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嫌がらせ少女は大志を抱けない。~めっちゃ強い少女はただ無双する事が出来れば良いなぁって思いました~  作者: せいゆ


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ただ羨ましく その3



「イトウさんに決めてもらいます」


「え?」


 ミナモの答えにトゥーフォが固まった。


「そんな事出来るのか?」


「分からないけど、やってやれないはずはない、はず」


 ミナモはイトウに向かい尋ねた。


「イトウさん、君はどれに進化したい? 私は君に自分の道を決めてほしいんだ」


 と、呼び掛けるのだが。


「前に聞こえてないって言ってなかったっけ?」


「……そうだね」


 イトウはただぼーっと水球の中で泳ぐだけであった。

 だがトゥーフォは思う事があり、ミナモに尋ねる。


「けどさ」


「何?」


「こいつって耳が聞こえてないっていうけど、お前の声が水で届いてないからじゃないか?」


「……どいう事?」


「だってさっきがんばれって応援して登れたじゃん」


「いや、それはイトウさんが頑張ったからでしょ」


「お前が頭でっかちになってないか?」


「え、いや…」


 ミナモは言葉を詰まらせた。


「だって試してないだろ?」


 確かにミナモは大声で呼び掛けたことなどない。

 普通の音量で呼び掛けてばかりであった、特にミナモは大きな声で話さないため人よりも少しだけ声が小さい。


「そんな、まさか」


 あり得ないと頭で思いながらも、ミナモは大きな声で呼び掛けた。


「イトウさん! イトウさんが進化したいのに進化していいですよ! イトウさんが頑張ってつかみ取った進化です! イトウさんの手で進化してください!」


 すると次の瞬間、イトウの体が光り始めた。


「お、進化だ、やっぱり聞こえてなかったんじゃないか」


 驚愕の事実にミナモはただ放心した。

 イトウの姿が光と共に形を変えていき。


「見たことある様な形、カサゴ、だっけ?」


「……ハゼです」


 ミナモが真顔で答える。

 イトウはシルベランドハーゼという種類の魚に進化していた。

 見た目は頭が大きく体がそれよりも細い、ヒレや尾に少しだけ棘があり大きく、カサゴとハゼの中間という見た目であった。


「何でそんな顔してるんだ? 嬉しくないのかよ」


 進化したというのにミナモは終始真顔のままであった。

 それもそのはずだ、今まで頑張っていたことが半分無駄で、ミナモの声が届いていないだけだったのだから。


「わーい、嬉しいな」


 その声がどことなく悲しそうな棒読みであった。


「よっし、俺も頑張んないと、行ってくる」


「イッテラッシャイ」


 ミナモは膝を抱えてイトウを眺め。


「じゃ、お勉強会、しようか」


 何時もの声で話すミナモ、それにイトウは体をくるりとその場で回り答える。


「耳、良くなったんだね、そっか、うん、そっか」


 水の中でも言葉が分かり、ミナモの言う事が聞こえていた。

 嬉しいのか辛いのか複雑な気持ちを抱えながら、ミナモは魔法の講義を始めた。


 ☆☆


 火のついたトゥーフォはどんどんと挑戦していき、ついに目標の撃破タイムを切ることが出来た。


「44秒! どうだ!」


「おめでとう。

 じゃあオートを完全に外して、44秒以内に倒す」


「任せておけ!」


 口答えは一切ない、むしろこの時を待っていたと言わんばかりに積極的に動き出していた。

 今度は三度目の挑戦で44秒を切り、30秒台に突入した。


「やったぜ! どうよ」


 満面の笑みでピースをして見せる姿は、かつての荒んでいた姿はない。


「良く上達した。

 これで自信がついたんじゃないか?」


「ああ、今なら何でも行けそうな気がする」


「その勢いは大事だぞ」


 大事ではあるが、ミナモは一度歯止めをかける。


「大事だけど、今がスタート地点に立ったところだ」


「えぇー、まだあるのか?」


「PTを君は組むんだろ?」


「うん、そうだよ」


「PTのいろは、動き方、用語、礼儀作法、知ってる?」


「…いや」


 トゥーフォはPTについては殆ど知らない。

 練習してる最中に教えることもできたが、集中しているところに別な事を教える事は本人に良くないと判断した。


「これから教えるので必死に覚えてください、そしてその言葉遣いを直します」


 ミナモの口調が変わる。

 トゥーフォは何を教えられるのか分からないが、本気であることが伺え、生唾を飲んで覚悟を決めた。


 ☆☆


 下山するさなか、トゥーフォはオートに頼らず慣れないモンスターと対峙する。

 動きが良くなっても、敵への対処方が不明で、動きがぎこちないがしっかりと頭を使いながら対応していた。


「これから無数のモンスターを相手にするでしょうけど、似たような形のモンスターは似た行動をすることが多いです。

 後は動画を見て覚え、攻略サイトなどを活用して相手の特徴を覚えましょう」


「戦闘中に言うのか、…分かったよ」


「口調」


「わ、分かり、ました」


「戦闘中でも他の人の言葉を聞く必要があります、集中してる時こそ周囲の状況が分からなくなりますから」


「た、大変だ…、です」


「今は難しくても、次第に慣れてきます。

 気を張らずにリラックスしてください」


「わ、分かった、です」


 慣れない敬語に苦戦をしながら山を下りた。

 街までの時間は予習復習などに使う。


「後は必要に応じて教えます」


「やれるのか不安になってきた」


「失敗しても大丈夫、初心者なんだから。

 失敗を繰り返して次に行く」


「大きな失敗しちゃったらどうすんだ、…ですか?」


「意地を張らずにすぐに謝る。

 PTは雰囲気も大事です、相手の失敗も寛容に受け入れる時も必要ですし、指摘する勇気も必要です」


「分からない…、だから体験するしかないのか」


「はい、そうです。

 実際に体験して覚えて行きましょう、数を熟して上達していけばいいのです」


「それは分かった、けど、その喋り方が…」


「これは慣れてもらう為です、そして口調が移る時もあるので、私がしっかりとした口調で喋っていきます」


「先生みたい」


「ある意味今は先生です」


 トゥーフォは学校で授業を受けている感じがして複雑な気分であった。


 ☆☆☆


 街に戻り、ミナモは服装だけを変え周囲に溶け込む。

 初心者に扮してPT募集を行っている広場へと向かう。街の東側に位置する広場は公園のように広く、その場をプレイヤー達が利用していた。

 基本的にPT募集をするならネットの掲示板か、この広場を利用して探す。

 依頼を熟す為、ただ狩りを行う為、遠征をする為、いろんな事情でPTメンバーの募集をしていた。


「やっぱり多いな」


 トゥーフォはごった返す人の多さに感心しながら一息つく。

 何度も通ってはいるが、自信のないトゥーフォはその光景を眺めるだけで輪に入る事は出来なかった。


(緊張してきた)


 今から見ず知らずの相手に話しかけるという事で、緊張感がどんどんと高まっていく。

 失敗したらどうしよう、会話がうまく行かなかったら、そんな暗い考えが頭を過る度に気分が悪くなる。


「何を気を張ってるんです、今回行く場所は初心者が居るPTの所、君と同じ者達ばかりの所です。

 ある意味楽しいところですよ」


 背中を押すと緊張が少しだけ解けたのか、深呼吸をしてさらに落ち着く事を心掛ける。


「け、けどさ、俺もう21だし、こんなの見つかるのかよ」


「別にレベルは関係ありません、目的は素材集めとなるでしょうから」


 初心者が装備などに使う素材を集める為に募集している事が多い、素材を入手するその一点だけの為レベルはあまり関係ない。必要なのよ最低限その狩場に通用する力だ。


「経験値の分配方法は、…確か活躍した順に分配されます、素材を求めつつ経験値を入手するというPTを避ければいいだけです」


 素材『だけ』を目的とした、初心者PTに交じるというのが今回の目的であった。

 二人は初心者が募集する場所へ向かう、途中ミナモが気になるPTを見つけた。


『街消失の謎を追う、公表された情報は本当か? PT募集中』


 プレイヤーの頭上には吹き出しが表示されていて、そこに文字が書かれていた。まるで漫画の吹き出しの様だ。

 それはPT募集の専用の魔法であった。


「街消失か」


 十中八九天使が暴れた街の事ではあるが、ミナモはあれ以降情報を一切仕入れてはいないため、どういった噂となっているのかが分からない。


「君は知ってる?」


「確かロードって言う凄いのが倒したんだって」


「へぇ」


 Lo10が討伐したという話になっていた。

 モンスターの詳細は知らないようで、二人はさほど気にすることなく奥へと向かった。

 素材集めのみの募集を探し、さらに目的の場所と採取内容を確認する。


「ふむ、適当そうなのがあったよ、こっちに来てください」


「わ、分かった」


「リラックス」


 かつてヘカトンケイルを呼び出した場所に近い所へ向かう一行を見つけた。

 まず最初にミナモが近づき、4人組のPTに話しかける。


「こんにちは」


「こ、こんにち、は」


 相手もガチガチに緊張しているのか、盾を持っていた緑髪のエルフ青年が答える。

 その横ではマイペースにするぼーっとしたショートヘアの女の子と、無言で視線だけを向ける角の生えた赤毛の男子、茶髪で褐色肌エルフの青年が笑顔で手を振り出迎える。


「ぱ、パーティー、に、入るん、でえすか?」


 声は裏返り、おどろおどろと尋ねるエルフの青年、その姿に初々しさを感じながら要件を話す。


「私はもう一人の連れの付き添いとして同行したいのですが、よろしいでしょうか?

 今本人がこちらに向かってきます」


「だ、大、丈夫でしゅ」


「緊張しすぎ」


 ショートヘアの女の子が盾エルフの青年の脇を小突いて弄る。


「そ、そうだぜ、き、緊張、し、し過ぎだぜ」


 赤毛の男子が人の事は言えないほど緊張していた。

 それを見たショートヘアの女子が赤毛をつつき始めた。


「ハハハッ、君たちそう緊張してないで、僕に任せてたら大丈夫だから」


 茶髪褐色エルフだけは緊張の様子もなく、気軽に先輩という立ち位置に収まってはいたが。


(あ、コイツ、陰に隠れる先輩ヘタレキャラだ、普通だったら募集とか変わるのに。

 良い経験を積ませようって内心思ってそう)


 ミナモは茶髪褐色エルフが、初心者を盾に先輩面を吹かす人間だとすぐに察した。


(けどこれは丁度いいPTそうだ)


 手ごろな人材が揃い、トゥーフォには丁度いいメンツだと感じた。


「来ました、トゥーフォ君、自己紹介を」


 丁度いい所にやってきたトゥーフォを前に出して自己紹介をさせる。


「わ、わか、……はい、俺は、トゥーフォと、申します。

 お、斧を使い、近接として立ち回っています、PTの近接枠は余って、いる、いますか?」


「は、い、だ、大丈夫、です」


「じゃあ、…じゃあ、あの、よろしくお願いします」


「よろしく、です」


「はい。

 私はミナモと申します、トゥーフォ君の付き添いをします、戦闘などを一切いたしませんが、よろしければ同行を許可していただけると幸いです」


「分かり…ました、どうもよろしくお願いします、です」


「ありがとうございます」


 頭を下げると釣られて盾エルフも頭を下げた。


「トゥーフォ君、安心しなさい。

 皆君と同じ初心者だよ、失敗してもかなり許される、ここでPTについて色々学べるはずだよ」


「分かった、…分かりました」


「あ、忘れてました、俺、ヒューズデイ、って言います。

 前衛で盾やります」


 緑髪の盾持ちエルフの名前はヒューズデイ、続いて無口で無表情の彼女が口を開いた。


「ヒヨリ、回復や攻撃魔法をします」


 ヒヨリはぺこりと頭を下げて、ヒューズデイの脇をつついた。


「剣士、です、剣使います。

 あ、名前はシュカ、です」


「シュカとヒューズデイは私の幼馴染」


「なるほど、だから仲良さそうにしてたんですね」


 三人組の初心者だとヒヨリが答えた。

 そして最後に褐色エルフが名乗りを上げる。


「どうも初めまして、僕はシャッハベリーゼって言うんだ、初心者じゃないよ」


 シャッハベリーゼ(以下シャッハ)は初心者ではないと強調するが、強調されると余計に怪しさが倍増する。


「ところでミナモさんと言ったかね、貴女はテイマーだよね、なら貴女も戦いに参加したらどうだい?」


 シャッハがイトウを見て尋ねる。

 イトウは自ら作った水球の中で浮かんでいるが、その様子を見た後にミナモは首を横に振った。


「私は戦いません。

 けどもしも戦ってほしいと仰るのでしたら、こちらの従魔、イトウさんを戦闘に出させていただきます」


「戦えるんですか?」


「戦闘の経験はありません、誰かと共に行動もありませんので連携などは難しいでしょう」


 偽ることなく素直に伝える。

 するとシュカが。


「俺達も連携なんてできてない、ずっとタコ殴りだけなんだ、だから参加しても大丈夫、…だよな?」


「あ、ああ、大丈夫、…俺も真面に盾役なんてできるか分からないから」


「大丈夫、私がフォローする、回復する」


「でしたらお言葉に甘えさせていただきます。

 貴重な経験をさせてもらいます」


 話の流れでイトウが参戦する事になる、これはイトウに良い経験を積ませる機会だと踏んだ。


「大丈夫なのか?」


 トゥーフォが心配するが、ミナモとて内心は心配はしている。


「移動中に君と一緒に仕込みます。

 一応魔法の練習もしてきたので、付け焼刃ですが大丈夫でしょう」


 イトウは魔法を習得していた。

 ただし本当に付け焼刃の為、期待はできない。


「ところで後はどうするのですか? 戦力的にはメンバーは十分と考えるのですが」


 このメンバーだと多少過剰とも思える戦力である。


「う~ん、そうだなぁ、行けるかな?」


 ヒューズデイがシャッハに尋ねると。


「え? …まあ、大丈夫じゃないかな」


 シャッハは少し心配そうに答えた。


「君達がちゃんとできるなら十分行ける」


 と、負担になる事を付け加えて。

 心配になるヒューズデイ、その様子を見てミナモは皆に聞こえるようにトゥーフォに話す。


「トゥーフォ君」


「なに?」


「失敗するごとに良いことを教えてあげましょう」


 その言葉にシャッハは何を言っているのだと正気を疑う。

 普通ならば失敗する事にペナルティーを与えたりするのだが、逆にいいことを教えるというのは聞いたこともなかった。


「マジで? あ、本当、ですか?」


 そしてトゥーフォもそれを聞き喜ぶ。


「ただし、わざと失敗する事は許しません」


「わか、ってます」


「よろしい」


 失敗して良い事というのはヒヨリも興味を惹かれてミナモにその事を尋ねた。


「良い事ってなんですか?」


「トゥーフォ君の場合は少しだけ分かりにくいヒントです。

 答えを言うと、失敗した時考える事をしなくなりますから」


「普段はヒントが殆どでないから」


 トゥーフォは思い返していると、戦闘時以外ヒントが無かったことを少しだけ根に持っていた。

 言っている意味は理解できるが、もう少し分かりやすいヒントを貰えればもっと早く上達していたとも思っている。


「おー、お母さんみたい」


「お母さんではありません、今日は教師チックな雰囲気です」


 眼鏡をくいっと上げる仕草をして、洒落た雰囲気を出し、ミナモの堅い印象を和らげる。


「今日はエセ先輩風を吹かせていますので、皆も失敗したら遠回しなヒントを上げましょう、失敗ポイントを稼ぐとお得ですよ」


 そして失敗が許されない雰囲気を少しづつ払拭していった。

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