リアラスタの過去 リデルフルール編⑫ sideリアラスタ
「私は……。ごめんなさい、ルイ」
母が喋ろうとして、言い淀む。そして耐えきれずポロポロと泣き崩れた。
母が、泣き崩れている間、ジョドジーは、私に向かって、愉悦に浸りながら語り始めた。
「お前の父の死は単なる事故ではない。
私が仕組んだのだよ。生意気だったからな。
調子に乗っている他の奴らの見せしめのためでもある。
貴族には逆らっては、いけないのだよ?
支配者には、常にへりくだらないとね?
お前たちが住んでいる地域は、我がテリトリーなのだよ。
頂点にいる私の指示に従わない奴は、全てを失うのは仕方のない事だろう?」
父は、凄腕の商人であったからこそ、身の程を弁え、引き際を知っている筈である。その父が、指示を拒否したのだから、相当な無茶な要求だったに違いない。
「まぁ、結局は、手に入ったのだがな」
ジョドジーは、母を見て、嘲笑した。
母は、慟哭し暴れ始めた。私は、必死に母を抑える。
ここでジョドジーに掴み掛かっては、相手の思う壺だ。
相手は貴族、こちらは契約した愛人とその娘だ。立場が違い過ぎる。
ここで、母がジョドジーに危害を加えれば、どんな罰が待っているか恐ろしくて考えたくもない。
私が、ぎゅっと母を抱きしめて、背中を撫でる。
抑えているのが私だと、気がつくと、母は、また泣き崩れた。
ああ、そういう事か。
ジョドジーは、母を所望して、父が、拒否した。
平民である父が、貴族に楯突くなんて、相当な勇気が必要だっただろう。
それでも家族を守る事を優先した父を私は、誇りに思う。
大体、今のジョドジーの態度から、単なる余興や遊戯の為に、母を所望したのは明らかだ。
母の精神状態も今ならわかる。
父が命懸けで守った母自ら、相手の術中に嵌ってしまった事。父を殺した仇に、自らを差し出した後悔と懺悔の気持ちで、不安定になってしまったのだ。
母の精神が壊れてしまうのも仕方がないし、食事が取れなくなってしまったのはこの事が原因なのだ。
そして、私への種明かし。
母は、最後まで反対していた娘に顔向け出来ないと思ったのだろう。
今、母は、顔を上げずに私に泣きながらずっと謝っている。
ジョドジーは、本当に下衆なヤツだ。私も、怒りの気持ちに任せて、怒鳴ってやりたい所だけれど、それをしてもジョドジーを喜ばせるだけだ。
歯向かって来たものを、痛めつける事に喜びを感じる様な奴なのだ。
これ以上、ジョドジーの興がのらないように、私たちに、興味を失わせるようにしなければならない。
私は、ゆっくりと母から目線をあげ、ジョドジーを見返した。
全てを語り終えたジョドジーは、愉快だと言わんばかりに、悦に浸っている。
ジョドジーにとって、遊びの一つなのだろう。
正妻が、口を挟まなかったのも本気ではない事がわかっていたからなのか? それとも、ジョドジーを恐れたのかのどちらかなのだろう。
それくらい今のジョドジーには、支配者の貫禄があった。
ここは、慎重に行動しなければならない。
契約がある以上、私達を監禁することは、ジョドジーにとって容易いのだ。
母のメンタルも大切だが、ここから逃げ出す為に、ジョドジーには、興を逸らす必要がある。
私は目線を下げ、哀しそうにした。ほろほろと泣き、母をあやす様に抱きしめた。怒り狂う心情を見せてはいけない。
こういう相手は、言い返せば言い返すほど、更にどん底に叩きのめすのだ。
ここは、何も言わずにただ耐えるしかない。
私は、ジョドジーの興が削がれるの待った。
「フン。子供だから、言い返してくるかと思ったが、お前は、やはり頭が回るな」
ジョドジーは、下衆だが、単純ではない。
思考の回るジョドジーに、思わず唇を噛んだ。




