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嫌がらせ少女は大志を抱けない。~めっちゃ強い少女はただ無双する事が出来れば良いなぁって思いました~  作者: せいゆ


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そして半年後その2




 馬車に揺られて辿り着いたのは、海岸線沿いにある断崖絶壁立ち並ぶ場所であった。

 崖の近くには船が停泊しており、丁度船に渡れるように橋がかけられている。

 馬車はその橋を渡り、船に乗り込むと、橋が勝手に折り畳まれ陸と別たれる。

 その船はシェーロ達の所属する国の物で、NPCとプレイヤーが乗り合わせていた。


(へぇ、港以外だとこんな便利な魔法、いや魔道具で陸に上がれるのか。

 にしても、正攻法でこの大陸に上がってるわけじゃないみたいだなぁ、本当に何を目的にあの街に居たのか)


 機会があればと思ったが、シェーロもサコンも船内に入って行ってしまい、話をする事が出来なかった。


「ねえねえ、なんであの子達あの街に行ったの?」


 話しかけることが出来なかったからこそ、適当に馬車に乗っていた男性に尋ねた。


「戦争を回避する為だろ」


「そうなんだ」


 ミナモが知りたいのは、誰に会ってどんな会話をしたのかという事だ。

 しかしそれを訪ねてしまうと、ミナモがさらに怪しまれ知る機会を失う。

 しつこくも聴けないため、ミナモは引き下がり目的地に辿り着くのをただ待つ事にした。


 ☆☆


 ログアウトして時間を潰しつつ、到着した港から再び馬車に乗り目的地の本拠地へ向かって歩みを進める。


「やっと勝手知ったる土地か、後は楽に拠点まで帰れるな」


「つ、次こそはしっかりと交渉してみせます、絶対に、絶対に…」


 シェーロは自分が責められていると思い、次の機会に挽回する事を宣言する。

 口にした男性は何故突然そんな事を言うのか最初は理解できなかった、しかし理由を察して慌ててフォローする。


「べ、別に攻めてるわけじゃねぇ、そもそも交渉が上手く行かないってのは仕方ないだろ、アイツ等はアイツ等で何も知らないんだからよ」


(交渉、直接乗り込んで直談判でもしたのかな?)


 出会った時の様子から、簡単に交渉が決裂した事は火を見るよりも明らかであった。

 ミナモは今が尋ねる時と判断し尋ねる。


「相手が誰かは分からないけど、どんな交渉をしたんだい?」


「互いの国の平和のために話し合いをしました。

 平和なのが一番なのですが、…反応は芳しくなかったです」


「その交渉に対する対価は?」


「え? 対価?」


 シェーロは対価と言われても理解できず首を傾げる。

 周りの者も何故平和のための交渉に対価が必要なのか疑問に感じている様であった。


「交渉の基本は対価と駆け引きだよ」


「商売じゃないんだぞ、国と国同士の話だぞ」


「いんや、結局は同じだよ、品物は物資に、信頼を国力で、資金を軍事力で示す。

 さあ、私と交渉をしてみないかい?」


 ミナモは余裕そうに足を組み、不敵な笑みを浮かべてシェーロと向かい合う。

 着ている着衣がしっかりとしていれば、風格があり誰もが背筋を正していたであろう。

 全員がそれに対して何か言おうとするが、ミナモが口にした交渉をしようとすると言葉が出ない。


「どうしたんだい? 私は軍事力で君達をぺちぺち叩くよ、さあ、交渉してごらん?」


 自分達の国とメルシュ王国との国力の差、それを比較して全員押し黙るしかなかった。

 国力だけならず、軍事力などでも劣っていて、交渉できる素材は持ち合わせてはいない。


「まあ、私は君達にどんな権限があるかも分からないけど、交渉するだけの武器を用意しないと話は始まらないね」


「…例えばどんな武器だ?」


 それまで黙っていたサコンが尋ねる。


「そうだねぇ、この国が保有する国力を知らないから明確には口にできないけど、色々と案はあるよ。

 だけど、それを口にする前に、あの街の国が一体どれほどの国力があり、そして情勢がどうなっているか考えてみようか」


「情勢、ですか?

 ……とても豊かだと思いますけど」


「ふむ、それは間違いない。

 人が、いやプレイヤーが介入した事で国が潤い、ある程度治安が良くはなっているだろう。それこそ名声を上げる為と、必要以上にプレイヤーが頑張っているからね。

 とは言え、武力が整えば警戒する国は増えてはくるだろうね」


 人が増えれば国が潤い戦力の増強、その流れは止められない。

 海を挟んでもシェーロ達の国の様に警戒する国は増える、その増える国が武器ともなる。


「周りを利用するのか?」


「利用じゃなくて協力だよ。

 基本的に交渉は回りくどく、そこで他国との連携も必要になる」


「他国と組んで脅すって事か?」


「それも一つの武器だが、あの国は無駄に国力があるし、プレイヤーが勝手にあの国を支援するから物資的にもあの国に分がある。

 おまけに死んでも湧いて蘇るプレイヤーまで居るんだ、そんな国と真面にやり合いたいと思うかい?」


「え、いや、…無理だろ」


「無理ですよね…」


 有象無象のプレイヤーが居る国に連合を組んで挑もうとは思わない。例え最初だけ均衡を保てるとしても長期的見れば疲弊して戦う力が無くなる。


「そうなると武力による交渉は無理。

 抱える問題に対する解決策を引き下げて交渉に着けばいいだけさ」


「問題? …何かあるのか?」


「さあ? スパイでもいれば分かるんだろうけど、知らないよ。

 自慢じゃないが、あの街に居たのは数時間二桁にも満たない時間しか居ない、おまけに私は世間知らずさ」


「さあって…」


「けど無いなら作るだけ。

 さっきも言ったが交渉は回りくどく、だよ」


「は? 作る? ……裏工作か?」


「陥れる様な噂などをこっそりと流せばいい、幸いちょっとしたデマを簡単に流して広まる宣伝塔はあるからね」


「プレイヤーの事か?」


「正解。一つの方法ではある。

 とは言え、相手も出来る方法の一つではあるし、対策も取られる可能性がある。

 裏工作もそこそこ時間が必要な上に成功する可能性が高いわけじゃない」


 ミナモ達が知らないだけで、水面下では間違いなく裏工作などが行われているだろう。


「私はよく分からないけど、もしかしたら緊張感が高まってたり、仲が悪いのもその裏工作が原因かもね。

 特にあの国側の」


「それは…、でも、そんな…」


 シェーロは可能性を考えると、ミナモが口にした事が正解なのではないかと思い始めていた。


「プレイヤーが増えた事で増長した、とか。

 良くも悪くも国が潤っちゃったんだろうね」


 ミナモが口にすればするほど、事実ではないかと思い始めていた。


「どちらにしろ血も流さず平和にすることが第一の目標だろ」


 思い悩み始めた姿を見て、サコンが空気を正常に戻する為に呼び掛ける。

 その言葉で目的を思い出し、己の中で気合を入れて自分達の今までの行いを肯定し気合を入れた。


「そうだな、俺達がやる事は変わらないな」


「そうです、…私もまだ諦めてはいません」


 場の空気が正常になって来た所で、ミナモは本題を尋ねた。


「んで、誰に交渉を持ちかけたの? 相手次第じゃ交渉材料も変わって来るけど」


「大臣をやっているプレイヤーさんですよ」


「大臣? …結構偉いんじゃない? というかプレイヤーが大臣って、マジで?」


「…そんな事も知らないんですね」


「……まあ、うん、そうです」


 何に対する大臣かは不明だが、大臣と言う役職上国のトップにとても近しい立場と言う事は間違いない。

 相当な手柄を上げて貴族になり、さらに手柄を得なければ大臣にはなれないだろう。

 ミナモは思った以上に厄介な相手と交渉をしたのだと分かり頭を抱えた。


「って事は、いや、……裏工作よりも、そのプレイヤーが興味を示すような話題を引き下げないと無理か。

 …言い方は悪いが、属国にでもなれと強気で言われる様な状況なら、どんな餌を引き下げても無理な気がするよ」


「え?」


「…え?」


 ミナモの言った言葉に驚きシェーロが固まった。

 ミナモは頬を引きつらせて首を傾げて尋ねる。


「……まさか、本当に言われてないよね?」


「いえ、その、…遠回しにそんな感じに」


「骨が折れそうな事態だねぇ…」


 相手がNPCならばまだ可能性があったが、プレイヤーとなるとまた話は変わってくる。


「プレイヤーだと駄目なんですか?」


「相手の性格によるけど、NPCよりも損得の取捨選択がきっちりしてるだろうからね。

 例えるならばリアルでお金を貰うのと、ゲーム内でゲーム内通貨を貰うのでは感覚が違うでしょ?」


「確かに」


「裏工作にしろ、賄賂とか根回しをして多少なり味方に付いてもらう事が難しくなる。

 …交渉の場に着かせるような状況を作らないと真面にできはしないだろうね。

 う~む、失脚を待つのが得策か…」


 ミナモが考えながら舌なめずりする姿を見て、サコンが呆れていた。


「…お前、楽しそうだな」


「ん? まあ、これまでにないほど楽しいよ。

 こういう事考える事ができるんだから、面白いゲームだなって、今更ながら思った」


 様々な場所を放浪していたミナモにとっては、まるで別なゲームの様に感じるほど新鮮であった。

 ただし面白そうと思っているのはミナモだけで、周りの者達は一切楽しいとは思っていない。


「とは言え、手詰まりなのは変わらないよ。

 君達の着地点が何処にしたいのかも分からないから、私としてもこれ以上のアドバイスは送れないよ。

 一先ず現状は手ぶらで交渉しても意味無いという事だけは確かだけど」


「うっ…」


 交渉と言ってもただ願望を口にしに行った程度である、現状を甘く見ていたのはシェーロ達であった。


「けど、よく君達は相手の国と交渉できる地位に居られるね?」


 はっきり言えば彼等は交渉に一切向いていない。

 普通に考えれば分かる事も、意図的にその思考に陥らない様にされてるとしか思えなかった。


(こいつ等歪なんだよなぁ。

 相当な地位があっても、そこに思考が付いて来てないって言うか、利用されてない?)


「それは、…一応お忍びの姫様を助けて気に入られて」


「……なるほどねぇ」


 理解したいが理解したくない理由であった。

 その場合はお忍びの姫という存在の正気を疑いたくなる。


「んで、今更だけどさ」


「なんですか?」


「この国の名前とかって何?」


「え!? それを今聞くんですか!?」


「いや、だから今更だよ、一切聞いてなかったし」


「……ピュスト帝国です」


「ふむピュスト帝国ね」


 ミナモは名前をネットで調べ始めた。

 ご丁寧に領土がどれくらいかも情報が出てくる、メルシュ王国のある大陸から海を隔てた場所、大陸の四分の一を領土とする国の様であった。

 他の国とは交流があるが、メルシュ王国とはまた別な大陸にある一部国とは仲が悪い。


(……平凡だね、特産は綿と北東にある鉱山からの鉱石か。

 後は普通、悪い土地じゃないってのは間違いないか)


 平凡とは言うが、ある種安定した土地といえる。

 勢力を伸ばしたいメルシュ王国にとってはその平凡な土地と言うのは魅力的であり、軍事力の観点からも程よい侵略しがいのある国である。


(山脈に隔てられてるから、他国からも攻め込まれにくい、一度落としてしまえばこれまでにないほど良い場所ではある。

 なるほど、悪くない立地ではある、しかし海を隔ててる、海軍の増強が必要不可欠、練度以外はこれと言った問題は無いのか、プレイヤーが勝手に強い戦艦でも作るだろうしな…)


 メルシュ王国は増長してしまっている、そろそろその増長を止めなければいけないが、プレイヤーが勝手に盛り上げてしまう為、国としてもその流れを利用しないわけにはいかないのだ。


(めんどくせぇ状態、どっかで出鼻をくじいてやらないと、多分ヤバイ国になる。

 ……まあ、増長しまくってそのヤバイ国になるってのも見てみたいけど、プレイヤーはどんな反応をするのか楽しみ)


 シェーロ達にとっては望まない結果ではあるが、今のミナモはピュスト帝国に思い入れも無く、このままの状態を続けた未来を見たい気持ちがあった。


「敵襲だ、村が魔物に襲われてる」


 未来のメルシュ王国に夢を馳せていると、騎手が呼び掛ける。

 全員対人戦でないという事に安堵しつつ、武器を取り、村を襲うモンスターに近づくと飛び出して行った。

 苦戦する様子もなく、ミナモは馬車の中で退屈そうしながら戦いが終わるのを待った。

 その際にふとモンスターの動きがおかしい事に気が付いた。


(ん? 別々なモンスターが揃って徒党を組んでる、これおかしくね?)


 群れるモンスターは居るのだが、基本的に同じ種類のモンスターが殆どだ。

 しかし現在村を襲撃しているのは全く種の違うモンスターが複数体であった。

 様子がおかしい事は他の者達も気が付いていて、不思議そうにしていた。

 町の方角をよく見ると、丸太で作り上げた防御壁をよじ登ろうとしている、そのモンスターを兵士達が叩き落としている光景があった。


(しかもなんか鎧着込んだNPCも居る、……こりゃ何かあるな)


 村側からは立派な鎧を身に纏った兵士達が数名高台から弓で攻撃を仕掛けていた。

 村人にしては面構えが凛々しく、自警団にしてはあまりにも鍛え抜かれた雰囲気を纏っている。


(巡回中とか? …わけではないな、少し人数が多い。

 演習で偶然? 偶然なんてあるのか?)


 ミナモはアウトセンスの心眼を利用し、村の様子を確かめると同じような兵士が多く待機していた。

 街道などを巡回したにしては多く、あらかじめ居合わせない事にはこの人数が在中しているのはおかしい。


(襲撃があらかじめ予測出来ていたって所か、しかも人為的な可能性が高いのは間違いない。

 モンスターを襲わせるような何かがあるのか? ……従魔も少し興奮状態だし、なにかそういうのがあるんだろうか)


 馬車を引いていたカバ型の従魔は興奮気味な状態だ。

 戦闘を眺めて興奮しているという様子ではなく、無駄にいきり立っている様な状態であった。

 ミナモはさらに心眼で村の様子を伺い、ある家の煙突から灰色の煙がモクモクと立ち上がっているのを見つける。

 家の中を覗き見れば、兵士が不思議な赤い物体を暖炉に投げ込み必死に燃やし続けている。


(面白くなってきたじゃないか)


 ミナモはニヤニヤと笑みを浮かべて事が動くのをただ眺めるのであった。

 戦いは終わり、ミナモ達は村の中へ踏み入る。

 シェーロが入ると、数名の兵士がシェーロを出迎えた。


「シェーロ様、ご無事で何よりです」


「この事態はどういう事なのですか? 何故村にあんな魔物が? それに何故こんな兵が多く?」


「我々はこの村が襲われるという情報を掴みやってきたのです」


「襲われる…、一体どこからそんな情報が…」


「それは分かりかねますが、確かな情報筋からだそうです」


 全員が不信がっていたが、『味方』が言うならば間違いないと信じる事にした。

 馬車を移動させていき、村の中央付近に向かわせると、陣を敷いていた髭を蓄えた初老の兵士がやってくる。そこに居るだけで存在感があり、身に着けている装備も豪華で地位が高い人間だと一目で分かる。


「これはこれはシェーロ殿、交渉に向かわれたという話ですが、いかがでしたかな?」


 ぎこちなく微笑み、話を流すために現状を尋ねる。


「カザカリー兵長さん、情況はどうなのですか?」


「何者かが魔物を操っているという情報です、しかし既にその何者は西の森で見かけたという報告が既に入っております」


(おやぁ? これはこれは、へへっ、こりゃこっちの国も一癖も二癖もありそうな展開)


 ミナモはカザカリー兵長が嘘を言っている気が付き、その裏の事情を考え始める。


「シェーロ殿、我々にお力をお貸しください」


「分かりました、微力ながらお手伝いいたします」


 何も知らないシェーロは本気で助けになりたいと申し出る。

 その時サコンがミナモを手を掴むと、馬車から降りて無理やり人気のない場所へ連れ込んだ。


「きゃっ、こんな人気のない所でか弱い私に何をするんですか!?」


 そんなふざけた演技を、サコンは冗談を聞き流して話を始めた。


「お前、本気でやってくれないか?」


「ん? 本気って?」


「お前の実力は高いのは分かる、盗賊に襲われた時一撃で倒したんだ、いくら弓の腕が良くても倒す事などできない」


「…ふむ」


 NPCにだって身に着ける装備とステータスが存在しており、攻撃を当てても必ずダメージを追うわけではない。

 簡単に矢で射貫けるわけではなく、撃ち抜けた以上相当の実力がある事をサコンは見抜いていた。


「して、本気を出して何をどうするの? それに私に何か面白い事でもあるのかい?」


「お前の基準は面白いかどうかしかないのか」


「それは立派な行動原理だよ」


「…あいつ等は常に本気なんだ、それに答えてやってくれ。

 だからこそふざけた事を言ったり、水を差す事を止めて欲しい」


 このゲームにのめり込む温度差、熱意というものがミナモとシェーロ達とでは乖離が激しく生じていた。

 ミナモは悪く言えばこのゲームに対して冷え切った感情しか湧かず、ゲームと割り切りロールプレイが出来ていない。問題は無いのだが、やはり熱意が無いと当事者達との間に発生した齟齬が彼等にも影響を与えてしまっている。

 サコンはその温度差から来る弊害を気にしていた。


「冷めた言葉と、今の状況は彼女達を萎えさせる、一生懸命で逆境だからこそ途中で投げ出して欲しくないんだ」


「ふむ、君の言いたい事は何となく分かった。

 ロールをしろという事なんだろ、できるだけ。

 けどその前にさ」


 ミナモは一つだけサコンの言葉の裏にもう一つの意味があるのではないかと思っていた。


「…君は君自身が本気を出してるのかい?」


「俺は…」


 ミナモはサコンが本気でやっているとは思えなかった。

 常に見守るポジションに立っており、お守りをしているという印象が強い。


「ひょっとして頑張る姿を見て、寄り添って自分も頑張っていると思いたいだけかい?」


「それは違う」


「何が違う?」


「それは…」


「自分が他人よりも強く、そして歩幅を合わせる事も出来ない、そう言う事を思っているのだろ」


 図星であった。

 シェーロ達に寄り添って欲しいというよりも、サコンの様に一歩引いた立ち位置から導いて欲しいのだ。


「異名があり、実力を認められ、さらに慕われている。

 心地よいポジションに居るが、本気を出して自分一人が孤立していくのが、今の居場所を失うのが嫌という事かな?」


 サコン自身も言葉に出来ない想いを言葉にされ、内心驚き感情を揺さぶられる。

 自覚が無かったわけではない、しかし言語化されていない気持ちに戸惑い理解できなかった。


「私はさしずめ身代わりや緩衝材みたいなものだろうか」


 ミナモが活躍する事で、サコンの当たる光が薄らぐ、そこで闇の中でサコンは力を出せる。

 ただサコンは本当に本気で取り組んでいる事は間違いではない。一歩身を引いた立ち位置に甘んじていてもシェーロ達と共に行動する熱意は非常に高い。


「……意地悪を言ったね、すまんすまん。

 どうもこういうマウントを取る性分になってしまってね、過度なアドバイスや欠点を指摘したりすると嫌われるのは分かっているのだが、ついつい。

 それに私は吹けば風に流される質だし、どのみち君の願いには答えられないよ」


 ミナモはサコンの背中を軽く叩き馬車へ戻って行った。


(まあ、分からんでもないんだよなその気持ち。

 私も無駄に強くなっちゃったからなぁ…)


 サコンに投げかけた言葉はミナモ自身が思っている事でもある。

 なまじ強くなったからこその悩みであった。

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