リアラスタの過去 リデルフルール編⑪ sideリアラスタ
これから数話かけて、リアラスタの暗い過去が明らかになります。
鬱展開が苦手な方は、ご注意下さい。
「ゔぅ……」
まるで、ジョドジーの言葉と同調したかの様に、母が目をあけた。虚な目は変わらないが、意識はある様だ。
「お母さん」
私は、母に呼びかけた。実父と過ごしていた幼い頃は、お母さんと呼んでいたけれど、ジョドジーと仮契約をしてからは、仮とはいえ貴族の末席に加わるのだから、習わしだと、お母様と呼ぶ様に矯正された。
なので、反発の意味を込めて、昔の様に呼んだ。
なんとなく今、母の呼び方はこの方が良いと思ったのもある。
虚な目をした母が、こちらを向く。
私をみると、母の目から涙がこぼれ落ちた。
「リア……ごめんなさい。私が間違っていたわ」
「お母さん?」
「商会なんか手放して、借金奴隷になった方が良かった。
私がそうしておけば、ルイを裏切ることも、リアにまで迷惑をかける事はなかったのに……本当にごめんなさい」
母は、痩せ細った手を私に伸ばそうとするが、うまく力が入らないのか手が上がらない。
私は、安心させる様に母の手を握った。
「お母さん、大丈夫。
人生は、いつからだってやり直せるわ。
これからの事を一緒に考えよう?」
私が、安心させる様に紡いだ言葉に、母の顔が歪む。
もう遅いのだと、どうしようも出来ないのだと言わんばかりの母の表情に、困惑した。
母の様子から、ジョドジーとの契約が間違いだったという事は明白だ。
確かに、ジョドジーとの契約は、仮契約から実行された。
けれど、契約なのだから、様々な制約はあるだろうが、解除出来るはずだ。
実行されてから数ヶ月、それほど日数もたっていない。
最悪、莫大な違約金がかかるかもしれないが、一生かけて、返せば良い。
借金奴隷は、仕事の選択肢は少ないが、全く選べないわけではないし、最低限の人権も保障されている。
相手が貴族であるが故に、大変なのかもしれないが、しかるべき機関に申し立てをすれば、仲介してくれるだろうし、時間がかかるかもしれないが、ジョドジーとの契約破棄できると思っていた。
「ハハハ。おめでたい事だ。
さすがは、ルイの子供だな。知恵はあるのに、最後の詰めが甘い」
「父は最高の商人でした」
嘲笑うジョドジーに、私が思わず言い返すと、ジョドジーは、ニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
「商才は、あったな。商法の隅々まで把握し、商機を逃さず、発想力も豊かで、当時でも下位貴族の資産以上は、軽く持っていただろうな。
生きていれば、爵位も手に入ってたかもしれん。
……だが、自身の守りは疎かだったな。
まぁ、やれるだけの事はしていた様だが、所詮は平民の守りだ。
貴族や神殿の守りに比べれば、ガラスよりも脆い守りだ。
知識が足りん。
事実、結果は事故で呆気なく死んだな。
死んだら終わりだというのに、バカな男だった。
アイツは、もう少し賢く立ち回るべきだった。私と手を組めば、莫大な富と権力を掌握出来たのにな」
母との会話を聞いていたジョドジーは、愉快だと饒舌に話し始めた。この時を心待ちにしていた様に、愉悦に浸っているジョドジーは、薄気味悪かった。
「あの男が死んだのは、お前のせいだ。
そうだろう? ラーラ」
ジョドジーに、問いかけられた母は、びくりと肩を揺らし、ガタガタと震え始めた。
父は、相手方の御者の操作ミスによって暴走した馬による事故の筈だ。
そこに、母の関与はない。
念のため、捜査当局が、母の遺産目当てではないかと、捜査もしていたが、きっぱり否定されているし、私は、両親の仲を知っている。
父は、母をこよなく愛していた。
母も、しかりだ。
母の責にするには、無理がある筈なのに、母は、自責の念がある様だ。
ジョドジーは、いったい母に何を吹き込んだのだろう?




