そして半年後その1
最初にプレイヤーが降り立つ街、メルテトブルクの一角、人の気配がほとんどない入り組んだ細い裏路地、そこは日差しがほぼ差し込まない。
そこでぼろ雑巾のような状態で倒れこむプレイヤーの姿があった。
ロリータ衣装と和服の融合した和ロリを身に付けているのだが、かつては煌びやかであっただろう衣装はボロボロで破けて痛々しい。
武器として一般的な大きさの大剣を抱えてはいるが、まるで岩の様な色合いであり刃の部分は潰れて物は切れない、そして刀身全体に亀裂が入りなんとか形を保っているようであった。
腰まで伸びた空色の波打つ髪は煤だらけで曇り、体も汚れている。
そんな小柄な少女は寝返りを打ち、晴れやかな空に目を向けた。
「……あ~、ひま」
その少女はミナモであった。
プレイ開始から半年、ミナモは一人ただ黙々と迷走しながらもWLMを続けた。
色んなことがあったが、最初の町以降プレイヤーと出会う事は殆ど無く、NPCが相手ばかりで一人専用のゲームと違いがなくなっていた。
ある程度強くなると急に冷めてしまい、急遽人がひしめくメルテトブルクに舞い戻ってきたのだが。
「まぶし…」
目を一切開いてはいないが目が眩む。
和気藹々とするプレイヤーの笑顔が今のミナモには針のように鋭く心に突き刺さりミナモを蝕む。
そして日陰に逃げ込むように路地裏でへばりついていた。
「あ゛~」
近くの民家の壁にもたれかかり、だらりとスライムのように壁に貼り付いていた。
顔は腑抜け崩れ、なんとか人の形を保っている状態、誰が見ても一歩後ずさるほど外面は酷い。
そんな時、奥の裏路地から飛び出してくる者が居た。
「きゃっ!?」
飛び出し、ミナモの体に躓き前のめりに倒れ込む。
可愛らしい声は顔にも現れている小柄なエルフの少女。そんな少女が顔を抑えて蹲っていた。
纏っているコートは素性を隠す様に地味で、顔もフードであまり見えない様にしている。
「あ゛あ゛あ゛~」
ミナモは突然しわがれたゾンビの様な声を漏らし彼女へと手を伸ばす。
彼女はその声に驚き後ずさり壁に背中をぶつかった。その衝撃でフードが外れ、薄緑色の髪と素顔が露になる。
「ひっ!?」
「お゛いでげぇ…、面゛白゛い事゛、おいでげぇぇ…」
完全にゾンビと違はいない、腐っているか腐っていないかの違いだ。
しかしよく見ればミナモがプレイヤーという事に気が付き、彼女は少しばかりの安堵した。
「え? プ、プレイヤーさん? って、こんな事してる場合じゃない」
エルフの少女もミナモ同様にプレイヤーであった。
少女は慌てて立ち上がり、急いで走り出そうとする。
「お゛お゛お゛、おいでげぇぇ」
ミナモはしわがれた声を続けて放ち、少女の足を掴むと、彼女は再び前のめりに転んでしまう。
「もう! な、なんですかぁ!?」
「おいでげぇぇ」
「や、辞めてくださいその声も妨害も! 私は追われてるんです!
って、わぁぁ!? 追いついてきたッ!?」
彼女の飛び出して来た裏路地から、白銀の鎧を纏った男性が慌てて飛び出してくる。
そして少女の姿を見た金髪の男性がにやりと不敵に微笑んだ。
「こんな所に居たのか、手間を掛けさせやがって」
「おいでげけぇ」
ミナモは新たなプレイヤーの足を掴むと、彼もまた壁にぶつかる様に転び頭を打ち付ける。
「ぐっ、…こ、この、な、何しやがる!?」
「お゛い゛、でげぇぇ」
「なんだこいつ…」
二人は困惑してミナモの手から逃れようとするが、万力で固定されているかのような力で束縛され、足を動かす事が出来なかった。
「ぐっ、ぐわ!? お、俺の足装備が歪んだ!? ちょ、な、なにやってくれてんだ!?」
あまりにも力を入れるので、足の金属装備がミナモの手の形に歪み凹んでしまう。
「面白い事、おいでげぇぇ」
「なんなんだこの変な乞食は、放せ!」
「放してぇ!!」
二人は必死にもがいていると、再び裏路地から全身黒ずくめのヒューマン男性プレイヤーが現れる。
そして問答無用に金髪の男性プレイヤーに切りかかり、そのまま撃破して剣先をミナモに向けた。
「サコンさん! この変な人も倒して!」
サコンと呼ばれた黒尽くめの男性は、ミナモに切りかかろうとするが、ミナモは体を軽く捻り立ち上がると、まるで武器の様に彼女の足を柄として見立て構える。
「きゃー!? なんで持ち上げてるんですか!? 武器の様に構えないでくださいよ!!」
「こちらも抜かねば不作法というもの、ハッ、かかってこい。ヌッ、ハッ!」
「や、やめてぇ!! 降ろして!」
ミナモは無駄にふざけた声で気合を入れてサコンと対峙する。
サコンはそんなふざけた態度に呆れてため息を吐くと剣を仕舞った。
「むむっ、敵を前に刃を納めるとは、貴公、さてはむっつりドスケベだな。
よかろう、存分にこのおなごを好きに使っていい権利をやろう」
「なんでそうなるの!? どういう話の流れなの!?
というかなんで私は好き勝手されるの、そんな権利は無いでしょ!?」
「このおなごはツッコミ属性持ちか、稀に見る才能の持ち主よのぅ、のぅ、お主もそうは思わぬか?」
ミナモはそんな事を尋ねるが、サコンは少女の手を取り路地から出て行こうとする。
そんな時に後ろから再び白銀の鎧を纏った三人の集団が現れ、剣を抜いて襲ってくる。
「サコンさん!」
「チッ、やれやれだ!」
サコンは剣を抜き取りミナモの脇を抜けると白銀の鎧の男たちに襲い掛かる。
「黒夜の疾刀…ッ!」
一方的な力を白銀の男達に見せつける。
サコンの抜いた剣により一瞬で切り捨てられ、生き残った一人が睨みサコンをそう呼び捨てた。
「な、なんだって黒夜の疾刀だって!?」
ミナモはその名前に驚き叫ぶ。
のだが。
「って、何?」
全くといって知らない異名に少女に尋ねると、少女は軽くずっこける。
「もう、…本当に、貴方は一体何なんですか…」
「変な奴に構うな、行くぞ」
「うむ、行こうではないか」
それに答えたのはミナモだ。
そんなミナモに二人は軽く睨みを効かせるが、ミナモはそれに怯む事は無かった。
「なんだね、その空気読めてないウザイ奴を見る視線は、私は怪人暇つぶし人間だぞ。
面白い匂い漂う君達について行けないなんて選択は無い。
さあ、行こうではないか」
二人は無視して歩き出すと、ミナモもその後ろをついて歩く。
「どっこいっくの、愛の逃避行? 私が間に割って入って寝とり展開?」
「話しかけるな」
「やだな~、この子ってば照れちゃって、美少女に囲まれてるからってかっこつけちゃって」
「私達は遊びではありません、それに付いて来られると困りまし、貴方にも迷惑が掛かります」
ふざけているミナモとは対極的に、少女はとても真剣な様子で注意をする。
「えー、いいじゃないそれくらい、どうせ退屈だし、付き合うよ」
「勝手にしろ」
「え? けど、サコンさん…」
「どのみち、アイツ等の邪魔をしたんだ、コイツも追われる事になる。
知った事じゃないが、弾除けは多い方が良い」
少女は不満を漏らすが、サコンは渋々受け入れる、だが顔に書かれるほど嫌悪感を露にしていた。
「…邪魔だけはしないでくださいよ」
「善処はする。
私はミナモだよ、そっちはサコンさんで、君が」
「私はシェーロです」
「自己紹介は後だ、行くぞ」
サコンが独り歩きだし、その後ろを慌ててシェーロも歩き出した。
(訳アリの子達、なんか楽しそう)
楽しそうな人達と出会い、内心喜びその後ろを付いていく。
向かう先は街の外。西門から外に出て、ミナモ以外は警戒しながら小走りに移動する、そして20分ほどの距離にある森へ入っていった。
ミナモは森の中に入った頃、無駄に沈黙が続く状態に嫌気がさし、街の中で襲って来た者達が何者なのか尋ねる。
「ところで、街の中で君達を襲っていたあれは何?」
「え? 知らないんですか?」
「全く知らないよ」
「えぇ…、有名ですよ、白狼近衛騎士団ですよ」
「何それ?」
「秩序を守るLo10のクランですよ」
「……えるおーてん? …それはつまり10歳程度のロリが好きな集団って事か! つまり変態だな!」
「何故そうなるんですか? え? 本当に知らないの? Lord of 10ですよ」
「……ふっ、何を言っているかさっぱりだぜ」
ミナモはLo10が何なのか本当に知らず、知らない事をシェーロは驚愕している。
流石にそこまで驚かれると、ミナモも空気を読まなくはならず、こっそりと検索を掛けた。
「えっと、……それは突如として運営に任命されたプレイヤー達10人の事である」
「そのまま読んでますね…」
WLMの解説サイトにある説明文をそのまま読み上げる。
「Lo10に選出される基準は不明だが、そこには活躍や行動などが関わっている可能性が高い。
プレイヤーにランキングがあるという噂があり、プレイヤーの中には善業を積んだり強さを磨き、Lo10に選出されるために努力している者達も居る。
へぇ、そうなんだ、知らなかった」
「初心者さん、ですか?」
Lo10を知らない者など初心者位なものだ。
しかしミナモは調べる必要のない環境に居て、単語も耳に入る事の無かった。
「攻略サイトなんて実に数か月ぶりに見ただけだぜ。
試行錯誤でやって行くと面白かったぞ」
面白かったのは過去の話だ。
現在は目標があまりなく、ただ退屈と戦う日々であった。
「まあ、そのせいでこのゲームの知識なぞ歪みまくってるよ」
「そ、そうなんですか……」
「それは詭弁だ」
そんなミナモの言葉を断じるのはサコンであった。
「調べようと思えばなんだって調べられる、歪みだって正そうと思えば正せる、お前はその気が無かっただけだろ」
「正論やみちくり~、けど、手探りで一から探すのも楽しいもんだよ。
時間が経つと正そうとする気も無くなるけど」
サコンはそれきり言葉を交わす事は無かった。
そうこうしていると、目的地に辿り着いたのか、道を外れた場所だというのに馬車が停車していた。
その馬車の周囲には武器を構えて警戒している者や、欠伸をしながら退屈そうにしている者も居る。その中の一人がサコンの存在に気が付き一瞬警戒するが、サコンとシェーロだと分かると警戒を解いた。
「旦那に姫さんか、…それと、そっちのボロボロのは何だ?」
「知らん奴だ、巻き込まれたから一応連れて来た」
「暇だからついてきました」
「……大丈夫なのか?」
「白狼に手を出してたんだ、少なくともコイツも追われるだろう」
「手を出してた? …ならいいか、とりあえずさっさとずらかるぞ、敵地だと思うと落ち着かねぇ」
「ごめんなさい」
シェーロが謝ると、警戒をしていた男プレイヤーは居心地が悪くなり頭をぽりぽりと掻きむしって馬車に乗る様に指示を送った。
シェーロが馬車に乗り込んだのを見てミナモも乗り込み、全員入ると、最後にサコンが乗り込み周りを強く警戒する。
カバの様な頭部の大きく短足な従魔に指示を送り、道なき道を歩き出して北の方へ走り出した。
「そういや理由も聞かずについてきたけど、どういう感じなの?」
ミナモは彼等の事情を一切知らない。
シェーロは眉間に皺を寄せてサコンに視線を向ける。
「構わん、触りだけでも話してやれ」
「……私達は他国に着いたプレイヤーです。
メルテトブルク、メルシュ王国とは敵対関係にある国に所属しています」
国同士全て仲が良いわけではなかった。
ただし一般的なプレイヤーは全てメルシュ王国に組していると思っている、仲の悪い国はあまりない、というのが一般的な認識であった。
「ふーん。
あっ、つまりあの白狼なんとかは、あの国所属って事なんだ」
「…それはどうだろうな」
拒否するのは馬車で警戒をしていた男性であった。
その様子から察し、ミナモはある程度の事情を把握する。
「それはNPCもプレイヤーも一筋縄ではないという事でいいのかな?」
言葉は発することなく頷く。
NPCは己の考えや使命を準じて行動する、人と変わりないからこそ一癖も二癖もあった。
プレイヤーもまた星の数程居て、その星の数ほど考え行動している為、情況はミナモが想像するよりも複雑な可能性があった。
(NPCがプレイヤーを利用しているか、はたまた逆か。
どっちにしろ色々あるのは分かった)
シェーロ達は内政、政治の中に身を置いている事は確かだ。
「あっち側からしたら国賊とかそう言う感じね」
「国賊って、私達は別に……」
国賊になったつもりはない、そう言いたかったが、プレイヤー視点で見れば敵である事には変わり無かった。
馬車に居た者の一部がミナモに睨みを効かせるが、ミナモは適当に笑ってあしらう。
「まあ、物は言いようだよ、ゲームなんだし気楽にやろうぜ」
ゲームだから、その言葉を口にしても、彼等は何処かその言葉が遠くから聞こえる様な錯覚に陥っていた。
遊びだからと言っても、VRという環境と高性能AIも合わさり、現実の様に重苦しい感覚を感じていた。
それ以降馬車の空気が重くなり、ミナモはその重苦しさに口を閉ざした。
(めんどくさいなぁ、……しかし、このゲームって戦争とか起きるのかな?
まあ、起こそうと思えば起こるのだろうけど)
自由だからこそ、このゲーム内で起きる事は平和な事以外にも多々ある。
NPCに攻撃が可能で、感情がある為何かきっかけがあれば戦争は起きるだろう。例えプレイヤーが絡まなくてもNPC同士が勝手に物事を進めて戦争が起きる事だってある。
(ま、適当に空気が良くなったら街に居た目的でも聞いてみるか)
ミナモは防水布で出来た壁にもたれ掛かり、その時が来るまで待つ。
しかしそれよりも前に馬車が止まり、運転席にいた騎手が荷馬車の者達に話しかける。
「村がある」
「村? ここ等辺に無いはずだが」
地図には現在地周辺に村があるという記載は無い。
ミナモの地図にも同じく載ってはいなく、ミナモがぽつりと呟いた。
「NPCかプレイヤーが新しく作ったんじゃないの?
どっちにしろ近づかない方が良いでしょ」
「それがそこを通らないと迂回する事になる」
視線はサコンに集中して、サコンはちらりと片目だけを開き答える。
「迂回する。
プレイヤーにしろNPCにしろ、面倒事は避けられないだろう」
「了解」
「何故ですか? 私達は別に大々的に指名手配されているわけではないですよ」
シェーロが不思議そうに口にするが、村の方に問題があった。
「チミチミ、のほほんとした平和なファンタジーならいいけど、無駄に凝ったこのゲームで、新しい村があるというのはろくでもない事態だよ」
「どういう事です?」
「NPCならまず盗賊、プレイヤーでもそれらの拠点になってる可能性が高い」
「プレイヤーなら分かりますけど、NPCの盗賊?
それに領地を貰って開拓ということだってあると思いますけど」
「例えばだね、国に納める年貢という物に耐えられなくなって、盗賊に身を落とすなんてのが普通にあるんだ。
もしくは何処かから逃げ延びて来た盗賊達とかね。
その証拠に真面に栽培とかしている様子も無いし、周りの土地が荒れている、防御壁も村にしてはあまりにも簡素」
人里離れた馬車の車輪の跡すらない道無き森の中、家々は簡素な出来、家の周りは荒れ手入れが殆どされていない。
そこに住むには聊か不便であり、隠れ住むには持って来いな怪し場所だ。
「そ、そんな事があるんですか…」
「とは言え、目視できる範囲に馬車が入ってしまった、そう簡単にここ等辺から抜け出せるかな」
「え?」
「村の人達だって警戒はしているだろう、何故ならここは獣がうろつく人里離れた場所、生活だって大変だ、そこに馬車が来るなんて只事じゃないからね。
もしかしたら生きて返さないと追って来るかもね」
話を聞いていた者が警戒をして各自外を眺め始めた。
サコンは両目を閉じてはいるが、村があると聞いた時から警戒していて、常に周囲の気配を読んでいる様であった。
迂回して横にそれていくが、その途中サコンが両目を開いて剣を手に呼び掛ける。
「来るぞ、相手はきっとNPCだ、本気で相手にしないとこちらがやられる」
サコンの声に半数が驚き慌てて武器を手に持ち震える。
馬車の速度が上がっていき、どんどん道なき道ではあるが速度を上げていく。
馬車には魔法が掛かっており、揺れなどは殆ど無いが、この時ばかりは揺れの軽減が間に合わず全員が手すりにしがみついていた。
風きり音がすると、馬車の一部に矢が突き刺さる。魔法の障壁を張ろうと焦りながら半透明な壁を展開する。
「出来るだけ戦いやすい所、もしくはこの森から出た後少し走って奴らを森から誘い出した所で戦う」
「無茶ですよ! 相手はNPCなんでしょ!? 練度が違います!」
NPCと言う言葉を聞くと、大半は臆病風が吹いたように、最大限の警戒をしていた。
ミナモは何故そこまでNPCに怖がっているのか不思議であった。
「そんな怖がる事? 所詮NPCでしょ?」
「NPCは強いんです! その位の常識をちゃんと理解してください!」
シェーロが泣きそうになりながら叫ぶが、ミナモはやはり理解できず首を傾げる。
「そんな強いの? NPCだよNPC、有象無象だよ」
「一般NPCは弱いかもしれないけど、盗賊とか街に居る兵士とかのNPCは段違いな強さなんです! 動画とか見た事ないんですか!?」
「ないよ」
即答するミナモに呆れて溜息が自然と零れる。
「このゲームのNPCを舐めない方が良い、普通のゲームとは違う、プレイヤーなんて軽くあしらわれるぞ」
このゲームでのNPCはただの脇役ではない、強さはプレイヤー以上の実力があり、装備を固めても実力で押し切られる事が殆どだ。
しかしミナモの実力はそれ以上、プレイヤーとNPCの実力差などドングリの背比べ程度の差しかないという認識であった。
「はいはい、それよりも弓とかないの? 応戦して少しでも削って行いと大変だよ」
ミナモは馬車に当たった矢を抜き取り、手を出して弓を求める。
「…弱いのしか無いぞ」
サコンは道具欄から弓と矢筒を取り出してミナモに手渡す、ミナモは矢筒を床に置き、矢を番えてふり絞り狙いを定める。
「この揺れでは当たらないだろ」
「それはゲーマーの見せ所よ」
弾道を予測し、ミナモは矢を放った。
狙い通りの個所に飛んで行くが、NPCは矢が見えている様で、体を逸らして矢を回避して馬の様な魔物に跨りながら追ってくる。
「ふむ」
「外れただろ、しかし狙いは良かった」
「ならこれで行こう」
矢を二本番い、狙いを定めて放つと同時に、即座にもう一本放った。
普通ならば二本目は真面に狙えるほどの精度は無いが、逆方向に回避した相手の眉間に矢が命中し、落馬して打ち付けられて絶命した。
「……よく打ち抜けたな」
「魔力を籠めれば威力が上がって打ち抜けるからね」
「魔力? MPの事ですか?」
「そっ、まあスキルなしに発動させるアーツみたいなもんだよ」
スキルなしにアーツを発動させることは難しいが、出来ないわけではない、誰もしたいとは思えないほど魔力が軽減なく注がれる。
素直に認めたくはないが、三本の矢で相手を打ち倒す実力というのだけは認めなくてはならず、素直にミナモに称賛を送る。
「お前は不遇な弓を上手に使えるんだな、凄いぜ」
「不遇ねぇ…」
このゲームで弓は不遇だ。
無駄にリアルを求めてしまったばかりに、自動的に誘導しない矢は自分の技量で当てるしかないのだ。
一応オート戦闘時、素晴らしい精度で矢を放ってくれるが、あくまで目の前にいる相手のみであった。放射線を描いて放たれる矢の性質を利用し障害物を退けて攻撃するという奇抜な攻撃などはオート戦闘で対応できない。
「さて、一先ずやれるだけやっておこうかね」
一人仕留めただけではない、ミナモは次の攻撃を仕掛ける。
途中から自分の魔力で作り出した矢を使い、自在に矢を放つ事で相手を撃退し始め、森を抜ける前に追跡者たちの撃退に成功した。
「マジかよ、退けちまったのか、…すげぇ腕だな」
「ふふんっ、もっと褒めて崇めると良い、フハハハハッ」
胸を張るミナモだが、謙虚さが感じられず、全員が褒める気が無くなり若干引いていた。
「あれれ? 称賛の声が聞こえ無いなぁ、もっと褒めないと誤射しちゃうかもなぁ」
「よ、よくやったぞ」
脅すような言葉を聞いてぎこちなく褒め始め、ミナモはそれを聞いて満足するのであった。
時間が飛びます




