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第3話◇元婚約者に何の未練もないけれど




 そもそも婚約なんてしていなければ、今頃実家で楽しく薔薇の栽培に邁進できていただろう。

 行き遅れ令嬢と評されながらも死ぬまで実家にしがみついた方が、薔薇から離れずに済んだのかもしれない。


「本当に、ルーカスには、完全にしてやられましたわ……けれど、わたくしの落ち度が招いたこと」


 ずっと黙っていると涙が溢れそうになるため、アメリアはあえて口にしてみる。侍女はまた「お痛わしい」と言いたげに眉を寄せた。


「……アメリアお嬢様、もうあの無礼な方のことなどお忘れ下さい。これから新しい婚約者様とお会いするのですから」


 慰めるように侍女が背中を撫でて、首を振る。

 けれども、アメリアは決して忘却という責任放棄を良しとはしなかった。


「いいえ……絶対に忘れないわ。それにね、わたくしは全て納得して嫁ぐと決めたのよ」


 これが虚勢だとしても、とアメリアはあえて顔を上げて気を張る。

 崩れ落ちないためにかえって強く振る舞うしかなかった。


「これでいいの。心配しないで、って家の庭師のみんなにも伝えてちょうだい。いいわね?」

「承知、いたしました。お嬢様がそうおっしゃるのなら……」


 アメリアは頑張ったが、やはり引き攣った笑いになってしまった。


 侍女はまだ何か言いたげにしているが、以後は言葉を飲み込んで、少し乱れてしまったアメリアの漆黒の髪を整え始める。

 優しく慮る手指の感触に身を任せて彼女は目を閉じた。


 そういえば、ルーカスはこのまっすぐ過ぎる漆黒の直毛と瞳の青緑色も暗すぎて毒々しいって言っていたわね。

 浮気相手のあの子は、カールがふわふわと柔らかそうなオレンジブラウン髪に、ヘーゼルブラウンの瞳だったわ。


 ルーカスに対しての未練は全くないが、アメリアは自分の容姿も性格もこの国の大多数の令息たちにはあまり好かれないらしい、とは察していた。


 その黒髪はまさしくからすの濡れ羽色。つり目に濃い青緑の瞳という組み合わせのおかげで目付きも鋭く見える。

 その上、普段庭師たちにキビキビと指示を飛ばすことが多いためか、令嬢にしては言葉の端々が強いのだ。


 それでも、清楚に見えるように口調を穏やかにする努力も特にしなかった。

 ルーカスは怠慢女だと言ってひどく憤慨していたが、知ってて繕わなかったというのは確かなことだ。


 お披露目と名付けを待つばかりだったあの花の未来を、自らの未熟さで潰してしまった。

 そのことは、どんなに後悔してもしきれない。


 でも、ルーカスなんかのために自分を変えて耐えることは決してしたくなかった。

 仲を深める気持ちもなく、薔薇の世話にかまけて放置した。


 さして寄り添う心はなかったのに、いずれ結婚するのだしと気を抜いてしまった。

 どんな本性をしているのかを全く理解せぬままに。


 あの新種については完全に任されていたわけだから、両親ではなくこのわたくしこそが全ての責を負うべきなのでしょう。


 せめて、新たな婚姻で傷ついた家名を戻すべきだわ。


 ゾクラフ公爵家とのご縁なんて、本来はマクファーソン伯爵家から望んで結べるものではない。

 この国では、力が強い公爵家の婚姻には王家の意向が強く反映される。


 王家の望みだからこそ、今回に限り、成り上がりの伯爵家が由緒正しい公爵家と繋がれるのだろう。


 父のことを「たかが花程度で王家に取り入り地位を得た」とか「土まみれの農民男爵上がり」と見下す高位貴族もまだいる。


 たとえ当主や夫に冷遇されたとしても、全てを甘んじて受ける。

 この土地で死ぬまで生きて、この家に求められるままにゾクラフ公爵夫人としての義務をしっかりと果たしていく。


 そして薔薇の苗をただひとつでも構わない、敷地の一角で育てることをお許し頂きたい。

 せめて実家との繋がりを示すものとして。


 未来がそうなるように可能な限り頑張ろう、とアメリアは誓い、強く覚悟した。

 彼女にとっては、それが貴族の娘として残された唯一の「今後できること」に思えた。





 ここまでお付き合い頂きありがとうございました!!


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