プロローグ
今までの物語と世界観が違います。
どうぞよろしくお願いします。
「お断り」
『生意気な小娘が!!』
何やら、うるさい声が聞こえてくる。耳障りである。
ここはフラル王国の辺境にある領主邸の応接室。辺境ではあるが領主邸なだけあって、調度品は全て一級品。
豪奢なシャンデリアの明かりがそれらを照らしていた。
ただ、金に物を言わせて、ギラギラ光る調度品がこれでもかと多数置かれているだけだが。バランスも悪く、とても品が良いとは言えない。
豪奢な応接室には、大理石の大きなローテーブルを挟んで、この部屋よりも更に品位にかける男女2人が、揉めていた。
いや? よく見ると、男側がキャンキャン吠えているだけだ。深夜の密会にも関わらず、そんな大声で良いものかと思うが、なにやら不満があるらしい。
男の方は、見窄らしく、でっぷりとしたお腹を出しながら、ソファーに踏ん反り返る中年オヤジ。服装の生地や装飾品は一級品だが、センスが悪く、ジャラジャラした宝飾は成金にしか見えない。
態度も太々しく権力に物を言わせるタイプだ。
色だけは、この国にとって高貴で、能力値の高い金色の髪に蒼瞳……顔は、ふくよかな体から想像がつくだろう。
両親から受け継がれた能力は有っても、豚に真珠だ。
実際、憤慨してピンク色になった顔は豚にしか見えない。
あっ、これは失礼。言葉が過ぎました。
これが、この邸の主人でこの辺一帯を治めるランソワー辺境伯であるのは嘆かわしい。
本来、辺境伯の役目は、領地経営のほか、脅威となる魔物への対処と、隣国の対応であり、かなり多忙なはずだ。
魔物の対処も、率先して行える戦闘系職であるはずが、その腹で、どう戦うのか、是非に問いたい所だ。
一方、成人して、それ程経っていない、少女にも見える女は、白の法衣に身を包んでいる。
法衣には金糸で編まれた繊細な刺繍が施されており、神殿に仕える高位の神官だ。
この世界の神殿は、治療院や孤児院の慈善活動もさることながら、神から与えられた秩序である理【プリンシプル】を重んじ、それを守る役割もある。神殿の中でも、秩序を守る人たちをを守法人と呼び、多くの権限が与えられた特権階級の人達がいる。正にこの女もその1人だ。
腰まで伸びた銀糸の髪は艶やかなストレートで、彼女が首を傾けるとサラサラと揺れる。整った顔立ち、白い肌、色素の薄い紫色の瞳も合わさって一見、神秘的だ。若くありながら、こちらは尊厳な法衣を着こなしてはいる。高位の神官としての風格はあるのだが……。
態度が頂けない。
法衣は体のラインが見えないふんわりとしたローブの装いであるが、それでも足を組み、アームレストに肘を置き、思い切り体を預ける姿は、神殿に仕える神官とは言い難い。
そうは言いつつも、能力は勿論のこと、実力も備わっている為、こんな辺境まで派遣されているのだ。
彼女とて、普段はもう少し猫を被っている。
つまり……この態度はあえてだ。
……まぁこれは、本来の姿でもあるのだ。目の前にいる奴に対して取り繕う必要はないと判断したのだろう。
そんな高位神官の名は、リアラスタ。
彼女は屈託の無い笑みを浮かべ、軽い口調で否を告げた。側から見れば天使にも思えるその笑みが、私にだけは、悪魔の様に見えるのは気のせいなのか……?




