テイマーは面白い? その5
子供達の情報を仕入れ、さらに最近の村の事情や周辺のモンスター、不審者など些細なことを聞きまわったが、どれも決め手に欠ける情報ばかりであった。
そんな中でミナモがピックアップした情報はいくつかある。
(3~4月前に普段は聞かないモンスターの咆哮)
聞きなれないモンスターの咆哮については少し時間が経過している。
村人はしばらく警戒していたが変わったモンスターの目撃すらなく記憶の片隅へと押しやっていた。
さらにプレイヤーが引き連れた従魔の可能性もある為、あまり有益な情報ではない。
(他は聞いた通りに天使の羽、子供たちの秘密基地、それと宝の地図、これくらいか)
リーダー格の男子の家にあった地図は、子供たちの秘密基地と見つけた物を隠す場所という可能性が高い。
天使の羽を見つけたと口にしたため保有している可能性は高い。そうなると宝の地図が一番の隠し場所であり、子供たちはその場所で何らかの手がかりを残しているのではないかと推測する。
(その秘密基地っていうのもこの村の人たちが探してる可能性は結構あるから期待はできないけど、まあ行かないよりはいいか)
一つでも情報を仕入れるためにミナモは秘密基地がある場所へと向かった。
夜は星の光以外の光源はなくとても暗いが、ミナモにはアウトセンスがある為暗闇などものともせず周囲の状況が把握できる。
大木を遠目に見つけると周囲を探りながら目的地へたどり着く。
「やっぱり居ないよね」
案の定子供たちは居ない。大木の袂に木材で作られたテントらしき物が設置されていた。
中には子供たちが作った道具や遊び道具などが散在されているが、荒らされたという様子はない。
目印となるその樹木に子供たちが隠したであろう宝を探し始める。
「…これか」
そして以外にも早くお宝があった場所を発見する。
ただし大っぴらに掘り返された跡が残っていた。
「この掘り返され方は子供がやったって感じじゃないな……」
掘り返された跡は子供がやったにしては広範囲、掘り起こした深さも80センチほどと少し深い。
大人によるものの可能性が高く、ここで誰かが何かしていた事は間違いがなかった。
「ふ~む、一度戻るか」
これ以上情報を得ることができないと判断し、ミナモは来た道を引き返して宿に戻る。
「あ、姫ぇ」
「姫?」
出迎えたのは店主ではなく、プリスターであった。
「話は聞きましたよ、私も子供たちを探すのを手伝います」
「お、おう」
一先ず姫の事は隅に追いやり、ミナモは店主の元へと向かい子供たちの秘密基地について話した。
「で、そこ等辺を掘り返した大人とか居ない? しかも土の乾きから半日くらい、夕方から夜にかけてかな」
土は少し乾いていたが、掘り起こされてからあまり時間が経過していない。
昼頃掘り起こされているならば、日陰の場所とは言え乾いていてもおかしくはなく、時間経過的に夕方頃とミナモは推測する。
「どうして夕方だと分かるんですか?」
プリスターが不思議そうにしているが、ミナモは一言。
「感」
「ええ?」
「経験則からくる感だから間違いないよ、そういうゲームがあったんだ」
「へぇぇ」
「それはいいとして、誰かいないの?」
「そんな話は聞いてないが、一応聞いてみるが出払っている。情報を集めるのは少し時間がかかるが、こちらで集めてみよう」
「頼みますね」
ミナモは近くの壁にもたれ掛かり、頭を軽く指でつつきながら何かを考え始める。
プリスターはどうするのだろうと見守っていたが、ミナモは動くことは無く、そわそわとし始め。
「私、探しに行ってきます!」
「任せるよ、私は少し気になる事があるからそれを調べる」
「任されました!」
プリスターは外へと飛び出して子供たちを探しに向かっていった。
ミナモは宿で働くもう一人の男へ尋ねる。
「私達以外に外から来た人たちを最近知らない?」
「お前たち以外で? ここの村はあまり人が来ないからな、あ、そう言えば三日前くらいに仕入れた物を商人達が持ってきてたか」
「ふ~む、商人かぁ、……雑貨屋って何時からです?」
「こんな事が起きてるから店を開けているはずだ」
「じゃあそちらに行ってみます」
雑貨屋へ向かうと、来た時に見かけた店員は居ない、代わりにガタイのいい男の店主が店番をしていた。
「すみません」
「いらっしゃい、見ない顔だね、冒険者か?」
「ええ、今は子供を探す依頼を受けております、それで少しお聞きしたいことがありまして」
聞きたい情報は二つ。
「ここに来た商人について、それとその商人が何か言っていませんでしたか? 些細な事でもいいです」
「商人? ……そう言えば何時も来る街から来た商人じゃなかったな」
「何時も違ったんですか?」
「商会は同じだが、普段この村に買い付け売り付けに来る奴じゃなかった、何時もの奴は忙しいとかで代わりに来てただけだ」
「ふむぅ」
「ああ、そうそう、後は最近街は他国との交流が多いから忙しいとかって話だったか。
そういう賑わいをこっちにも欲しいくらいだ」
「他国との交流ねぇ」
しかしミナモには現状に光指す状況ではない。
「…夕方ごろに居た店番の人は?」
「ん? 妻か? 今は外で子供を探してると思うが」
「そうですか」
ミナモの眉間に皺が寄る。
「他になにか情報はないですか?」
「他は、……ないなぁ」
「そうですか…」
こうなると何か情報を見逃しているか、これ以上の情報は無く自力での捜索するしかない。
頭を下げて去ろうとしたとき、店主が呼び止める。
「ああ、何でも情報が良いっていうならもう一つあるぞ」
「もう一つ?」
「この村に来る途中で真っ白い翼を生やした人間を見たって、そんな種族もいるんだなと」
「う~ん、その情報かぁ…」
ミナモのこの事件への興味が失せていく。
推測通りなら本当につまらない話になるからだ。
(『アレ』関連はブラフかと思ったけど、…面倒だなぁ)
アレ、それは『天使』の話であった。
☆☆☆
プリスターは森に入り、アイテム欄からランタンを取り出しそれに火を灯し森の奥へと足を踏み入れる。
視界には同じく探索に来たであろう村人が松明を片手に動き回っていた。
近くに居る瘦せ型の青年を見つけ、子供たちの特徴を聞くべく話しかける。
「すみません」
話しかけると、幽鬼のように無表情な顔を向ける青年、その仕草が不気味で警戒をするプリスターであったが、一瞬にして表情が変わる。
(あれ? 気のせいだった)
今にも泣きそうな、辛そうな表情をしている青年が無表情なはずは無かった。
「だ、大丈夫ですか?」
「…ああ、……弟が行方不明で、気が気でなくて」
「そ、それは、…わ、私も探すためにここに来ました。
微力ながらお力をお貸しします。
それでその弟さんや行方不明のお子さんたちの特徴をお聞きしたくて」
「ありがとう旅の人」
話しながら二人は森の奥へと向かう。
まずは家族の事を尋ねる。
「…父と母、多分、街に出稼ぎに」
「そうなんですか…」
周囲の者たちも移動を始めてある程度の距離をあけながら周囲を確認して移動する。
虫や野鳥の声、そして枯れ草を踏む音だけが響き渡る。
「弟はボクと同じく病弱で、家族思いの心の優しい弟なんです」
「病弱なんですか?」
暗がりでよくわからなかったが、青年はとても線が細くか弱そうに見えた。
しかしプリスターから見ればその線の細さが母性をくすぐり、少しだけ幼さく可愛らしい美少年という風貌に、そちらばかり意識が行く。
「ああ、すみません、見た目ですね、ボクに似ていて、幼くした感じの子です」
「か、可愛らしい子そうですね」
「そうなんです、ボクの為につたないながらも料理を作ったり。
精一杯良くしてくれて、何度も心を救われました」
青年の顔が朗らかになるが、すぐに不安そうな表情になり周囲を見渡した。
「だから日頃の献身的な行動に対してボクが償わなくては…」
(ん? 償う? 報いるじゃなくて?)
弟が兄に仕える、それに対して償うという意味が解らず首をかしげる。
償うのは罪などで、報いるは恩などに対して、ならば何故献身的な行動に償わなくてはならないのか、違和感しかない。
(…あ、言い間違かな? 私もあるからなぁ)
言い間違いと気にせずそこを指摘することはしない。
「弟は寝込んだボクを元気づけるために一生懸命お守りを作ってくれました。
それから体調も良くなって生きて、三月経った今では何とか動けるほどですよ。
本当に奇跡です、とても綺麗で神々しい天使の羽…。
ボクにはもったいなくて」
「……素晴らしい兄弟愛ですね」
「ええ、とても。
ボクなんかよりも自分の事をすればいいのに、一身になって、だからこそボクは必ず…」
胸元で強く拳を握る青年、それを見たプリスターは彼の弟への想いに心を打たれた。
(弟君はお兄さんを、お兄さんは弟君を、美しい、美しすぎますっ)
多少興奮気味に感動し、プリスターは青年に礼を言う。
「ありがとうございます。
仲間に伝えてきます!」
急いで見つける為に、プリスターは他の情報も聞かずにミナモの元へと走って行ってしまった。
その姿を見送った青年がポツリと呟く。
「だから早く見つけないと」
足取りは重く。
「償わせないと」
そこに表情は無かった。
☆☆
再び宿に舞い戻ると、そこには飛び出していったプリスターが戻ってきていて席に大人しく座っていた。
「ずいぶんと早く戻ってきたね、何かしたの?」
話しかけるとプリスターは駆け寄り今にも泣きそうな顔で答えた。
「それがですねぇ、語るも涙でして」
「なにしたん?」
「探しているお子さんのお兄さんって人に会って、男の、兄弟の友情ですよ、BLよりも尊いですよ。
お兄さんの為に何でもする弟ですよ、弟、何でも! 健気で可愛く、辛抱たまらんと思いませんか?」
「…腐ってるって言うのは読み取ったが、それ以外は?」
「え? それ以外? ……意外とか細くて可愛らしいショタっ子だとか?」
「そうじゃなくて、行方不明になる前の情報とか」
「……あー」
肝心なことは聞いていなかったのか、正気に戻ったプリスターは真顔で何とも言えないまま黙ってしまう。
「…具合の悪いお兄さんの為に綺麗な羽をプレゼントして体調が元に戻ったとか?」
「……ふーん」
素っ気ない返答に、収穫が無い事を責められると勘違いし、居心地が悪くなったプリスターは踵を返した。
「ま、真面目に探してきます!」
逃げるように捜索に戻ろうとしたのだが、その手をミナモが掴み止める。
まるで万力にでも掴まれた様な力強さに手が動せず驚く、恐る恐るミナモの顔を確認するがその表情から感情は読み取れない。
(!? い、意外と、力が、お、怒ってる? そ、そうですよね、私も癖で腐ってしまってましたが、……罪悪感がっ)
しかし無表情であったミナモの表情は少しだけ朗らかに微笑み。
「お兄さんに詳しい話を聞きたいな」
「……お兄さんと弟さんの関係にご興味が湧いたんですね!」
ミナモはそれに答える事は無く、ニコリと笑顔で返した。
プリスターが先導する形で件のお兄さんが居るだろう方向へと向かう。四方の殆どが山か森ばかり、人を見つけるのも一苦労であるが、人々は松明を持ち行動している為見つけるのは容易だ。
子供の名前を呼ぶ声が響き、離れた場所からも大声で子供の呼ぶ声が聞こえてくる。
「アイツ? さっきまでそこら辺を探してたが、…どっかに居るんじゃないか?」
「え? ラターク? あの子は確か他の人を連れて奥の方に行ったんじゃなかったかな?」
「さっきあそこに居たはずよ、けど大丈夫かなこんな夜中に」
ラタークと呼ばれた青年の姿を見つけることは出来なかった。
数名を引き連れて向かったようだが、何処へ向かったかは検討がつかない。
「……あれぇ、私何か行動まずかったですか? 結構重要な情報だったんですか?」
「う~ん、私の思った可能性の高い方じゃないと良いなって思ってるだけ」
「どういうことです?」
「まだ重要か分からないし。
他の可能性を追う為に、他を当たってみようと思う」
プリスターは自分の行動が失敗だったのではないかと不安に思い始めたが、ミナモはそんな彼女の背中を押す。
「正解に近づいたと思えば良いさ。
彼との会話について一からまた話してくれないかな?」
「わ、分かりました」
多少別な意味で色目が入った目線でプリスターが話始める。
「お二人は少し病弱でしかしとても仲睦まじい兄弟です」
「病弱?」
「はい、弟さんの方はそこそこ健康ですが、時々風邪を引いて寝込んでいるらしいです。
そしてお兄さんは頻繁に寝込んでいて体調がすぐれぬと話していました、病弱設定もそそりますよね」
「……病弱で寝込んでいる?」
ふとした疑問をミナモは見逃さない。
「寝込んでいるのにこの時間に探し回るの?」
「え? あれ? あ、でも、お守りの羽を貰ってからは体調も優れているって、だから探しに出たんじゃ?」
「モンスターが徘徊してる中病弱な男が?」
「あっ…」
この世界の人間は基本的にそこそこ強い、一般的なプレイヤーよりも強く逞しい。
しかしそれは健康的なNPCで、病弱となるとそれ以下の強さとなる。
病弱な人間が魔物潜む夜闇の中を動くには無謀であった。
「羽が消えた? もしくは何か情報を握ってる? う~ん天使関連じゃない事を祈る」
「どうしたんですか?」
「そしてお兄さんは確か両親が居ないって話だったかな?」
「そうです、そのご兄弟はご両親が一月前から街の方に出稼ぎに行ったとか」
「とか?」
プリスターが少し曖昧に答える。その曖昧さが気になり尋ねると。
「なんだかそこの話だけお兄さんの方も曖昧で、何か言えない事情があったんじゃないかと思って話題を変えたんですよ」
「ふーん。
天使、じゃなくて、羽のお守りについては?」
「三月ほど前に手に入れた、とか?」
「三ヶ月前、……モンスターの咆哮もそれくらいだったが、其処等辺の人に尋ねてみるか」
三月前の出来事、それを知る為にもラタークや他の人物に聞きこみを始める事にした。
ただそれだけ時間が経っているとどうしても記憶は薄れてしまうもので、期待するような情報を聞き出すことは難しい。
「三ヶ月前? ……いや、分からんが、今はガキ等を探す方が優先だろ」
手始めに近くに居た捜索する人間に尋ねると、そういった真っ当なことが返ってくる。
「優先なのは分かります、ごもっともです、でも少しでも情報が欲しいんです、お願いします」
ミナモが頭を下げるとつられてプリスターも下げる、そんな姿を見ると居心地が悪くなり記憶を必死を呼び起こし始め。
「あ~、う~ん、確か、…それ以降からちょこちょこ寝込む人が増えた、か?」
「寝込む?」
「寝込むって言っても一日くらい寝込んで、翌日にはケロッと元気になってる。
数人程度だから別に流行り病ってわけでもなかったからな、何かが当たったって話で落ち着いたか」
ミナモはこめかみに手を当てていた。
既に現状についておおよそ理解をした様子で、惨状に頭を抱えるしかなかった。
「姫は何か分かったんですか?」
「解りたくない事が解った。
その一時的に臥せていたって人達は何処に居ますか? いえ、正確には全員村に居ましたか? どっか出て行ったりしてませんか?」
「さあ? 誰が寝込んでたなんて詳しくは知らないよ、それに村から出て行ったかも把握して無い。
多分どっかでガキ達を探してるか家にでも居るんじゃないか?」
「…ありがとう」
礼を言い、来る時とは打って変わって足取りを重くしながら村の方へと戻り始める。
プリスターは疑問符を浮かばせながらそばに寄り添い付いていく。
「結構まずい状況なんですか?」
「手遅れという状況だよ、…参ったね、そっち系の話じゃないと思ったけど、どうやらその話の様だ」
「私には分からないんですけど、一体どういう感じなんです?」
「手っ取り早く言うと、先の羽というのは人に寄生、というか乗っ取る系の物なんだ」
「……ええ!? の、乗っ取るって、意識をですか!?」
「そう、その意識を」
「じゃ、じゃあ子供達も!?」
「分からない、分からないが、寝込んだ人って言うのは間違いなくその対象のはず」
「治らないんですか?」
「治す手段はあるが、今の私の手持ちにはない」
ミナモは両手を軽く上げえると、プリスターは言葉に詰まり解決手段を自分なりに考えるが、何も思いつかずにしゅんと落ち込む。
「普通に暮らしてる様なのに、乗っ取られてるんですか? あのお兄さんも」
「厄介な事に自覚すらできないでしょうね。
それどころか思考を弄られて歪められてる事だってある」
「一体何が必要なんですか? 私が何か持っているかもしれません」
「あるかは分からないけど、竜の煎じ薬、竜の骨や鱗を煎じた粉を飲ますんだよ」
「竜……そ、そんなのありません。
竜なんて珍しすぎて、それどころか見つけても討伐なんて夢のまた夢、竜種をテイムなんてすれば間違いなく即有名人ですよ」
この世界に居る竜という種族は希少種である、存在を見る事すら至難の業で、その力も一夜にして大陸を滅ぼすほどと言い伝えが残っているほど強力だ。
実際に遭遇して戦った者は居るが、何をされたかもわからず一瞬にして消し炭にされる。
ただしミナモが言う竜種はまた『別』である。
「まあ、この世界の竜の素材で効果があるかは分からないよ」
「え?」
(『天使の羽』の浸食はその天使の住んでいた竜種じゃないと無理だと思う、天使と竜は敵対していたからなぁ…)
ミナモが知っている解決方法はヴァルハラアクセスでの方法だ。
光る羽、それをミナモは天使から零れ落ちた力の一端だと睨んでいた、それが人間に寄生し洗脳などをしていると予測している。
ヴァルハラアクセスでのストーリーにもそういった『天使の羽』が絡む事が度々見られた、だからこそ羽と周囲に現れた寝込む症状にも合点がいったのだ。
(たとえ効果があっても、竜がぽんぽん居るわけじゃないみたいだし、絶望的か)
ヴァルアク内部の竜種というのも特殊であり、WLM内部の竜種と関係あるかも不明、遭遇すら難しいとなると、明るい未来は見えない。
「……できることないんですか?」
「今の所は静観しかできないかな」
残された手段はなく、後はヴァルアクと違う仕様になっていることを祈るしかない。




