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嫌がらせ少女は大志を抱けない。~めっちゃ強い少女はただ無双する事が出来れば良いなぁって思いました~  作者: せいゆ


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そして旅に出るその9




 先遣隊が全滅した。

 全滅後に急いで本隊に連絡が入り、本隊の全員は苦虫を噛んだ様に苦渋の顔をしながら焦り今後の話をし始める。


「クッ、いきなりかよ…、なんだってんだ。

 おい、行き先を変えるぞ」


「変えるって言ってももう引き返す時間がないぞ!」


「じゃあ進路変更だ」


「……無理だ」


「なんでだよ?」


「地図を見たがここに来る道が一本道で、この先もまた一本道で、……もう詰んでる」


「……これが狙いかよ」


 今更敵の狙いを理解したが、こんな手の組んだ事をする意味がまだ見出すことができなかった。

 相手の意思が理解できないが、必ず襲撃してくるのは確定している。


「……準備を、覚悟を決めろよ」


「分かった、一先ず全員に通達する」


 不安が噴き出しそれが伝播していく。


 ☆


 しかしそんな不安をいざ知らず、初心者の一部は雑談を楽しむ。


「それでね、その猫が面白かったんだよ」


 状況とは裏腹に初心者組は猫の話しばかりだ。

 ミナモはすでに遠くで複数人の盗賊を見つけているが、何の反応も示さず猫の話しに耳を傾けている。

 そしてエルニカは護衛クランの人達から連絡を貰い、先遣隊が全滅した事で少し焦りを抱いていた。


(どうしましょ。

 こんな回りくどい手を使うなんて、大きなクランが動いてそうね)


 手口からただのクランでない事を見抜き、依頼が失敗に向かい動いている事を察した。


(弱い人達なら問題無いのだけれど、多分私以上の強さの人達がそこそこいるはず。

 参ったなぁ……)


 増援を呼んでいる時間は無い。

 なら覚悟を決めて一人立ち向かうしかなかった。


「そろそろ来るかも」


 そんな時、糸目のニュートが口を開く。


「何がだ?」


「時間の感覚的にまた盗賊が来るかもしれない」


 ニュートは襲撃する時間を覚えていて、その総計を出して平均時間を割り出していた。


「敵襲!」


 噂をすれば襲撃が始まり、馬車が停止していく。

 セブラがまたしても剣を手に取り立ち上るが、エルニカの呼び声で動きを止めた。


「セブラくん、動いちゃ駄目よ」


「……ちっ」


 そしてエルニカは何時にもなく真剣に全員に状況を伝え始めた。


「いいみんな? この襲撃が最後、この後襲撃は確実になくなるわ」


「どうして?」


「先遣隊が全滅したの」


「え!?」


「だ、だったらみんなで戦た方が」


「そうだぜ」


「いいえ、状況的に私達の敗北よ。

 依頼失敗で幕引き、残念だけれどね、私を含めて全員で動いても結末は変わらない」


 エルニカの実力はこの場の全員が知っている、だからこそ強者の突きつける現実に言葉を飲み受け入れるしかなかった。


「け、けどよ…」


 だからと言って納得はできない。

 このままみすみす失敗なんてできない。


「納得できるかよ。

 何もせずやられるなら最後まで抵抗してやる!」


 セブラが抗戦の意志を見せるが、エルニカがセブラの肩を掴み座らせる。

 無理に立ち上がろうとするセブラだが、その力に一切抵抗できず、動く事が出来なかった。


「今の貴方は私の力に抵抗できない、最悪でも動けるくらいまでじゃないと邪魔にしかならないわ」


 自分の無力さにセブラ自身一番理解していた、だからエルニカから言われると余計に心に響き苛立ちが募る。

 抵抗の意志を瞳に込めてエルニカを睨むが、エルニカの力は弱まらず、少し悲しそうにしながら全員に向かって言い聞かせる。


「いい? 全滅した後が大事なの、それは私じゃどうしようもない、生き残った貴方達にしかできない重要な事があるの」


「じゅ、重要な事? ッ!?」


 重要な事を尋ねると同時に前方から閃光が走り、爆音と共に軽い悲鳴が響く。

 ミナモ意外の全員がそちらに視線を向けて意識がそれるが、エルニカは早急に意識を戻す為に大声を出し呼びかける。


「話を聞きなさい!!」


 大声を荒げたことで一気に全員の視線が集中し、それを確認したところで用件を早急に話始めた。


「ちゃんと聞いて、貴方達は抵抗しなければ生かされるわ、絶対にね。

 NPCは彼等にとっても金のなる木、だから殺害はしない、そのNPCを守る為にも貴方達の力が必要なの」


 勝敗が終わった後も護衛は続く、大事なのはその後どうやって生きていくのかが問題であった。


「敗戦処理か、面倒だね」


「ミナモちゃん、ごめんなさいだけど、貴方がこの子達の面倒見てくれないかしら?」


 ミナモの返答を聞く前に、エルニカは馬車を降り前線へと駆けだした。

 矢の雨が降りそれを凌いで勇ましく前進していく姿を、見守るしなかった。

 すでに前線は壊滅状態だ。

 辛うじて生き残っている者も、戦意を喪失している状況。

 大敗は喫した、しかしエルニカは切り捨てられようとしているプレイヤーを守る為に刀を振るう。


「諦めちゃ駄目よ!」


 盗賊を切り伏せ、さらに近くの盗賊に切りかかる。

 再び撃破して、次へ切りかかる時、振り下ろしたはずの手が止まり、刀が宙を舞った。


「へっ、久しぶりじゃねぇか、前線から退いて鈍っちゃいねぇだろうな?」


 声のした方を見には白いフードの男が居る。

 そのフードを脱ぐと八重歯覗かせるいたずらっ子の笑みを浮かべた二枚目の素顔を晒した。


「……琴線の旋律」


 フードの男、シルフレッドは突き出していた右手を上げると、エルニカの持っていたはずの刀が宙から降ちてきてそれをキャッチすると、エルニカに投げ返す。


「紅角戦鬼、楽しませてくれよ」


「その名前は捨てた!」


 鬼神の如き咆哮を上げ、飛んできた刀を無視し、一振りを抜刀しシルフレッドへ襲い掛かる。

 しかし襲い掛かる直前、シルフレッドは手を払うと、エルニカは慌てて後ろに飛び去り、そして横方向へと走り出す。

 エルニカが踏み込もうとしていた地面はまるで爪で切り裂かれたかのように四本の裂かれた跡が残り、その脅威を体現していた。


「相変わらず見えにくい糸を器用に使うこと……」


 シルフレッドの攻撃は、グローブから伸びる釣り糸の様な透明な糸の攻撃だ。

 扱いにくい特殊な武器で、このゲームでそれを扱えるのはシルフレッドくらいだろう。

 そんな武器を器用に手足の様に自在に動かし、再びエルニカへと襲い掛かる。


「少し動けるようで安心したぜ、まだうじうじと悩んでるかと思ったぜ」


「五月蠅い!」


 見えないながらも、過去の経験と勘で回避し、木々を利用し少しづつ接近していく。


「なんだ、声とは違ってちゃんと冷静に行動するじゃないか。

 指示厨の戦鬼様は何時でも冷静だな」


 木陰から飛び出そうとしたエルニカであったが、その言葉を聞いた瞬間頭に血が上り、そのままシルフレッドへ直線的に飛び掛かろうという短絡的な思考が沸き上がる。


(落ち着け)


 冷静さはまだ健在だ。心の冷静さは行動に大きく影響を与える、余裕がなければ悪手な方法で攻めてしまいがちである。

 だから軽く呼吸をした後ぐっと堪えて飛び出すのを我慢する。

 風切り音が一瞬し、攻撃が来ると判断したエルニカが対角線になる様に木陰から離れると、さきほどまでいた樹木がシルフレッドの見えない糸により切断される。


「ほんと、冷静だな。

 前線に戻って来いよ」


「……今の私は商人、戻る気なんてさらさらないわ」


「指示しまくってクラン解散に追い込んだからか? それで責任でも感じちまったか?」


「…そうよ」


「そんな責任捨てちまえ、前線に戻って来いよ、楽しいぜ」


「断るわ」


「お前の指示は的確だった、何に対してもだ、反発する奴や辞めてった奴がそもそも悪い。

 そうだろ? あの場所はそういう所なんだからよ、甘ちゃんがへらへら笑って楽できる場所じゃないんだ」


「…ゲームは楽しむ物、よ」


 一瞬、エルニカの心が揺らいだ。自分の選択は間違いではない、そう言われた事が嬉しかった。

 だがその考えを振り払い、自分を戒める。

 ゲームは本来楽しいはずのものなんだから。


(私が間違っていただけ、上手く立ち回ればあんな事にはならなかったんだから、人の気持ちを理解すればよかっただけなんだから)


 エルニカは昔、前線と言われる、無開拓地や攻略困難な場所を攻略するためのクランのリーダーをしていた。


『この場所で効率よくレベルを上げるの』

『無駄な事はしないで、採取後すぐに出発よ、食料の事を少し考えて行動して』

『アーツの発動が遅いわよ、少し遅れただけで大きな損害になるわ』

『何をやってるの、違う事するから痛い目見るのよ』


 きつい言葉は相手を気持ちを思っておらず、しかし相手を思っていたからこそ成功させる道筋をその都度口にしていた。

 間違った言葉ではない、だがそれを受け入れるには言葉に棘があり、思いやりが足りてはいなかった。


『もうついて行けないよ』

『指示されるのは沢山だ』

『つまらない』


 辞めていくのは一瞬であった。

 それから雪崩の様に崩れ次々と人が去って行き、何時しか一人になっていた。


『どうして……』


 間違ったことは言っていない、だが同時に正しい言葉ではなかった事は知っている。

 それでもついて来てくれているから間違いではないと、そう思う事にしていた。


(なまじ特殊な種族になったばかりに…)


 エルニカの種族は特殊な種族だ。紅角鬼と呼ばれる、エルニカ以外に確認されていない種族であった。

 その事にもてはやされ、気が高くなり、あれよあれよと何時しか攻略の最前線へと足を踏み入れていた。

 最初は四苦八苦していたが、前線の緊張感が短時間での効率的な行動を求め、さらなる効率を求めてそれだけを追求した行動を試みる。

 行動が何時しかクラン名を轟かせ成りあがっていた、ひたすら走り続けて、ふと気が付けば1人きりになってしまった。


(それは言い訳ね…)


 少し振り返ればよかっただけ、振り返れば悲鳴を上げるクランメンバーたちが居たのだから、そこで自分を見つめ直せばよかったのだ。


(あの当時、何が面白かったんだろ?)


 もてはやされ、それで調子に乗っていただけ、効率を求めるあまりに楽しさを味わう事が出来ずにいた。

 その後は抜け殻の様な状態であった。


(改めて前線で行動する以外に何も無かった、それを知った)


 楽しむために始めたゲームなのだが、いざ居場所を変えた途端に自分には何もない事を思い知らされた。

 もうゲームを辞めてしまおうと思った。だがその時知った。


(楽しそうだったな、あの人たち)


 所持品をすべて売り引退しようと時、のんびりとした街の雰囲気を感じ、彼等が辞めて行った理由の鱗片を知った。


『今日裏路地で出してるパフェの店行って来たんだ、あのプレイヤーさんめっちゃ美味しいの作るの』


 飛び込んできた会話の内容が全く理解できなかった。

 パフェは知っている、しかしそれがゲームの話だとは一切理解できなかったのだ。


『見て見て、この服可愛いでしょ?』

『うん、素敵、何処で買ったの?』

『西の街で店を構えてる人の所で買ったの、今度連れてってあげるね』


 まるで現実の会話を聞いているようであった。

 ゲームで性能を求めず、見た目だけを追求する者の存在がまるで別な生き物の様であった。

 その時初めて自分が、異端になっていた事を知った。


(私は、私の見ていた世界しか知らなかった)


 自分だけの手の届く世界が全てであった。

 戦いに明け暮れて効率的な行動をしていた自分とはまるで違う世界の話し、それが手の届く目の前にあった。

 自分のしていたゲームはなんだったのだろうか、何が楽しかったのだろうか? そんな疑問がどんどんと沸き上がり、今までの行動を責め立てる。


『どうして見て来なかったんだろ? 答えがすぐそこにあったのに』


 このWLMというゲームを見詰め直す為に、そして辞めて行った彼等の気持ちを理解するため、エルニカは自分の世界を再び新たに広げる事にした。

 新たな道はエルニカを根本的に作り変えていく、知らない世界は新鮮で、今まで張っていた緊張感が嘘の様に穏やかになっていく。

 商人になり見聞を広げていき、一歩ずつ彼等達の気持ちを知っていった。

 知れば知るほど彼等に謝罪をしたくなるが、連絡をする事は叶わない。縁を切り所在を知らない為謝罪する手立ては無かった。


(だから私は助ける)


 だからつまらなそうにしているミナモに手を差し伸べた。

 差し伸べたのは彼女だけではない、かつての仲間に謝罪する様に、エルニカは目の前の困っているプレイヤーを救う事にした。


「はぁッ!!」


 今日もこの場所で、誰かを救うために戦う。


「遅ぇ! 前線から離れていたツケが出て来たな!」


「今温めている所よ!」


「お前が離れてる間にレベルに差があるんだよ! 俺は80後半、お前は70やそこらだろ!」


 現状エルニカが不利な状況だ。

 シルフレッドの攻撃はとてもかわしにくく、すでに何度も食らい、じりじりと追い詰められている状況だ。

 さらに拍車をかけているのは、レベルの差であった。


(前線から離れていたツケが出て来たわね……。装備は良くてもステータスの差がッ!)


 このままでは押し切られる。

 元々負け試合であったが、それでも勝つために努力はしてきたつもりだ。だが相手はシルフレッドだけではない。


(これでもし勝ったとしても、あっちに『鍛冶』が居た、これは、もう無理ね)


 最後まで足掻くつもりだが、シルフレッドかそれ以上の存在がもう一人だけ存在する。

 もう一人居ると分かってしまうと心が折れる。


(レベルも足りてないし、もう、無理かも)


 すぐにでも負けてもいいのではないか、そんな考えが湧く。


「オラァ!」


(しまったッ!)


 そんな心の隙が行動にも現れ、シルフレッドの攻撃を食らい、後方にある木に体を打ち付けて横たわった。


「チッ、やっぱり前線から引いた奴は駄目だな」


(嗚呼、やっぱり負けた……)


 最初から分かり切っていた結果だ。

 努力しても変わらない、ならここまでで十分だ、十分やった。そんな事を自分に言い聞かせる。


「とどめだ、……残念だったぜ本当によ」


 名残惜しそうにシルフレッドが手を上げる。後はやられるのを待つだけだ。

 だが、そう思っていたエルニカに声がかけられる。


「本当に終わりですか?」


 声の主はミナモであった。

 まるで見透かしていた様に、再びミナモが尋ねる。


「本当にそれで終わりなんですか? 諦めちゃうんですか?」


「…もう、無理よ、だって」


 攻撃が来たら終り。

 そのはずなのだが、攻撃は未だに来ず。


(え?)


 目を開けシルフレッドを見ると、警戒心を露にしながら周囲をこれでもかと言わんばかりに見回している。


(何をしてるんだろ?)


 理解できない状況であった。

 しかしお陰でエルニカは生きている。


「何時まで悲劇のヒロインをしてるんですか?」


「え?」


「ぐへっ …ごほん。

 本当に負けて良いんですか? これで負けたらまた最初からですよ」


(負けたら最初から? どういう事?)


「前に進まず、前を見ず、商人だけを続けて後ろばかり見続けるんですか?」


「そ、れは…」


 何も言えず言葉が詰まった。

 自分は商人になり新しく前に向かって進んでいた、そう思っていた。

 しかしいざそれが本当に前に進んでいるのかと言われ、エルニカは何も言い返す事は出来なかった。

 確実に一歩は進めた、だが同時にかつて向かいたかった方向とは違う、後ろ側に進んでいるのではないかと心の隅で小さくその想いが募る。


「人間、一度染みついた匂いってなかなか取れないものです。

 暴れ回った後、大人しくしていると体が疼きます、エルニカさんは商人になって、刺激が無くなり退屈だったことは無いですか?」


 図星だ。

 心が折れ、退いた後も自分が目指した場所を求めて夢想する。

 あの先には何があったのか、あのまま続けて居たらどんな光景があったのか、そんな考えが浮かんでは必死に押し殺して体を疼かせていた。


「立ってください」


「…もう、無理よ」


「いいえ、立ってください」


「この状況じゃ、無理なの」


「大丈夫です、気持ち一つで立てます、そしてエルニカさんなら自分に嘘を吐けず立ち上れます」


 私の何を知っているのか、そう問い詰めたいが、押し殺して封じていた心の奥底を覗き見られている様であった。

 そこまで見透かされたなら、本当に立てるのではないか、そう思わずにはいられなかった。


「ほら、立てるじゃないですか」


「……なんで、立ち上ってるのかしら」


 よろりと立ち上がり、自分がなぜ立ち上っているのか一切分からない。


「まだ負けたくないからでしょ、これまでもこれからも」


「…そうね」


 本当に見透かされているのだろう、そう思うと押し殺し封をしていた心の奥底から感情が沸き上がって来る。

 湧いてくる感情は、悔しさであった。


「私、まだ、負けたくない」


「大丈夫です」


 感情の籠ってない「大丈夫」、その言葉がまるで強固な言葉に聞こえ、本当に勝てるのではないかと疑いも持たないほどの信頼感があった。


「もっと早く、高く、貴女は強く早く動けます、気持ち一つで絶対に今よりも比べ物にならないほど強くなれます。

 これは私の魔法、バフを貴女に精一杯かけました」


 疑う余地はない。

 本当に立ち上がり、体が軽くなったのだから。


「…どっから攻撃されたか分からんが、今はお前と戦っていた方が良さそうだ。

 飲んで回復しろよ、そのぎらついた目、まだ死んじゃないんだろ」


「少し待っててくれるのね、貴方、もっと優しかったら女の子にもてるわよ」


「へっ言ってろ」


 アイテム欄から取り出した高級なポーションを手に取り一気に飲み干す。

 減っていた体力が見る見るうちに回復し、傷が瞬く間に消え失せる。


「なんだ、そのエリクサー、本気かよ、いくらすると思ってんだ」


「ええ、破産よ、こんな二束三文の依頼で使うなんてありえないわ」


 普通ならば後生大事に持っておくべき高級品、そんな品だが今が使うべきと判断し、惜しげも無く使ったのだ。

 それだけの価値が今この瞬間だけはあるのだから。


「お前が本気と言うのは分かった、いいぜ、そういうの、楽しくなってきたじゃないか」


「今度の私は違うわよ、覚悟なさい」


 互いに見つめ合い、そして風の音と共に飛び出した。


(体が嘘みたいに軽い)


 ミナモが言っていた通り、まるで別の体かの様に動き、先程までの行動が泥の中を歩いているようであった。

 動きが変わり、シルフレッドは驚きはしたものの、強くなったことは歓迎し楽しみ始める。


(へへっ、楽しいじゃないか、やればできるなら最初からやってろよ)


 心の底から楽しむシルフレッド、そして同じくエルニカもまた楽しくて仕方が無かった。

 せめぎ合うギリギリの戦い、高揚感が何時もよりも高く、この日だけは戦闘がとてつもなく楽しくて仕方がなかった。


(戦闘が楽しいなんて、どうしちゃたのかしら?)


 自分でも不思議で仕方がない、まるで戦闘ではなく、踊っているかのような、そんな気さえする。

 長く長くダンスは続く、それでも終わりは近づいてくる。


「楽しいなぁ、どうだ、また復帰したくなっただろ?」


「ええ、そうね」


 互いに笑みを浮かべ、――そして。


「引き分けか」


「残念ね、勝ったかと思ったのに」


「負けてたまるかよ」


 エルニカの刀はシルフレッドを串刺しにし、シルフレッドの糸はエルニカの胴体と腕を切断した。

 死闘を尽くした二人は何処か満足げであり、互いにその場に倒れ光となり消えていった。

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