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第8話◇彼は元婚約者を許しませんでした




「先日の新種の薔薇の件なのだが。正式な審査の結果、ルーカス・オルコットが申請した新種については、色々あって申請不受理となった。詳細はこれに書かれている通りだが、概要はここで簡単に話しておこう」

「えっ……色々、とは」


 まさかここであの薔薇の話が出るとは思わず、アメリアは息を飲む。

 しかも、ルーカスの新種の登録申請が通らなかったという話だ。


「まずは、オルコット家の断絶が確定した」

「だ、断絶、とは?」

「当然ですね。私がアルウィン王太子殿下にまとめて手渡した捜査資料は、完璧だったはずですから」


 まさかの事態に絶句したアメリアだったが、背後のウィリアムは鼻を鳴らし、納得したように頷いている。

 どうやらこの件にはウィリアムどころか、アルウィン王太子殿下までもが関わったらしい。


「ルーカスによる薔薇の件に関わる窃盗・詐欺の疑いと、あとは別件で父親……当主の脱税と魔法兵器部品の他国への密輸だな、十年ほどに渡ってやっていた。さすがにこれには王もお怒りでな」

「加えて、ちょっと外交的な問題もあって」


 ふぅ、とベルナルドがため息をつく。

 続けてミリルも眉を寄せて遠い目になった。

 そちらもそちらで何やら大変だったようだ。


「貴女も知っているでしょう?今、すごい勢いで世界各地で薔薇の栽培が行われていて、それはまぁ、素晴らしいことなのだけれど。中には人気をいいことに世界中に投機バブルを起こそうと考えている者がいるの。それに伴って強引な取引や詐欺、窃盗、転売、あとは権威付けして価格を吊り上げるために賄賂を有力貴族に渡して……だとか」

「ああ……なるほど。『虫』がわいたんですね」


 アメリアは納得した。

 植物界隈にはたまにあることだ。

 愛情や趣味以外の目的で植物に手を出す者が、この世にはいる。


 薔薇を心底愛するアメリアにとっては『虫』としか思えないが。


「そうね、隣の帝国の女帝が薔薇に強い興味を抱いた五年ほど前くらいから悪質化して、破産しかける家門まで出る始末。周辺の国の貴族にまで波及しそうだったのよ。国内は貴女の実家、マクファーソンが上手いこと動いて引き締めてくれたんだけれど、今オルコットに余計なことをされたくなかった。貴女の新種も帝国に転売予定だったようね。ようやくルーカスが口を割ったようだわ」

「あんの、ルーカス……まさか、そんなことまでしてるなんて。本当に、あの男……!」


 アメリアは頭をかきむしりたくなる。


 ルーカスが薔薇の花を見るなり「ところで、この花いくらで売れるの?」などと聞いてきたことがあったのを、ふいに思い出す。


 おそらく、マクファーソン家の表面上の成り上がり具合に目を眩まされたのだろう。


 オルコットとの婚約は先々代が薔薇園を邸宅に作るほどの薔薇好きだったから決めた、と両親から聞いていたが、跡継ぎのルーカスにはその愛は全く受け継がれなかったようだ。


 アメリアは今回の婚約破棄の件で、両親がことさら自分に対して申し訳なさそうにしていた理由を察した。

 先々代の愛を信用し過ぎた、ということらしい。


「まぁ、少しばかり、うちの息子がやり過ぎた感はあるのだが……。いくら子供の頃にいじめられて初恋の子を盗られたからって、私怨が過ぎるぞウィル。それから、そろそろアメリア嬢を放してあげなさい」

「叩けば埃が出る家門が悪いのでは?私は単に全ての先方の悪事を書類に書き付けて速やかに王太子殿下に提出しただけですし?あと、嫌です」

「こら、冷気を出して威嚇するな。もうお前からアメリア嬢を盗る奴はどこにもおらんぞ」

「父上が放せなどと言うからです」


 たしなめる口調のベルナルドに、つーん、と言いたげにウィリアムはそっぽを向いて、またアメリアを抱き締めた。

 グリグリとその頭をアメリアの首もとに擦り付けている。

 その言動はまるで子供みたいだ。


 待って、初恋の子、って今聞こえたのは気のせいですわよね、そんな……そんなことって。


 動揺に動揺を重ねられる状況になり、アメリアはただ赤面したままぱくぱくと口を開けたり閉じたりする。


「……久々に見たわぁ。反抗期もろくにない子だったけど、アメリアさんと薔薇のことになると毎度ごねて譲らないのよね。下手すると全魔力を総動員して抵抗してくるし」


 吐息をついてお茶に口をつけるミリルは、何だか慣れた口振りだ。

 毎度って、全魔力って、とアメリアは呟き今度はとことん青ざめた。


「お、お手数を毎度お掛けしまして……?」

「いいのよ。だって今後はアメリアさんが全て引き受けて下さるんでしょう?」

「えっ?あっ、はい……それはもう」


 あまりに美しすぎる表情でニコッ、とミリルが微笑むので、アメリアはただコクコクと超高速で頷くしかない。


「そう、じゃあお願いね。その子が落ち着いてまっとうに会話が成立するようになるまで、わたくしたち席を外すわ。行きましょうか、あなた」

「そうだな、この続きは小一時間後にでも」

「えっ、そんな、待って、」


 すると、ゾクラフ公爵夫妻は揃って部屋から出ていってしまった。

 よって、ごねる彼らの息子の相手はアメリアに一任されることとなった。




 ここまでお付き合い頂きありがとうございました!!


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