【改正】
ダビッドは、魔法紙の横に添えられた淡く光る署名ペンで、サインをする。
魔法契約書と対で現れる光る署名ペンは、その者の魔力を感知し、本人確認も兼ねている。
この世界は多かれ少なかれ魔力を持っている。
魔力は、個々によって違う。一卵性の双子ですら、違うのだから、偽造は不可能。
故にサインしてしまえば、言い逃れは出来ない。
ダビッドが署名し終えると、ペンは魔法紙に吸い込まれ、魔法紙が勝手に、くるくると巻き、リアラスタの手に収まる。
『ふふふ。これで契約は成立ね』
リアラスタは、今までとは違い、とても満足したような笑みを、ダビッドに向ける。
ダビッドは、天使の微笑みを受け、惚けていた。
この微笑みを、ずっと見れるなら他はどうでもいいと思うくらいに、リアラスタの微笑みは女神様に匹敵する程の破壊力なのだ。
態度や言動はとても女神様には、遠く及ばないがな……!?
そっそんな睨まないでっ!?
女神様の話になるとリアラスタは怖いんだからもう!!
ってリアラスタは、私を見えているのか?
隠密行動してる筈なんだけど……。
ヤバすぎでしょ!?
あ〜はいはい。まあは余計な事は言いませんよ。
え〜続きをお楽しみください。
……。
リアラスタは、私から視線を逸らし、魔法紙を握り込み魔力を流す。
魔法紙に書かれている内容を、【改正】する為だ。
魔法紙を中心に、リアラスタごと光の魔法陣が包み込む。
「【改正】」
リアラスタの呼びかけに、魔法陣はいっそう輝きを増した。
リアラスタは、楽しみだと言わんばかりに、優しく口角を上げ、目を閉じて意識を手放した。
◇◇◇
「リデル様!!」
リアラスタの声は、弾んでいた。
まるで少女に戻ったかのような態度だ。
リアラスタは、意識が浮上すると、屈託のない笑みで、走り出し、リデル様に抱きつく。
リデル様は、リアラスタを危なげなく抱き込み、頭を撫でた。
リデル様は、太陽のような輝きを放つオレンジ色の緩やかな長髪に、月のような黄金の瞳をされている。
緩やかな白のロングドレスに身を包み、装飾品は一切無いが、つけなくても、神々しい。
見ていてるだけで、心が癒される顔は、人々の心を掴む。私も、リアラスタもその1人だ。ただ、リアラスタは、執着と言ってもいいかもしれない。
白を基調とした神殿の一画。
神殿とは正しくリデル様が住む天界の宮殿である。
その中でも今は、何もないだだっ広い部屋にリデル様はいた。
ここは、天界の交流室と呼ばれる部屋である。
リデルフルールにいる人間は、交流室でのみリデル様に会う事が出来る。
残念ながら、この交流室に来れる人達は限られている。
教皇、枢機卿、大司教と、特例者と呼ばれる者のみだ。
以前はもっと多くの者達を呼べたのだが、リアラスタが制限した。
それに、先に述べた者達でも、理由がなければ交流室には来る事が出来ない。
因みに、リアラスタは、大司教である。
リアラスタは、ああ見えて、リデル様のご意志を継ぐ者としては、教皇にいてもおかしく無いくらい造詣は深い。
が、どう見ても部下を纏める能力には欠ける。本人も地位は全く興味はない。
本来なら、法律の【改正】だけならば、リデル様に会わなくても改正は出来る。
【改正】の内容に疑念がなければ、来る必要は無いのだ。
今回の【改正】も、リアラスタの完璧な改正である為、本来は来る必要はない。
リアラスタはリデルに会いたいが為に態々、ここに来たのである。
【改正】にリデル様の意見が欲しければ、ここに来る理由になるのだ。
リデル様に会える、こんな機会を見逃すはずがないのである。
リアラスタは、人間社会の法律や手順を無視しているが、それはリデル様を蔑ろにしているわけではない。
リデル様の【理】もしかり。
寧ろ信奉しているが為だ。
リデル様の意図しない法律を即刻、【改正】したい為に、人間社会を無視しているとも言える。
人間社会では、裏や闇の守法人と呼ばれるリアラスタではあるが、本人は全く気にしていない。
リアラスタが気にするのは、リデル様だけである。
人間社会からすれば、問題児であろうが、リデル様は、自分の願いを全力で叶えようとしてくれるリアラスタが、とてつもなく可愛いので、よっぽどの事がない限り咎めない。
それをいいことにリアラスタは、やりたい放題なのだ。
リアラスタは嫉妬深いのだ。
リアラスタは、リデル様の1番でいたいのである。
リアラスタが契約書を書いた魔法ペンは、守法人専用のペンであり、署名ペンよりも上位のペンです。
なので、魔法ペンで署名しても、問題ありません。




