表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌がらせ少女は大志を抱けない。~めっちゃ強い少女はただ無双する事が出来れば良いなぁって思いました~  作者: せいゆ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/59

落ちぶれて落ちぶれず その3


 スタルコはミナモへ森で取れた果実を放り投げる。

 二階の手すりで器用に寝転がっていたミナモは、それを受け取り、手を上げて無言で礼をした。

 スタルコはミナモの横に座り、一人話し始める。


「俺ァ、オルバが嫌いだ」


 視線を向ければ、その先にオルバが居て、一人狩った魔物の素材で着衣を作っていた。


「なんでも一人、強けりゃ良い、後ろに居る奴なんて気にしない。

 前に前に、躓いてもすぐに立ち上がって前へ、声すらかけられない、呼び止めても勝手に進んでいく」


 握った拳が強く、しかし次第に弱々しくなっていく。


「アイツは何時もそうだ」


 嫉妬であり、そして憧れでもある。

 ミナモは過去の気持ちを揺り起こされ、ポツリと呟く。


「ああいう奴がリーダーに向いてるけど、リーダーには絶対に不向きなんだよな」


「あん?」


「光って眩しい、目印になって目標にもなる、だけど近くじゃただ火傷するタイプ」


「太陽って見た目じゃねぇけどなぁ」


「本当に不思議なもんだよ、コミュ障なのに、…あれとは大違い」


 どことなくメイアと被るが、オルバは口数が少なく、意外と人から好かれているように見える。


「おめぇさんもそう言う奴が居るのか?」


「ゴロゴロいる、けど、藻掻くしかないって分かってるから藻掻くけどさ」


「…だよなぁ」


 ミナモにだってオルバの様な存在は居る。

 手を伸ばしても届かない、届いたと思ったところで手が燃え盛り、そしてその先にがさらにあり絶望に突き落とされる。


「ま、あまり深く考えても仕方ないっていうのもある」


「違いねぇ。

 けどよ、…肉体、鍛える以外に武器って、…どうなんだ」


 先ほど言われた文明人云々という話を思い出し、その事を悩んでいる様だ。


「必要でしょ、武器」


「…格闘ゲームとか、FPSでよぉ、一人突っ込んでよ、無双してる奴、全員ナイフとか素手だった」


「はぁ…」


 聞き覚えもあるし、見覚えもある。

 同じ強者を求めてナイフ一本で敵陣へ突っ込んでいき、銃弾を弾いたりしながら接近して倒していた。

 一般的な格闘ゲームでも1対1でも全攻撃を回避してトップに立ったこともあった。


(けど、アイツ等に巡り合えなかったんだよなぁ)


 ミナモが浮かぶ相手は超人ゲームで戦った者達。

 巡り会えない事に落胆しながらゲームから去っていく事ばかりだ。


「それでよぉ、やっぱり肉体に勝るものはねぇって思うわけよ」


「鍛えてからでいいと思うよ」


 適当に答えるが、ミナモも武器は無い。

 持っているが、メインに何かを使う事は無かった。


「銃を相手に、どうすればいいのか」


 オルバを睨み、彼は下っていく。

 そんなスタルコにミナモは一つだけアドバイスを送った。


「回避するか防ぐかじゃないの」


「盾は、あわねぇ」


 離れていくのを見てからミナモは呟く。


「向き不向きはあるけど、…足並み揃えようって奴が何言ってんだか」


 ミナモはただ運ばれていく死体を眺めてほくそ笑む。

 さらに視線の先に居るNPCを見て、鼻で笑い事が起きるのをただ待つ。

 そんな折にシェザイアがミナモの元を訪れた。


「結論出したかい?」


「プライドを捨てる」


「捨てなくていい、締まって、後できひだせば良いじゃん」


 そもそもミナモに言うべき言葉ではない、連れていくべきオルバへ言えば良い事だ。


「そんな器用に出来るものか」


(捨てる事の方が難しいんだが、まあ、いいけどさ)


 プライドは捨てても捨てきれるものではない。

 こびり付き、それが足を引っ張る事も多い。


「んで、どうするよ、行くのかい?」


「ああ。

 どうしても強くなりたい」


「良いんじゃない。

 まあ、行くなら早めに行った方が良いとは思うけど、…彼に話した?」


「今からだ」


「なら早く行きな」


 背中を押してやると、その勢いでオルバの元へと向かった。

 一言二言話せば、オルバは既に向かう様で出入り口へと歩き出していく。

 ミナモはその出入り口まで向かい、2人の見送りをする事にした。


「お前は行かないのか?」


「いかない」


「なんでだ?」


「内緒」


 ミナモは人差し指を唇の前に移動せて微笑む。


「まあ、死に戻りしたら分かるんじゃない?」


「死に戻るつもりはない」


「そうですかい。

 はぁ、一か月後くらいのイベントまで、なにしようかなぁ」


「戦争だったか」


「本当に始まるのか?」


「その為に俺は行く」


 その時ふとスケジュール、ネットゲーム開始日を確認し、興味を持っていたアクションロボットゲームがある事を思い出す。


「じゃあ私は適当に別ゲーで時間潰すよ」


「このゲームじゃないんかい」


 シェザイアは戦争と言う言葉で呆然としていたが、ツッコミどころのある言葉に無意識に口を出した。


「第一ここを抜け出さない限りその戦争とやらも体験などできないだろ」


「ふっ、私をそんじゅ其処等のプレイヤーと思ってもらっては困る、この世界以外にも世界を渡り歩いているんだ」


「ゲームじゃないんだから…」


「転移魔法でちょちょちょいとね」


 誇る様な人を腹立たせる顔を晒すミナモ、そのドヤ顔に呆れるシェザイアであったが、オルバだけは眉をひそめて睨みを入れていた。


「お前…、渡り鳥か?」


「渡り鳥?」


「何それ?」


 二人は現実では聞いて理解した言葉を、ゲーム内での意味と合致せず尋ねる。


「この世界の様に別な異世界を渡り歩いている連中の事だ。

 基本的に情報など落とさず、自分勝手に動き回ってるって言う連中、そいつ等が渡り鳥だ」


「ふ~ん、じゃあその条件であるならば間違いなく私は渡り鳥というカテゴリーだろうね」


「お前、意外と凄い奴なのか?」


 オルバはミナモが強者という事を察していたが、ふざけた態度が気に食わなく認めたくは無かった。

 強者はそれなりの風格を持っていて欲しいという、そんな我儘がオルバにはあった。


「ふふーん」


「なんとなく認めたくはないが、…もしかしてこの場所が何処かとか、どんな世界かも分かるのか?」


 シェザイアはここを抜け出す事が出来る希望の光を感じ、尋ねるのだがミナモはそれに正確に答える事は無かった。


「分かるよ、近い街もその街に何があるかも、…君の持ってる銃の事も」


 オルバはミナモから視線を外した。

 その反応に意地悪っ子の様に不敵に微笑むと、顔を覗き込み、オルバはさらに視線を逸らす。


「な、なんだよ二人で」


「二束三文の失敗作、ワゴンセールの安物って事だよ」


「やす、もの?」


「要は使い捨てだよ。

 オーダーメイドで作るのが基本で、そして普通は破損しない」


「…本当に壊れない物なのか?」


 それを尋ねたのはオルバだ。

 安物しか手に入らられず、壊れないと噂の高級品に懐疑的であった。


「理論上は壊れないよ、自分の魔力を流し込み、刻まれたルーンの魔法によりパーツが強固になるんだから。

 とは言え、情けない力しかないなら、いくら高級品を持っていても宝の持ち腐れだけど」


「壊れない、のか? 興味深いな。

 しかし高級品とは、いくらくらいなんだ?」


「頼む技師にもよるけど、私のだと200~300万程度、あの上司は500とかだっけ、流石に時間がかるからそこまで作り込むのは骨が折れる」


「200? 相場が分からん」


「…少なくとも真面に稼げない額だ、一か月真面に働いて10万いくかどうかだな」


「え?」


「ドヤァ、愚民共ひざまずくが良い」


 煽る様な顔に軽く苛立ちを覚えるが、それを無視してオルバの壊れた銃について尋ねた。


「じゃあ直せるんじゃないか?」


「そんな二束三文の庶民の武器など直したくありませんわ、をぉ~ほっほっほ」


「無駄に煽らないと喋られないのか」


「これくらいしかする事無いんだ、はぁ見下すの最高」


 最高とは言っているが、とてもつまらなそうであった。


「…だが、そうか、…本当にこの世界にあるんだな」


 シェザイアまだ見ぬ宝石の様な世界に夢馳せる。

 その様子にミナモは羊皮紙を取り出した。


「じゃ、街に着いたら使う為の招待状を送ってあげよう」


 さらっと地図とそして、その地図に記された地点の人物へメッセージをしたためた。


「これを白髪で尻尾が九つある澄ました面のいけ好かない男に見せるといい」


「やたら憎しみが籠ったように聞こえるんだが」


「ふふふふふっ」


 ミナモは微笑むが、それが少し不気味でならない。


「大丈夫、肉体も何もかもが鍛えられるから」


「強くなるのか?」


「強くならんと作れん、そっちの気取った子も特訓でもつけて貰うといい」


「何処まで強くなる?」


「少なくとも今の状態よりはさらに上に行ける、と思う」


「お前もそこで強くなったのか?」


「私は元から強いから、…そのせいで少し、…まあ、色々あったけど」


 思い出しミナモは苦い顔をしていた。


「まっ、さっさと行きな、失敗せずに行きなよ」


 しっしと虫でも払う様に見送る。

 釈然としないシェザイアだったが、一歩踏み出したのを見てミナモは満足であった。


「老婆心的な感覚なのか、それとも母性なのか、どっちだと思う?」


 ミナモは振り返り尋ねる。

 そこに居たのはスタルコとその仲間である。

 武装した状態で、今にも飛び出していきそうだ。ただ魔物狩りという様子には見えない。


「知らねぇな」


「見送るだけで良いと思うんだけど」


「そうはいかない、こっちも理由があるんだ」


 ミナモは鼻で笑い、足を一定間隔で地面を叩き音を鳴らし始めた。


「まあ、あまり入れ込むのは感心しないなぁ」


 視線の先にはスタルコ達ではなく、その先にある屋台、そこに居るNPC達を閉じた目で捉えていた。

 こんな憂鬱とした場所でも、NPCの子供が走り回っている。プレイヤーにぶつかりそうになると、そのプレイヤーが笑顔で頭を優しく小突尽き見送る。

 同じ子供同士が、プレイヤーから教えてもらった遊びをしながら楽しそうに遊び続ける。

 その光景に心が癒えるのか、プレイヤー達はまるで老人になった様に見守っていた。


「どうせあの子達の為にとか言うんでしょ」


「悪いか?」


「悪くないよ、立派な動機」


 ミナモは素直にそれを認める。

 ただしその先に待つ現実を知れば、彼等の入れ込みというのも望むべきものではない。


「オレァなぁ、犯罪は犯罪って思うし、それにとやかく言うつもりはねぇ。

 けどなァ、……駄目だろ、ガキ共は、絶対に、…一線を越えてる」


 この監獄で生まれた子供達、本来ならこんな場所に居てはいけない者達。

 それでも生まれた以上場所はもう選べない。

 容認できない環境に日々不満が募っていった。


「ならルートを探れば良いじゃないか」


「大人数が移動できるものかよ」


 ミナモは肩をすくめる。

 その態度に腹を立てたプレイヤーが飛び出しそうになるが、スタルコが止めた。


「無理だ、コイツ、多分オルバ以上に強い」


 スタルコはミナモの本質というものを見て、奥底が知れないことを感覚で理解している。


「私、君の様な子、結構好きだよ」


 弁えている、と言えばいいのか、その上で頼み事もしないスタルコに好感度は高い。

 普通なら助けてくれ、その言葉が続くのだが、それすらなく頼ろうとはしない姿勢であった。


「けど、私は鍛える方に舵を切った方が良いとは思うよ」


「…それが出来らば苦労はしねぇなぁ」


「時間はそれを許してはくれないとは思うけど」


「どういうことだ?」


 ミナモは歩き出してその横をすり抜けていく。

 そして振り返り、手招きをして付いて来るように促す。

 不思議に思いながらも、オルバではなく、ミナモの方へと付いていき、二階三階と登っていき、10階ほどまで辿り着くと、その横にある薄暗い洞穴の様な場所へと入っていく。


「そこはぁ死体捨て場に繋がってるぞ」


「死体って、アンデッド化したりするでしょ?」


「ん? ああ、だからあそこから処理してこの奥で焼いてんだ」


「完全じゃないんだよ」


「完全じゃない?」


 ミナモは無言で歩き、軽快しながらその後ろからついていく。

 死体処理をして疲れた様子のプレイヤーが出ていくのをすれ違う。


「お疲れ様」


 スタルコとその仲間が言葉で労うが、すれ違ったプレイヤーが軽く手を上げて返答するだけだ。

 その奥には鉄の扉があり、ほんのり暖かく開ければ熱風が噴き出していく。

 燃える様な朱色の光が噴き出し、燦々と姿を浮かび上がらせる。


「何があるってんだ?」


 別な縦穴があり、その奥底がぐつぐつと燃え上がる、溶岩に見える。

 実際は溶鉱炉の様な場所となっており、不思議と常にその状態を維持し続けていた。


「死体はあの中、けど、あれで死体は完全に消えるわけじゃない」


「…まさか」


 ここまで言えばある程度察すことができる。


「嘘だろ? だって、溶鉱炉だぜ、…こんな所から、アンデッドって。

 炭化しちまってるぜ…」


「レイス系、なのか?」


「レイスと言えば、レイスかなぁ。

 しかし、う~ん、こういう事も起きるものかねぇ、なるほどなぁ、大変学びになりました」


 ミナモは手を合わせてなむなむと適当に祈った。


「何時頃ォ、出る?」


「近いうちに、そのまま死体を入れなくても、かな。

 元々そう言う施設ぽいからねぇ、良くできた構造だよ」


 一人納得するミナモに、プレイヤーの一人が詰め寄った。


「な、なんだよ、一人分かった気で」


「こういう匂わせをしてヤキモキさせたいお年頃なんだよ」


「じょ、冗談、だったらぶっ飛ばすぞ」


「いやぁん、女の子に手を上げるなんて、だ・め・だ・ぞっ」


 そんなふざけた事をするミナモに、思わず詰め寄っていた男が引っ叩いた。

 ミナモはその行為に満面の笑みを浮かべる。


「良いね、その突っ込み、私大好き」


「普通にキモイ」


「へ、へへ、その突っ込みは鋭すぎる、ぜ。ぬふっ」


 ふざけながら倒れ込む。その光景を見ているだけで冗談にしか見えない。


「…でも、どちらにしろ君達には時間が無いのは事実。

 進むか、すり潰されるか」


 起き上がり冗談の通じない様な声色で再びナイフを突き立てる。


「…時には頭を下げるのも必要だと思うけど。

 対立とか、制圧とか、上とか下とか、そう言うのを抜きして」


 その言葉が刺さるのはスタルコただ一人。

 握った拳をさらに強く握りしめ、そして壁に叩きつけた。


「分かってェるよぉ」


 そしてミナモが手を出し述べた。


「送って行ってあげよう。

 そのプライドをずたずたに引き裂けるなら」


 何処へ、とはとても野暮である。

 血まみれのその手を拭う事無くスタルコはその手を取った。


「じゃいこうかぁ」


 ミナモと、そしてスタルコの姿が一瞬にしてこの場から掻き消えた。

 そして囚人街の外、その森の中へ二人の姿現れる。

 目の前には先程飛び出していたオルバとシェザイアであった。


「お、おわ? おわぁぁぁ!?」


「どわ!?」


「!?」


 突然現れた二人に呆け、驚くと、同時にスタルコもまた驚いた。


「うははははっ、君達、反応面白ッ」


 1人ミナモだけが腹を抱えて笑い、その場でゴロゴロ転がり続けた。

 しかしやる事を決めているスタルコは、すぐにオルバへと頭を下げる。


「オルバ、頼む、力を貸して欲しい」


 突然の行動に2人は驚きつつも、ただならぬ様子を感じた。


「…何があった?」


「俺ァ、…アイツ等を、解放してやりてぇ、せめて、日差しの下を、歩けるくらい」


「ああ、NPCの子達のね、様は子供をそのままに出来ないって事だよ」


 ミナモが付け加える。

 あそこに長く居たシェザイアは直ぐに察し、同時に自分だけ抜け出した事を少し後悔した。


「…守り切る自信はない」


 一瞬だけオルバは言いよどんだが、スタルコの覚悟を察して素直に実力を晒した。

 スタルコという人物を知っているからこそ、下げた頭の重みというのを理解している。

 自分ならば同じ様に頭を下げられただろうか? そんな事が浮かぶ。


「だがお前は街まで行ける道が分かるんだろ?」


「…ああ、だが、それでも、…綱渡りに近い」


 オルバの視線がミナモへと向かう。

 そんな視線にミナモは手を振った。


「私に頼るな、その子は私に頼る事は無かったぞ」


「……そうか、強いんだな、強くなったんだな」


「…オルバ?」


 オルバの印象は、後ろを付いて来るヒナ、それがスタルコに抱いた最初の印象であった。

 いつの間にか勝手について来て、強くなって、今は一歩先に行かれた、そんな気分だ。

 オルバは握った手の力を抜く。


「…やれるだけはやる」


 握った手を開き、オルバはスタルコの手を掴んだ。

 しかしどうもスタルコは求めている反応とは違う反応が返った事に眉を顰める。


「……何故握手?」


「これが普通だろ?」


 想像の中のオルバはダーティーな印象を受ける人物だ。

 近づく者皆殺しといった雰囲気があり、そこに憧れる者も多いが、実際のその先にある強さもまた一級品であった。

 それが何故か協力となれば手を握るという、普通な反応をされ、スタルコは意外なアクションに困惑を禁じ得ない。


「コイツ天然かぁ」


「まあ、こういう奴なんだ」


 付き合いの長いシェザイアは別に珍しくない為、鼻で笑っていた。


 ☆☆☆


 総勢138人、その大移動が始まろうとしていた。

 誰もが半信半疑の中準備を進め、ルートを確認しては戻りを繰り返していく。

 ミナモはその様子を適当に眺めながら時間を潰し、ついにこの日が来た。


「準備は整った、もう戻れねェ」


 揃った皆を眺め、そしてスタルコは代表して宣言した。


「今日で俺ァ達ァ、光を見る!」


 鬱屈とした洞穴の生活は終わりだ。

 オルバはその様子をじっと眺めていた。


「感想は?」


「……誰もが強くなっていくんだな」


 まるで自分は強くなれない、そう比較しているように見えた。

 傍にいたシェザイアも少し様子のおかしいオルバを見て首を傾げる。


「どうかしたのか?」


「…なんでもない」


 語る事はない。

 ミナモはその心の深層をある程度理解しているが、何時もの様に口にはしない。


「ま、男の子って事だな」


「なんだよそれ?」


「男の子なんだろ」


「意味分からん」


 見透かされた様なオルバは押し黙り、シェザイアとミナモのやり取りを聞き居流して再びスタルコへと向いた。


「勝手に強くなって、いつの間にか立派になるものなのだろうな」


 スタルコが腕を突き上げると、号令を出したわけでもないのに皆が拳を突き上げ吠えた。

 それと同じくしてミナモは溜息を吐き、呼び掛ける。


「ほら、さっさと行きなぁ。

 ここは私に任せて先に行けってねぇ」


 透き通るような声は皆に不思議と響く。

 急かされた様な雰囲気に突然包まれ、皆が下山を始めていく。


「…それで、お前は?」


 シェザイアは野暮だが尋ねる。


「仕事」


「仕事?」


「私はどちらかと言えば、寧ろそっち系、彷徨える魂を導きうんぬんかんぬん、みたいな感じなんだ」


 シスターの様に手を握る。片目を軽く開けてぺろりと舌を出しおちゃらけた。


「なにそれ?」


「これで察せよ~」


 ダル絡みを知るようにすると、シェザイアは逃げる様に去っていく。

 ミナモは彼等に手を振り、最後の一人になったのを確認して深々とため息を吐いた。


「それじゃあ、まあ、…本職みたいな事でもしますかぁ」


 団体はどんどんと去っていく。

 そしてミナモはしっかりとそれを確認してからゆっくりと目を開いた。

 恐ろしい程深淵の闇が広がり、その瞳からは光りが反射する事はない。


「ah~」


 煌びやかな声が響いた。

 その歌声が彼等の所にも届く。


「あん?」


 聞こえてくる声の方へ、そちらは先程までいた監獄。

 しかし次の瞬間柱が立ち上った。

 朱色の柱は天を貫き、薄暗い雲を消し飛ばしていく。


「な、なんだぁ!?」


 柱が折れ曲がり、頭上からぐんぐんと拳でも振り下ろす様に地へ迫る。

 現実離れした光景に皆が声を無くし、悲鳴すらも上がらない。


「な、ん?」


 さらに現実離れした光景が披露される。

 その柱を大尽くす様に真っ赤な炎が立ち上がりキラキラと足元から消え去っていく。

 一つの山が消し飛び、朱色の柱が消えていく。

 後に残るのは不思議な歌声のみで、皆は足早く、逃げる様に街を目指した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ