておらず、すぐさま魔法を使う。
魔法は使えば良いというわけではなく、物によっては小手先の加減が重要であった。
教えて貰った魔法もまた小手先の感覚が必要で、上手く複雑な魔法陣を魔力で維持しつつ操作していく。
(くっ、は、針の穴に糸を片手で連続で通す様な難易度…、二度とやるかよ)
次元を安定させ、次は穴を塞ぐ。
穴から漏れ出た瘴気は、既にミナモが手を打っていた。
(あっちは、仕込んでた奴で、なんとか)
大地の一角、そこはかつて初心者たちがPKに襲われた場所であった。
そこに差し込んだのはミナモが作ったこの時に為の神具。
(『空気清浄剣』頑張ってくれ)
その一角は汚れを知らぬように自然がそのままになっている。
一部逃れた者が、その剣で戦おうとしていたが、抜けずに刺さったままだ。
(少しは洗浄してやるか)
環境を阻止する為に浄化を行う。
染みが消えて行くように、淀んでいた空気が正常に戻っていく。
ただその魔法でも世界に影響が出てしまう為、すぐさま先ほどの魔法で世界のヒビを治していく。
(これで、良いだろ。
…もうログアウトして寝たい)
一度ハルシーの情報屋に帰還する。
時間にして五分程度の事態の為、まだギルドの者達が居た。
「お疲れ様ですお嬢様」
「腹立った、戻って寝る」
手を翳すと置いていた壊れかけの剣が手元に現れ、それを抱きかかえると、カルフがミナモを抱えて一礼し消えて行った。
「彼女はとても気分屋ですから今後自然現象の一部と考えて貰った方が良いですよ。
三か月ほど付き合った私が言うのもなんですけど」
ギルド員は飛び交う情報を聞き茫然としていた。
「…力をお貸頂ければいいのですが」
「そこまでして異世界を開拓したいのですか?
入り口や情報を公開してみては?」
「一部の権益者が独占するでしょう、私達の様に。ですから自然に明かす必要があったのです。
私達が明かすのではなく、ダメージコントロールをしつつ成長を促す必要があります」
「何をしたいのか気になりますが、そちら辺に居る普通のプレイヤーも薄々気付いてきたのではないですか?」
秘匿していたとなればギルドへの風当たりは強くなる。
しかしその風当たりを別に逸らし、可能ならばダメージなく切り抜けたいという思惑があった。
「そうですね。今回の渡り鳥の投入で気付いた者達も居るでしょう。
特にLo10などは相当焦っているでしょうね」
「…一体何をしたいんだ? そこまでしてメルテトブルクから巣立たせたいのか?」
それまで黙っていたシェドが口を開く。
表舞台の裏に何かしらの存在が居る事は分かっていたが、その目的の根本が見えない。
「はい、そうですね。
ただ目的を聞くには信頼が足りません、そして聞けばもう後戻りはできません」
「…俺はどうしたらいいんだよ」
強大な組織、そして個々の者達。
制御しきれない者達と自分のメルテトブルク復興目的が反し、復活の夢が砕け散っている事に気が付いた。
「貴方はそこまで復興したい気持ちは察すことは出来ます。
我々も似たような気持でしたから」
「だったら」
「ですから、我々は進まなくてはなりません。
憩いの場所は必要である事は否定しませんが、巣立っていく事こそ重要なのです」
「…巣立ちたい奴だけ巣立っていけばいいだろ」
「あの世界が崩壊してもですか?」
「な、に?」
「ふむ?」
ハルシーも崩壊につていの情報は得ていない。
ミナモが知っているかもしれないが、知っているなら情報として落とすだろう。
「誰がそうするんですか?」
「NPCが、と言いたいですが、今回の件でプレイヤーもその対象であることが認識を改めまる結果になりました」
「しっかりとした基盤の世界こそが安住の地でしょう」
ギルドの者達に言われ、余計にシェドは唸るしかなかった。
今はもう最初からゲームを始めればメルテトブルクが初期地点ではない。その者達の事を考えればメルテトブルクは愛着も何も無いだろう。あるのは同情くらいだ。
「貴方の手腕で曲がりなりにもNPCとプレイヤーの衝突は避けれていました、どうですか? その腕を我々と共に活用してみませんか?」
指し伸ばした手を見て、安住の地、それを得たくなり手を伸ばすが、それをハルシーが止めた。
「傷心の相手の心に入り込まないでください。
少々マナーが成っていませんよ」
「それは失礼」
「ですが我々は何時でも貴方を歓迎しますよ」
「…なあ、俺はどうすれば良いんだ」
「復興がしたいのならどうぞ。
ただついて来るかは疑問が生まれます」
「お勧めはしませんね。
今のあの街、いえ、廃墟と言える場所を見ますか?」
「どうなってるんだ?」
他の人の映像を魔法によりこの場の者達に見せる。
『いやぁ、何処も酷い。
大地の裂け目は塞がっても、街は見るも無残』
映像からは声が聞こえ、普通ゲームの中では見れない。動画サイトやSNSなどを利用して共有する事になるが、ゲーム内で見るのはとても新鮮であった。
その映像にはほぼ原型の無い瓦礫の山となっている、かつての街並みは面影が無い。
瓦礫が邪魔で復興はかえって困難で、新たな土地に一から街を作った方が早いほどだ。
さらに邪魔しているのは異様に成長した草木などで、年十年も放置した様な廃墟と化していた。
「あの戦いで殆どのプレイヤーが消滅、生き残っているのはうちの撮影班くらいなもんだよ」
「…確かにミナモさんが言っていた通りに、降臨して酷い状態ですね」
「あのメイド、あっちが降臨した方が被害が少ない、そうも言ってたな」
「降臨…。はぁ、彼女達は完全に神に属する者達なのでしょうね。
半年程度でどうやってそこまで到達したのやら」
想像もつかない強さに呆れる。
息を飲む惨状にシェドは絶望をしつつも、沸き上がる感情があった。
「…龍脈って、まだ生きているのか?」
「分かりません。
膨大なエネルギーを観測できる状態にもありませんし」
「もしも、もしも生き残っているなら、異世界への扉を開きたい」
それはギルドに加担するという事であった。
感化されてしまったのか、ハルシーは軽くその真意を確かめる。
「どの様な心境の変化ですか? ギルドに加入すると?」
「勘違いするなよ、お前達ギルドの話に乗るんじゃない。
俺は俺なりに世界を見て回りたくなった、それに、…他の奴等も一度異世界に身を投じるべきだ、俺達は何も知らなすぎる」
知っていればその元を絶つために動けていたかもしれない、そう思うと後悔ばかりが沸き上がる。
「安息地を見つけるよりも、その身の力で生き抜ける、対応できる力を身に着けた方が良い」
安息の地が存在したとしても、内側から脅威が現れる可能性がある。
それはミナモの様な存在であれば対処のしようがない。
ただしシェドの話には幾つか無理難題があった。
「一応言っておきますけど、ミナモさん級は難しい話ですよ。
アウトセンスの他にも才能と執念、執着と言えるほどの努力は必要です。
前に愚痴を聞いた時もっと化け物が居ると言っていましたし」
「…出鼻を挫かれた気分だ」
「テイマーをするのも一つの手段でしょうね。
自分ではできないのなら、従魔にやらせる、これが一番手っ取り早いでしょう」
「問題はその育成ですね。
我々も試行錯誤していますが、中々成果は出せていません」
ギルドから無償で情報が流れるが、ハルシーは少し疑っていた。
自分達も同じ様に行っているが成果は出ている。徐々に強いモンスターを相手にしていく事で従魔も学習して強くなっていた。
しかしある程度テイマー側も強くなる必要がある。指示やアドバイスを送る観点から無能であるのも困る。
従魔側が主人の弱さに呆れて自分が頑張る決意を固める個体も居るが、主人がしっかりとする方が成長繋がるだろう。
「…どうするべきなんだろうな、俺は」
答えなど誰にも出せない。自分の選択は自分で決めるしかないのだ。
そんな時慌てた一人が、ギルドのリーダー格へとこそこそと耳打ちをする。
その言葉を聞きポーカーフェイスは崩れ、苦虫を潰したような顔で呟いた。
「…少々運営を見くびっていたようですね」
「どうかなさいましたか?」
ギルドの間に突然どよめきが起きた。
「公式サイトですよ」
「公式?」
シェドは今更公式サイトになにがあるのか、疑問に思い気だるげに開き、次の瞬間にはその気怠さが吹き飛んだ。
「チャプター1終幕?」




