そして半年後その3
馬車に揺られ、周りの者達は緊張感が高まっていた。
モンスターを操り村を襲わせる、普通でない状況にミナモ以外は余裕がない。
「ところでさぁ」
気の抜けたミナモの声に皆の視線が集まる。
「な、なんだよ?」
「楽をするのと、試練に打ち勝って進んで行くのと、どっちが好き?」
こんな時に漫画の話だろうか、不思議に思いながらも答える。
「そりゃ試練に打ち勝ってだろ、漫画じゃ定番だ」
「話はその方が盛り上がるでしょ」
頷く者が多いが、それが自分達が体験しないという前提がある。
「まあ、そっか」
周りの森を気配を探りさらにミナモが尋ねた。
「NPCがプレイヤーをどうかしようとした時って、どうするんだろ?」
「だから突然どうしたんだ?」
「だって事情を知っているNPCなら良くも悪くも不死身という事を理解しているんだから、その際の対応はどうするのかなって」
「……確かに」
「一般的には拘束して牢に入れるという話ですけど」
「いや、まあ犯罪者はそれでいいけど、暗殺をしたいと思ってる時の事だよ」
「物騒な話だな」
物騒だが、ミナモは同行している兵士たちが牙をむく事が分かっているからこそ疑問に思っていた。
(アイツ等周囲よりもこっちを警戒してるからなぁ)
アウトセンスの感覚により、兵士たちはプレイヤーを非常に警戒している、森の中に居るモンスターよりも警戒しているほどだ。
奥地に行った後に事を起こすのは明白なのだが、対プレイヤー用の対策というのが拘束以外の方法が分からない。
(魔物を使って森の外に誘導、その後する事は…。
う~ん、私なら幾つもあるけど、こいつ等が使う術、かぁ。
…流石にあれを使うのは私にとってもネタバレすぎるし、…見守るしかないかな)
1人納得しながら分析を進める。
そんな推測しているミナモの姿は活き活きしており、周りは不気味にそれを眺めていた。
(モンスターを態々引き寄せる手段に出てる、多分あの港に着いてから連絡が行き、通りかかるあの村で待機した。
じゃあ次にどうするか、……う~ん、なんでこうなったのかも分からん、圧倒的に情報が不足している)
NPCの内部事情も、シェーロ達の立ち位置や行動や振る舞いというのも細かく理解しているわけではない。
(森の中に何か仕掛けてるのかな? それこそ転移魔法陣とか、それを起動させてプレイヤーだけを何処かに飛ばす、とか?)
状況が分からない以上、これから起こるだろう事態を予想するしかない。
ミナモはアウトセンスで向かう予測地点を調べる事にした。
意識を前方に集中させる、するとモンスターとは違う気配を感じ取ることが出来た。
(ん? これは、プレイヤー? ……しかも、おやぁこいつ等)
ミナモは森に潜むプレイヤーの姿に見覚えがあった。
正確には彼等が着ている着衣に見覚えがあり、そのプレイヤー個人の事など一切分からない。
その着衣は白を基準とした清楚な出で立ちの法衣である、法衣の上から鎧を着こんでいる者も居る。一般的にプリーストやパラディンなどという聖職者に分類する者達が着込んでいる着衣であった。
(う~む、例の教団関係なのは間違いないか。
しかしなんで奴らがこんな所に? …少し動向を伺うか)
その教団の事をミナモは知っているが、何故森に居るのか理解できなかった。
教団が首謀者の可能性はある、兵士と一緒に動向を伺いながら警戒する事にした。
「着きました」
兵士の一人が呼び掛けると、シェーロ達は馬車を降りて森を見渡す。
しかし兵士たちが距離を取り、囲む様にしている事に疑問を抱く。
そんな兵士達の一角からミプレイヤー達が歩いて割って入ってくる。
「来たか」
カザカリー兵長が教団プレイヤーの傍に向かいリーダー格のシスターに目配りをした。
そのシスターは頷き答えて、手に持った錫杖を地面に突き立て金属音を響かせた。
「あれはケーントゼッハ教団の服? しかもプレイヤーだ」
シェーロの傍に居た男性が言い当てる。
一部は知らないようで、その男性に尋ねていた。
「なんだそれ?」
「知らないのか? 知ってる奴からしたら結構有名だぞ。
ケーントゼッハに入信すればスペシャルアビリティを手に入れられるかもしれないって」
「え? 本当か? あのスペシャルアビリティーを覚えられるのか!?」
「サコンの旦那みたいにアビリティーをか…」
(スペシャルアビリティってなんだよ?)
ミナモは知らない単語の登場に即座にネットで検索して調べる。
(あった、…第四のスキル、スキルとは異なる特殊な能力?
取得条件は不明、…こんなのあるんだ、へぇ、マジかぁ、…知らなかった)
特殊能力と言う存在がある事を知らなかった。
因みにミナモはスペシャルアビリティを持っていない。
「聞こえますか? 今から貴方達を封印させてもらいます」
ミナモが感心していると、リーダー格のシスターがシェーロ達にそんな事を告げた。
その言葉にミナモは再びそちら側へ意識を向けると、理解できず困惑するシェーロ達の姿があった。
「えっと? どういうことですか?」
「この状況を見て分からないとは、いやはや、君達はやはり馬鹿というか、なんというか」
カザカリー兵長は呆れてため息を吐く。
その様子にシスターがクスクスと笑い一歩前に出て答えた。
「貴方達は居てはいけないのです」
その言葉で即座にサコンが理解し、シェーロを庇う様に一歩前に出て剣を抜いた。
「黒夜の…、貴方のスペシャルアビリティは厄介ですが、この人数では一分も保ちはしないでしょう」
「…貴様達は異端審問官か?」
「ふふっ」
サコンの言葉に笑みで返すが、それが答えであった。
(異端審問官、ケーントゼッハ教団の奴等で間違いない)
ケーントゼッハ教団、それはミナモと少し因縁のある教団の名前である。
そのケーントゼッハ教団の一部署が異端審問執行騎士団、教団が異端者と認めた者を狩る専属の部署であった。
「う、裏切ったのですか!?」
シェーロは状況を把握し焦り尋ねる。自分達が裏切られたと思いたくはないが、状況が状況だけに嫌でも認めるしかなかった。
カザカリー兵長はシェーロを見据え睨みつけ、一切冗談やふざけた様子などがない。
「姫の側近とは言え、このまま和平に漕ぎ着けられては困るんですよ」
「な、何を言ってるのです! このままだと戦争になってしまうのですよ!?」
「和平になれば間違いなく奴らの言いなりになるのは私達の国だ、暴虐邪知なかの国に頭を垂れろというのですか!」
「っ!?」
ミナモに言われた事が再びシェーロ達に襲い掛かる。
属国になる事を避けなければならないのは理解できるが、争いになればこの国はただでは済まない。
「我々とは無駄にかの国と戦うのではありません! しかし皇妃とはいえ姫も好き勝手に行動させるわけにはいかないのだ!
貴様らが考えも無しに動けば動いたなりに事態が悪くなる! それを理解するべきだったのだよ!」
「わ、私達は…」
一生懸命していたことが、事態を悪化していたと思うとシェーロ達は一体何のために頑張っていたのか、考えるだけで絶望してしまいそうであった。
「無能な働き者というのは厄介な者は無い」
そんな言葉を投げかけたのは馬車の中に居るミナモであった。
傷つく彼等には追撃になってしまうが、ミナモはそれに構う事無く言葉を続ける。
「しかしそれを止めない君達も同じだよ」
「…ふん」
カザカリー兵長は口を閉ざす。
注意していればシェーロ達は交渉にも行かなかっただろう、だがミナモはまた違う思惑があるのではないかと思っていた。
「それに言って止めさせれば良いだけなのに、態々手の込んだ方法で排除に動くとは、君達が主張する言葉とは違う思惑があるのだろ?
そう、例えば選定かな」
カザカリー兵長の表情が消えた。
選定と言う言葉に意味が分からず、サコンが聞き返す。
「選定とはなんだ?」
「争いが起こるならば他国の動向というのもまた気になるだろ?
良くも悪くもここ十年、あるいは百年以上も戦争起きてはいない、小競り合いがあっても所詮小康状態だ。
この国もそろそろ次を見据える時期が来たと思ったのだろうね。
足を引っ張る兵士や存在を国には置きたいとは思わないだろ? その為の選定の第一歩がコレ」
メルシュ王国だけが事を起こそうと思っているわけではない。
事態が硬直していたが、動き出すのを見て次々と各国が動きだしているだ。
「ほんとプレイヤーって罪深~」
各国が戦争へと動き出したのはプレイヤーの存在があったから。
大量のプレイヤーが動いた事で全てが少しずつ動き出してしまったのだ。
「だからこそ我々ケーントゼッハ教団が救済に動くのです」
シスターが目的を口にした。
「救世主気取りかい? それとも戦争させた後に空き巣にでも動くのかい?」
「気取りではないですよ、救世主になろうというのです、だからこそ俗な事などしませんよ」
「ホムンクルスの子飼いが良く言う」
「ホムンクルスの子飼い?」
シスターは首を傾げるが、ミナモはそれに答える事は無い。
「そろそろ無駄話は止しましょうか、拘束するのも面倒なので大人しくしてもらいますよ」
兵士達が武器を構える。
シェーロ達も震えながら武器を抜き円陣を組む様に四方に目を向ける。
圧倒的な戦力差に絶望していて完全に諦めのムードを放っていた。
「殺しはしませんよ、殺したら面倒ですし、リスポーン地点に戻っちゃいますからね」
「…どうするつもりだ」
「封印させてもらいます、入ったら二度と出れない様に」
シスターは懐から手に乗るほどの立方体を取り出した。白い箱そのもので、これと言った特徴は無い。
その白い箱を掲げると、シェーロ達を取り囲む様に四方に柱が出現して取り囲む。
立方体の枠の外にサコンが出ようとするが、見えない壁に阻まれ抜け出す事が出来なかった。
「クッ、これは…」
「ああ、別に戦わなくてもこうなります。
黒夜の実力を見たかったのですが、仕方ありません」
「ここから出せ!」
「無駄です」
透明な壁は次第に白色へと変わっていく。
同時にシスターの持っていた小箱が縮小を始めた。
「これはアーティファクト。
対象を異空間に影響に閉じ込める特殊アイテムです。
対処法はアバターを削除するしかないでしょうね」
サコンはその説明を聞くと、壁に向かい攻撃を始めた。
慌ててシェーロ達も攻撃を始めるのだが、壁はびくともしなかった。
半透明だった壁は次第に色を濃くしていき、外の音が聞こえなくなり、色がしっかりすると音も消えて、攻撃していた壁が消え失せた。
「うわっ!?」
「か、壁が無くなった!?」
「け、けど、…何も無いぞ!?」
壁が無くなり、先ほどまでいたシスターたちの位置に移動するのだが、そこにはシスターたちの姿すら存在していない。
(アーティファクトってなんだろ?)
そんなシェーロ達を尻目にマイペースにアーティファクトについて調べる。
古代の遺跡などから出土した、現代では解明できない高性能なアイテムの事であった。シスターが使ったのもそのアーティファクトの一つである。
説明を眺めていると、サコンがいち早く馬車の中に入り、ミナモに尋ねる。
「解決方法は無いのか?」
「普通一番初めに私に聞く?」
「時間が惜しい」
「時間が惜しいって、寧ろ少し時間を置いた方が良いだろうに、その方が安心して出れるさ」
今出れたとしても、先ほどと同じ様に敵に真っ只中に出る事になる。
時間を置く事で、先ほどの状況から脱せるのだが、サコンはそれを良しとしなかった。
「逃げたくはない、例え絶望的な状況であっても、このままうやむやになんかできない」
「それを彼女達は受け入れるのかい?」
「受け入れなくても良い、進むしかないんだ」
「…ふむ」
独りよがりな答えではあるが、シェーロ達に嫌でも現実と向かい合わせるという状況を作り出す事がサコンの目的であった。
「もう退けない、退ける情勢でもない、ならば逃げるか、立ち向かうかだけだ」
「潔良いのか、自分勝手なんだか、まあ、それを私じゃなくて彼女達に言ってくれ。
私が悪者になろうか?」
「俺が言う」
サコンは馬車を降りて呆然とする彼女達の前に立ち声を強くして尋ねる。
「もう後には退けない、選択してくれ、このまま進むか、諦めて逃げるか。
たぶん誰も選択を責めたりはしない」
「……進むか、逃げるか」
二択、その二択の未来を彼女達は考える。
裏切られたばかりで、心が落ち着かないが、シェーロ達は必死にぐちゃぐちゃな感情を抱えたまま考え続ける。
そして一番初めにシェーロが口を開いた。
「……サコンさんは、どうするんですか?」
縋る様に尋ねるが、サコンは首を振った。
「俺は俺の道を行く、だがお前達はお前達の考えで行動して欲しい、ここがターニングポイントだ」
「ターニングポイント。
……私は」
シェーロの中で願いだけ、強くその願いを口にする。
「戦争を、止めたい、です、せめて、この国だけは、安全になって欲しい」
力は無い事は自覚している、だからこそ願いだけだ。
その願いは彼等も変わらない。
「俺だってそうだよ、……けど、力だけはどうしようもない」
現実と言う壁にぶち当たり、全員が悔しい思いをしていた。
「なら心折れるまで足掻き続けてみてはどうだね?」
ミナモは悔しがるシェーロ達に投げかける言葉はこれくらしかなかった。
「力が無いならせめて考えて、最後まで足掻くしかないだろ。
無いなら無いなりに、仲間を増やして行ったり、それだけだろ」
そんな事は分かっていたが、それでも壁は厚く高い、踏み出す足が鉛の様に重く一歩踏み出すことが出来なかった。
「本気だからこそ苦しむのは分かるが、…もう少し気楽に行こうぜ」
ゲームだからと続けたかったが、サコンから言われた事を思い出し、その言葉を飲み込んだ。
「…貴方は、……どうしたいのですか?」
「私?」
シェーロは気軽に口にするミナモの心意と目的を知りたかった。
「う~ん、何も考えずにプレイするプレイヤーには良いお灸じゃないかと思ってるよ。
とは言え、あの国に所属していると思ってるプレイヤーが殆どで、このままじゃお灸にもならないし、もう少し各方面で頑張って欲しいかな」
「他人事だな」
「他人事さ」
愛着が無いからこその他人事であった。
昔の性格ならば手を貸していたのだろうが、悪く言えば不良になってしまったからこそ、手を貸すという選択は無かった。
「まあ、別に完全に手伝わないわけではないよ、少なからずあの教団にはちょっとした因縁がある」
ミナモは馬車を降りて歩き出す。
そしてサコンの前に立つと、何処からともなく一振りの剣が現れた。
「なんだそれ?」
「赤い、水晶?」
それは電の様に枝分かれした歪な半透明な紅の剣。
宝石で作られたとしか思えない刀身が怪しく光る。
「これを君にあげよう」
突き出した剣にサコンは警戒して訝しみ、ミナモと剣を交互に睨み付ける。
「…これを使えば、どうにかなるのか?」
「この場はどうにかなる」
「…この場」
強調したわけではないが、その言葉に違和感を強く覚える。
そしてミナモの口はつり上がった。
「そう、この場だけ、そしてそのひと振りで君は取り返しのつかない事態に陥る」
「それでも構わない」
例え何が起きても突き進む、そんな覚悟がサコンは出来ている。
「ああ、言っておくけど、本当に引き下がれないよ。
君が得られるのはその剣、そして代償のみ」
しかしサコンは腕を振り上げ進むべき道へ強い視線を向ける。
「はぁ、どいつもこいつの真っ直ぐな眼だ、愚直で愚かで」
ズン、そんな鈍い音を立てて剣が振り下ろされた。
異様な音に全員が驚き、そして目の前の走る赤い次元の割れ目に驚愕する。
誰もミナモの言葉など聞いては居なかった。
「―――代償は君の利き腕だ」
ガラスが割れるように空間にひびが入り砕け散る。
次の瞬間には太陽の光が差し込み、先ほどと同じ森の空間に投げ出される。
周りには相変わらず兵士やケーントゼッハ教団の姿があり、砕け散ったアーティファクトに愕然としつつも、ミナモ達の姿を見て驚愕していた。
「その顔をそそる。
計画がご破算となったその顔」
先ほどよりも口角を釣り上げてミナモが呟く。
「一体どうなってる!? そのアーティファクトは破られないのではないのか!?」
「ど、どう言う事ですかこれは…」
カザカリー兵長は急いで剣を抜き構え、それに合わせて兵士全員が慌てて戦闘態勢に移り始めた。
しかしミナモが両掌をパチンと合わせた瞬間、全員が時が止まったかのように身動きできなくなりその体が固まった。
「まーずは、ケーントゼッハ教団の人達に伝言を伝えます」
全員が状況の把握ができない中、ミナモが一人言葉を発して伝え始めた。
「粗製のホムンクルスしかできないみたいだね、君達が何をしようとしているのか分からないけど、じわじわと削っていくね。
って君らの上司に伝えてね、じゃ、よろしく」
何を言っているのか理解できないが、次の瞬間にはミナモの近くにいたプレイヤーから蒸発する様に消えて行った。
「後は君達だけど、……そうだなぁ、卑怯にも魔物を操る何者かにより、途轍もない強いドラゴンに襲われたという事にしておこうか」
手を払うと兵士達は業火に飲み込まれて黒焦げになっていった、森が焼け始め閃光が走ると地面がえぐり取られていく。
その場に残っているのはシェーロ一行とカザカリー兵長のみで、ほぼ消し炭になっており、匂いだけが漂っている。プレイヤーはその匂いが何なのか理解すると吐き気を催したのか鼻と口を塞いでいた。
「化け物が…」
カザカリー兵長は呟ける状態になると、恐怖心を必死に抑え込みながら剣をミナモに向けて構え一歩二歩と後ずさっていく。
「全て話してくれたら兵士達の様に楽に殺してあげる」
助かる道は無い、そう察するとカザカリー兵長は喉元へ持っていた剣を突き立て。
「皇帝サントラード万歳! ピュスト帝国に栄光あれ!!」
自害しようと試みる。
「自決は駄目だよ」
しかし先ほどまであったはずの剣は地面に落ちた。
「っ!? …う、腕、がッ!?」
カザカリー兵長の腕ごと地面に落ちたのだ。切断された腕から血が噴き出し始めるが、淡い光がカザカリー兵長を覆うと流血が収まり痛みすら無くなった。
「じゃあ拷問を始めようか。
まあ、面倒だから私じゃなくて魔法でちょちょいって感じだけど」
無数の腕が突如異空間からカザカリー兵長につかみかかる。まだ何もしていないはずなのに威圧感に心臓の鼓動が激しく脈を打ち始めた。
戦闘でも感じた事の無い威圧感で、カザカリー自身が押しつぶされるのではないかと思うほどだ。
暗闇に引きずり込まれていき、小さく悲鳴を残してこの世界からカザカリーが消えて行った。
「いいかい? これはドラゴンに襲われた結果、君達は何食わぬ顔で生き残って城に帰るんだ」
まだ動けないシェーロに近づき、その頭を軽くポンポンと叩きながらこれからの事を話し始めた。
「あの兵士達は名誉の戦死をした、君達は亡骸の一部を持ち訴えると言い、『彼等は国民の為に力一杯懸命に戦った、私達はそれに答えるように国の為に尽力します』っとね」
シェーロ達の目の前にぼとりと黒こげの亡骸が転がる、身に着けていた鎧は融解しており判別はつかないが、間違いなくそれはカザカリーその人であった。
「どうやらここに集まった兵士と皇帝以外に一部家臣たちしか今回の事は知らないようだ、後は上手く立ち回ってくれ。
まあ、この国を捨てても誰も恨みはしないさ」
全員が茫然とした状態でいたが、その中でシェーロだけが震える声でミナモに言葉を投げつけた。
「ひ、人の、することじゃ、ない」
「それって人に言える言葉じゃ無いと思うけど。
君達だってモンスターとか倒してるし、なんなら襲って来たNPCを必死に倒した事とかあるだろ?」
返答は首を傾げるものであった。
シェーロの言い分は簡単に一瞬で命を奪う行為に対して責めているだけで、ミナモはモンスターと襲って来た兵士を同一視した反応だ。
人と人を襲うモンスターが同等であるわけがない、そう返したかったのだが、ミナモはさらに言葉を続ける。
「その顔、君達は人とモンスターは違うって思ってるかもしれないけど、私には同じだよ。
突然現れた敵意ある、情など一切湧かない敵対者。
見た目に愛嬌があるならまだしも、武装して敵意を向けてる、モンスターと変わりがないだろ?」
「…ひ、人、です」
「人かもしれないけど、それ、ゲームで言うの?」
現実とは違う、ゲームだから。
「ゲームと現実を区別できないって人が一定数はいるよ、間違いなく。
私は区別できる派だから」
「…だからって例えゲームでも人を殺して良いってわけじゃない」
「う~ん、価値観の相違だね、プレイヤーだって同じだよ、君がそれを言うの?」
その言葉にサコンは言い返せなかった。
サコンもまた対人戦で技を磨いてきたのだ、いくとどなくプレイヤーを切り捨てて来た。
「黒歴史を話すと、私は昔モンスターすら倒せなかったよ、怖いとじゃなくて、こんな動物みたいなの可哀想で傷つけられないって。
けど怖いもんだね、今は慣れてバンバン倒せるし、対人戦よくやるお陰でNPCでも簡単に殺せちゃうし」
慣れとは怖い物であった。
シェーロ達はプレイ開始当初、ゲームだからと当たり前の様に倒していた、しかし言われて初めてこの時躊躇なく殺したことを思い出した。
「ああ、一応言っておくけどNPCだろうが情はちゃんと湧くよ。
恋愛シミュレーションとかであの子萌え~とか、涙なしでは語れない展開に胸打たれるんだから。
今回の事はご縁が、出会う機会が悪かったという事で」
ミナモは出会った時と同じく退屈そうにしながら踵を返しその場から消えて行った。
残された者達は、価値観や強さが違う存在に思案するだけだ。
ある者は言うだろう、この世界はもう一つのリアルで、神ゲーだと。
しかしミナモはこのゲームを本当に数あるゲームの中の一つとしか見れなかった、しかも部類は駄目な方に属する、所謂クソゲーとして。




