おい、今この情報特価セール中だぞ! その3
閉じ込められたと言っても、他のプレイヤーはまだ分からず、ゴトウも周りを見ても閉じ込められているとは到底思えない。
ゾンビはびこる場所になっても青空は変わらずに長閑な顔を見せている。
「出られる?」
「脱出できるが、私が壊しては面白くない、プレイヤー全員で頑張ってもらおうかな」
「……壊せるなら壊してくれ」
黙っていたシェドがポツリと呟くが、ミナモは首を振った。
「そんな美味しいイベントを食い散らかせないだろ。
流石に顰蹙を買う」
「こんな状況で顰蹙なんて買うものか…」
「けど、閉じ込められたって状況、とても良いじゃない、きっとプレイヤーはこぞって燃え上がるよ」
「確かに、良いイベントではある」
「お前ら…。
ならせめて安全な場所に移動してくれ」
「安全な場所、あそこかな」
ミナモは透明化の魔法を展開し屋根を走りは回る。
2人にとっては見慣れた通りであるが、眼下はざわめき不安がる人々の顔を屋根から見て取れた。
「ギルド?」
そこは冒険者ギルドであった。プレイヤー達の活動中心点とも言える場所である。
しかし冒険者ギルドは封鎖されており、中に入れず誰も彼もが不安がり、一部では暴動が起き始めている。
「いったい、どうなってるんだ?」
そんなシェドの言葉に答えず、冒険者ギルドの屋根に飛び移る。はずであった。
「ぶ、ぶつかる!?」
しかしジャンプの高さが足りず、壁へと衝突しそうになる。
「よっと」
しかし壁をすり抜け、気が付けば室内へと立ち入っていた。
2人は困惑しているが、ミナモは立ち上がり部屋にいるその人物方へと身体を向けた。
「感心しませんね、…しかも冥王殺しですか」
ミナモから見たその声の主は、青白い肌の男性で、黒い端のボロマントを着込んでいた。
「ぼろ屋敷なんだし、入っても良いだろ」
「表から入ってきてほしいものだ。
それで、その二人は?」
「暇だから護衛の依頼してたんだよ、ここなら悪い意味で安全だろ」
「それもそうですね。
関心はしません、このギルドも掃いますので安全ではなくなりますよ」
「あれ? 撤退しちゃうんだ」
シェド視点では冒険者ギルドのマスターと話し合いをしているだけ、何の変哲もない厳つい男性が無表情でミナモと話している姿しか見えない。
(ギルドマスターとこんな親しく、しかも冥王殺し? なんだそれ?)
基本的に冒険者ギルドは個人と仲良くなることはない。
誰に対しても仕事の関係、シェドや国重鎮だろうが反応は変わらない。
「それにこの街ももう終わりです、どうせ周囲には居ないのでしょ?」
冥界に関係した者の仕業である事は分かっている、そして周囲にその気配は無い事も。
「確かにそうだけど、簡単に辞めるね」
「人というのは自然とまた復興するものだ、が、まあ情勢を察すれば不可能に近いだろう」
「さもありなん」
その時彼が一つの鉱石を取り出す。
ミナモはまじまじと眺め警戒していた。
「何かさせるつもり?」
「何かできるだけの力が無いのでしょう」
「痛い所をつくね」
「せめてこの毒素と魔法くらいは解除してもらいたい」
「…ふむ」
ミナモは超能力でも使う様に、手を使わず鉱石を懐に忍ばせ、再び二人を連れて屋根に昇りギルドから離れていく。
そして貴族街と城下町の境目の城壁の上で止まった。
「あーあー、ハー」
そして突然発声練習でもするかのように声の調子を整え始める。
「ど、どうしたんだ?」
「はっ、はぁっ、はぁああっ、んっ、よし」
そして大きく息を吸い込み始めると、静かな風の様な音が響き始めた。
ミナモの姿は突然その姿が変わる、純白の長い髪、灰色のドレス、虹色色に近い金色が瞼の隙間からゆらり漏れ出る、そして歌が零れた。
優しく切ない音色、しかしどこか威厳を感じさせる鎮魂歌であった。
(気分が、落ち着く、…いや、沈んでいく感覚がある)
全てがその時制止したようであった。
誰もがその詩に心を強く惹かれ、活動すら停止するほどだ。
不死者達は身動きを止め、苦しみながら襲い掛かるが、その力も衰えていた。
体が焼け溶けていく、しかしそれでも活動は辞めない。
(ゾンビが、これは、この歌の?)
意識してアンデッドを見るが、次第に意識が詩の方へ惹かれて行き、街を観察する事が出来ない。
(終わる、詩が…)
聞いた事のない詩が終わりを告げるのが分かった。
まるで夕日が沈む様な錯覚さえ思わせる哀愁が漂い、日が沈んだ。
(終わってしまった…)
ライブが終わった後の何時間後熱が冷めた時のあの虚しさが一気に押し寄せる。
しかし日が沈むとまた別な曲が始まる。
それは小夜曲、本来であるならば恋人同士の詩であるはずが、別れた様な虚しさがある曲であった。
だがそれでも強く惹かれてしまう不思議な魅力。
若々しい活力漲る若者ですら、その切なさに胸が裂かれそうなるほど。
(どうしてこんな歌ばかり)
そして何時しか不死者達は弱々しく動き力を弱体化させていた、シェドとゴトウはいつの間にかミナモに連れられて再びシェドの邸宅へ戻って来ていた。
「あれ?」
「どうした?」
「…歌、終わった?」
「終わったが」
歌の声に近しいその声がミナモから洩れる。
姿は変わらず歌姫の様な姿で、それが幻想でなかった事を表していた。
夢現のままで、実は今が夢と言われても納得するだろう。
「どうするんだ?」
「結界の解除をプレイヤーが頑張ってしてくれるでしょ、全滅させるのも忍びないしこれ以上は手を貸すつもりは無いし」
「…じゃあ、プレイヤー達が終わらせるのを待つのか?」
「そうなるね」
再び拠点へ舞い戻り二人を放り込んだ。
「…マジなの?」
「何が?」
「いや、あの力があって負けるとか、ギルド長だよねあれ?」
普段誰とも仲良くならない、そんなギルド長との会話をしていた事、さらには歌の事。
どうしてもミナモが負けるというヴィジョンが浮かばない。
「私にはギルド長が誰か分からないけど、負けるよ。
それにあの時も狙ってる人居たし、その時点で倒されても仕方なかったよ」
ミナモは自分自身へ向ける強い視線の感覚に気が付いていた。
狙いを定める視線、それが手に取るようにわかる。
「…このゲームって意外と魔境?」
「私が言うのもなんだけど、そういうもんだよ」
「一体何処に居たんだ」
「そこで異世界なんじゃないですかね」
ゴトウはまだ見ぬ異世界へ夢を馳せる。
「どういう所とかあるの? 死者の世界以外に楽しそうな所ある?」
「う~ん、あるっちゃあるけど、マジでヤバい場所もある、立ち入りはしたくない所。
何も無い世界もあるし、…かなり無数にある、100や200じゃ足りないんじゃないかな」
「洒落、…ではない?」
「数は洒落になってないねぇ」
「え、じゃ、じゃあこの世界で探索ってやってる俺等馬鹿じゃん」
ミナモは視線を逸らして答えない。
「馬鹿じゃん俺等!」
「自暴自棄は良くないぞ。
それにごすずんは全然探索して無いでしょ」
「だって、なんでこうなってるんだよ…」
一日に訳の分からない事ばかり、シェドはキャパシティは限界の様だ。
首都の崩落と彼自身の地位の低下、無力さに精神が擦り切れていた。
「俺はこれからどうすれば良いんだ?」
縋る相手はミナモしかなく、ミナモは眉間に皺を寄せて嫌そうにする。
「知らないよ。
自分達で解決しなよ」
「解決、できるのか?」
「何を持って解決か。
毒系ならある程度解決、ゾンビ系はこれからも残り続けるし進化し続けるんじゃない?」
「進化?」
「あー、あれだ、これでしょ?」
ゴトウはネットで情報収集も並行して行っており、一つの動画を見せた。
そこには10メートルは超える巨人ゾンビが暴れており、周囲に被害を出し続けていた。
プレイヤーが対応に回っているが、振り回らされただけでプレイヤーが宙に舞い近づく事すらできない。
「こんなの居るのか?」
「二時間くらい前に現れて対応中らしいよ。
まあ駄目そうでだんだん貴族街の方へ流れてってるみたいだけど」
「……ここじゃん」
「流石にここには来ない、城の方でしょ」
「どっちにしろ駄目じゃん」
ミナモは素知らぬ様子で欠伸をしながら適当に裏作業を始めていた。
頼りにならない以上腰を上げるしかない。
その時ゴトウは一つの案が浮かび提案した。
「それじゃ俺達が好きに動くから、護衛すればある程度対策してくれるんじゃない?」
「それだ」
「雑魚なら相手にするけど、巨人系は相手にしないよ。
レイドボスぽいのはワイワイやらないと」
「なら結界の解除」
「頑張って探してねぇ」
「…なるほど、発生源があるんだ」
ミナモの言葉からゴトウは発生源があると判断した。
余計な事を口にしたと思ったのだが、すぐに笑みを向けた。
「良いよ、護衛してあげる」
「なんか企んでるなコイツ…」
シェドは訝しむが、それでも行動する以外の選択肢はなかった。
結界は外から中へ入る事は出来るが、中から外へ出る事は叶わない。
プレイヤーは子供のように燥ぎながら結界へ侵入しては、解決の為に行動を始めた。
☆☆
ミナモはと肘をついて寝転がり、鼻をほじって電子書籍を読み漁っている。
「……その格好辞めてくれないか?」
「え? なんで?」
「せめて鼻をほじるのだけは…」
シェドは一瞬でも神秘性を感じていた相手が、非常に情けない姿をしている事が見たくなかった。
「鼻をほじるとだな」
「…ほじると?」
「たまに鼻くそが出てくる」
「……それだけ?」
「それだけ」
ゴトウと気が合う同類という事は理解していたが、それでも一瞬感じた心のトキメキが今も少し残留しており、その気持ちが今は許せない。
「でも思った事はないかい?」
「そっとしておいてくれ…」
シェドは自分の安楽椅子に膝を抱えて塞ぎ込み、ミナモの話を聞こうとはしない。
しかしミナモはそんな様子を無視して話し始めた。
「不必要なこういう鼻くそシステムが導入されてるって斬新だなって思うのよ」
「確かに」
ゴトウも今更その事に気が付き、自分の鼻の穴に指を突っ込んだ。
「けど、今の私の種族はそう言うのが出来なくなってしまってるせいで、いくらほじっても鼻くそが出ない」
「と、言う事は?」
「種族毎に設定が違うという事だ」
「なるほどなぁ、そこに気が付くとは流石天才か」
「ふふんっ」
「…何そんな事で得意げになってるんだよ」
馬鹿らしい会話にシェドは呆れ、深々とため息を吐いた。
「でも実際これは重要だよ」
「なんでだよ」
「種族毎に各設定がされてるんだ、無駄な設定と今は思っても、この後何か重要な事に繋がるかもしれない」
「鼻くそがかよ、意味分からねぇ」
「えっ、お前、レディの前で鼻くそってありえん、それに今は身体的な特徴による耐性とか、ステータスの様々な変化の話をしているのに」
「全く真面目にしてくださいよ、これだからギャグ漫画に出てくるツッコミ役は鼻くその事しか頭に無いんですよ」
「鼻くそほじってるてめぇらに言われたくねぇわ!!!」
興奮して立ち上がるシェドを和やかに眺める二人、その姿を見ると無性に腹立たしくなり、勢いよく椅子に座り鼻息を荒くする。
「しかし、今日で二日目、街は未だにパニックだねぇ」
「そうだな、NPCの食糧問題とかイザコザもあるし、その外じゃ戦争勃発寸前」
「急に真面目に話始めるなよ…」
現在メルシュ王国は危機的な状況だ。
王が死に首都機能は崩壊、司令塔を失った所に他国からの侵略を受ける可能性が非常に高い。
「世間一般じゃ戦争とこの街の救出っていうダブルイベントだって盛り上がってるじゃん、真面目にもなるさ」
どの口が、そんな言葉が出てこようとするがぐっと堪えるシェド。
「けど、戦争は一方的、街は救出のめどが立たず、状況は最悪だぜ」
「じゃあ全滅だな、ガハハ、負けたな」
「ワハハハハッ」
「お前らは何処でも楽しそうだな…」
その前向きな姿勢に羨ましい感じるが、この手も出せない状況にもどかしさを感じる。
何か一手打てないか考えるが、頼みの綱の二人はこれといった反応を示さない。
「変装して、また出ないか?」
「収穫なかったじゃないですか」
「んだ」
既に外の探索には出ている。
シェド達はミナモの様子を伺いながら、色んな場所を探したが、ミナモは護衛以外での反応を示す事は無かった。
(こいつ、すぐに肯定した、…ひょっとしてこのままじゃ答えに辿り着けないのか?)
ミナモがゴトウの反応に同調したのを見て、このまま探しても仕方ないと悟る。
何か打って出なければならず、その方法を直接訪ねる事にした。
「頼む、何かこの状況を打開できる情報は無いのか? あるならば教えて欲しい」
「え~、それ聞いちゃうの?」
渋々と口を開くが、また噤む。
「な、なんだよ」
「…この街を覆う結界は何処から何処まで覆っているのか、その中央が何処かってすぐに分かるはずだけど」
結界の中央に何かがある、しかしその考えは直ぐに思いつき、それを調査したプレイヤーが多数存在している。
「それは調べられただろ?」
「本当に調べてるのかな?」
「……調べ漏れがあるのか?」
「そもそも結界発動の条件や発動に必要な何かを知っているかな? システム的な物だと思い込んでないかな?」
「システムじゃないの?」
「ある意味システムだけど、そういうメタ的なのじゃなくて、原理があったりするんだよ」
これ以上は答えるつもりはないのか口を閉ざした。
シェドがゴトウに視線を向ける。その仕草はお前が動けという合図なのだが、現状で動く事は出来ず首を振って拒否する。
「無理無理、ソロで動くには強さが足りない、狂暴っすよ」
ゾンビなどの敵勢生物が厄介で簡単に身動きが取れない。
そうなるとミナモを使って動くしかなく、その場合はシェドが立ち上がるしかなかった。
「……護衛、してくれるよな?」
「うっす、護衛『だけ』するっす」
覚悟を決め、シェドは再び外へ向かう事にした。




