おい、今この情報特価セール中だぞ! その8
シェドはやけにハイテンションで知り合いに個別チャットを送る。
会話内容は分からないが、その様子を見守るしかなく、そのチャットが終わるとミナモを指差す。
「これは俺達の様な異世界の事を全く知らないプレイヤーの問題だ」
「う、うん…?」
「だからそのツケは俺達が取る、手だし無用」
「シェドさんや、ちょっと無理ゲーが過ぎるんじゃないかい?」
ゴトウが止めようとするが、シェドは首を振った。
その自信が何処から出て来るのか、飽きれてしまいそうだ。
「情報を開示して戦力を引き込む」
「いや無理だから」
「戦える奴が居るんだろ? 力を合わせれば一人ぐらいは冥界だかの奴を倒せるはずだ」
「いやぁ、…ちょっとベクトルの話が違うんだよ」
挑む姿勢は良い、しかしその領域に立てているかは別な話になる。
「ベクトル?」
「例えば弱体化の儀式、舞を踊り、専用の弱体化フィールドに留めさせて、霊験あらたかな神具を使って相手をする。
これらを出た来た上で相手にしなくちゃいけない。無論そこに強さは必要だよ」
「なら多人数にそれをやらせればいいんじゃないか」
「いや、だからその神具を何処から持ってくるの、強さだって必要だし」
「…何か聖水とかかけたり、他の人が持ってる可能性だってあるし」
「少なくとも今までにプレイヤーの中で出会った事は無いよ」
「それは?」
指差したのはボロボロな剣。
ミナモは眉間に皺をよせえて困った様に口を開く。
「これはただの封印の為の道具、神具と言えばそうだけど、まったく性質が違う物だよ」
そして大事な事をミナモは提言した。
「後さ別に強敵を相手にするってわけじゃなくて、相手は遠隔から魔法を使うだけだから別に戦う必要が無いし。
おまけに遠方から一方的に蹂躙してくるって事でもあるの」
「ごす…」
「それでもやる」
「あ、そう…、もう頑張ってとしか言いようがない」
シェドはそのまま情報屋らか去って行こうとしたが、一度立ち止まり。
「ここって、何処?」
「異世界ですよ」
「…帰れないの?」
「帰れますけど、メルテトブルクへは行けません。
冒険者ギルドからもあの街への立ち入りは既に閉ざされてるでしょう」
「撤収準備をしてたから転送装置は使用不可能だろうね」
シェドの視線がミナモに注がれるが。
「嫌だよ、歩いて行きな、さっき格好つけて言ってたじゃん」
「……もう終わりだ」
彼は膝を抱えて塞ぎ込んでしまった。
「人は来ないでしょうけど、出入り口で座り込まないでください」
ハルシーも辛らつな言葉が飛ぶ、ミナモは溜息をつきアドバイスを送った。
「誰か遠方の人に頼めばいいじゃん、さっき連絡した人とか」
「メルテトブルクから離れてて、今すぐにこれないって」
「まあ制限時間も殆ど無いし、別に良いんじゃない」
「時間…」
「この調子だと現実時間一時間程度、こっちの時間だと丁度夜の7時だね。
あー、腹減った、という事でログアウトしておくは」
「お疲れ様です」
「おっつー、今日はメルテト滅亡記念とゲームの衰退記念にパーッとパーティーや」
それだけ言い残してミナモは消えて行った。
「…このゲームに何か恨みでもあるんかね?」
「多分クソゲーだからと思いますよ。
私もちゃんと上限なり行動制限なり敷いて、バランス調整はして欲しいとは思っていますから」
「でもこのゲーム無くなったら何をするんだろ」
「ファンタジー系統は近づかないと言ってましたね」
「お腹いっぱいって事かな」
出入口付近ではシェドが転がっており、これからどうなるのか2人は運を天に任せる事にした。
☆☆☆
そしてミナモが再びログインしたのはそれから二時間後の事だ。
既に事は起きており、十分お腹を休ませてミナモがログインした。
「うっすー、元気ー?」
再びログインした時にシェドは真剣な表情でテーブルに肘を付き手を組んでいた。
対してハルシーは他の情報屋メンバーとせわしなく問答をしている。
ゴトウの姿はなく、ミナモは不思議な状況に首をかしげながらシェドの傍に座る。
「どうしたの?」
「…お前の言っていた通りにメルテトブルクを巻き込んで大穴が開いた」
それは地獄へ続く大穴。ぽっかりと穴が開き、そこから環境を脅かす瘴気やそして途轍もない強力な魔物が溢れてきた。
これは冥界の者達が龍脈を利用して作り出した、ある意味異世界への扉である。
「プレイヤーは成すすべなく倒され、ドラゴンも何故かその魔物を食らい周囲を破壊し始めた」
「魔物を食らったというよりは、食らったと思ったら逆に食われたみたいな感じだねぇ」
「そうなのか? いや、それはどうでもいい」
「ん?」
「宇宙人が現れて世界征服を始めた」
「うん、……うん?」
ミナモは予想外の言葉に思考が止まった。
聞き間違いか、それとも冗談か、しかしシェドの顔を見てもふざけている様子は見れない。
「何言ってんだ? 病院行くか? 精神壊れちまったか?」
「俺は正気! ってかお前なら状況見れるんだろ! ならさっさと見て来いよ! 動画サイトにだって上がってるんだからよ!」
「んな馬鹿な」
ミナモは様子を眺めてみると、細長いのっぺらとしたグレイ型が暴れている。
沸き上がるモンスターを倒し平然と街も破壊してさんざんたる様だ。
プレイヤー達は呆然と見上げ、ドラゴンとぶつかる様は巨大ヒーローが戦っている様に見えるが、プレイヤー側の味方でないことがより一層悲壮感を漂わせていた。
「なにあれ?」
「いや、こっちが知りたい」
「…マジで何?」
ミナモは両眼を開いて巨大グレイ型を凝視して調べる。
そこでパッと表示された情報を見て眉間に皺を寄せた。相当嫌そうでこれまでにない程皺を寄せている。
「な、なんだよ」
さらに手元で操作をし始め、その情報を見て深々とため息をついていた。
「…う~ん」
答えを出せずに腕を抱えて背もたれにもたれ掛かり思惟しはじめた。
「ミナモさん知っているんですか?」
ハルシーはミナモの様子を見て慌てて身を乗り出して尋ねる。
「作り出された存在だが、何か思惑的な事がある様だ、しかしその奥底が見えない。
何だろう、…極めて侮辱的な物を感じる」
ミナモは部分的なスクリーンショットを撮る為に、手で枠を作りその部分だけを指定して撮影。
出来上がったスクリーンショットを滑らす様にハルシーへ送った。
それを見て眉間の皺が増える、ミナモ同様外部サイトを頼りに調べはじめた。
「……こんなのがあったんですね」
「これをどう捉えるべきか」
「どう、と言われてもこれと言って返答を返しようがありません」
「だからなんなんだ?」
「…男の子とか好きそうですし、尋ねてみますか」
「んだ」
ミナモはシェドに画像を送る。
それを見て思い当たることがあるのか驚き前のめりに確認し始めた。
「いや、…流石にこれをギガントマンと言い張るのは難しいだろ、冒涜だぞ…」
ギガントマン、それは昔放送されていた巨人が怪獣と戦う特撮番組である。
一世紀以上も前だが、たまに新作が放送されていて意外にも息が長い。
しかし今戦っている巨人グレイは雰囲気こそどことなく似ているが、カラーバリエーションもなく、似ているとは到底言えない。
「確かになんかギガントマンって風な感じには思ったけど、完全にパチモンじゃんか! 許せるかこんなもん!」
シェドの反応は今までにない程の怒り染みたものを感じていた。
拘りという物があるのか、それからシェドがギガントマンについて語り始める。
「まずはその巨体は良いが、その根本は正義の味方、遠い宇宙からやってこようがそれだけは変えられない――」
語るシェドの話は長引きそうになる。
その様子を察したハルシーはミナモに突然話題を振った。
「流石にこのままでは危ないでしょう、何か手は無いんですか?」
「…う~ん、手と言われても、一応、……期待できないのが、一件、だけ、…ある程度」
「む? 何かあるのか?」
答えたくないのかミナモは押し黙り顔を歪ませる。
見るからに関わり合いたくないと顔に書いていた。
「頼むよ」
「……まあ、行き詰ってるし、別に良いか」
ミナモの意識だけが分離し、異空間を漂う『本体』へと移動した。
そして身体を動かし、一瞬でその場所から消え去り、向かった先は冥界、何処か幻の様な幻想的な世界で、花畑や虹の様な淡い色の空が見える。
立ち込める霧の中をつっきり、冥界にある大きな支柱により作られた神殿の様な吹き抜けの構造物に入っていく。
その最奥に1人の女性がおり、ミナモは軽く手を挙げて挨拶をした。
「ういーっす、今日は女なんだ―――」
次の瞬間にはミナモすらも幽かにしか見えない手刀が飛び、カルフが粉みじんにされる。
「お久しぶりですね、お元気でしたか」
とても先ほどの暴力をした様な声とは思えないほど優しく、どことなくはかなげな女性の声が響いた。
薄っすらと幽霊の様な状態になったミナモがゆっくりと戻ってくると、先程の事はないものとして用件を伝える。
「状況は把握してると思うけど、脱走した奴等が世界滅ぼす直前まで来てるんだよ。
…立ち入り許可貰って良いですかね?」
おずおずと尋ねると、すっと手を挙げ、ミナモは咄嗟に頭を庇う様に身を引く。
「目上を相手に敬語は必要ですよ」
「え、あの時敬語は駄目だって…」
「その時はその時です」
元々関りになりたくない相手であった。
改めて再会してその考えはより強固になっていく。
「申し訳ございませんガイア様、失礼を致しました。
改めて申し上げます、冥界収容所から脱走した者達の後始末を行う為に禁則地への立ち入り許可を頂きたく馳せ参じました」
「冗談です、崩した態度でも良いですよ」
(うぎぃぃぃぃっっ!!!)
発狂したい気持ちを只管抑えてガイアの出方を伺った。
「貴方は少し周りに頼るという事を覚えた方が良いでしょう」
「頼る、ですか?」
「誰も無力なわけではありません」
彼女は儚げに微笑みミナモの胸に手を当てる。
ミナモは何をしでかすのか気が気ではなく、彼女の優しげな微笑みすらも不気味な笑みにしか見えなかった。
「で、では助けて貰えますか?」
「は? 甘えないでください」
人間不信になりそうであった。
来るんじゃなかったこんな場所、そんな後悔の念ばかりを抱き帰ろうと踵を返すが、突然足を切られて前のめりに倒れた。
そのまま首根っこを掴まれて、浮遊感と同時に首を180度曲げられ頬だけを掴まれる。
「結論を急いではいけません」
(おうちかえりたい)
「自然の流れに身を任せるのです」
(それってただ見守ってるだけじゃん)
「既に死神部隊が投入を決定しそろそろ出発します」
完全に取り越し苦労であった。
ミナモは眉間に軽く皺を作ってしまい、半透明な腕が現れガイアの意思で眉間の皺を伸ばされる。
「ですから安心してください、最強の死神部隊は負けません、必ず暴虐な彼等を捕らえて来るでしょう」
(その発言がフラグなんですけど)
「そして壊滅した死神部隊を見下ろし私が名乗りを上げるのです」
(コイツ、ほんま…)
それで会話は終わりであった。
ガイアは指先でツンと胸元を突くと、ふわりとミナモがどんどん浮いていく。
次の瞬間には体の内部から力が溢れ、全身がブクブクと風船のように膨れ。
「ゴク―――」
爆発してミナモが消えて行った。
光が視界に入り、目覚めたのはハルシーの情報屋の中である。
「本体爆破された」
「え? 何か起きたんですか?」
ハルシーたちにはミナモが喋らなくなり、椅子に寄りかかっていただけにしか見ない。
「目の上のたん瘤というか、上司的なガチでヤベー奴に会いに行って、一方的にボコボコにされた。
マジでアイツ、ホンマに無いわぁ、無い、マジありえん」
カルフも本体が手も足も出ずにやられ、傍で腰を下ろしてとても疲れた様子であった。
「けど、一応動くらしい、…らしい」
「確定じゃないんですか?」
「掴みどころがない奴に確定なんて言葉は無いと思う」
「でも、一応は動くんだろ?」
「その後どうなるかは分からないよ。
あの世界事滅びるかもしれないし、急に平穏になるかもしれないし、もう私には分からん。
ってかもう知らんわ」
ミナモは不機嫌な様子で臍を曲げそっぽを向く。
結果的に見守る以外の選択を見出せぬまま時間だけが過ぎていく。
しかし時間が過ぎれば動く者達も現れ、ハルシーの情報屋の扉を叩く者達が現れた。
「失礼しますよ」
現れたのは逃げ帰って来たギルドの者達で、来た時とは違うボロボロの衣装でやってきた。
「…服が乱れていますよ」
「ええ、だから失礼しますと言っています。
それに少し前までは貴方もそうでしたでしょう」
簡単な挑発に乗るほど余裕がなく、ハルシーはその事に気が付き間に入った。
「一先ず落ち着きましょう。
情報をお求めにいらっしゃったのですね」
その一言で冷静さを少し取り戻し、深呼吸を軽くしてから用件を尋ねた。
「予定ではヴァルハラアクセス関連の者達による、ヴァルハラ神殿をこの世界に呼び寄せるという予測でした。
…戦力も十分で、対応も可能だと」
これはホムンクルス、天使達ケーントゼッハ教団の目的である。
神殿の召喚、その行為を行う事で天使たちは強化される。
神殿には天使の製造プラントがあり、それから作り出される純正のホムンクルスなどは今居るホムンクルスよりも断然強力である。
天使達ホムンクルスの目的はそれで、ギルドもそれを想定していた。
「で?」
尋ねる先はミナモの方だ、ハルシーの方には用は無い。
ハルシーはそれはそれで複雑であるが、焦るギルド達とミナモから得られた情報で少し優越感に浸っていた。
「予想よりも強かったですが、…対処はしました」
☆☆
それは突然現れた救世主の様に見えただろう。
誰もが手も足も出ずにやられていく中、見た事もないプレイヤーが現れたのだ。
それを見守っていたプレイヤーは放心しながらその光景を見ていた。
「なんだ、意外に歯ごたえあるじゃない」
そんな事を呟き、チェンソーで天使を切り刻んでいく。
天使側の戦力で言えば五段階中三段階はあろう強さの相手であるが、現れたプレイヤーは一切苦な様子はない。
最下層の戦力である清廉の子兵はただの雑魚にしか見えないが、まるで紙束の様に一瞬で消え去って行った。
「何者、なんだ…」
雑魚ですら四苦八苦していたLo10のメンバーは自分達が何を見ているのかすら分からない、分りたくはない。
自分達は強いという自負があったが、それすらも超える者達が存在し、暴れているという情報や感情を処理しきれない。
「お前らはなんなんだ」
茫然自失の中思わず誰かが呼び掛ける、ある者は面倒そうにしながら振り返り。
「ただの雇われだよ、ルーキー」
ルーキー、その言葉は誰に向けられたのか気付く事は難しい。
しかし去って行く彼等の姿が消え、ようやく自分達がそこまで弱い存在だと認識し、そして吼えるしかできなかった。




