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嫌がらせ少女は大志を抱けない。~めっちゃ強い少女はただ無双する事が出来れば良いなぁって思いました~  作者: せいゆ


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そして旅に出るその10



 時間はエルニカが飛び出していった後に戻る。


『面倒だからお断る。

 エルニカさんがすればいいよ』


 とミナモは言えるわけも無く、エルニカが戦火へ足を踏み入れるのを見守るしかなかった。

 取り残された馬車内部の人達は、途方に暮れ事の次第を見守るしかない。


「俺も行くぞ」


 そんな中セブラが話を理解していないのか立ち上り、馬車を降りようとする。


「駄目っすよ、ちゃんと待ってないと」


 男子に一切話しかけていなかったアイゾーが珍しく呼び止める。

 それでも言う事を聞かなず、アイゾーが腕を掴み引っ張り無理矢理中に座らせる。


「駄目っす」


「クッ、なんで女連中はそんな力が……」


 抵抗したつもりでも、アイゾーの腕力には勝てず、悔しがりながら床に拳を叩きつけた。


「弱いなら弱いなりの事をするっす」


「なんだよ…、俺が弱いってのかよッ!」


「言われた通り待っす、それで十分っす。

 状況も理解できないから弱いっす、血気盛んな人は迷惑なだけっす」


「雑魚雑魚ざ~こ」


 煽る様にミナモが言うと、キッとセブラが睨みつける。


「ミ、ミナモちゃん、煽るなっす」


「けどお兄さん雑魚だし~、煽ってないとあたしを見ないしー、飛び出して無駄死にしちゃうよ~」


「きゅ、急にキャラが変わった」


「なんというメスガキ力っす…」


「このッ」


 腹を立てたセブラが拳を振り上げるが、その拳がミナモを襲う事は無かった。


「…は?」


「お兄ちゃん腕無いよー、かわいそー」


「え?」


 全員が目を見開き驚愕する、そこには先程まであったはずのセブラの両腕が消え去り、いつの間にか地面に転がっていた。

 そしてミナモがどっこいしょと言って立ち上がり、馬車の運転席側から躍り出て、震えるNPCの肩を叩いた。


「武器無い? 武器なら何でもいいよ」


「な、なにをした、…っすか?」


「殲滅の方が早い」


「え?」


「特に強い人も居ない、殲滅に10分もかからないよ」


 NPCが馬車の隅に立てかけていた、ミナモへ剣を差しだした。

 ミナモは受け取り腰に取り付け、鞘の角度を横になる様に微調整し始める。


「うん、剣、懐かしい。大きさが足りないけど、十分良い。

 やはり武器はこうでなくちゃいけない、いつの間にか封印されてたコレとは違う」


 剣の柄に手を置き、嫌味を言った神器に視線を一瞬向けた。

 神器は何の変化も無くただ腕に身についていた。


「ま、待ちなさい」


 制止を無視し、馬車から飛び出て一歩踏み出す、するとミナモ目掛けて矢が飛んでくる。


「ひっ」


 飛んできた矢がクルクルと回転しながらNPCが座っている座席の隣に転がり刺さった。


「弱い者の虐めの始まりだ」


「ミ、ミナモちゃん?」


 何が起きたのか理解できない、混乱する中アイゾーだけが矢が間違いなくミナモを捕らえていた事だけを理解した。


 ☆☆


 射手は困惑した、間違いなく仮面をかぶった少女を狙い撃ちしたはずであった。

 しかし矢が外れ、とてとてと変わらず前線へと歩みを向けている。


「あ、あれ?」


 自分の役割は牽制と新しく現れる敵に対しての攻撃だ。

 その役割を果たす為にもう一度矢を番い弓を絞り狙いを定める。


「こ、今後こそ」


 解き放った矢は吸い込まれる様にミナモに向かって行くが、やはりその矢は届く事は無くその横にころりと転がる。


「え? ええ?」


 理解が追い付かず、手が止まる。

 何か悪い夢でも見ているのではないだろうか。

 ミナモがてくてくと歩き、目の前から来た盗賊の1人の姿が消え去る光景が見えた。

 ミナモは左手に持っていた剣をいつの間にか振り払っており、クルクルと回して再び肩にかけていた。


「……回線落ち?」


 実際は襲い掛かった盗賊が一振りで横薙ぎに吹き飛び森の中を転がっている。


「ああ、これは夢だ」


 夢だから人が消える、夢だから少女が手を振りこちらを見る、夢だから幽霊の様に瞬間移動してはどんどんと近寄って来る。

 夢だから――。


(あ、空が綺麗)


 体の半分が吹き飛び、視界は空しか映らない。


(なんと言う悪夢なんだろ。

 もしこれが夢じゃないなら、……俺は最初からゲームを始めよう、もう盗賊なんてしたくない)


 上司から散々言われ、何が面白いのか理解できなくなってきていた。

 だから足を洗い、真っ当に泥を啜ってでも生きる、そう思いながら目を閉じた。


「う~ん、HPが削れる、移動距離じゃなくて、完全に力加減だなぁ」


 ミナモはアウトセンス状態の時、どれだけ体力が削れるのかを試していた。

 短距離での移動での削れ具合、力を抜いての移動具合、それらを確認しながら目についた相手を屠る。


(しかし、レベルががっつりと上がるな、モンスター狩るよりも断然お得だ、PKの効率がいいのか)


 モンスターを倒した時以上の経験値が入り、癖になってしまいそうなほど大量に経験値が入る。

 ミナモは仕様が理解できずにいるが、経験値が多く入るのには仕掛けがあった。


「ねえ、いっぱい経験値入るんだけど、理由知らない?」


「え? 貴方誰かしら?」


 後輩達の様子を見に来た盗賊達の上司である、角の生えた女口調の男性、ハイナリーが首を傾げてミナモに尋ねる。


「私は弱い者虐めウーマン、よろぴこ。

 それよりもどうしてプレイヤー倒した時一杯経験値入るの?」


 それがハイナリーの求めていた答えであった。間違いなく目の前の少女が後輩を倒したのだ。

 ハイナリーは腰に下げていた金槌二本両手に持ち構え、笑顔を向けた。


「それはね、レベルが低い相手が高い相手を倒した時に異常なほど入るからよ」


「へぇ、じゃあ接待で楽々上がるね」


「それがそうでもないのよ。

 システムが互いに本気でぶつかったと判断した時だけ、その経験値が入るの」


「本気、ねぇ」


 一方的な攻撃に本気も何もない。

 ミナモも本気で動いたわけでもない為、システムが本当かどうか疑わしい。


「けど不可解よね」


「不可解?」


「情報じゃレベル20前後の人しか居ないって話だったのに、何処に居たのかしら?」


「私レベル23だったよ。

 今は28だけど」


「嘘を言っちゃいけないわ。

 貴方潜んでいたのね、レベル偽証を使える人ってそんなにいないと思ったのに、今後はもっと調べないといけないわね」


「へぇ、偽装できるんだ、…なるほどなぁ」


 互いに一歩踏み出し、攻撃を仕掛ける。

 ミナモは体力を減らない様にギリギリの力で剣を振るう。


「あっ」


 互いに獲物をぶつけ合うが、ハンマーの頭部に当たった剣がけたたましい音を立て折れ、刃が吹き飛んで行く。


「武器は大事にしなくちゃ駄目よ、悲しがっているわよきっと」


 ハイナリーがもう片方の手に持ったハンマーで殴り掛かるが、紙のようにゆらりと回避し距離を離す。


「あー、借り物なのに、弁償しないと駄目なのかな」


「借り物? だから武器からは何も伝わってこないのね」


「伝わる? いみふ」


 ミナモは剣を投げ捨て、安売りしていた頼りない戦斧を構えた。


「武器は人を選ぶ、そしてしっかりと作り込まれた武器には意志が宿る。

 私は鍛冶師、だから武器の心が分かるのよ」


「心ねぇ」


 リング状になっている神器に向けるが、ミナモには心を読む事は出来ない。

 視線が外れたことで隙が生れたと思ったハイナリーは距離を一気に詰めて、ハンマーを叩き込む。

 しかし戦斧の剣の腹で受け止められ攻撃が当たる事は無かった。


「ふんっ」


 受け止められたが、押し切ればダメージは通る。

 ミナモは抵抗せず、体を浮かせると、相手の力に任せてそのまま後方へと飛んで行った。


「やっぱり紙の様ね」


 ハイナリーはさらに追撃を入れる為に近づき攻撃を仕掛けるが、突然衝撃が走り、横薙ぎに倒され地面を転がり樹木に叩きつけられる。

 即座に身を起こし、体力を確認するが、体力は一割も減ってはいなかった。


「な、何が起きたのかしら?」


「武器が人を選ぶ?」


 ミナモは不気味にカクっと首を横に傾げる、その仕草が人には見えない、だからこそ攻撃を躊躇いハイナリーは警戒した。


「違う、違うよ」


 そして逆撫でする一言を言い放った。


「人が武器を選ぶんだ、武器が人を選ぶんじゃない、人間が武器を『選んで使う』んだ。

 道具は使う、人が使われる事はない」


「……それは長く武器職人をしている私への宣戦布告かしら?」


 ミナモは別にハイナリーに言ったわけではない、使い物にならない神器に対する嫌味である。だが実際にミナモが思っている事でもあった。

 武器に意思があり使用者を選ぶなら、どの武器からも選ばれない人間が居た場合使う武器が無くなってしまう。そんな悲惨な状態になるよりも武器である以上持ち主に使われるのが一番である。


「…これでいいか」


 ミナモは近くに突き刺さっていた、エルニカの刀を手に取り、戦斧を放り投げる。

 刀はミナモの身長よりも長く、背丈の問題で扱い難い長さだ。


「意志があると言うならば、よく見ておけ『ゴミ』、使い手が使えない武器に存在価値はない」


 それは封印された神器に向けた言葉、しかしハイナリーはまるで自分に向けられたかのように思い激怒した。


「ふざけないで……、これから先貴方が使う武器は悲しむわッ! こんな人間に使われたくないって!

 ……訂正なさい!! その子(戦斧)に謝りなさい!」


 力を籠め、戦気を開放する。

 ハイナリーの周囲には赤いオーラが全身を覆っていた。

 ビリビリと伝わる波動に少し離れた場所に居た盗賊達は凍り付き、固唾をのみ込み戦慄しながら眺める事しかできない。

 そんな中ミナモはとてもつまらなそうにしながら、そっぽ向き。


「塵散手、雲散霧消之太刀…」


 ハイナリーはミナモの姿が倒れるような錯覚を見る、そして次の瞬間その場から小さく砂埃を舞い上げ消えた。


「動くな、死にたくなければな」


 刹那、その声はハイナリーの背後から聞こえてくる。

 相手にしていたはずの声が後ろからする、言葉の意味とは真逆に体は勝手に動き出し。


「――――」


 ハイナリーの上半身が崩れた。

 文字通りばらばらと塵となって体が崩れていく、立ち上る血飛沫は霧となり天へと上り、振り返る頃にはその姿が消え失せていた。


「嗚呼、刃こぼれしている、切れ味は良くてもこれだから刀は脆くて嫌いだ」


 いつの間にか宙を舞っていた鞘を刀を天へと向けて、降りてくると刀に収まる。そして再び腰へと戻す。

 そして周囲に居る盗賊を眺め、その姿を消失させ、虐殺が始まった。


 ☆☆


 倒れ伏すエルニカを助ける為に、折れた剣を投げつけシルフレッドの攻撃を止める。

 目の前を通り過ぎる剣を警戒し、シルフレッドが何処からの攻撃か見渡すがミナモの姿を見つける事はできなかった。

 その隙を見てミナモは、ログアウト中に調べたエルニカの情報から言葉を選んで投げかける。


「何時まで悲劇のヒロインをしてるんですか?」


 その言葉に自分の心に大ダメージを受けた。


「ぐふっ」


 自分で言って悲しくなる言葉だ。

 何時までも過去を引っ張りいじけているのは自分なのだから。そして投げかけられたい言葉でもあった。

 エルニカは立ち上がり、無意識にアウトセンスの領域に踏み入れ攻撃を仕掛けていく。

 その光景にミナモは感慨深いものを感じていた。


「何時まで悲劇のヒロインしてんのかねぇ。

 …この期に私も立ち上らないとな、本当に」


 パンパンっと自分の頬を両手で叩き気合を入れる。

 ほっと一息つき、共倒れしたのを見届けてから、ミナモは馬車へと戻った。


「やあやあ、皆言いつけを守れるいい子だったみたいだね、偉いぞー」


 出迎えたのは目を白黒している面々で、ミナモは馬車に乗り込み、壊れた剣を取り出す。

 回収した壊れた剣をNPCに渡し、謝った。


「すまん、なまくら刀が折れた、けど盗賊居なくなったから許してね」


 言葉には棘があり、粗悪品だったことを遠回しに責め立てる。

 しかしそこそこ普通な性能の剣であり、相手のハンマーが異常な強さだっただけで、商人が悪いわけじゃない。


「え? あ、はい……」


 再び馬車から降り、この場に居る全プレイヤーとNPCに向けて言い放った。


「さあさっさと移動するよー、少しでも街に近づくようにしておかないとね。

 ほら移動だ移動ー、ゆっくりしている暇はないぞー!」


 急かすと、慌てて準備を始め、5分後にはこの場を離れる事になった。

 ミナモは馬車の屋根に乗り不満そうにしながら周囲を警戒し、下では何が起きたのか、尋ねたいプレイヤー達が悶々としながら見守るしかなかった。


 ☆☆


 三時間後、早馬となる、隼の様な姿の四枚羽の大きな鳥に乗るエルニカの姿がそこにはあった。


「お、はえ、意外と早かった。

 盗賊は諦めたのかな?」


 ミナモは手を振り迎え、さらに10分後に、飛行移動する中でポピュラーなグリフォンに乗った一部の護衛者達が戻って来る。

 何も物を奪われていない事を不思議に思っていたが、相手が奪わなかっただけと言い聞かせて深く追求する事は無かった。

 エルニカは無言で訝しんでは何も言えず、ミナモの隣で座り込んでいた。


「あ、そうだ、これ返すね、めっちゃ刃こぼれしちゃったよ、ごめんね」


 手渡された刀を見て、少し驚くが、あの場を乗り切ったなら当たり前の事だと言い聞かせ受け入れる。

 手を伸ばして鞘を馬車の内部に投げ捨るようにして戻し、再び天井に寝転がり一息つく。


「…レベル凄く上がってるわね」


「なんか武器職人の人が高レベルのプレイヤーを倒すとがっつり上がるって教えてくれた。

 はぁ、一気にレベル上がると、そこまでの楽しみというか醍醐味が吹き飛ぶんだよね、知識も得られぬままになっちゃうし」


 現在のレベルは58と、二倍以上の数値となっていた。

 プレイ開始三日目でそのレベルは異例であり、実際目にした者ならば異常じゃないかと疑うほどだ。

 エルニカは何からツッコミを入れればいいのか、その事で頭を抱えるが、まず初めに。


「ミナモちゃん、ありがとうね」


「さあ、何のことですかね」


「私、立ち上れたわ」


「自分で立ち上がったんだから、礼なんていらないよ。

 まあ、おめでとう」


「ありがとう…」


 問題を口にする気が失せてしまい、エルニカも寝ころび空を見上げる。

 日が昇り朝日が空を輝かせて見せる。

 今この時だけは、黄昏ていたい気持ちが強かった。



 目的地のセレンへとたどり着き、問題なく倉庫の立ち並ぶ地区へとやって来る。

 初心者達に交じり、護衛をしていた者達が謝罪と言わんばかりに、荷物の運び方を手伝っていた。


「凄かったっすね」


 ミナモは来る時同様、倉庫にある壁にもたれかかり、搬入作業を眺めていると、そこにアイゾーがやって来る。


「やらんの?」


「サボりっす」


 アイゾーが横に腰を下ろし、同じように作業を眺め始めた。


「ねえ」


「なんっすか?」


「レベルの偽装とか見た目も変えれたりするのってどうやるの?」


 アイゾーの表情が凍り付いた。

 少しの無言の後、ぎこちなく笑みを浮かべ。


「バレてましたか」


 言葉の語尾に「っす」を付けることなく、丁寧な口調に変る。


「何処で気が付きましたか?」


「馬車に乗って時俯いて口をパクパクしてた時」


 出発時に顔を隠すように俯き、一言二言口をパクパクと動かすのを確認した。

 内容は分からないが、その時誰かとフレンドチャットで会話していることに気が付き、何食わぬ顔をしていたのが決めてであった。


「…随分前ですね」


「あの後盗賊も来たし、それに、えっと、男の子を止めた時に力が強かったからね。

 答え合わせは必要なかったよ」


「私もまだまだっすねぇ」


 顔を両手で覆い、コシコシとこすり付けてため息一つ吐く。その表情は崩れ疲れた様子だ。


「偽装も変装も教えてあげられないっすよ」


「じゃあいいや、探すのもゲームの醍醐味だし」


「…私を倒さないんですか?」


「ぶっちゃけ、三日前まで宇宙海賊として、ヒャッハーとかやってた身だし、危害が無いから別に倒す必要もないし。

 恨みがあるとするならば、レベルが上っちゃった事くらいかな」


「とんでもない理由で生かされてるっす、しかもどんな恨みっすか。

 はぁ、本当に、後輩クランの成長を促すはずが、まさか自分達の不甲斐なさを見詰め直す事になるとは…」


「ご苦労様です」


 元凶に言われて恨めそうに視線を送るが意ともしなかった。


「…あのクランメンバーが騒いでるっす」


「なんて?」


「何をされたのか分からないまま、煽られて死んで悔しいそうです。

 うんさん、なんとかって言ってますけど、どういう事ですか?」


「塵散手雲散霧消之太刀、違うゲームのスキルなんだけどね」


「そんなスキルがあるんですね、いえ、アーツですか」


「それが何故か登録できちゃったんだよ。

 著作権って大丈夫なのかな?」


「あー、それ、多分運営が色々事前に許可取ってると思うっすよ」


「ええ?」


「あまり信じてもらえないんですけど、前に別なゲームでのスキルを真似したら、アーツとして登録された時があったんですよね。

 運営に連絡したら、事前に許可が取れたと連絡が来たんです」


「あー、なるほど、ふむ、そういう事か、なるほどなぁ」


 ヴァルアクの件もそうなのだが、どうやら様々なゲームから技などの使用許可を貰っているようであった。

 いくらなんでも手広く許可を取っていることに疑問を感じるが、それよりもある疑問が浮かんでくる。


「なんでその話が広まってないんだろ?

 リアフレが知らないみたいだったけど」


「広まらないんですよ。

 昔のゲームで映像が残ってなかったり、同じ名前の技だったり、そういうのがあったって言っても信じてもらえず。

 似てるだけとか、『よくある』で済まされてしまうんっすよねぇ」


「そうなるかぁ」


 数多のゲームがあるということは、ネタなどが被るということでもある。

 意図的にしろなんにしろ、今の世の中よくあることとして酷似しない限り問題にはならなかった。業界内部でも暗黙のルールとしていて、一定のラインを越えなければ咎めることはない。


「ところで、先程納得していましたけど、何がどういう意味なんですか?」


「他ゲームの要素があっただけ。

 それ以上の情報は内緒」


 唇に手を当てる仕草を見て、これ以上の情報を得られないと察し、別な事を尋ねる。


「駄目元で、もう一ついいですか?」


「ん?」


「先ほどのチリヂリテウンサンムショウノタチというのは、どうやって使ったんですか?」


「どうって、普通に」


「言葉を言えば発動する?」


「いいや。

 言葉を言うのはセットアップなだけだよ、自分にこの技を使うから心の準備をしろって命令するの、深呼吸みたいなものだね」


「変わった方法ですね、後は?」


「後は力技、高速で駆け抜けて、相手を塵になるまで斬りつけるだけ。

 バフを付けると限界行動範囲が増えるから、以外とやれるもんだ」


「はい?」


 冗談を言っているのか理解できず、同時に頭が理解するのを拒む。

 聞いてしまえば後戻りできない、そんな気がしてならなかった。だが好奇心はその深淵を覗けと訴えかけている。


「あ、あの」


「おい」


 そんな時、セブラがやってきて、アイゾーの腕を掴んだ。


「サボるな」


「ちょ、ちょっと待ってほしいっす。

 し、知りたいっす」


「ならサボるな、後で聞け」


「強くなる方法っす」


 強くなる、それを聞くとセブラも黙ってはいられず、ミナモに視線を向けた。

 自分の腕を一瞬にして断つ、その恨みはあるが、強さだけは知りたく、無言で訴えかける。


「…アウトセンス、それを調べて自分たちで頑張れ、としか言えんよ」


 その答えに応じ、2人の背中を押して話を終わらせ見送る。

 ミナモは吹き抜ける風を感じながら、ふらりと倉庫群から去っていった。


 ☆☆


 街の中を歩き、そっと裏路地に入る。

 そこで壁に寄りかかり待っていると、後ろからやって来た人物に声をかけられた。


「やあ」


「どうも」


 ミナモが平然と話しかけてくる男性のエルフに返すと、その男性は近くの壁にもたれ掛かり親し気に話を始めた。

 胡散臭そうな細眼、おまけにスーツまで来ていて、周りの雰囲気からは浮いている。


「どうだい? 面白いゲームだろ?」


「面白いかなぁ?」


「そうだろうそうだろう、なんとも言えない微妙な感覚だろう」


「そうっすね」


 対してミナモは少しだけ警戒を露にして、距離感を保つ。

 相手が何者か分からない状態で親しげにも話せない。

 何より警戒する理由が一つだけあった。


「けどそれよりも」


「なんだい?」


「ストーカーはどうかと、途中から離れた位置で退屈そうに見てたでしょ?」


「うん、すまないね。

 その事については謝るよ」


 彼は途中からじっと馬車の方を眺めていた。

 2キロほど離れていて、普通ならばその距離を、さらに森の中から馬車を見る事は出来ない。

 つまり彼はアウトセンスを使うプレイヤーであった。


「けど君もこのゲームを体験して分かっただろう? 人気なのは分かるが、なってない」


 なってない、その言葉の理由をミナモは理解していた。

 色んな物に捕らわれている、その事を指しているのではないかと推測する。


「…別に良いじゃないですか、その人が自由に遊ぶ為のものなんですから」


「うむ、その通り。

 しかしそれは私達も同じではないか?」


「…まあ、そうっすね」


 楽しむ権利は誰にでもある。

 それはミナモも同じで、そして目の前の男もまた同じであった。


「私は退屈だった、右を見ても左を見てもアウトセンスを使えない者ばかり」


「昔クソゲ対戦がありましたよ、サ終しましたけど」


「無論私もやっていたよ」


「何位っすか?」


「これでも一桁だったんだ」


「マジっすか、私はそこまで到達できなかったっすよ。

 今やりません?」


「嗚呼、それも楽しいだろうね」


 かつての事を思い出し、男も乗る気であったのだが。


「けど駄目だ、ここじゃ被害が多いし、なによりもっと面白い事がある」


 彼は首を振って、そして不敵に微笑む。

 ミナモはその面白い事に興味が出てきて、やっと首を男の方へと視線を向けた。


「なんっすか?」


「まあ、その話をする前に、ちょっとした意識調査と愚痴を吐かせてほしい」


「はぁ、まあ、どうぞ」


「…私はね、このゲームに色々と潰されたんだ、やっと見つけた癒しを」


 表情は固く何を思っているのかミナモには分からない。

 しかしこのゲームが存在している事で、他のゲームが衰えている事は確かだ。


「それは、災難っすね」


「君もまた同じだろ? この時期だと、あのスペコンからじゃないか? しかも君無敗で暴れ回ってた人だろ?」


「……ストーカー?」


「違う違う。

 普通に考えれば分かる事だよ」


 ミナモの装備は一部が初心者用、開始間もない事は間違いなく、サービスが終わった最近のゲームは一件しかない。そこに腕のいい者となると限られてくる。


「私もあのゲームをやってみたが、どうも体を動かす様に機体の操作が出来なくてね、君に成すすべなくボコボコにされてしまった」


「確かに体の様には動かせませんもんね」


 過去を思い出すが、そこまで上手い人がいなかった為、男性と相対した時は絶対に思い出せないと察した。


「話を戻すが、私はあの癒しを求めてやっていたのだが、…このゲームに顧客を奪われ、過疎で散って行ってしまった。

 確かにこちらのテイマーも魅力だが、あのゲームにしかない癒しがあったんだ」


 悔しそうに、同時に哀愁が何処か漂っていた。


「これからもまた同じ様に潰されていく」


「…まさか、俺がやられて嫌だったから、お前にもその悲しみを味合わせる系っすか?」


 彼から感じる雰囲気は恨みに近いものだ。

 しかし彼は首を振った。


「それもあるかもしれない。

 だからこそ、乗らないか?」


「何に?」


「このゲームの革命だよ、救うための、そして終わらせる為の革命」


 胡散臭いこの上ない誘いであった。

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