リアラスタの過去 リデルフルール編⑥ sideリアラスタ
商会を廃業する事は、骨の折れる作業である。
商業科で、勉強していた事もあり、今後の事はおおよそ予想できた。
莫大な借金のある状態では、従業員の退職金もままならない。当分の生活保障すら難しかった。
このままでは、従業員も路頭に迷いかねない。
私たちの生活も然り。
莫大な借金が残った場合、グルグ王国では、借金を国が肩代わりする見返りに、国の奴隷として働かされる。
多くの人がやりたがらない仕事を回され、国が保障した金額を返さない限り、奴隷からは抜け出せない。
殆どの場合、死ぬまで奴隷として働くことになる。
それでも、母は、商会を維持するのには限界を感じていたのだとおもう。
借金の返済は、自分だけになるようにして、私は孤児院に預けるか、養女に出すつもりだったようだ。
そんな時に現れたのがジョドジーだった。
ある貴族……ジョドジー=ゴーヨドン伯爵は、最初は紳士的で柔和な人に見えた。
落ち着いたブラウンの髪と瞳、少し眉を下げた話し方は、より一層そうさせていた。長身で、貴族の気品、威厳のようなものは感じたが、話し方は高圧的ではなく、真摯に商会の今後と私たち家族について、憂いていて、私達や従業員達の事を考えているようだった。
母は、覚悟を決めて、廃業し、奴隷落ちを考えていたが、毎日商会を訪れるジョドジーの説得により、廃業を考え直した。
そして、ジョドジーと母は、契約を締結する事になった。
契約には、私も立ち会った。
それは、ジョドジーからの勧めだった。
私が、母の心配をしているだろうから、安心させる意味を込めてとその時は言っていた。
契約書を要約すると、ジョドジーは商会を立て直す。その代わり、母が愛人になる契約だ。
ジョドジーは、貴族であり、同じ貴族の本妻が既にいた。
本妻は、この契約には事前に了承を得ているとのことだった。
本妻は、貴族同士の契約結婚。愛のないもので、義務的な結婚だと話していた。
ジョドジーは、少し顔を赤らめながら、ラーラに一目惚れしてしまったこと。
ラーラが、奴隷落ちになるのは、耐えられないことを、伝える。
そう言いつつも、私は、ていのいい身売りだと思った。
どんな綺麗事を並べても所詮は、愛人だ。
身売り先が、国からジョドジーに変わっただけだと。
けれど、ジョドジーは、夫が急逝して心の整理もつかないだろうから、母が心を許してくれるまで、愛人関係は待つ。
その旨も契約書にきちんと書かれていた。
また、私の養育の保証も書かれていて、成人するまで親権を持つとも書かれている。
この国での親権は、かなり重い責任を持つ。
私が、何かするつもりはないが、私のやらかしは、全てジョドジーが責任を持つということだ。
子連れの愛人の場合、付属として、最低限の子供の養育費用は持つが、親権までは持つ事は少ない。
貴族にとって血のつながらない子供は、政略結婚にも利用出来ない。
利用価値がないと思われる事が普通なのだ。成人すれば家から追い出される事が殆どだ。
何か問題を起こせば、成人前でも切り捨てられる。
愛人の連れ子など、そのような価値なのだ。
親権を持つとは、全く血のつながらない子であっても、成人までは責任を負うという事であり、貴族では、その様な契約は見受けられない。
親権を持たなくても、付属の子供は生殺与奪は握っている様なものだからだ。
ジョドジーのメリットがないと思った。
ここまで来ると寧ろ怖いくらいだ。
何かあるとしか思えない。
弱っている時ほど、騙されやすい。
私は、何故だかわからないけれど、不安に駆られた。
本能と言うべき何かが危険信号を出していたのだ。
こんなに上手い話に裏がないわけがない。
私が訝しむと、ジョドジーは優しく微笑みながら、提案してきた。
親権についても、父の急逝を考えて、私が落ち着いたらで良いと、その間の養育費は、勿論だすから安心して良いと。
そこまでするかと、更に疑心暗鬼になる。
ジョドジーは、困った顔で、
ラーラの子は、自分の子だと、これからは私が君たちを守ると、紳士的で、力強い言葉に、そして自分達に強要しないジョドジーに、私達は、契約書にサインしたのだった。




