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嫌がらせ少女は大志を抱けない。~めっちゃ強い少女はただ無双する事が出来れば良いなぁって思いました~  作者: せいゆ


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ただ羨ましく その6




 一瞬にして緑色の波が広がっていく。

 響き渡るahというスキャットがこの世の物とは思えない。


「ぐあっ!?」


 波に触れれば触れた個所から溶け落ち、逃げようとして手を伸ばし地面へ消えて行った。


「来るなぁ!?」


 我武者羅に逃げ惑うが、緑の波がゆらりと得物を取り込んでいく。

 心地の良い鼻歌が聞こえる度に森の中では悲鳴が立ち上がった。


(強い奴と戦いたかっただけなのに…っ!?)


 彼等はバンディットとして活動していた。

 しかしある日を境に前線と言われる、強敵ひしめく場所から善良なプレイヤー達が消えた。

 メルテトブルクを中心とした騒ぎに駆り出されてしまい、前線はすっかりとさびれてしまっていた。

 バンディットは対人をメインとして活動して事が多い。彼等も日夜鍛錬を積み強者を相手に楽しんでいた。

 前線から人が居なくなった以上、わざわざ前線に居る事もなく、メルテトブルクへと拠点を移すために移動していた。


(街の中では騒動は起こせない、だからこうやって釣りをしていたのに…)


 街の中で騒動を起こせば気軽に制圧される、ならば外に強者たちを引きずりだすだけなのだが、彼等は街の警戒で外に出れない。

 だから初心者狩りを起こさせ、正義感の強いLo10などを引きずり出す。

 しかし何時の間にか虎の尾を踏んでしまった。


「……化け物だ」


 強い相手と戦いたかった、その願いが叶ったはずだが、それは求めている戦いではなかった。


(こんなの戦いじゃない…)


 激烈なる燃えるような死闘、それを望んでいたのに、今行われているのは一方的な虐殺。

 対抗などできない、赤子の手を捻るよりも簡単に自軍が溶けて消えていってしまうのだから。


(俺達は前線で戦っていたのに、なのにっ!)


 魔法による制圧射撃を試みる。

 しかし乱れ撃った氷柱は空を切り消えてなくなっていく。


(……俺達はやってはいけない事をしたんじゃないのか?)


 ふと噂話を思い出した。

 街を消滅させた化け物は複数体居る、どれも強力だと。

 もしも。


(そいつ等を指揮しているのが、もしも、此奴なら――)


 触れてはいけないものに触れてしまった、そう思いながら緑の波に呑まれて消えていった。


 ☆☆☆


 トゥーフォ達は街まで走って逃げていた。

 すると街道沿いから60名は超える大群が従魔や馬車に乗りやってくる。

 トゥーフォ達を見つけると、先頭を移動していた者が後ろに呼び掛けてその速度を緩める。


「な、なんだろあれ?」


「分からねぇ」


 警戒するトゥーフォ達は道脇に退けようとし、従魔に乗った者がいち早くトゥーフォ達の元に駆け寄った。


「君達大丈夫かい?」


「え? っと、何がですか?」


「この先に初心者狩りが出たという話だったが、君たちは遭遇しなかったのかい?

 私達はその初心者狩りを退治に向かう途中なんだ」


「あぁ…、襲われた時の」


「君たち襲われたの? 逃げて来たの?」


「一緒に組んでた人が頑張ってくれて、その人はそこで戦うって」


「じゃあ急がないと、君たちありがとうね、気を付けて」


 多分倒しているかもしれない、と話そうとしたのだが、その話を聞かずに足早に向かっていった。

 トゥーフォ達はぞろぞろと続く編隊に唖然としながら見送り。


「……多かったね」


「う、うん、あんな大人数で行くんだ」


 バンディット退治の本気が伺え、そしてミナモが本当に倒せるのか不安になった。


「……俺も強くなりたいな」


 シュカがポツリと呟く。

 その場にいる者たちの気持ちは同じだ、だがシュカだけは人一倍その気持ちが強くあった。


 ☆☆☆


 ヴァンドレットというクランが存在している。

 正義の傭兵という触れ込みで活動している、知る人ぞ知るクランであった。

 彼等は雇われれば悪事以外はなんでも行うクランであり、前線で活動していた。

 今回彼等がメルテトブルクに居るのは、ダンガードのクランに雇われ、最近増えたPK達の一掃という仕事の為だ。


「…え? 何此奴?」


 森の中で蹲り震えているバンディットの姿を見つけて困惑する。


「あんた、ここ等辺で初心者狩りしているクランの一人、…よね?」


 馬子にも衣裳の者が居た。実力に見合わず飾り付けた姿は情けない。

 周囲には仲間が一切見当たらず、何処を探してもデスペナルティーの袋すら見当たらない。


「……何があったのよ」


「ば、化け物が、出た……」


「え?」


「歌が、襲ってきて、…波が広がって飲み込んで」


「わ、分け分らないわ、落ち着きなさい」


 アイリーンが困惑しつつも情報を聞き出すために落ち着かせようとする。

 震えている者は自分の中の恐怖を吐き出すようにぶつぶつと呟き続ける。


「先輩たちは前線で活躍してるのに、溶けて消えって、皆、皆…死んでいった、あり得ない絶対にありえない」


「は?」


 アイリーンと共に話を聞いていた者は首を傾げる。

 冗談でも言っているのかと思いたのだが、冗談を言っているのなら俳優になれる演技だ。


「まさかダンガードの旦那が言っていたヤバイ奴じゃないか?」


「ヤバい奴? 何よそれ」


「街を壊滅させたって言う」


「…嘘でしょ? そいつがここに?

 街の目と鼻の先じゃないの!?」


「これヤバいかも、早くマスターに連絡して、それから―――」


「俺は悪くねぇ! もう知らねぇ!」


 震えていた者が立ち上がり逃げ去っていく、取り押さえようとしたのだが、攻撃してくると誤解してしまい、アイリーンが反射的に攻撃してしまった。

 一撃で退場してしまい、アイリーンの顔が真っ青になっていく。


「何やってんだ! ……いや、情報を手に入れただけマシか、一先ず連絡だ」


「ど、どうしよう、怒られる…」


「怒られるだけで済むなら良いけどな。

 何か酷い任務でも言い渡されるんじゃないか?」


「……嫌だなぁ」


 その時森を探していた一人が声を上げる。


「なんか剣がある!」


「剣?」


 所は変わり、ヴァンドレッド一行は街へと戻っていく。

 そしてダンガードの屋敷へ向かい、アイリーンとヴァンドレッドのマスターとその補佐がミッドレアの元へと向かった。


「失礼します、ヴァンドレッドの者です、PKの件でお話しに参りました」


 マスターは緊張した面持ちでなかなか声を出さず、代わりに補佐の女性が声を上げた。


「入れ」


 ミッドレアの声を聴き補佐が扉を開き、マスターの背中を蹴り飛ばして中へと踏み入る。


「失礼します」


「…相変わらずだな」


 その様子に苦笑いするが。


「ミッドレア様と同じなだけです」


 補佐がミッドレアと同じと言い張った。


「俺はそんな乱暴じゃねぇ」


 乱暴ではないが、ダンガードの尻を叩いて指示などはしていた。


「で、どうしたんだ?」


「あ、あのですね」


 マスターが話そうとすると、それを遮り補佐が話し始めた。


「こちらのアイリーンという方が重要な話を小耳にしたという事で、それの報告に参りました」


「わ、私が、言いたかったのに―――ぴっ」


 補佐に睨まれてマスターが黙り、苦笑いを浮かべて黙っていたアイリーンが口を開いた。

 聞いた話をそのまま伝える、するとミッドレアは顔を伏せて頭を抱える。


「歌、緑? 歌、…だが緑ってなんだ?」


 思い当たる事があり、ぶつぶつと考え始めた。


「他にもあるんですけど」


「ん? なんだ?」


「抜けない剣」


「…抜けない剣?」


「勇者の剣みたいなデザインの剣が台座に刺さってた」


「はぁ?」


 森にあった剣は荘厳なデザインの剣であった。

 ご丁寧に台座が設置されており、そこに突き刺された剣は誰が引っ張ても抜ける事は無い。

 一時間ほどクラン内で引っ張り合ったが、その剣は折れる事も傷一つもつかなかった。


「は? 攻撃もしたのか?」


「そりゃ、不思議な剣ですから」


「…何か起きたらどうするつもりだったんだ」


「け、けど、…街から離れてたし」


 マスターがおずおずとと言うが、さらにミッドレアは頭を抱える。


「あの街で起きた事がどういう感じか見たのか?」


「いえ、直接は」


「…意外と大きいぞ」


 詳細は分からないし語れない、しかし彼等のやった事はあまりにも危険な事だ。


「でも、誰かがちょっかい出すと思います」


「…だろうな」


 勇者の剣、それを引き抜こうとやる気の者達が近づく。

 封鎖しようにも、もしも誰かが占拠すればゲーム外での晒し行為に繋がる。その先に待っているのはバッシングのみだ。


「ど、どうするんですか?」


 マスターが恐る恐る尋ねると、睨みつけるようにして。


「今回の件は他言無用だぞ、下手に広めたい話じゃない」


「広まる様な…」


「自然に広まる分には良いんだよ」


「深く詮索しないのも傭兵団の信条です。

 して、知っている事はどの様な事ですか?」


「思いっきり聞いてんじゃねーか。

 駄目だ駄目だ、本当に言えない、それよりも次の依頼を渡す、そっちを何とかしてくれ」


「仕方ないですね。

 それでどんな依頼ですか?」


「ドークアーム採掘場って知っているか?」


「ドークアーム? 確か別な大陸にある鉄鉱石と宝石が取れる場所だったような?」


「そこに潜入してきて欲しい。

 詳細は後で知らせる、最近アンダーグラウンドも妙な動きをしている、何かしら繋がりがあるはずだが、俺達は動けん」


「アンダーグラウンドですか。

 Lo10の真逆な立場の」


 アンダーグラウンドはアウトロー、バンディット側の頂点達が集う組織である。

 こちらもLo10同様に公式が認めた存在であった。

 一般プレイヤーからはただの凶悪犯罪者集団という認識しかなく、畏怖される存在であった。


「しかしドークアームですか、結構辺境ですね。

 ……アイリーン」


「……はい」


「マスターは言っています、失敗の責任を償えと」


「え、私は言ってな―――」


「さあ、行くのです」


「はい…」


 逆らえず、黙って受け入れるしかなかった。


「それで何故秘密なのですか?」


「……逆鱗に触れたくはない、何が起きるのか分かったものではない、だから触れない」


 それ以上の話は絶対に引き出せないと悟ったヴァンドレッド一行は、こちらも黙って受け入れるしかなかった。


 ☆☆☆


 ミナモは一人独白する。


「私が剣を手に入れたのは、月に狂わされた夜だった」


 暗闇の中、月夜の光に照らされ、ただ一人自分に酔うように語り続けた。

 語るのはひび割れた剣の物語。


「静かな浜辺の村で、ただただ静かに波音だけが響いていた」


「あのさ、君ね…」


 それを聞くのはこの場にはいない、レネ一人。


「君はなんで牢獄に入ってるんだい?」


「……寝て起きたらこうだった」


「何処で?」


「木の上で」


「あのねぇ…」


 レネは飽きれて深くため息を吐く。

 元々抜けた所がある子であったが、それは今も昔も変わらない事を改めて認識した。


「君、絶対に犯罪に巻き込まれてるよ」


「いや、まあ、そうだよね、そうだと思ったよ」


 ミナモは現実逃避をするべくレネに昔話を聞かせようとしていた。

 しかし現実は変わらず、ミナモがどこかの牢獄に投獄されている。


「一応説明しておくと、安全地帯以外でログアウトはその場で寝ている設定だよ。

 攻撃されれば傷つくし死ぬ、寝たまま移動させられる事もあるから、好きにされたい放題、何かの犯人にされたんだろう」


「だろうなぁ……、いや、マジで、困った」


 ソロで今まで活動していて、こういった事が一切なかったため警戒をしていなかった。

 しかし今の活動範囲内はプレイヤーが居る場所であり、悪戯をされる可能性がある為呑気にログアウトは迂闊というしかない。


「宇宙海賊とか色々悪逆な事してたんだろ? 指名手配されてるみたいだし、そのままヒールロールでもしてみたらどうだい?」


「それもありっちゃありかなって思うんだけど、…いやぁ、う~ん」


「まあ、善良な行動してたってなら冤罪が辛いのは分かる」


「別にヒール役になるのは構わないよ」


 悪役になる事は慣れている。

 善良な行動をしていたとしても、何かを切っ掛けに悪役になる事だってある、それは過去のゲームでもあった。

 だがミナモはそれとは別に悩みがあった。


「構わないのか、なら何で悩んでいるんだい?」


「いや、そのね」


 ミナモがとても言い辛そうにしながら。


「剣がどっか行った」


「……ん? それが何かしたの? 剣ってあの後生大事に抱えてたボロボロの奴でしょ?」


 重大な事を言うと思っていた為、剣が無くなったと言われてもレネはいまいち理解できない。


「ちょっと特殊でね、…下手に他の人に渡ると、ヤバいかなぁ」


 ミナモが言うヤバイという言葉は、彼女基準な為世間一般ではかなり危機的な状況と言っても良い。

 レネはそれを察し、眉間に皺を増やす。


「ひょっとしてさ」


「うん」


「何か途轍もなく強化される?」


「私が持つと力を抑えてくれるんだよ」


 思ってもみない返答が帰って来て拍子抜けだが、弱体化させる効果だけならば問題は無いだろう。


「際限なく力を封じようとする剣でさ、周囲にあるだけで環境がヤバいかも」


 しかし続いた言葉に絶句した。

 少し沈黙が続き、レネはゆっくりと口を開き漏れ出た溜息と共に被害の規模を問いただした。


「…いったいどんだけ被害が出るの?」


「手放した時数十キロは一瞬で緑が無くなった」


 とんでもない呪物であった。


「なんでそんなもん持ってるの!?」


「まあ、色々あった」


「その色々ってなんなのよ!」


 ミナモはそれに対して少しだけ口を閉ざし、ゆっくりとその話を語りだした。

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