テイマーは面白い? その3
戦いが終わる頃には戦っていた場所は焼け野原になっており、ボロボロになったプリスターが大の字に倒れ伏していた。
「ま、まだ、負けた……う、うぅぅぅぅゅ!」
可愛らしく唸るプリスターをしり目に、メイアは自分たちの従魔を治療して褒めていた。
「よくやりました」
優しく微笑み、そしてプリスターに睨みを利かせる。
「これ以上戦闘を仕掛けないでください、次は完膚なきまで叩き潰します」
「それ、…この間も言った」
息を切らしながら答えるプリスターであったが、それをメイアは聞いてはいなかった。
プリスターは少しだけ不貞腐れつつ、ポーションを取り出して回復にあたる。
「もう一度だ!」
懲りずに戦いを申し出るが。
「わたくしは忙しいのです」
一蹴されるが、プリスターは首をかしげて尋ねた。
「え? 忙しいの? 暇そうに川辺歩いてるって情報だったよ?」
「……貴女の情報網はどうなってるんですか?」
メイアからしたら神出鬼没に追ってくるプリスターを不思議に思っていた。
(行く先々で何処からともなくやってきて戦いを申し出てくる、なんなんですかこの子は本当に。
それに情報網って…)
一体どこから情報を仕入れるのか訳が分からなく困惑する。
誰から見られていた可能性はあるが、それでも異常だとメイアは思っていた。
「情報網って何処からですか?」
「掲示板です!」
「掲示板?」
「天雷のメイアという有名人なのです、目撃情報なんてゴロゴロ転がっています」
話を聞いていたミナモは内心鼻で笑う。
(天雷のメイアってなんだよ、なんか前にもそういう二つ名の人居たな、流行ってるのか?)
ゲームを始めた序盤で聞き耳を立てていた時も二つ名の話が出てきた、二つ名のシステムなど恥ずかしいだけなのではないかと思っていたが、どうやらプレイヤーにとっては違うようで。
「誰もが憧れる二つ名をお持ちなら分かるはずです!」
「分からないわよ…」
ミナモも理解できないが、ネットゲームを始めた最初期に少しだけ憧れていた事を思い出す。
(地位や名声とかってのも昔は欲しかったっけ)
ヴァルアクの件以降そういった欲求が減少していた。
完全に欲求がなくなったわけではないが、地位や名声というものに対しての魅力を失っていた。
(だからこのゲームを頑張ろうって気合も入らんのだろうな)
欲望というのは活力になる。何かを成そうとする意気込みだけで思いのほか気力が満ちるほどだ。
とは言え、ミナモは少しだけ別な方法で活力を得ていた。
(今はこいつのレベルアップが少しだけ楽しい)
二人が戦っている間に三回ほど迷路をクリアさせて、イトウのレベルが1だけ上がっていた。
ステータスの上昇はHP以外のステータスが0か1上昇し、intのステータスが2上昇したのだ。
(知育が功を奏したよ、これは行動次第でステータス上昇が決まる事で間違いないな)
ステータスの上昇に規則があるのは『ミナモ自身のステータス』で確認済みであった。
一般的な認識として、行動がステータスに反映されるという認識が薄く、ジョブやセットしたスキルによりレベルアップ時のステータスに恩恵があるというのがWLMプレイヤーたちの認識だ。
それもそのはずで、セットしたスキル以外の行動をあまりしないのだ、誤解も広がる。
一部プレイヤーは検証を重ねて一般的な定説を否定し、『隠ぺい』している可能性もある。
(秘匿したい気持ちは分かるぞ、誰よりも強くなりたいだろうからな)
正確な情報を流したくないというのに理由は一つ、誰よりも強く高みへ、その理由だけで他者を蹴落とすように秘匿していた。
(それでもレベルアップ時のステータス上昇が低すぎる、弱すぎ、だからこそ楽しい)
コツコツとしかし着実に強くしようと思うと、ミナモの気力は満ちていくのであった。
(さてと、次は丁度きっかり通れる穴とか、上下を意識した立体的な作りにもしてみるか)
次の迷路の構想を考え始める、しかし水を差すようにその場へとメイアがやってくる。
「行きますよ」
「じゃれ合いはもう良いの?」
「じゃれてません、付きまとわれて迷惑なだけです」
「それ私の前で言う?」
「どういう意味ですか?」
現在進行形で付きまとっている人のセリフではない。
ミナモはふと思うことがあり、プリスターへ呼び掛けた。
「お~い、そこの子~」
「なんですか~!」
声をかけられるとパタパタと駆け寄ってくる、少しだけ犬の様な仕草に可愛らしく思いつつも、プリスターにある提案をした。
「暇なら散歩に付き合わない? この何とかのメイアって人もついてくるよ」
「行きます!」
「ちょ、ちょっと……」
二つ返事でプリスターが返答し、ミナモをメイアが睨みつけてくる。
「じゃあ行こうか」
「よろしくお願いします!」
メイアは機嫌が悪くなっていくが、きらきらと目を輝かせるプリスターを見ると強くものを言えずに、ぐっと堪えて言葉を飲み込んだ。
「ところでお伺いしても?」
「どうぞ」
「メイア様とはどういった関係ですか?」
プリスターはメイアの事を尊敬はしているようで、ミナモとの関係を気にしていた。
「関係もなにも今日で会ったばかりで、やる気のない私の尻を叩いてるだけだと思うよ」
「そうなんですか?」
メイアに尋ねるプリスターであったが、メイアはそっぽ向いて答えようとはせずにミナモが代わりに尋ねる。
「無言という事は正解って事だよ、違うなら声を出して否定するだろうし」
「納得しました!」
「じゃあ自己紹介でもしながら上流でも目指しましょうか」
「ラジャーです、私はプリスター、侍をしてます! 武者修行としてメイア様の追っかけをしています!」
「私はミナモ、新米のテイマーだよ」
二人の視線がメイアに向かうが、メイアは答える事はない。
しかし代わりにプリスターが答え始めた。
「メイア様はトップテイマーなんですよ~、二つ名もある偉大なお方です!」
「トップ? それから二つ名って何?」
「トップというのは大会で何度も優勝されて、尚且つテイマーの中で一番有名なんです。
そして二つ名というのは、イベントとか依頼で付与される名誉な名前です」
「へぇー」
定期的に公式が開く武芸大会というものがあり、メイアはその大会で3連覇していた。
天雷というのもその時貰った特別称号であり、唯一無二の二つ名であった。
「天翔けるペガサス、…いえ、ユニコーンと、雷を操るライオン、美しいその姿に誰もが魅了されてしまうほどです」
「へぇー」
「一体一体がその強さはずば抜けていて……、あれ? 興味ないですか?」
生返事と態度からメイアの凄さというものが伝わっておらず、興味がないことをプリスターは気が付いた。
「いまいち分からない」
「さっきの戦いは見てました?」
「たまに見てた」
見ていたが強さを理解できない、心に響く強さはなく『じゃれ合い』にしか見えなかった。
「なるほど、初心者ですね。
私も最初は強い人の動きが理解できずに漠然としていましたが、強さに触れてだんだんと分かるようになってきました。
ミナモちゃんも何れ分かります」
「わーい、先輩よろしくお願いしま~す」
現在できる限り渾身のやる気を出して答えるミナモに、プリスターは満足し三人は移動を始めた。
場を盛り上げる人間がいるとまた雰囲気も和やかになっていた。
「技を見極め、そこに技を叩き込む、それが勝利の秘訣ですよ」
「じゃんけんみたいですねぇ」
プリスターの話はモンスターや対人戦の事が多い、それを聞き入るのはミナモではなく一番はメイアであった。
(……だから受動的になるんですね。
相手方は殆どそんな考えで動いているのね、この子達の初動攻撃手段を増やしてみようかしら)
良くも悪くも有名人であるメイアは対人戦やモンスターを相手に戦うことが殆どで、仲の良い人物との交流は多くはない。
気の知れた仲間よりも、従魔の方が信頼を置き、他のプレイヤーと行動するよりもダントツで多かった。
「装備も身軽で動き易い方が無論いいですよ、防御力も欲しいから悩み種」
装備の話をしていたが、その視線はミナモへと注がれる。
すべてボロボロの為二人は訝しむ。
「ところで、それはダメージですか? それともダメージファッション? どちらにしろ防御力が……」
「前者?」
「なんで疑問符?」
「まあ、そう言う感じなんだよ」
一般的にボロボロの着衣や武器の状態は性能にも影響が出る、万全の状態でこそ性能が発揮される。
「……流石にちょっと見た目が」
ボソっとメイアが呟く。
聞こえていたプリスターは反応に困り、ミナモは乾いた笑いを漏らすしかなかった。
「まあ、NPCに言われ続けてるし、慣れてしまったよ」
慣れているとはいえ、面と向かって言われると少しだけ辛い。
「直さないいんですか? その武器も」
「これでいいのいいの」
ミナモ本人が直す意思がないため二人はそれ以上の事はできない。
もやもやとした気持ちを引きずる事となったが、話題を変えるとそのもやもやも薄くなっていき、目的地付近に辿り着くころには気にしなくなっていた。
「もうそろそろ山かぁ」
「川も狭く激しくなってきましたね」
周囲の景色は変わり、木々に囲まれ、足場もゴロゴロとした大きな石や岩ばかりになり歩きにくい。
流れる川の音も水音が大きくなりイトウも泳ぎ辛そうにしていた。
「その子大丈夫なの?」
「さあ? そこら辺の沢蟹にやられそうかもね」
「かもねって…」
移動の際に休憩をしていたが、その際にイトウの迷路攻略をさせてレベルを上げていた。
現在のレベルは4と、数値だけ見れば強くはなっているが、ステータスはINTが一番高い頭でっかちだ。
「少しだけ知恵もついてきたから大丈夫でしょ」
「楽観的な」
知育が功を奏したのか、ほんの少し迷路膠着の際に動きがしっかりとして、『心なしか』ミナモの言う事も理解している『様な気がする』状態だ。
何ともあいまいではあるが、そんな微々たる変化を感じる状態だ。
「ほら、ついに沢蟹の登場だ、どうするイトウ、逃げるか、立ち向かうか」
透明な水の中に手のひらよりも大きな沢蟹を見つける、イトウの進行方向に居る為、迂回をする場合は少し戻って別なルートを移動しなければならない。
見守っているとイトウは立ち止まり、沢蟹がゆっくりと距離を詰めていく。
「さあ、どうなってしまうのか」
実況の様な作った声で喋ると、それにプリスターが乗っかった。
「珍しい戦いが起きそうですね~」
プリスターは身を乗り出し観察し始めた。
見守るメイアはもどかしいのか、何かを訴えかけるようにミナモへ視線を強く向ける。
「何?」
「何じゃありません、支援をしたらどうですか?」
「まだ戦うと決めたわけじゃないし、支援はしないよ。
戦うとなっても手を出すつもりもないけど」
「何故です?」
「どう行動するか、それをイトウさんに任せるだけ、何かするのはその結果の後だけだよ」
「戦いになったら指示はするんですか?」
「しない、というか理解してくれないだろうからね」
「テイマーの最初って難しいって話聞きいたけど、大変ですねぇ」
「いえ、この魚が規格外なだけだし、放任主義もどうかと思うわ」
「放任じゃなくて、支援ありきで動かれるのを癖にしたくないだけだよ」
「え?」
初めて聞く育成方法にプリスターは驚き呆ける。
「支援をすれば必ず今後も支援ありきの行動をする、悪いわけじゃないけど、咄嗟の時指示待ちになりかねないからね」
「し、指示待ち……」
メイアは言葉に強く引っ掛かり、表情が揺らいだ。
「指示待ちでは駄目なの? テイマーがその咄嗟の時に指示を出す感じだと思ったんだけど、私が会って来たテイマーもそうだったよ」
「行動の遅延が顕著にでるよ。
まずはプレイヤーの状況把握、認識、思考、発言、それらがテイマーが行う一連の動作、そこから指示を聞いて判断して行動、その後の行動にもラグが出てきてしまうから。
咄嗟の判断が間に合わなかったり、常識外の事が起きればそれだけ行動に差が出てしまうから」
何をするにしても間が開いてしまえばそれだけ不利になる。その不利な状態を減らす事こそ強さに繋がる。
今やっているのはその強さを養うための一歩であった。
「さっき見てたけど、プリスターさんが下に潜り込んだ時行動できてなかったよね、あれを防げると思えば良いと思わない?」
「潜り込む? ……あっ」
「あの時ですか、我ながらいい方法だとは思いましたけど」
「だから自主性を高めようと、……思ったんだけどなぁ」
ミナモは無表情のまま川の流れに逆らうことなく腹を出して浮かび無抵抗に流れていくイトウを眺める。
「わぁぁ! イトウさんがいつの間にかやられていますよ!」
「さっき突撃していって挟まれてやられちゃった」
「急いで助けなさいよ!」
「はいはい」
ギリギリ体力が残っているが放置はできない状況だ、ミナモは魔法でイトウを中心に水球を作りそのまま川の中から救い上げる。
そしてテイマーのスキルにあった従魔専用の回復技を使い回復を行う。
「初戦敗退かぁ、まあ予想通りだよねぇ」
イトウの戦いはまだまだ始まったばかりであった。




