リアラスタの過去 リデルフルール編⑧ sideリアラスタ
契約の履行は、その日の就寝前に行われた。
用意周到すぎて、作為を感じるが、今更どうすることもできない。
ジョドジーの書斎で、テーブルを挟んでジョドジーと母と私は対面した。
暖色のライトは、就寝前の照明としては何らおかしいものではないのに、この日はとても不気味に感じだ。
ジョドジーは、いつもの胡散臭い笑みを浮かべていた。
「さぁ、私の誠意も伝わった事だし、契約の履行といこうか」
そう言いながら、ジョドジーは、以前書いた契約書をテーブルに置いた。
ご丁寧に、契約の履行手続きに必要な手続きの殆どは、終えてあり、後は署名するだけだ。
私が内容を一瞥していると、ジョドジーと共にいた初老の男性が、こちらも胡散臭い笑顔で話し始める。
この男……質の良いが、ダーク系のマントを羽織っており、表の世界にいる人の様には見えなかった。
「私は司法政務官のマギサと申します。
今回は、以前契約された内容の但し書きを削除する契約内容の変更を受けましたが、間違いありませんか?」
「はい」
「……はい」
母は、ジョドジーを信頼し切っており、マギサの事を疑ってはいない様だ。すぐ様返事を返した。
私は、本能が拒否反応を起こしていたが、母の無言の圧力で、仕方なく返事をする。
(どうみたって、司法政務官には、見えないのだけど……)
「では、ここにそれぞれ署名を」
ジョドジーとの契約は、魔法契約だった。
魔力でキラキラ輝いていた魔法ペンで、母はすぐにサインをし、私に魔法ペンを託す。
私も仕方なく署名した。
2人が署名をして、すぐにマギサは、契約書を取り上げるように持ち、魔力を流す。契約書は不気味な輝きを放ち、闇夜に消えていった。
「えっ?」
思わず私は声を上げた。
商業科でも、普通の契約と魔法契約の違いを学んだが、魔法契約は、光った後、契約人数分に複写されそれぞれが保持するはずだ。
契約書が消えたことに驚いていると、ジョドジーは、今まで見たことのない笑みを浮かべていた。
心の底からの嬉しそうな笑みは、新しいおもちゃを見つけた子供の様な無邪気さと、仄暗さがあった。
「契約書は、必要ないだろう?
私は、ラーラを愛している。
もう一生、破棄する事はないと言う、私の意思表示だよ」
「まぁ、ジョドジー様ったら、嬉しいわ」
ジョドジーは、この契約を破棄する事はない様だ。
母への愛を口にしているが、表情はそんな風には見えない。
楽しくて仕方がないと言う様な笑みだった。
ただ、母は信頼し切っている様で、とても嬉しそうに微笑んでいる。
「さぁ。ここからは大人の時間だ」
マギサは、契約履行が終わるとあっという間に、部屋から居なくなっていた。
ジョドジーは、母の手を取り別の部屋へ移動する様だ。
母の幸せそうな笑みを見たのはこれが最後だった。
◇◇◇
それから、蜜月と称して母の姿は、見なくなった。
ジョドジーの側近にそう言われて、ジョドジーの姿も見なくなる。
私も、正式にジョドジーの養子となり、私の年齢から扶養義務が発生して、借金は帳消しになった。
ジョドジーの養子となった事で、世間体もあり、私は商業科の高等部へと進んだ。
学校側は元々私の才を認めてくれていたので、編入手続きも、速やかに行われた。あらかじめ決まっていたかの様に、3日後に編入する事になり、私は準備で慌ただしくなった。
高等部は、学生同士の意見交換と将来的な繋がりを重視する傾向があり、寮生活が基本だ。
私も例に漏れず、寮生活に入る。
荷造りで忙しくしていて、母には会えなかった。
それでも、寮に入る時くらいは会えるかと期待したが、寮に入る日になっても、母は見送りはくれなかった。
執事は、ジョドジー様はこの時を待ち侘びていたので、どうか察してくださいと、8歳の私に対して言う言葉なのかとも思ったが、私は何も言えなかった。
結局、母に会えず寮生活に入った。
高等部は、思ってた以上に大変で忙しかった。
けれど、高等部に上がれるくらいの実力を持つ人達は、大変大人びていたのもあり、8歳の私に対しても、大人の対応をしてくれていたので、いじめられる事もなく、充実した寮生活を送れた。




