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嫌がらせ少女は大志を抱けない。~めっちゃ強い少女はただ無双する事が出来れば良いなぁって思いました~  作者: せいゆ


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腑抜けた気持ちと失敗と その4




 眠ったシューネを背負いながら神社に辿り着くと、瞼を赤くしたままのイツネが佇んでいた。


「ミナモさんに大事な話があります」


「…分かった」


 ミナモは背負ったシューネを部屋に連れて布団に寝かしつけ、イツネの待つ居間へと向かった。


「大事な話って?」


「これから儀式を行います」


「儀式、……あの魔力をごっそりと持っていかれた関係の、話、だよね?」


「はい」


 イツネが背筋を正して答える。


「私達の一族はその為だけにあります。

 だから、多分今回で最後、だからミナモさんに急いで取ってきて欲しい物があります」


 イツネからまるで大樹と同じ雰囲気を感じる、全てを見据えて構えている。それは覚悟そのものだ。


「分かりました。

 何でもおっしゃってください」


 頭を下げたイツネは、近くの戸棚から羊皮紙を取り出してそれをミナモに手渡した。


「これを一式揃えてください、隣町に行けば道具を作ってくれるでしょう。

 お願いします」


「…結構多いですね、ですけど今夜中には行けそうです」


「お願いします」


 ミナモは早速そのアイテムを手に入れるべく立ち上がり出て行こうとする。


「…ミナモさん」


「はい?」


「ありがとうございます」


「それは儀式が終わってからにしてください」


 ぎこちなく微笑むイツネを尻目にミナモは飛び出して行った。

 ミナモを見送り、イツネは覚悟を決めたようにきびきびと動き出し、シューネの部屋へと向かう。

 姉同様目元が赤く、子犬の様に蹲る姿にイツネの意思が一瞬揺らいだが、そっと近くに座り。


「起きてください、…シューネ、……最後の儀式を、『今から』行いますよ。

 大事な事です、……起きてください」


 体をゆすり、シューネが小さくうめき声を上げてゆっくりと目を開く。


「…最後の、おはよう、です」


「…おね、ちゃん?」


 そしてイツネはゆっくりとシューネを抱きしめて温もりを堪能し、覚悟が揺らがないうちにそっと離れた。


 ☆☆☆


 ミナモは隣町で必要な物を買い、夜の帳の中最後に鍛冶屋に辿り着き、急いで道具を発注する。


「神楽鈴と独鈷です」


「ど、っこ? なんだそりゃ」


「……自分で作ります」


「んだ、それが良い」


 鍛冶屋の親父が頼りなく、ミナモは自分で作る事を決めた。

 急いで鉄を溶かして、魔法で型を形成して流し込む。


「すげなぁ」


「どうも」


 親父が感心して眺め、話のネタを探すべくミナモに尋ねる。


「どっから来たね?」


「こっから西の村、浜辺の」


「…嗚呼」


 親父は何か知っているのか、それから何も尋ねなくなった。

 ミナモはその反応が不可解で、何があると睨み逆に尋ねた。


「何かあるんですか?」


「おめえさん、あの村の出身なんだろ?」


「いえ、旅で寄ってお世話になってるだけです」


 それを聞き難しい顔をして、言い辛そうに口にする。


「おめえさん、早くあの村を出た方が良い」


「ん? それはどういう意味ですか?」


「俺のお袋さんが其処出身だったんだが―――」


 後は鉄が冷めるのを待つだけ、しかしその時間でミナモはとんでもない事を聞き、冷めると同時にはやてのごとく村へと戻って行った。


「嘘だろ…」


 ミナモは初めてあの村の噂話を耳にした。


「人食い村…、なんだそれ」


 人食いなんて居ないはず、はずだったのだ。

 だが人が消えた、何かしらの理由で消えた。

 火のない所に煙は立たぬ、誇張されるされないにしろ、噂の原因があるのは間違いない。


(話を持ち掛けられた時、何かを封印していると思ってた…)


 魔力を捧げる舞、それは何かしらの封印を維持するものと思った。

 魔力を捧げ続けていないと封印が解けてしまう。

 だが話を聞いてその考えが違うのではないかと察した。


(封印されてて私の魔力をごっそり持ってったんだ、十分補充出来ただろ)


 ミナモの魔力で長い事封印が保つはずだ、しかしそれでも何らかの儀式を行う、それが何なのか分からないが、ミナモの推測が合っているのならばイツネは悲しむはずはない。


『うちのお袋さんは常に言ってたよ』


(私のバカバカ! 腑抜けすぎだ! 何やってんだよ気合入れなおしたんじゃないのかよ!)


『年寄りを食ってる赤い鬼が居るって』


(必ずしも鬼狩り退治の人を武勇伝にしてるわけじゃない! 鬼視点の可能性だってある! 可能性なんていっぱいあったじゃねぇか!)


 あの村に伝わる伝え詩は、ミナモが思っているものではない。


(あの神楽は『何か』に魔力を与える物だったら…、これからどうなる、どうなるんだよ…)


 考えが纏まらず、ただただミナモは焦っていた。

 そしてついにアウトセンスの範囲内に村が入った。


「え?」


 そして張り巡らされたミナモの感覚で村の様子を余すことなく把握し、ミナモの思考が止まった。


「なん、で?」


 ミナモは走る速度がどんどんと落ちていき、ついには立ち止まってしまう。


「反応が無い、よ」


 村から人の気配が殆ど無い。

 そして上空から見た村は赤く深紅に染まっていた。

 ミナモは足に渾身の力を込めて地を蹴る、地面を揺らし衝撃をまき散らして一瞬にして村の上空へ辿り着いた。

 その顔には感情が無い、一か所を睨み付けていた。

 音もなく広場に辿り着き、ミナモは目の前の存在に語り掛ける。


「何をやっているの?」


 『ソレ』がミナモの姿を見るとにやりと赤く笑った。

 傍にはシドの肉体が転がり、まるでミイラの様に体から水分が無くなっていた。そして傍には女の子や男の子も亡骸も。


「また我の贄が来たか」


 『ソレ』はミナモの思った言葉を発したりはしない。

 だがそれでもミナモは語り掛けた。


「早く、帰ろうよ」


「ん? なんだ、気でも触れてるのか?」


 ミナモはゆっくりと『ソレ』に近寄り。


「イツネさんが待ってるよ」


 『紅髪のシューネ』の頬に触れようとする。


「気が触れても血は血か、いや、『この肉体』の知り合いか?」


 シューネの言葉から何時もの温かさが無い。

 とても冷たく、触れられないほど冷たさしかない。


「まあよい」


 シューネは綺麗な大剣を持ち直す、その大剣はミナモと同じくらいの剣であった。

 その大剣を軽々と持ち上げ、ミナモの腹部へと。


「ぬ?」


 突き刺そうとしたが、ミナモの腹部を貫くことは無く、岩にでも当たったかのように皮膚で歯が止まった。

 お下がりの服は破け、さらにシューネが切りかかったところで、服が切り裂かれる。


「チッ、封印されていたせいで力が出ないのか?」


「……そんな汚い言葉は使わないでよ」


「このちっぽけな村の人間を食っただけでは駄目なのか」


「シューネちゃんはね」


「まあいい、貴様の血肉は極上そうだ、腹の足しにしてくれる」


「そんな言葉、言わないんだよ」


 ミナモの体を切り刻もうとするが、剣はミナモを一切傷つけることなく、服だけをボロボロにしていった。

 その服はミナモの心のようで。

 虚ろな目で『何か』をミナモは見つめる。


「死ね! 死ねぇ! 何故死なぬのだ!!」


 馬乗りになりミナモを串刺しにしようとするが、刃が滑り地面に何度も剣を突き立てる。


「なんで、そんな事、するの? シューネちゃんは優しい子なんだよ」


「この肉体の娘の精神や魂など既に無いわ!」


 その言葉がミナモの逆鱗に触れた。


「クソゲ」


「ごふっ」


 ミナモの拳が『何か』の腹部を貫いた。


「ぐっ、…ば、ばか、な、ち、力が」


 ミナモはゆっくりと立ち上がり、シューネの手から剣を投げ捨てる。

 回復魔法を即座に施すが、傷口を塞がる事はなかった。

 シューネはただただ目を見開き虚空を眺めて動くことは無い。


「…帰えろっか」


 ミナモは表情すらなく、シューネを抱きかかえて神社へと向かう。

 神社の庭では村で見た死体の様に、イツネの亡骸が干からびて転がっていた。

 ミナモはシューネを縁側に寝かせ、その隣にイツネの亡骸を傍にそっと横たわせた。


「なんか、疲れちゃったな……」


 空っぽの心は無色透明な虚しさと悲しさに満ち溢れて、心の整理をさせず苛む。

 ミナモは膝を抱えて居間に座り込み、短い間だが思い出の詰まった部屋を見渡し、机の上に置かれた一枚の紙を見つけた。


「………なんだよこれ」


 墨で書かれたその文字はイツネのもので、ミナモが知りたかったことが記されていた。


『これを見ている頃には私はもうこの世にはいないでしょう。

 ミナモさん、最初に謝ります、ごめんなさい。さぞ私を恨んでいる事でしょう。

 私達の一族は洞窟の奥にある剣の封印を解くために活動する一族です。

 魔力を捧げ、何時しか剣の封印を解く事が、私の目的であり、私達が成し遂げなくてはならい事でした。

 ミナモさんを騙し魔力を奪うような事をして申し分かりません。

 巻き込まれないようにと偽りの事言って遠ざけましたが、私を恨むでしょうね』


「知ったよ…」


『私は迷っていました。

 あの剣には危険な鬼が封印されている事を知り、しかし一族の悲願の為に犠牲になった父や母、そしてその先祖たちの想いを無駄には出来ない。

 封を開ければ暴れ出す、けどそれは全てが無駄になる。

 可愛いあの子を犠牲に、   できない。

 出来ないはずだった。

 結局迷いに迷って、この日が来てしまいました。

 愚かな選択をすることをずっと恨んでください。

 外に憧れる私もあの子も、結局この呪縛からは解き放てなかった。

 けどミナモさんの話は光を与えてくれました、ありがとうございます、心から感謝します』


「ならなんで…」


 なんで助けてと言ってくれなかったのか、それが悔しくてたまらなかった。


『汚れた私ではあの剣は持てない、結界は通れても何もできない。

 遠ざけることは出来ない。

 だからシューネに託します。

 シューネに全てを託し、外へと。


 最後に、ミナモさん、ありがとう、そしてごめんなさい』


「つるぎ…」


 ミナモはふらりと広場へと向かう。

 二人の亡骸を直視できず、ただただ目を塞ぎながら広場へと向かった。

 放り捨てた剣へ手を伸ばし手に取る、すると。


「きもちわるい…」


 『何か』を封じ続けていた力が今でも働き続け、ミナモの力をぐんぐんと吸い上げていく。

 その刺激が気味の良いものではない。


「もういいや」


 ミナモは天に手をかざす、次の瞬間には星を隠すほど眩い光が世界を照らし出す。

 もう一つの太陽、それがミナモの上空にあった。


「……っ」


 ミナモはゆっくりと周囲を見回す、昼間の様な明るさがシューネと駆けた村を思い出させる。

 溢れ出る記憶に顔を歪む。


「…思い入れるもんじゃねぇよ……」


 ミナモにとって物語は花火と同じだ。

 すぐに消えてしまう儚い遊び場、その一瞬の煌めきに入れ込んでしまう、それはひどく後悔するほど残酷選択。


「一つのミスでも、こうなっちまうんだからさ…」


 ミナモは上げていた左手を勢い良く振り下ろす。

 周囲が高温に耐えきれず火を上げていく。

 光の中ミナモはゆっくりと目を閉じ。


「ほんと、くそげ」


 光の中で涙を零した。


 そして二度目の夜明けが訪れる。

 山の向こうから光が差し込み、一面がガラスの輝きに反射してより一層この場を輝かせていた。

 その場にあるのはミナモと今にも崩れそうなボロボロに壊れた剣一振り。


「しぶといな……」


 拳を構えて振り下ろそうしたが、二人の面影がちらついて振り上げた拳は、震えたままゆっくりと降ろすしかできなかった。


『外ってどんな所?』


「こんな所だよ」


 ミナモは剣を掴み、ただただここではない場所を目指して歩きだした。


 ゲームを辞める事もできた。

 しかしミナモは旅を続け、何かを求める。

 剣を知るために様々な検証を行ったりもした。

 だが知れば知るほど嫌になり、剣を罵る事すらほとんどしなくなった。

 利用するだけ利用する、ただそれだ。

 そしてミナモは知った。


「最初の街に戻ろっかな…」


 自分が人恋しくてたまらない事を。

 無性に人肌に触れたくなり、居てもたってもいられずメルテトブルクへと帰ってきた。

 そしてメルテトブルクの光景にミナモは心が痛んだ。


「……なんで此奴ら笑顔なんだろ」


 ちらつく二人の笑顔、それが苦しくなりミナモは裏路地へと逃げ込んだ。

 表通りの光景に無性に腹が立つ。


「…だるっ」


 気怠さを覚えてミナモはその場に倒れこむ。

 ひんやりとした石畳の温度に心まで冷え込んでくる。


「無理にでも元気にならないと…」


 このままマイナスな事を考えていると、ろくなことを考えない。

 思考のドツボにはまらないためにもミナモは気力を上げようと考えるが、気力が上がることは無い。


「何か、切っ掛け…、切っ掛け」


 自分の分身を利用して天を仰ぐ。


(次、誰か来たら本気出す…)


 カラ元気でも良い、次誰かが通たら本気を出して気合を入れることにした。


「……あ~、暇」


 足音が聞こえる、それは少し暇を埋める、大きな足音でもあった。



 ☆☆☆



 ミナモは独房でただ一人語り終える。

 それを聞くのはレネただ一人。

 そしてレネは閉ざしていた口をゆっくりと開き。


「ズッ」


「なに、まさか泣いてた?」


「泣くわけないだろ、鼻炎だよ」


「あ、そう」


 ゲーム内で鼻炎はあり得ない。

 ミナモは野暮な事を言わずに黙る。


「…それで、君はこれからどうするの?」


「しばらくすれば噂になるだろうから、その時回収しに行くよ」


「しばらく?」


「たんまり吸った後だと吸収力弱まるからね、今野に放ってもしばらくは反応が無いんだ」


「そっか。

 なら私もそれとなく探してみるよ」


「ありがとね」


「けど今はその牢獄からどうするかだろ?」


「……最終手段はこの城でも消滅させようかな」


 それを聞いたレネは絶句したが、すぐに声を震わせて突っ込む。


「あのね、君、君のNPCにかけたさっきの想いはどうしたんだい?」


「は? 見ず知らずの相手にそんな情なんてねぇよ。

 家族が居ようが知らん、サイコパスの私を捕まえたこの国が悪い」


「はぁ…、君の正義と常識は何処を旅してるんだか」


「あくまで最終手段だよ。

 それに、…今更だけど世話になってる人も居るから、犯罪者になったなんて報告できないだろ」


「ならいいけど」


 ミナモは通話を終え、月の光差し込む小さな窓から空を眺める。


「……いつかきっと」


 伸ばした手を勢いよく握りしめ目を閉じた。

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