リアラスタの過去 リデルフルール編② sideリアラスタ
「むー!! 次は笑わせられると思ったのに!!」
近くで、母が嘆いている。
母は、感情豊かな人だ。
今日も、まずは笑顔で覗き込んできて私の様子を観察する。
私が無表情で見つめると、今日のお題とばかりに、様々な芸をしてくれる。
最初は、いないいないばぁのような仕草から始まり、おもちゃで遊んでる姿を見せてくれたり、絵本を読んでくれたり、変顔をしたり、時には驚かそうとしたり……。
驚かそうとするけれど、側から見え見えなので、あまり意味がなかったり……。
と思えば、自分の事や父の事、外の事など、話してくれる。
ずっと話してくれているお陰で、私の語彙力は、かなり上達していると思う。
お茶目な人だ。
今も、地団駄を踏んでいる。
前世、大人であんな事をしている人は見た事ない。
あ、叔母さんの好きな芸人があんな事してたっけ?
わたしが、現実逃避していると、ノックの後、扉が開いた。
「ラーラ。下に響いているよ。
使用人が、心配している。勿論、私もだ。
リアの事は、焦る事はない。
リアは、ちゃんと聞いているし見えてもいる。
体重は、少し軽いが医師は問題ないと言っていた。
人にはそれぞれ個性がある。
無理に笑わせる必要はないんだよ」
部屋に入ってきた父のルイは、母を落ち着かせる様に撫でた。
父は仕事帰り、そのまま子供部屋に来たのだろう。
いつものラフなシャツとスラックスではなく紺のスリムスーツの様な体にフィットした服を着ている。
質感も見るからな上等で、パリッとした生地に、光沢がある。
父は、商店の経営者で、母はそこの従業員だったみたいだ。
母は、販売定員で、人に合わせてコーディネートする事が得意らしく、売り上げ上位だったらしい。
外に出た事がないからわからないけれど、この家は多分裕福な部類に入ると思う。
母は、今仕事をしていない様で、私が目を覚ますと殆どの時間、側にいるし、お手伝いの人が、食事を運んできてくれたり、部屋の掃除をしてくれている。
「赤ちゃんが泣かないなんておかしいでしょ?
笑ってもくれないし……」
いつも笑顔を絶やさない母の様子が少しおかしい。
低い弱々しい声で、父に弱音を吐いている。
「ラーラ」
父は、ソファーに母を誘導して、ゆっくり座らせた。
母は、何かを決意する様に父を見ている。
「きっと私が悪いんだわ。
昨日も言ったけど、私、やっぱりお祓いをしてもらうべきよ。
今から行ってくるわ。もう手付金は払っているから。
街で、占い師に声をかけられたって言ったでしょう?
『悲観の相』が出てるって、早くお祓いしないと……」
母は今にも飛び出して行きそうだ。
それを父がとめにはいる。
「ラーラ。
それは、昨日も話しただろう?
今、そういった詐欺が横行しているから、気をつける様に自治会からも通達があったって。
教会への祈祷ならともかく、道端の怪しい人に5万ルピーを即金で渡して来るなんて……。ラーラ、落ち着いてくれ」
「落ち着いているわ!!」
母は、ずっと明るい人だと思っていたけれど、私の前では辛い気持ちを出さない様にしていただけみたいだ。
ずっと無理をして私を笑顔にさせようとしてくれていた。
それもそうか……。
私と母は、まだ出会って数ヶ月。
私は、母の一部分しか知らないのだから。
無理をして夜のバイト中、笑顔を振り撒いていた私と母が重なる。
私が、母にそうさせてしまっていた。
無理に無理が重なって、精神的にも肉体的にも弱ってくると、人は正常な判断ができなくなる。
私も忙しすぎて、ちょっと優しくしてくれた会社の上司を信頼してしまっていた。
今思えば、優しかったのは最初だけで、どんどん要求がエスカレートしていたな。
お金の工面だったり、部屋の掃除等、家事全般をやらされたっけ?
あんなクソ上司に何故心を許したのか。
何故、貢いでしまったのか。
冷静に考えれば分かるはずなのに。
両親の話を聞く限り、母に擦り寄ってきた占い師は、詐欺師である可能性が高かった。




