湧きあがれ、内にあるかもしれないやる気よ その1
砂の霧が立ち上がり、爆音が空に何度も轟く。
吹き抜ける風切り音と金属が軋む音が重なり、雷鳴のような轟きと稲光が視界を覆う。
14メートルほどのその人型を模した一つ目のロボが背部に取り付けられたブースターを吹かし、右へ左へと体を揺らして接敵していき、相手から放たれた砲撃を小刻みに回避していく。
下半身が四脚のロボ目掛けて右手に持った実弾ライフルでけん制を行う。
砂の丘に隠れた四脚のロボではあるが、上から降り注ぐミサイルの雨にその場から退避していった。
一つ目のロボットが丘から顔を出すと、隠れていた四足のロボに腕を射貫かれ、バランスを崩し火花を散らした。
「チッ」
癒里は舌打ちをしながらブースターを全開にしてありったけのエネルギーでそのまま走り抜け、背部に取り付け折りたたまれてあるリニアカノンを中途半端に展開し、その展開時に無理やり弾丸を射出し迫っていた二脚ロボを射貫く。
しかしリニアカノンはその無理な発射により破損し、これ以上の稼働は不可能とシステムが判断し自動的にパージされた。
背部の一部が小さな爆発を起こし、強制的ににリニアカノンが外れ、地面に落ちると自動的に爆発四散し、回収する事すら難しくなる。
「レーザーライフルも残弾0、ブレードとシールドがイカレた、残るはけん制用無誘導ロケットミサイルのみ…」
ブーストを吹かし、旋回し、先ほど射貫いた二脚ロボの元へ向かう。
レーザーライフルを投げ捨て、爆炎に呑まれたそのロボの腕から実弾ライフルを素早く回収し向かってくる他のロボへ突撃していく。
近づかせまいとアサルトライフル型の実弾マシンガンが弾幕を張るが、右往左往と不規則に動く四脚ロボに全ての弾幕が叩き込まれる事は無い。
しかし四脚の一本が酷使した為か悲鳴を上げて可動不可能になり、その速度を大きく落とす。
「弱り目に祟り目…」
不利な状況であるにも関わらず、癒里は口角を釣り上げ、無誘導ミサイルランチャーを稼働させ、左腕肩に取り付けたその武装で器用に相手を狙い攻撃を行う。
右手のライフルによる射撃も行うが、照準が定まっておらず狙った場所に飛ぼうとはしない。だがその癖を一瞬で読み、次弾を的確に回避し敵のロボへ叩き込む。
一撃だけでは装甲が凹む程度の威力しかないが、それでも次々と攻撃を行いながら距離を詰めていく。
動かない一本の足を引きずりつつ、その場で飛び上がり、空中でブーストを吹かして右へ後ろへと不規則な行動を行い相手の攻撃を戸惑わる。
別方向から来る一機の敵性ロボから放たれるミサイルを引きつけ、軌道修正が間に合わないギリギリ所で回避していく。
さらにいつしか二機の間に入り込む様に潜り込み、互いに射線が防がれ、システムが警告を促し相手にフレンドリーファイアさせるとさらに引き金を引く事を躊躇わせる。
この位置に潜り込むと癒里を狙う事は難しく、一度互いに動き回るが、その都度調整して、相手に攻撃をしていった。
状況が五分と五分にもつれ込むが、癒里のロボットは既にボロボロでこれ以上の行動は難しく、二度三度被弾しながらも着実に相手を潰していき、そしてついに。
「うげっ、倒したのに脚部が逝った」
最後っ屁と言わんばかりに放たれたミサイルが脚部を全壊させ、前のめりに倒れ伏した。
この戦いを勝したのは癒里ではあるのだが。
「…任務できないし、増援が来た、負けか」
これまで7機ほど相手に立ち回って来たが、既に満身創痍、さらにやられた事を知った者達が急いで増援に現れ癒里を討とうとやってくる。
戦えない状況であるが、ここでやられるのは癪に障り、コクピットのモニター下にあるコクピット操作ボタンを押して外に飛び出る。
そのまま腕をもぎ取られ倒れ伏したロボ目掛けて走りだし、脱出装置により開かれたコクピットに潜り込む。
「ずさんで良かった、起動しっぱなしだ」
再起動を行うと再びその乗り捨てられたロボに火が灯り、きしむ音に魘されながら立ち上がった。
「確かパイルバンカーの突撃構成だったか、……やってみるか」
右腕のパイルバンカーと左肩の煙幕弾、それ以外に武装など無いが、動くだけ充分であった。
「一体でも刈り取ってやる」
爆発的な加速が巻き起こり、相手目掛けて突貫していった。
癒里はこの充実感を堪能していた。
己の腕以外はその機体性能によりリミットがかけられている為、無双も出来ず、アウトセンスでは何ともし難い限界があった。
しかし癒里は今まで以上の充実感に満たされていた。
ただこのゲームをプレイする人数が二百人にも満たず、プレイする時間によっては人が居ない事もある。
(…けど、誰も強くない、これがかなり残念だなぁ)
バトルアリーナという1対1をする場所でランキングトップに癒里が居て、2位とも力量差がある。
依頼と言われる、各勢力が何かの任務の為にプレイヤーを投入する場所では、複数人が癒里にかかるという状態になっており、バランスが著しく偏る事もあった。
(う~ん、一人用の依頼で難易度高い依頼を熟すのが良いかな、っていってもベータテストだし、後数日のみだからなぁ)
この楽しい日々も終わりに近づいてくる。
次はより良いゲームになる事を夢見て熟成されるのを待つのみだ。
しかし、ベータテストを打ち出した後にこんな発表がなされた。
『バランス調整のご案内』
そのトピックスのタイトルを見て、しばらくはプレイが始まらない事を悟った。
文面から見るに、強力なプレイヤーと操作が不慣れな下位層の状況を垣間見て、一歩踏み込んだ調整を行いたいという理由があった。
実力が物を言う状況を打開したいという改善方針が打ち出されていた。
「嘘? それを打ち出すって事は、……レベル制とか無駄に自動化取り入れるんじゃ…」
実力差をある程度緩和すると打ち出す以上、何かしらの癒里に望まない調整が入る事は間違いなかった。
前にそういって方針を変えたゲームが、調整後見向きもされずサービス終了した事癒里は覚えていて、嫌な予感がしていた。
レベル制度を採り入れ、レベルによりダメージ補正をしたり、当たり判定を狭めたりと、根本から覆る様な調整を行われた。
(せめてレート制度を入れて、レートが低い者ほど高性能な補助を受けれるとかかな、ロボの性能とかに影響でない様にはして欲しいもんだ)
その要望を運営のご意見ご要望に送り付けた。
丁度意見などを募っていたので、その考えが反映される事を祈るばかりであった。
「……WLMやるかぁ」
あからさまにやる気を失いながら、渋々とWLMを起動する。
そしてログインするとそこはメルテトブルクのある大国メルシュ王国に近い場所、ある小さな国の首都だ。
プレイヤーがちらほらと居るが、両手で数えられる程度しかいない。そんな人気のない街でミナモは何処かの屋根に降り立つ。
「新品の身体…、はぁ、壊さないようにしないと」
新品の肉体と言っても何処も変わりはない。
(えーっと、なにやろうかな、…と言ってもあの剣をどうにかするか、戦争がどうなるか確かめるしか無いんだよな、あの革命家気取りの動向も気になるけど)
思い浮かんだのはシェーロが所属するピュスト帝国の事だ。
状況は把握するならば、間違いなく彼等との接触が一番だろう。
(従魔の事もあるし、一先ずは街に蘇生してだな)
転移後戦闘に巻き込まれイトウは見事になに一つ残らず蒸発していた。
復活させるのもタダではなく、金を稼ぐ必要がある。
(あっ、そう言えば指名手配されてるんだった)
公的機関にはすべてケーントゼッハ教団からの指名手配がある為、変装無しで立ち入る事は難しい。
扉に手をかけてその事を思い出し、急いで変装を行った。
(適当で良いか)
朱色の髪を後ろで纏め、ラフな衣装に変えて名前を御豆腐にする。
準備が整い、室内へ入る。
死亡時に勝手にアイテム欄へ送られたイトウの魂を差し出し蘇生を行う。
復活したイトウは何事も無かったかのように自分で作り出した水を自由に動かしてミナモの元へ戻ってくる。
(どうっすかなぁ、この世界でレベリングする必要はないけど、…情況的にはこの世界に居たい)
この世界で出来る事を探すのだが、思い浮かぶ事が無い。
「あっ、…そういえば忘れてたことあったなぁ」
一か所行かなければならない事を思い出した。
重い足を引きずり、目的地へ辿り着くと深々とため息が零れた。
(…ほんと、冒険者ギルドって不気味)
そこは『ボロボロ』の冒険者ギルドである。
室内は外見同様に廃墟の様な状態で、『普通』のNPCの姿は無い。
そして受付には肉すらない骸骨姿の受付嬢が座っていた。
「冥界からお手紙ない? あ、これ」
取り出した一枚のカードの様な鉄板を見せると、受付嬢は声帯が無いにもかかわらずに声を出し。
「少々お待ちください、……一通ほど預かっています」
何処からともなく現れた羊皮紙、それを手渡され、その場で確認する。
「え、冥界で脱獄班が出たってマジ?」
「それ、古い手紙ですか? 三月ほど前の話ですよ」
「すまん、最近ここ来てなかった、しかも捕まえろって、手配書とかないの? それとももう捕まってる?」
「こちらが手配書です」
羊皮紙に写真が映し出され、そこには人型や魔物の様な姿の存在が映し出されていた。
「捕まってないやん」
「それを捕まえるのが死神の仕事ですよ」
「はぁ」
「貴方もその死神の一員です」
「そうっすね、別に好きでなったわけじゃないですけど」
「頑張ってください」
「はい」
羊皮紙を仕舞い、立ち去ろうとしたのだが、ふと思い出したことがあり尋ねた。
「最近この世界の情勢はどうなの?」
「さあ? 現世の事は現世の人に聞いてください、ただ何処かの国の偉い人が何処かに来てるみたいですよ、そんな話はありました」
「何処だろ? まあ、ありがとさん」
ふと外から人の気配がして、急いで透明化してギルドを出る。
立ち代わりに普通のプレイヤーが受付へ向かい、何事も無いように話し始めた。このギルドの異質さを理解はしていない。
(ここが冥界と現世の繋がりが強い場所だって、分かって貰えないよなぁ…)
少なくともミナモと一部以外の者は、誰もが立派な建物の中に美人な男性や女性が働いている環境にしか見えない。
しかしミナモは隙間風吹き荒む、退廃した場所で骸骨たちがせわしなく動く光景にしか見えなかった。
(っとそうだ、普通の手配書見んの忘れてた、自分ておいくらだろ)
バウンティーハンターが居る手配書の前に移動し、ミナモ自身の手配書を確認する。
他の手配書とは違い、生け捕りにしケーントゼッハ教会に連れてくるようにという手配書であった。
(40万か、…他にも高い奴はいるし、なんか思ったよりも微妙。
言うて、あの教団単体での手配みたいだし、それだけだと破格なのか?)
自分の手配書を見てもたいした焦りも覚えず、踵を返して表に出る。
(適当にそこら辺で聞くか? いや、ネットの力に頼るか、めんどくさい)
ネットで現在メルテトブルクに何が起きているかを探す。すると思わぬ情報が舞い込み、それに対して思わず笑い転げそうになった。
(え? マジで? ケーントゼッハ教団のメルシュ王国との同盟締結? なんか面白い事になってるねぇ)
屋根の上で情勢を鼻で笑い寝転がる。
(あの街めっちゃ面白そうになるな、ってかシャル何の連絡も寄こさないしどうしたんだ? まあいいけど)
楽しそうな状況を察知し、急いでメルテトブルクへ飛んだ。
辿り着いたメルテトブルクは依然変わらず人で溢れかえっており、プレイヤーの姿も途轍もなく多い。
そして同時に街に居る兵士の姿が多く見受けられる。
(厳重警戒中って感じかな、ふむ)
人の多い場所で気配を探る事を避けていたが、避けられないと判断し、気配を探り出す。
(う~ん、人が多いとどうしても気持ち悪い、サムイボ出そう)
入る情報の感覚が苦手で、人の多い場所では極力アウトセンスを使わない様にしていた。
しかし天使が紛れ込んでいると思うと気配を探らないわけにはいかず、耐えながら探していく。
(居るじゃん、兵士に紛れ込んでる、それにこっちは神官か、良いね面白くなってきたじゃん)
ほくそ笑みながら適当に歩き、他に異質な気配が無いか調べる。
広域に気配を探れば気分が悪くなる為、移動しながらだ。
(邪魔なプレイヤーの気配をなんとかしたいなぁ)
心の中で文句を言いながら屋根の上で透明化したまま、遠くに見える王城へ向かう。
その際にふとある人物が目に留まった。
(あれ? 確か、シェーロだっけ? なんというタイミング。
けど確かにこういう状況だしここに居ても仕方ないのか)
敵情視察なのだろうが、自ら猛獣の居る檻の中に入る行為である。
「そっちの守備はどうだ?」
シェーロの傍には別なプレイヤーが居て、こっそりと話しかけていた。
ごく普通の革の鎧を着こんだ平凡な金髪少年という風貌で、これと言った特徴は無い。
「ピュスト帝国は四方国連合を作りました、この大陸を囲む様にして同盟が組まれました。
そして現在はこの大陸の小国などに同盟を締結できないかと交渉中です」
「こちらも揃ってきたが、やはりアウェー、戦力が足りない。
…敵情視察に来てみたが、得られる情報はほぼないか」
「流石にここからではどうしようもありませんね…」
(ならなんで来たんだよ、ってかそっちは何者?)
様子から見て仲間なのだろうが、態々敵地で話し合う理由が分からない。
(仲間のふりしておびき出されたんじゃない? なんかあの子危なっかしいからなぁ)
シェーロの動向が気になり耳を澄ませながら後を付ける事にした。
「…釣れるでしょうか?」
「分からん、だが今はこうやってこの街を動き回るしかない」
(釣れる?)
2人は何か理由があり動き回っている様であった。
「しかしこの国の状況も訳が分からない、何故大っぴらに仕掛けて来ないんだ。
この大陸の一部の国を引き込んだ程度、それ以外は何故か排除している」
「友好的だと思っていたんですけど、何故敵対するのでしょうか?」
「そこも気になる」
「拠点を築き防衛と侵略ルートの確保、けど攻めずにいる。…この余裕が良く分からないのです」
(結構考えてるんだな、成長という事か)
前と打って変わって様々な事を考えられるようになっていた。
しかし眼前に迫る危機にはまだ気づいていない。巡回してくる兵士二人組がやって来た。
(ふむ、ここは、…助けるべきか)
ミナモはそれが兵士に化けた天使であることを看破しており、手を出そうと攻撃態勢に移る。
(っ!?)
しかし手を伸ばした瞬間その手が吹き飛ぶ。
吹き飛んだ角度などから狙撃されたのだと理解し、急いでそちらへ警戒を強めるが、次の瞬間には真逆の位置から顔左半分が吹き飛んだ。
(なるほど、理屈は分かった)
次元を超えた狙撃である。
さらに質が悪く衝撃波が巻き起こりミナモとその周辺が吹き飛んだ。
(強さ的には五分か相手の方が上手な力量、…本気を少しだすしかあるまい)
残った顔半分、その片方の目が開く。
虚空でも覗き込むほどその奥底には何もない。しかしギラリとした光が揺らぎ。
(駄目か…)
頭部が完全に吹き飛ぶ。
肉体がミナモの本気にはついていけないのだ。
ミナモが『視る』という行為自体にその体は耐えられない。
しかし一瞬だけでも十分成果を得られた。
(狙撃手は一人、…誰かは解った)
狙撃場所、装備、そして名前、レベル、ステータス、様々な情報を一瞬にして開示される。
そして残った肉体で全力で魔法を解き放ち狙撃手へと、同じ手段を用いり解き放った。ほとばしる魔力がミナモの分身体では耐えきれず塵になり消滅していった。
一山超えたその先の山が一瞬で溶け落ち吹き飛ぶ、全てが消え去り熱波を広げて焦土へ変化させていった。
「チッ」
ミナモは舌打ちをしてゆっくりと目を開ける。
そして狙っていた相手が消し炭になり消し飛び、リスポーン地点へと戻った事を確認して再び目を閉じた。
「お嬢様、新たな肉体の素材を集めに参りますか?」
「時間がかかる、…リアル三日は流石にダルイ」
分身体の製造にはかなりの時間がかかる。
ストックを保持できず、壊れた肉体を新たに作り直さなければならない。
本体が異世界から操作しするというのが、現状ミナモが動き回る事が出来る最善の手段であった。
「ではわたくしが手を回しましょうか?」
「カルフ、君が動くと周りが駄目になる。
…抑えられる?」
笑みを浮かべていたカルフであるが、少しだけ眉間に皺が寄った。
「加減は難しいです、脆弱な者達が多すぎます」
ミナモは一人立ち上がろうとするが、それをカルフが止めた。
「駄目ですよお嬢様、貴方様は現世へその身で入れません」
腰を再び下ろして鼻息を荒く吐き出した。
「…面倒な身体」
愚痴をこぼして突っ伏し、トントンと紅茶カップを突いてこの後の行動を考え始めた。
「様子を眺めるだけというのはどうでしょうか?」
カルフの提案を聞き、カップを突くのを止めた。
「…そう、するしかないか」
カルフは早速片付けはじめ、それが一瞬で終わるとミナモを抱えた。
「…人間の姿ね」
「あ、失礼いたしました。
確か、食べた娘の記憶に、…これでいいでしょう」
カルフの姿は190センチほどの人の姿へと変わる。足や手が人間の状態になっているが、当人は慣れない状態に少し違和感を抱えていた。
ミナモは虚空から宝石が散りばめられた鉛筆の様なステッキを取り出し、それを振りかざすとその場から姿が消えた。




