リアラスタ過去 リデルフルール編⑨ sideリアラスタ
寮生活になって以来、母とは疎遠だった。
高等部は、課題も多くあり多忙を理由にして、手紙すら書いていなかった。
実際は書こうと思えば、書けただろうが、何を書いて良いかわからなかったのもあるかも知れない。
そんなある日、ジョドジーから手紙が届く。
母の具合が悪く、一度見舞いに帰ってきなさいと言う内容だ。
最後に会った時の母は、幸せに満ち溢れていたため、ジョドジーの手紙の内容は青天の霹靂だった。
高等部の担当教員と同じグループのメンバーには、事情を説明して、なんとか折り合いをつけ、急いで実家へ帰宅することになった。
すぐに帰宅することを予想していたのか、ジョドジーの采配により既に迎えの馬車まで用意してくれていて、私はその馬車をありがたく使わせてもらった。
流石、お貴族様なのだろう。
馬車から外を見ていると、実家へ向かっている様ではなかった。
御者に聞けば、ジョドジーの邸宅敷地内にある別邸にて、母は療養しているらしい。
下町とは違う、広く整備された道を進む。
風格のある重厚な建物が並ぶ風景を見て、正直にいって落ち着かない。場違いな気がした。
ジョドジーとの仮契約中は、生家である商会兼住宅に住んでいたので、ジョドジーが暮らす本邸に足を踏み入れたことはない。
ジョドジーと正妻の住居など、愛人候補の母と私には恐れ多い場所だ。
療養のためとはいえ、母は居心地悪くないのだろうか?
そっちの方が療養に良くないのでは?と思わなくもなかったが、きっと優秀な侍医がいるのだろうと思う事にした。
本邸でないとはいえ、正妻が愛人に敷地内に住まうことを許したのかと思うけれど、ジョドジーが強行したのだろうか? 新たな問題が起こらない事を祈りつつ、早く母の安否を確認したかった。
養父であるジョドジーの屋敷は、これぞ貴族と言わんばかりの豪華絢爛な邸宅だ。
敷地内には、庭園も、使用人用の寮も、商談用の施設も備えてある。
敷地も塀で囲まれているが、邸宅の周りは、さらに重厚な成人の背丈の2倍以上はある石壁で囲われており、鳥籠だなと思った。
セキュリティー上、仕方のない事なのだろうが、入ることは勿論のこと、出る事も難しそうな閉鎖的な空間だと思う。
貴族としては当たり前の感覚なのかもしれないが、外と隔絶された屋敷は、私にとっては窮屈で、肩身を狭そうだ。
仮契約の時は、実家に住まわせてもらってよかったと思う。養女契約は、成立したが、母が良くなれば、また生家で暮らさせてもらう様にジョドジーにお願いしようと思うのだった。
外壁の前で、送り馬車を降りた。
御者が、先触れを出していたみたいで、スムーズに外門から通される。そこには、ジョドジーの右腕とも言われているカレルが、私に頭を下げた。
「おかえりなさいませ。リア様」
初めて訪れた邸宅に、お帰りと言われると何だか違うのかな?と思うけれど、これが貴族様の標準なのかも知れない。
あえて突っ込むのはやめた。
「ただいま。カレルさん」
「カレルとお呼びくださいませ。お嬢様は、ジョドジー様の大切なご令嬢です」
「……分かったわ。今度からそう呼ぶわ」
(これは珍しい事もあるものね)
私は心の中で呟く。
カレルは、これと言うほどの特徴のない人だ。
いつも、ジョドジーの後ろに影の様に立ち、存在感を薄くしている。
何となく影の様な存在で、私は近寄り難い存在だった。
家来としてはかなり優秀で、すぐにジョドジーの意思を汲み取り、采配する、ジョドジーが最も信頼する人物だ。
彼はいつも、ジョドジーにとって最も重要な命令で動いている事が多い。
養女である私の迎えなど、取るに足らない仕事なはずなのに、何故カレルが?
これから何か重要な事が起こる予感がして、それは私の不安を煽った。




