腑抜けた気持ちと失敗と その2
翌日。
シューネたちは朝も早く身を清める為に近くの滝に打たれていた。
ミナモも寝ているのが申し訳なく、同じく滝に打たれて修行もどきをしていた。
「ミ、ミナモ、ちゃん、凄い」
シューネはふるふると凍えていて、見かねたミナモが火球を作り暖を取る、
そこにイツネも参加してほっと一息ついていた。
「あ、そうだ、ミナモちゃん」
「ん?」
「ミナモちゃんの舞の練習をしようよ、私いっぱい頑張るから」
「こらシューネ、ミナモさんは旅の途中なのよ」
それを聞くとシューネのテンションがどんどんと沈んでいく。
「…行っちゃうの?」
ミナモは助けを求めるようにイツネに視線を向けると、そっとイツネは視線を外した。
今にも泣きそうなシューネを突き放すことが出来ず、ミナモはぎこちなく笑い。
「そ、そうだ、ま、まだ村に伝わる料理とか見てないし、少しだけ居ようかな、や、宿も探さないといけないし」
しどろもどろしながら答えると、シューネは見る見るうちに笑顔になっていった。
「ごめんなさいね」
イツネが申し訳なさそうに謝るが、ミナモは首を振って答えた。
「大丈夫ですよ。
少しゆっくりとしてみたいって気持ちありましたし」
嘘ではないが、その気持ちは本当に少ししかなかった。
ただ最近はモチベーションも低下していて、何処かに腰を下ろす事も考えていた。
「ありがとうございます。
もしよろしければ家に泊っていきませんか? 村に宿はありませんし」
「え? 宿が無いんですか?」
「ミナモちゃん、泊って行ってよ」
シューネは胸を張り答える。
「貴女が威張らないの。
もう、この子ったら」
「えへー」
そしてミナモはこの微笑ましい姉妹をもう少しだけ眺めていたい気持ちが強かった。
☆☆
調理を手伝うのだが、旅で覚えた料理を披露する場面となった。
二人は不思議そうにしていたが、新しい料理に感動しながら舌鼓していた。
「お姉ちゃん、次これ作って!」
「そうね、美味しいし簡単そうだから良いわね、けどこの調味料はあるかしら?」
「浜で見つけたこの小さな木の実で作れますよ」
「あら、良いわね。
けどこれ解熱剤の薬になるのだけど」
「それは乾燥させて―――」
姉妹たちの笑顔を見れただけでミナモは作った価値があり、微笑ましくそれを眺めて料理に手を付けた。
食事後、軽く庭などの掃除をしてから神楽の練習に移る。
庭の掃除に嫌々していたシューネであるが、神楽となると乗る気でやる気に満ちていた。
「まずはお手本として私が舞います、シューネ、しっかり見てるんですよ」
「うん! 私、お姉ちゃんの舞大好きだから見てるよ。
ミナモちゃんも見ててね!」
「うん」
「…少し恥ずかしいですが」
妹に見られているだけならいいが、今日はミナモが居るからイツネが恥ずかしそうしながら神座へ上がっていく。
そしてゆっくりと舞を舞い始めた。
ゆっくり静かに上品に、全てが洗練されていて見るものを見惚れさせるほどの舞であった。
「お~」
舞を終えるとミナモは思わず拍手をし、それに続いてシューネも笑みを浮かべて拍手を送った。
イツネは気恥ずかしそうに顔を赤くしてゆっくりと傍に座り、シューネを後ろから抱き着くと頬をむにむにと弄り始める。
「おへえちゃんやめ」
軽く藻掻き抜け出したシューネは、代わりに神座に向かい。
「今度私がやるね、見ててね」
そしてシューネが可愛らしく舞い始めた。
イツネを真似しているが、シューネの作法は可愛らしくなってしまう。
「どう?」
胸を張るシューネに、イツネは苦笑いを浮かべて。
「いつも通りねぇ…」
「可愛い感じです」
「むぅ」
頬を膨らませて、再び舞い始めた。
先ほどとは少しきびきびと動くが、落ち着きが無かった。
「今度は少しだけ早いわね」
「難しい…」
感情が表に出ていたせいで神楽にもそれが現れていた。
そのまま続けるよりも少し感情を落ち着かせる為にイツネは休憩を取る事にした。
「少し休憩しましょうか」
「むむむっ」
シューネはまだ動き足りないようで、退屈そうに寝転がる。
「あ、そうだ、ミナモちゃんに神楽教えたい!」
「え?」
シューネの提案に二人は首を傾げた。
しかしシューネはやる気満々でミナモの手を取る。
「ねえミナモちゃん!」
「あ、…うん、分かった」
ミナモはシューネに誘われて神座には上がらず、シューネが動きを見せる。
ミナモはそれに合わせて体を動かし真似る。
「お~、なんかしゅびって動いてる」
「ミナモさんは何か舞をしていたことがあったの? 動きがしっかりしてるわね」
「ええ、別な神楽や演武などを幾つかしていました」
「別なの!? どんなのどんなの!?」
シューネは興奮しながら食い気味に詰め寄る。
「よろしければこの子の為に見せてあげないかしら」
「休憩のお目汚しにどうぞ」
ミナモは神座に上がらずに、その場で舞い始めた。
二人の様な優しい雰囲気の神楽ではなく、とても威厳あるそんな圧倒するような神楽であった。
舞の一つを終えると、二人はその神楽に唖然としていた。
「…感想を頂けると嬉しいのですが」
ミナモは何も反応のない二人に不安になっていると、シューネは力いっぱい首を縦に振り始めた。
「凄かったわ」
「凄かった!!」
凄いという一言だけで、それ以外の感想は出ない。
感動しているというより、見たことのない所見の物を見てただ関心しているだけであった。
「こんな神楽があるのね」
「荒ぶる神を治める舞です。
舞によっては印象が変わりますね、優雅に舞う時は楽しませる、勇ましく舞う時は」
「へぇ、じゃあ私達の舞って何をするんだろ?」
「魔力を納める為よ」
「なんで魔力を納めてるの?」
シューネが知りたいのは舞で何をするかだ。
魔力を納めるのはいいが、それ以外の事が分からない。
「…分からないわねぇ、昔から続いてることだから」
イツネは一瞬だけ言葉を詰まらせて、何食わぬ顔でそれに答えた。
神楽の練習を終え、ミナモはシューネのお守りをする為に共に行動する。
シューネはミナモの手を引き村の方へと走り出し、子供達の元へと向かった。
「チビだ!」
ミナモを見るなり男の子の一人がミナモを指さす。
ミナモも負けじと。
「チビ」
「なにを~」
無駄に対抗して罵る。
「勝負だー」
「受けてたとう」
大人げないミナモはその勝負を受けて立つ、無論手加減はするが、最終的にミナモが勝つように動く事にした。
その間シューネたちは。
「シューネちゃん、あそぼな」
「うん!」
女子達は女子で遊ぶことになった。
男子とミナモはベーゴマを使った遊びで、ミナモは初めて遊ぶ方法に首を傾げてそれに挑む。
その横では女子達が伝え詩を使った方法で遊んでいた。
「あ~か~のおにをうつ~、ひめとともに~」
「ん? あの歌なに?」
「知らん! じいやばあがよく歌ってた。
あ! 勝った! 僕の勝ちー」
「ち、ちくしょぅ……、も、もう一回だ」
「へへー、いいよ」
ベーゴマが弾き出され、ミナモは悔しくて仕方がなく再び勝負を挑む。
女子達は手を合わせたりリズミカルに拍手などをして、手に持っていた小石を押し付け合っていた。
女子達の遊びは小石を落としたり、歌が終わる時に持っていた者が負けで、他にも細かいルールがあるようであった。
「さいごはともにゆく~」
「やーい下手くそー」
「なぁ!? くっ、ち、力加減がっ!」
ミナモは女子達の歌声を聞きつつ、ベーゴマの練習をし始めた。
昼過ぎから遊んでいたのだが、早くも日が暮れてゆき解散となった。
シューネはまだまだ活力を余り続けていて、ミナモと連れて海岸へ向かう。
「ミナモちゃん」
「ん?」
「楽しかったな」
「次は負けない」
「私が練習に付き合ってあげる」
シューネは笑顔を浮かべて、そしてしどろもどろとし始める。
「どうかしたの?」
「その。
だからもっと家に、…居て欲しいな」
寂しそうに尋ねるシューネ。
長居は出来ない、だからミナモは頷くことは出来ず。
「…お姉さんが良いって言ったらね」
「ほんと!?」
まだ決定はしていないがシューネが喜んだ。
ミナモはイツネは断る事を見越してそんな提案をした。
「じゃあじゃあ、ミナモちゃんは妹になるんだね!」
「え?」
ミナモは二重の意味で首を傾げた。
何故妹なのか、何故永住の様に言うのか、分からない事ばかりだ。
だが一先ず言う事があった。
「妹じゃなくて姉だと思う」
「お姉ちゃんは居るから妹、小さいし妹」
「い、いや、年齢が」
「妹!」
「お、おう」
思えばシューネのミナモに対する対応が年下のそれと同じであった。
頼りになる所を見せても、ミナモの容姿が年下としか見えないというのが原因であった。
「よし! お姉ちゃんの所に行こう!」
「だから私がお姉さんだと思う」
ミナモは引っ張られながら村の坂を駆け上る。
その途中坂の途中で座って休んでいるお年寄りを見つけてシューネが駆け寄った。
「サンダおじい、こんばんわ!」
「おー、シューネちゃんと、そっちは誰だい?」
「妹です!」
「違います、旅人です」
「妹なの」
シューネはミナモを抱きかかえて言い張る。
その様子を年寄りは笑いながらうんうんっと頷いていた。
「おじいは休憩?」
「ああ。
やっぱり歳には叶わん」
年齢としては60代というくらいなのだが、この世界のヒューマンの寿命は70年程度。
種族によって寿命が違うが、大往生というほどの人生を謳歌していた。
育ち方によっては90歳や100歳などは行くが、それでも一部の裕福な貴族などのみだ。
この街で生まれ育ったというならば、平均的な寿命となるだろう。
「おじいはまだまだ大丈夫だよ」
「そうだなぁ、まだまだこれからだなぁ…」
これからと口にするが、もう十分だと言わんばかりに満足気であった。
「シューネちゃん」
そしてシューネに優しく微笑み。
「イツネちゃんによろしく言っててくれ」
「ん? 分かったよ」
首を傾げて元気よく頷いた。
その横を二人は通り抜けて家に向かう。
「シューネちゃんは顔が広いね」
「え? 私の顔大きい?」
「いやいや、知り合いが多いって事」
「なるほど、けどサンダおじいはねシドくんのお爺ちゃんだからだよ。
ほらミナモちゃんと一緒に遊んでいた子の隣に居た」
「あー、あの子の」
「それにこの村大きくないから全員とお友達だよ」
自信満々に胸を張るシューネ、彼女の性格なら間違いなくこの村の全員と友達になれるだろう。
ミナモにとっても彼女は太陽の様な温かく眩しい存在として映っていた。
そんな彼女が羨ましそうにミナモを見つめる。
「私も外の世界に行ってみたいなぁ」
「外に出たことないんだったね」
シューネは外に対する憧れが強く、常に夢見ている様な子だ。
憧れるの良いのだが、その性格から外に出すのは怖く、そして外の世界に染まらせるのも『癪』であった。
「外は怖い所だよ」
「えー、ミナモちゃん綺麗な所とか楽しい所とか話してたもん」
「それは良い話だけよ」
そしてはぐらかす様にしてシューネの頬をぷにぷにと突き始めた。
「なんだこのぷにぷには」
「ぷいぷにじゃないもん!」
ぷくっと膨らむ可愛らしいシューネを揶揄いながらミナモは神社へと戻っていった。
帰宅し、シューネは直ぐに居間に居たイツネにミナモを泊めるように頼み込み始めた。
「ミナモちゃんを妹にしたい!」
「いや、だから…」
シューネは真剣な様子で、同じくイツネも姿勢を正し。
「良いわよ」
「ええ!?」
「本当!?」
ミナモは予想外の事に呆ける。
シューネは目をキラキラとさせて嬉しがり、ミナモはイツネの表情を見ると、ぎこちなく微笑んでいた。
「心苦しいのだけれど、もう少し付き合ってくれないかしら」
「大丈夫ですけど、良いんですか?」
「ええ、私はなにも問題ないわ」
「えっと、じゃあお言葉に甘えて」
「お姉ちゃんありがとう!」
イツネに抱き着き、触り心地の良い頬をイツネに擦り付ける。
すると釣られてイツネまで笑みを浮かべてシューネに抱き着いた。
(良いな)
その光景が羨ましく、彼女たちの笑顔にミナモは心がとても温かくなっていた。
こんな光景や体験など殆ど無く、特に癒里の家族のいない生い立ちという事もあり、彼女達の関係が羨ましい。




