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そして旅に出るその1



 癒里がうだうだと悩んでいた翌日、興味を引くようなネットゲームを探している時にモニターの隅に着信を知らせる通知が表示される。


「ん? おや? シャルだ、珍しい、何の用事だろ?」


 シャルロッテという海外のネットゲーム友達からの連絡であった。

 彼女は年単位での付き合いであり、よく一緒にネットゲームをプレイしていた間柄であった。

 癒里はモニターに手を伸ばしその表示された通知に触れる、すると通話が繋がり声が聞こえてくる。


「やあやあ、君のやってたゲームサ終(サービス終了)したんだって?」


「お? 喧嘩売りに来た?」


 やたら嬉しそうに話すシャルロッテの口調に、癒里がやや物騒な返答で返すがその口調は至って普通で怒った様な口調ではない。


「僕はそんな事しないよ」


「あ、そ。

 で、何しに来たんだい?」


「どうせ暇なんだろ?」


「まあ、…そうだな」


 癒里は彼女が何故連絡をしてきたのか、この段階である程度予測できてしまい、怪訝そうな様子が漏れる。

 その声に気付いたのか、シャルロッテの口調から気軽さが消えた。


「君、僕がゲームに誘いに来たって分かるのかい?」


「そりゃ当たり前よ、しかも誘うゲームはどうせWLM、だろ?」


「流石だ」


「馬鹿にしてるのか、シャルはWLM始ってからどっぷりとやってるって毎回言ってたじゃないか」


「はは、そうだったね。

 じゃあやろうよ」


「じゃあってなんだよ、じゃあって」


「だって、君強引に誘わないとファンタジー系のゲームやらないじゃないか」


「そ、そりゃ、…だって」


 言葉を詰まらせるが、その反応は今に始まったわけではない。

 相変わらずな反応にシャルロッテは宥める様に語り掛けた。


「君の苦手意識は分かる、誰だって君みたいにはなる、それに僕だってあれから数か月は触りたくないジャンルにはなった」


「気持ち分かるんだったら誘う?」


「全てが全てあのゲームじゃないんだ」


「……そりゃ、分かってるよ」


「ならリハビリにどうだ? 大丈夫さ、WLMはすべてが世界に一つしかない、そんなゲームだ。

 限定一つのアイテムを持ってたからって叩かれる事なんかない」


 言葉に詰まりシャルロッテへと返答が出来ずにいると、シャルロッテは畳みかける様にWLMに誘う。


「それに君、何時かは苦手意識を変えて行かなくちゃいけないって、そう思ってるんだろ? 何より前はかなり好きだったじゃないか」


「それはそうだけど…」


「心配するな、今度は大丈夫。

 駄目ならすぐに辞めればいい、それだけだろ?」


 シャルロッテは良い人間だ、諭すように何度も持ち掛けて来るその心意気に癒里の心が揺らいだ。


「もうそろそろ、…二年だよな」


「二年? …あぁ、…そうだね」


 二年前、ファンタジー系ネットゲームは嫌いどころかとても好きなジャンルであった、しかしあることが理由でその気持ちは反転した。

 その理由と言うのは人から言わせればとてもつまらない理由だ。


「人は限定とか個数限りという言葉に弱い」


 そのゲームに一つしか存在しないアイテムを手に入れてた、そして妬みを買た、ただそれだけである。


「無い事ばかり噂をたてられて、辞めれば神器が転がり込んでくるとでも思ったんだろうな」


「一々記憶を掘り出すんじゃないよ」


 癒里は苦労して手に入れた物を人に見せびらかしはしない、しかし持ち主が特定されてしまった。

 公式サイトで入手したプレイヤーの名前を明記せずにアナウンスされたのだが、取得するために必死になって行動していた人物というものは目立ち、すぐに特定される。

 特定された後はすぐに根も葉もない悪い噂話が飛び交い、癒里はそんな状況に嫌気がさしてすぐにゲームを辞めた。

 そして苦労して手に入れたアイテム諸共データすら残らない様にアカウント事削除し消え去った。


「君から振ったんだろ。

 だが僕から言えば神器が消えた事で、噂を流した奴らが悔しがっていること想像して僕の気分が軽くなったよ」


「私はどちらかと言うと、恨みと、数百時間も素材集めた努力が水の泡になった事に対しての怒りばかりだったが」


「僕は少ししか手伝ってないからね、ちょっぴり人間不信になるくらいの軽症で済んだ」


「さいですか…」


 心を痛めてくれたこと、そして共感してくれたが嬉しくもある、しかし他人事でしかなく癒里の心はとても微妙な気持ちであった。


「でも」


「ん?」


「君はそこまで不機嫌になりながらも話せる様になったんだから、だいぶ回復はしてるみたいだね。

 昔は話題すら出せないほどだったじゃないか」


「…そうかな?」


 時間が心の傷を癒してくれた、というにはまだ傷跡が残ったままである。だが当時よりは気が楽になったのは間違いはない。


「どうだい、リハビリ、次の繋ぎ、暇つぶし、どの理由でもいいからやってみないかい?」


 現在やりたいゲームというものは無い、その為だろうか今の環境がまるでWLMが癒里を誘っている様であった。


「ついでにできれば昔みたいに可愛らしい性格に戻って欲しいが、愛嬌があってとても可愛かったのだが、今は話せば不格好な言葉ばかり出てきてネトゲ廃人みたくなって…」


「一言余計だよ。

 今だってぷりてぃーだろ」


「喧嘩を売っているのかい?

 はぁ、あの頃はこんな荒んだり捻くれてなくてよかったのになぁ」


「こっちのセリフだよ。

 …まったく、まあ、……いい機会ではあるか」


 これを切欠に昔の様にただただゲームを楽しむ様になるリハビリをする事に決めた。

 次のゲームが見つからないというのも大きな一因であるが、楽しくファンタジー系のゲームを遊んでいた自分を思い出し羨ましくなったのだ。


(そういえば、クソゲだけどあれ以降に一度だけファンタジー系を遊んだっけ、……相当クソゲで一日もプレイしてなかったけど)


 別に完全にやらなかったわけではない、時に話題になった面白くないゲームをプレイするために一度したことがある。

 ただその時プレイしたゲームはファンタジー系のゲームという印象は無く、所謂世間一般で言うクソゲーと言う認識でプレイしていた。


(あれと同じ、と思って気楽にやるか)


 そう自分に言い聞かせて早速WLMのダウンロードに取り掛かった。



 ベッドに寝転がり、枕の横に置いてあるVRデバイスと言われる、パソコンからケーブルで繋がれたゴーグル型のヘッドデバイスを取り付ける。ゴーグルは半透明な緑色のサングラスの様で、耳元はヘッドホン型の機器が付いていた。

 ヘッドホン型の機器に備わっているボタンを押すと、ゴーグルに文字の羅列が映り出し、パソコンのディスクトップ画面が表記される。

 三秒ほどすると、画面の中央にはフルダイブモードで起動しますかと尋ねる一文が表記された。

 迷うことなくそれに心の中で同意すると、意識はどんどんと薄らいでいく。


(VR起動時の眠くなるようなの、何度やっても慣れない、なんか、魂でも吸いだされてる気分…)


 VRのホーム画面へと意識が移行し、目の前にはデスクトップにあるアプリなどのアイコンが表示されている灰色の空間に1人立ちつくしていた。


「ワールドライクメイク、起動して」


 その言葉に反応し、インストールされたWLMが起動し、目の前の景色が薄暗くなり、開発会社のロゴがいっぱいに表示されている。

 目の前に何も無い空間に手を刺し伸ばすと、空間が波打ち波紋を成し広がっていく、それと同時にロゴが波紋にかき消され消えていき、その背景が変わっていった。

 周りの空間が夜明けの様に明るさになり、霧が立ち込めていきどんどんと濃くなっていく。霧の濃度が濃く見渡す限りの靄に包まれるのだが、一秒一秒時間が進むにつれて光が強くなっていき、立ち込めていた霧が晴れていく。


「んっ、…まぶし」


 淡くも暖かな光が瞳を刺激し目が眩む、視界がしっかりとしてくると見渡す限り幻想的な金色の空が続いていた。


「珍しい、最初は高所嫌いな人の為に地上の映像とかが映し出されるのに」


 現在金色の空を泳いでいる状態だ、しかし何処かへ向かっているのか、ぐんぐんと高度が下がっていき雲を抜けると視界には地表が映し出されていた。地表には自然豊かな森林や草原が広がっている。

 進行方向の視線を先に大きな城の建つ街が見え、そこへどんどんと近づいていく。


「城郭都市か?」


 小高い広い丘の上には街を守る様に大きな壁が並び、南にあたる外壁に大きな門があるのが見えてくる。

 街上空まで移動すると眼下には石造りの壁や鋪装された路面、石材と木材で作られた中世風ファンタジー世界の建物が映し出されていた。

 街の形は盾の様な形をしていて、少し歪だである。


「ここでタイトルかよ」


 視界の上方には、このゲームのタイトルロゴが表示さる。

 自分の声しか聞こえなかった空間に、まるで朝露が滴る精練された清楚で優しい音色の静かな曲が流れ始めた。


「BGMは結構良い」


 耳障りの良い音に聞き惚れながら、タイトルロゴの下側に表示されるゲームスタートの文字に手を伸ばす、するとタイトルロゴが消えていき、風を切りながら街の中に移動していく。程よく奥へ行ったところでゆっくりと地面に着地すると、癒里の目の前に木目と金などの細工で加工された半透明なウインドウが表示される。


(アバター作成か)


 アバター作成、削除といった選択できるアイコンなどが並んでいる。

 アバターとはゲーム内で操作する自分の肉体だ。それを作らなければゲーム内部に関わる事が出来ない為、必須な事項であった。

 アバター作成のアイコンをタッチすると、もう一枠別なウインドーが表示され、そこに身体スキャンを行っていますという文字が表示される。


「うげっ」


 スキャン自体は終わったのだが、目の前に現実の姿そのものの癒里が目を閉じ浮かんでいた。スキャンされた際に自動的に癒里の体を模したため、それが表示されたのだ。

 自分の姿が気に入られない癒里は急いでアバターとなる目の前の自分を作り替える為に試行錯誤をし始める。


「性別変えられないぞ…、しかも見た目も大きく変えられない様になってる、……またこれ系か」


 見た目を変えれるゲームというのは当たり前の様に存在していた、しかし変更できないというのは少数だが存在していた。

 その理由についてはいくつかあり、一般的に騒がれている理由の一つに、現実の肉体とゲーム内アバターの齟齬による弊害が起きた問題が挙げられる。


「問題は感覚の異常、か…難儀な」


 ゲームでは四つ足で、それを自らの体の様に扱う事が出来ても、その感覚が長時間続くと現実の感覚にも影響し、一時的でも歩行が困難になってしまうという事例が起きていた。そういった事象が騒がれ、出来る限り現実に近い姿でプレイさせようとするゲームなどが近年増加してきていた。


「……見たっくれは良いくせに、ちっさ」


 自分の見た目を褒めながらも貶し、我慢しながら弄れる範囲で見た目を変更していく。

 しばらくすると肩までバッサリと髪をカットされ少し髪型が整った少女の姿がそこに居た。耳の先が少しだけつんっと長く尖っていて、さらに癒里の身長から5センチほど盛られていて、現在は130センチ届きそうな背丈へと変わっていた。

 変わった部分はその程度で、後は髪の色が青白い色に変色してるくらいだ。


「変更できるのはこれまでか、こういうリアル晒す系は身バレがなぁ…」


 必要意外で外に出ない者が何か言っていた。

 変えれるだけ変更はしたものの不満は消えず、しぶしぶとアバターの設定を終える。


「次は? 名前か、……ミナモでいいや」


 ゲーム内での名前を入力する項目を見つけ、そこに『ミナモ』という名前を入力する。その名前は過去にプレイしていたネットゲームで使っていた名前である。

 こだわりがあるわけではなく、ただ名前を考えるのが面倒でその名前を付ける事にした。


「次はっと、…ジョブか」


 ジョブとはアバターに設定される役職みたいなものである。例えば剣士というジョブに就けば剣など、決まった装備や技を使う際に補正が付き有利に働く。

 しかしジョブに装備の制限があるわけではない、魔法をメインに使うジョブであっても盾や剣などを持てたりと、このゲームはジョブに縛られない様な作りとなっていた。


『お~い、ジョブは何が最弱だ?』


 癒里はシャルロッテに連絡を試みると、無言でそれに応じた。無言ではあるが、シャルロッテから完全に常識を疑う様な雰囲気を感じていた。


『人を狂人みたいに思うんじゃない』


『何も言ってないだろ。というか自覚あるだろ。

 まあいい、君の奇行は毎度の事だ、理由は後で聞くとして、最弱は精霊使いだよ』


『じゃあそれと、武器は?』


『戦斧、大きくて重い、取り回しが悪いの二重苦武器、罰ゲームに使われる』


『じゃあそれで』


『君やる気ないな』


 ジョブを設定し、持つ武器種類の設定を行う。

 その際に耳元でシャルロッテが頼んでいないのに解説を始めた。


『精霊使いは精霊と契約し魔法を発動させる、後は憑依させて肉体の強化なども行うんだが、精霊自体の強さが問題で序盤以外での使い道がない。

 だからすぐに他のジョブに変えてしまうんだよ』


『他のジョブになれんの?』


『好きに変えれる』


『へぇ、じゃあこのままでいいや』


『それで、種族は何にしたの?』


『デフォルトになってる』


『…ん?』


 不思議そうにしながら首を傾げる。

 その反応に癒里も首が傾いていく。


『え、なに、何も無いよ』


『……もしかしてレア種族かも』


『レア?』


『稀にそういう種族が選べるようになるんだ、ボクが見たことあるのはドリアードだったかな、髪に花が咲いてる種族、他にも色々居るみたいだよ。

 レア種族が出るまで何度もやり直す人が居るくらいにはレア』


『…もうゲーム辞めていいか?』


 自分一人だけの種族な可能性が出てきた為、過去の嫌な出来事を思い出しモチベーションが無くなってきていた。

 しかしシャルロッテはそんな癒里を宥めて落ち着かせる。


『待て待て、君にはそういうのはトラウマだろうが待ってほしい。

 そして一度画像を送って来てくれ』


『ほい』


 スクリーンショットを撮影し、シャルロッテに送りつける。


『なんだこれ? ドワーフやホビットか?』


『同じって事?』


『見分けがつかない、レア種族ですと言っても絶対に頭を疑われるくらいだ』


 ドワーフとは人型の低身長の種族で、大人でも丁度癒里と同じくらいの背丈しかない。


『どうせ見ても分からないんだ、使ってみてはどうだ? 他人が自分の種族を見れないんだ、問題なんて無いだろう』


『むぅ』


『しかし、背が小さい種族の様だね、背が小さいのもデメリットだから君にはお似合いだろう』


『ソウダネ』


 心の中で怒りの炎を燃やしながら設定を終える。


『ま、私は美少女だし、小ささなんてほんの些細な事だよ、美少女だから仕方がない、いやぁ申し訳ないね、ごめんね美少女で』


『は? 何言ってんだコイツ?

 まあ、もし同じ見た目であっても腐る前にその容姿に甘える事だな』


『シャルだって出会った時リアルの写真アイコンにしてたときあったけど――』


『あーあーあーあー! 聞こえないー!』


『パツキンボイン美少女のくせに…』


『そんな事よりも! ジョブは後で自作も可能だぞ』


『露骨に話題変えて来たな』


 WLMではジョブを自分で自作できる。

 ただし自作するにはその名前に由来した行動を取り続けなければならない。

 例えば清掃をし続けて清掃作業員などというジョブに変更が可能になったりする。

 その事を癒里に伝えるといまいち理解できないのか反応が微妙であった。


『お、おう、……基本ジョブと違うのは、メリットになるのか?』


『レベル上がる時のステータス量とか、スキルの補正が違う』


『それだけ?』


『それだけでも十分だろ』


 アバターの最終確認を済ませ、癒里はミナモとしてゲーム内へと一歩踏み出した。

試行錯誤中

カクヨムだと早めに投稿してるけど

う~む・・・

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