リアラスタの過去 リデルフルール編⑩ sideリアラスタ
カレルに案内をされながら、別邸の中へ入っていく。
これで、別邸なのかと思うほどに、広い廊下をどんどん進んでいく。
途中、誰とも顔を合わせる事がないので、母の世話はどうしているのだろうかと、不安になったが、掃除は行き届いているので、放置されているわけではない様だ。
おそらく、人払いがされているのだろう。
漸くたどり着いた先には重厚な扉があった。
扉の装飾も見事な意匠だが、それよりも気になるのは、扉の縁が金で覆われている事だ。
派手なものがあまり好きではない私にとっては、個人的な意見だけれど、品がないと思ってしまう。
ただ、貴族の威厳を保つ為にはこれくらい豪華な扉が必要なのだろうかと、考えていたら、今まで喋らなかったカレルが、口を開いた。
「素晴らしい扉でしょう?
ジョドジー様が、ラーラ様のために誂えた特注品でございます」
「……。母の為に、ジョドジー様は、心を配っていただいているのですね」
「はい。勿論でございます。
ジョドジー様にとってラーラ様は特別ですから」
恍惚とした目で主人を讃えているカレルにとっては素晴らしい扉の様だ。
カレルが開けた扉は、やはり異様で、金庫の扉の厚さくらいありそうだ。カレルも両手を使い開けている事から相当重い扉だ。私にとっては嫌な予感しかしない。
「さて、どうぞお入り下さい」
カレルは、扉の横に立ち、私に入る様に促す。カレルは、入るつもりはないらしい。
開け放たれた扉の向こうは、昼間にも関わらず少し薄暗い部屋だ。
奥に天蓋付きのベッドがあるけれど、ここからは詳細はわからない。
「ぅぅ…」
入るのを躊躇していた私に、母のうめき声が聞こえてきた。たとえ何かあったとしても、中に母がいる以上、私には、入る選択肢しか残されていなかった。
私が部屋に入ると、カレルは外側から扉を閉めた。
さらに薄暗くなった部屋には、先程の扉の豪華さとは違い、最低限の家具が備え付けてあるだけで、調度品は一切なく、とても殺風景だった。
ベッドに横たわる母は、以前の面影はなく、この数ヶ月で一体何があったのだろうと思うくらいに痩せ細っていた。
悪夢でも見ているのか、どこかが痛むのか、うなされている。
私が呼びかけても、虚な目をして、またすぐに閉じてしまう。
いったい母に何があったのだろうかと、思案していると後ろから声がかかった。
「リア。久しぶりだね」
「これは、どういう事でしょうか?」
母がこんな状態にも関わらず、ジョドジーは、普段以上に、にこやかな声だった。
ジョドジーが何かしたのは明らかだ。
母の容態に関しては、御者もカレルも、ジョドジー様からお話になるの一点張りで何も教えてはもらえなかった。
私は、母に向いていた目線を変え、ジョドジーに向き直る。
薄暗い空間の中、ジョドジーは、薄ら笑いしていた。
「どうもこうもないよ。ラーラが食事をしなくなってね。
私も心配しているのだよ」
「母が自ら食事をとらないなんて事は、ないはずです」
母は、商会の販売員として食品も扱っていたので、料理や栄養に関する知識には明るい。
食事の大切さは、母から教わったので、母が自ら食事を疎かにする事は考えられなかった。
食事をとれないほどの何かがあったに違いない。
「そうは言ってもねぇ。事実だから。
もう少ししたら薬が切れるから、話をするといい。
リアが戻ってきたから、ラーラも食事をする様になるかもしれない」
「薬……?」
私の声があまりにも平坦だった為か、ジョドジーは、笑みをさらに深めて心外だと言わんばかりにため息を吐いた。
「何か勘違いしてる様だが、違法な薬ではないよ。
きちんと医師の診察を受けて、処方された薬だよ。
安定剤だ」
「安定剤……」
「ラーラの為に誂えた部屋だったが、ラーラには豪華過ぎた様だ。
萎縮してしまったね。少しずつ精神が不安定になってきたのだよ。今は、調度品は下げているが、元はもっと豪華な部屋だったのだよ?」
まるでお前達には、高価な物など、不釣り合いだったと言わんばかりのジョドジーの態度に、さらに不信感を募らせた。
母は、商会で高価な宝飾品も調度品も扱っていた。
母が、それで萎縮して精神的にも病む事は考えにくかった。




