おい、今この情報特価セール中だぞ! その6
シェドは八方ふさがりに陥っていたが、目に入った城の姿を見て思いついた事があった。
「無ければ探せばいいか。
城へ行こう」
「え? 巨人ゾンビが暴れてるのにですか?」
「……そういえばそうだったな」
巨人ゾンビはまだ討伐されていない。
おまけに城も破壊の限りをつくして立ち入れるかどうかも危うい。
「城のゾンビを倒して情報集めるのが正規ルート泣きがしますねぇ」
「……詰みか」
「だからこっちで只管コンタクトを取ってるんですけど、先方に繋がらない」
「繋がらない?」
「同じ名前で呼び掛けてるんだけど、拒否設定なら通知が来るはずなんだけど、それすらない」
「立て込んでるんじゃないか?」
「かもしれないですね」
「…仕方ない、今は見守るしかないか」
離れた場所に腰を下ろし、彼等の出方を眺めるしかなかった。
(攻略失敗してくれねぇかなぁ)
そんな願いも虚しく、呼び掛けられたクランたちは意気揚々と結界を見つけて破壊に向かった。
そして丁度そのタイミングでゴトウが情報屋にコンタクトする事が出来た。
「はい情報屋です。
少し立て込んでいましたので応じる事ができませんでした。申し訳ございません」
「この間護衛を依頼したサンダルゴトウです。
今回は情報を買いたくて連絡をさせていただいたのですが…」
「そのご様子は、…時間がありませんね?」
「そうですね。
街の結界を破壊しようという秒前ですので」
「嗚呼…、ついに破壊ですか。
用件は結界が何を封じているか、ですね?」
「はい。…逃げた方が良いですかね?」
「結界が解けたらすぐにでも、まあ、それでどうにかなるとは思いませんが、中心地に居るよりは良いでしょう」
「ありがとうございます。
それでその封印されているものというのの詳細は購入という形になるでしょうか?」
「…そちらについては結界が解けたら指定した座標にすぐに行って貰えれば教えてくれるかもしれません」
歯切れが悪い対応であった、一先ずハルシーから座標を教えてもらう。
ゴトウは急いでシェドの手を取り走り出した。
「ど、どうしたんだ?」
「結界が解けたらすぐに行きます。それまで結界に張り付いてます」
「…そんなヤバいのか?」
「その詳細を知る為にも」
只管走り結界前に辿り着く、少し入り組んだ場所の為プレイヤーの姿は見えない。
「何で大通りじゃなくてここなんだ?」
「この道の方が向かう先に近かったので」
ゴトウは淡い色の半透明な結界に触れ続けて消えるのを待った。
そして一分もしないうちに結界が破壊される。
「来た! 行きますよ!」
「お、おい」
いきなり走り出し、シェドも慌ててその後を追う。
そして二分ほどしたころだろうか、威圧感がこの街全体を包み込んだ。
「うお!?」
「さ、流石これは、本当に、ヤバそうですね」
重苦しい重圧がのしかかる、重力でも増したかのようであった。
中心地に居たら気を失っていたかもしれない、攻略に当たっていた者達は気絶しているのか、気絶していた方が何も知らずにいれて良いかもしれない。しかしそんな他人の事を思いやる余裕は一切無い。
辿り着いた民家のドアを乱雑に開け、リビングの扉付近で待機していたカルフが一礼して扉を開けた。
何故NPCが、そんな疑問など考えている様はなく、急いでリビングへと足を踏み入れる。
「らっしゃい、ちょっと腐った情報がいっぱいだよ、お客さんどれにしやす」
見た目は違えど、そのノリは覚えがあった。
ニヤニヤと悪戯っ子の様な笑みを浮かべて手を振って招き、用意されていた椅子を指差して無理矢理座らせた。
2人も言われるがままの為に座り、恐る恐る尋ねた。
「えっと、リベンジャー、さん?」
「偽名なんだよそれ」
「見た目も、いや、…それよりもNPC、なのか?」
「それも偽装、こういう事もできるのさ」
「……リスポーンに三日って言うのは?」
「実際に三日かるよ。
今のこの姿ははっきり言って弱い、現実の肉体同等と言っていい、雑魚過ぎるだろ?」
「話が本当ならそうだが、…マジか?」
「大マジさ。
して、あれが何なのか知りたくて来たんだろ?」
「あれ?」
「ん? …騎士団から出てきたアレだよ」
「いや、なんか重圧を感じていたが、街の中だから見えない」
「ああ、なるほど。
まあ見てないなら見てないで良いよ。
さてネタバレになるが良いかい?」
「あ、ああ。
金は、どうする?」
「お代は結構。
その情報をどうするかも任せるよ」
ミナモは優雅に茶を啜り、焦る二人の雰囲気を和らげる。その姿を見ているだけで大丈夫なのではという希望が湧いていた。
しかしその希望も崩れて行く事になる。
「あれはドラゴンの成れの果て、今は周りの血肉、そして穢れを吸って元の身体を作り出そうとしている、プレイヤーも吸収されてしまったかな。
ロストか、あるいはドラゴンの体の一部となるか。
どちらにしろ今はドラゴンゾンビ、いや、強さ的にはそうだなぁ、…命名センスがないからドラゴンゾンビでいいや」
内容としては簡単であるが、ドラゴンやアバターのロストという単語に理解が追い付かない。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「いいや待てないね、そろそろこの街の崩壊が始まる、どうする? 脱出するかい? こっちは料金は取らないよ、失敗分の弁償という事で」
「落ち着いて話を聞きたい、…頼む」
「あいよ」
視線をカルフに向けると、一礼し、一瞬にしてその場から四人が消え去った。
そして気が付けば何処かも分からない室内の一室に同じ状態で居て、椅子が無い為その場に転がる。
「え!?」
「驚いた…」
「さてでは話しましょうか。
先ほど話した話の補足、…と言いたいのですが、少し落ち着いてからですね」
驚く二人が落ち着くのを待ち、再び尋ねられる。
「す、すまない、色々あり過ぎて頭が追い付かん、一から話してくれ。
まず、ドラゴンというのはなんだ?」
「本物のドラゴンです。
古龍というタイプの古いドラゴン。
それがあの街の地下にあったというだけです、フラグぽいのはあったのですが、多くはそれを知るすべはなかったでしょう」
伏線が色々とあったのだが、残念な事にミナモが真面に見つけたのはレネ関連のばかりだ。
「…古龍」
「朽ち、骨だけになり眠っていた。
魂は何処かへと持ち去られていたのですが、持ち込まれた様ですね」
「あの結界も持ち込んだ奴が?」
「いいえ、あれは元からあったものです。
最初は純粋に古龍の存在を知った者が入れ知恵をされて封印として作られました」
「入れ知恵?」
「そちらは別料金になります」
「…じゃあ今は無料の範囲で」
「では続けます、ドラゴンが起きると自動的に肉体を構成素つために、周りの血肉そして龍脈の魔力をエネルギーにしようと動き出します」
「なるほど、プレイヤーが出れないのはやっぱり副産物か。
だが、足りるのか復活に?」
「いいえ、全然」
「俺たちは見てないけど、出てきたんだろ?」
「完全復活は遠く、このままでは時間が経てば再び朽ちていきます」
「放置が安定か」
「でも、放置もされないでしょう。
何せ近くでは戦争というイベントが起きていますから」
「…あっ。
や、辞めさせないとまずいじゃないか!」
「止める事は難しいでしょう」
「じゃ、じゃあ黒幕の討伐して、動きを止める、とか?」
「黒幕というのはどれですか?」
「ん? …どれって」
「前に複雑に絡み合ってると言っていた様な?」
ゴトウは会話を思い出し、今話したことが一勢力の策略に過ぎない事に気が付いた。
「まだ、あるのか?」
「はっきり言えばどの勢力もまだこれから、今日か明日完全に結末に辿り着くでしょう」
「…見えない影が強大過ぎる」
「パワースポットですから、それを利用する者は多いですよ」
「パワースポットだからって。
…いや待てよ、これってプレイヤー側も関わってるって事だよな?」
「プレイヤー側の組織については私はよく分からないです。
調べている側も何やらごたごたしている様ですし」
「ごたごたって、連絡つかなかった件?」
「ええ、そうでしょうね。
もしかしたら釘を刺されたせいで私に貴方達の面倒を見させようというのかもしれませんね」
「…めっちゃ迷惑が掛かってる感じ?」
「いいえ、元々私の行動のせいでしょう。
下手に目立ってしまいましたし、結界に近づかない方が良かったのですから」
「いや、それは俺達が…」
「そうではありませんよ。
私はあくまで雇われの身ですから、方面で迷惑のかかる行動は慎むべきでした」
「でもえっと、冥界だっけ? そこから言われてたじゃないか」
「あちらもあちらで板挟みでしたから、断る事もできませんでした。
因果応報という事でしょう」
「なんかめっちゃ複雑なんだな」
「ええ、まあ、若気の至りでしたから」
ミナモはゲーム開始から半年で暴れ回り、今に至る様な負債を抱えている。
それを語る事は無く、そして彼等もそれを深くは聞く事は無かった。
「…迂闊に行動できないって事か?」
「でも、それって腹が立ちますよね」
ミナモは笑みを浮かべるが、目が一切笑っていなかった。
不気味なその様子に2人は息を飲み、カルフは身悶えしていた。
「何かをすれば手を打たれる、見学くらいしかできないのは困りものです」
「な、なにをするんだ?」
「互いにけん制し、状況が硬直しています」
「そう、なのか?」
「崩しましょう。
さらに混迷させるのです」
異星人でも見るかのような視線を向けられ、ミナモは咳払いをした。
「その視線は聊か語弊があります。
先程の言いましたが、パワースポットなのです。
そしてそれを利用してこれから事が起きます」
「具体的には何なんだ?」
ミナモはカルフに視線を向けた。
「簡単な話です、龍脈とはエネルギーそのもの。
それを失わせればいいだけです」
「それは、…失った後はどうなるんだ?」
「多少土地が痩せるかもしれませんが、またいつか肥えるでしょう」
「…いや、待て、それって復興に影響が出るんじゃないか?」
「ごすずん、その前にまた同じような事が起きますよ」
「あっ、そっちもか」
「肥えると言っても相当時間がかかります。
それに、復興とは気が早いですね」
「そりゃ問題が解決したら復興だろ」
「お花畑ですねぇ」
煽っているわけではないが、見通しの甘い発言にミナモは少し呆れた。
シェドにとっては気分のいい話ではないが、復興までの道のりを考えれば当然の反応として黙って受け入れた。
「例え私がこの問題を解決した所で戦争は収まりません。
各国、それどころかプレイヤー側も巻き込んで何時か再燃します。
飽き飽きしている者は他の拠点に住を構えるでしょう、その流れも既に始まっています」
「ちょっと待ってくれ」
メルテトブルクを出る、その行為の意味を理解できなかった。
彼にとって、いや、普通のプレイヤーにとってメルテトブルクは故郷なのだ。そこから離れ、知らない土地を新たな故郷にする気はない。
「メルテトブルクを出るって、なんだ? 何故…」
「何故って、滅んだ国に戻るほど愛着が無いと無理ですし」
「新規は他の国で始まってるからなぁ、ごすは特にあの街を中心にしか考えてないから余計に民草の心は分からんか」
ゴトウもどちらかと言えばミナモと同じ考えであった。
別に愛着が無いわけではないが、ここまで壊滅的だと復興の兆しすら見えない。
特にNPCの不在、王位後継者が行方不明な事もありプレイヤーだけで復興は途轍もなく難しい。
「誰が復興の指揮を執るかも問題だし、ごすの指揮ではプレイヤーは耳を傾けるとは思えない。
Lo10は正直信用ならない、新たな街に拠点を置く可能性だってある」
他にも幾つか問題はあった。
「その前に、俺達プレイヤーって結局のところ問題なんですよ」
「俺達が?」
「だって、言わば異邦人、異物が勝手に文化を持ち込んで不法占拠している様な物ですよ」
今は受け入れられているが、現実に謎の集団が街を闊歩地、日夜騒ぎ立てていると思うと受け入れられるものではない。
「得体のしれない相手に今まで何とかしてきましたけど、俺達が主体に街作りをしたとして。
果たしてどうなるか…」
「NPCの常識と私達の常識のぶつかり合いだよねぇ」
これはシェドがNPCとプレイヤーの緩衝材となっていた。
嫌な事でもフラッシュバックする様に今までの事が蘇り、表情を沈ませていく。
「……もう駄目なのか、あの国は?」
「別にダメとは言わないけど、他の国の属国になるか、消えるかの二択だとは思う」
シェドは肩を落としてしおらしくなっていた。
前に話した通りに殆ど詰みの状態であることを再認識させられる事になった。
しかしそれでも幽かな可能性を信じて思考を巡らせるしかなく、険しい顔をして只管俯き考えていた。
「まぁ…、このまま大人しくするのも一つの選択ですけど」
「大人しくしない選択…」
ゴトウは力のあるミナモがそのまま続けていたらどんな手を打つのか気になって尋ねた。
「最初の予定だとどうなる? 戦争も」
「…その子の本体を一時的に降臨させて焦土化させて、ある程度の距離のNPCの精神崩壊」
「おい」
「手っ取り早く平和に終わる選択です」
ボケに常に回っているゴトウも思わずツッコミを入れるほどだ。
「出来るか分からんけど、いくら何でもそれはアカン」
「と言っても、手っ取り早く全てを丸く収めるならその方法が一番早いですよ。
…それにさ」
ミナモは自分の力の限界を知っている。
「私にはこれくらいしかできないんだよねぇ、誰かを巻き込む横の繋がりっていうのが殆ど無い」
ソロの限界、それは圧倒的な暴力で解決に取り込むしかなかった。
「俺達にはできない一手なのだろう。
…とは言え容認は出来ない話だ」
「ふ~む、では打てる手というのは私にはないですね」
シェドは閉ざしていた口を開いた。
「開示できる情報が欲しい」
「ふむ」
ミナモは片目を開けてからゆっくりと両眼を開いた。
そして片耳を塞ぎ再び目を閉じてハルシーと個人チャットで会話を始め。
「…良いよ、それじゃあ地獄へ叩き込んであげる」
そして明かされた内容にシェド達は本当に地獄へと押し込まれる事になった。
ミナモが言っていた強引な手段でさえも、これから巻き起こる事に比べれば「優しい」手段という事を知る事になる。




