2 漂流という名の迷子
誤字報告をありがとうございます。とっっってもうれしい……(穴掘って入って埋まりたい
なんというか、やけに説明な回になってしまった。
シイラ号、それはホワイトの相棒をつとめるシイラ型の水陸両用バイク……バイク? どこにも車輪が見当たらないが、跨がって乗るものだからバイクと言い張っておこう。車輪はないが。
道路交通法から弾かれた存在ともいえるシイラ号は、そもそも公道を走らない。
翔ぶからだ。
どういう仕組みになっているのかホワイトには全く理解できないが、各種レーダーにもかからず、また航空機パイロットの目視すらもかわすステルス仕様は確実に高性能を誇る。シイラ号を産み出したブルーの手腕もさることながら、世間に知られたら大問題の品であるにもかかわらず「便利だな」で済ますホワイトの胆力はさすがともいえる。
「事故らなきゃいいんだよ、こっちが気を付けていれば」
子どもの前で決して言ってはいけない文言である。
ヒーローじゃないからね。ヒーローの役割はグリーンが担ってくれればいいんだよと、ホワイトは考えている。
シイラ号とホワイトはなぜか意思疎通を図ることができる。これにはブルーも首をかしげていた。そんな機能はつけた覚えがないという。
しかし、これまた「便利だよ」のひと言で片付けてしまうホワイトは、そんなシイラ号をかわいい、かわいいととても大切にしている。動植物でもモノでも日常的に「この人」「あの人」呼ばわりするホワイトにしてみれば、意思疎通ができる時点で相当かわいいに違いない。
「シイラ号、お待たせ~! ごめんね、遅くなって」
ピチピチとしっぽを揺らすシイラ号に勢いよく抱きつくホワイト、文字通り体当たりだが、シイラ号は動じないどころかガッチリ受け止めて、大喜びである。
ホワイトはしいら亭を始めてからシイラ号との時間が少しとは言えないくらい減ってしまったことに、罪悪感を抱いていた。衛生面の都合からシイラ号を厨房へ入れるわけにもいかず、部屋に待機してもらっているのだ。
意思疎通ができるこんなにかわいい子を、駐輪場に放置するだなんてとんでもない! 人目につくところになんか置いておいたら拐われるかもしれないし!
どうやって屋内に持ち込んでいるのかは定かではないが、叱られていないところをみると容認されているのだろう。
いずれ小型化して肩乗りなどを始めるに違いない。
シイラ号と一緒に造ってもらったマヒマヒソードを手に、NAROUの裏手へまわる。このマヒマヒソード、普段は全長二メートルほどの板の形をしているが、ホワイトの使用意思を感知すると刃渡り二メートルの剣へと瞬時に姿を変える、便利道具である。
一見、使い勝手のよさそうな板に見えるためたびたび盗難の危機に遭うが、ただの人が持とうとしても四〇キログラムほどの重量があるため持ち上げるのが困難、それならばと重機を持ち出せばさらなる重量を叩き出すようで、重機のほうが危機に陥る。ホワイトとシイラ号、作り出したブルー以外に扱えない。
質量保存の法則を無視した謎の物質、ヒョウリュニウム製だ。
「さあて。どこにいこうかな?」
シイラ号に跨がり、その背をポンポンと軽く叩く。バイクのようにハンドルがあるわけでも、馬のように手綱があるわけでもないのに、シイラ号はホワイトを乗せて危なげなくふわりと浮かびあがる。
どれだけ速度をあげようが、急旋回をしようが、はたまた急ブレーキをかけようが、その背に乗るものが振り落とされることはない。
ひとまずは、シイラ号の気分のままに翔んでもらうことにしよう。そう決めて出発した。
みるみるうちに遠ざかるNAROU、旅客機の窓から景色を見ているように錯覚する上空からの景色の流れ。何度シイラ号と出掛けても飽きない。シイラは英語だとドルフィンフィッシュというだけあって、その動きは力強い。もしもこの姿を目にすることができるものがあれば、まず自分の目を疑うだろう。
ホワイトが楽しんでいることを理解して、シイラ号はますますゴキゲンに翔ぶ。
「あれ?」
目をやった先に気になる影を見つけたホワイトは、シイラ号とともにそちらへ向かうことにした。ホワイトは、基本的に見たいものしか見えない特殊な眼をしている。遠目にでも知り合いを判別できるのは雰囲気で認識していて、しかも無駄に精度が高い。
近づいてみれば、その影はブラックの召喚精霊「はしば」「にゃんぼう」「くろまる」だった。しかし、主のブラックは姿が見えない。はしばたちは何かを探しているようにも見え、少し心配になったので声をかけてみることにした。
「おーい!」
ホワイトの通らない呼び声にも気づいてくれるはしばたち。実に優秀な精霊である、ありがたい。
精霊たちが何をしているのかを尋ねてみれば、先日ヒョウリュウジャーが戦った合成獣ブラック・スクイーズを使役していたDr.イカーを探しているという。
このDr.イカーとは、コーラフロートの女神ブラック・プリンセスが飲むものからの想いを失い、嫉妬と絶望から闇堕ちした姿であり、グリーンが文字通り体を張って闇堕ちから救った存在である。
「あ~~……」
はしばたちは、その前にホワイトが切り身にし、チクワ・ライダーが下処理をしてくれたブラック・スクイーズの回収を手伝ってくれていたから、Dr.イカーがブラック・プリンセスだということを知らなかったようだった。実のところ、ブラック・スクイーズを切るだけ切ったらさっさと戦線離脱したホワイトも当時は知らなかったのだが、そこはあの戦いのあとNAROUへ戻ってきた仲間から話を聞いていたので(情報として)知っていた。
その後、飲むものの想いをどう受け取っているかは定かではないが、ブラック・プリンセスがDr.イカーになったという話は聞いていない。
「Dr.イカーは最近見てないね。ブラック・プリンセスに相談してみたらいいんじゃないかな」
ブラック・プリンセスがどこにいるかはわからないが、サファイア様とチェリー様がいらっしゃる「メイド喫茶 愛しのチェリー」へ行ってみれば誰かが何か知っているだろう。漂流するのはヒョウリュウジャーだけでいい、下手にはしばたちが人に見つかってしまうほうが問題だ。かわいいし。
こうして、はしばたちに道筋を示して彼らと別れると、ホワイトははたと我に返るのだった。
「ねえ、シイラ号。ここ、どこだと思う……?」
海なのはわかっている。問題は、どこの海か、だ。
魚を釣ったところでどこの海かなどわかるわけもない。ガチ勢の釣り人の人ならわかるのかも知れないが、ホワイトでも釣れる魚ならどこでも釣れそうなだけに、確認のしようがない。
はしばたちに聞いていたら、わかったのだろうか。
楽しい翔びまわりから一転、迷子がひとりと一匹。
§ 補足 §
バイク:日本においては、自動二輪車(モーターサイクル)のことをいう。原動機(ここではエンジンを指す)を積んだ二輪車ということで、正確な分類だと違う原付なども呼称に含まれている。英語では自転車のこともバイクという。
オートバイは和製英語。
マヒマヒ:シイラのハワイ語。日本語にすると「強い、強い」となる。強い強い剣、あるいは包丁。包丁なら中の人が欲しい。刃渡りは2mも要らないが。
刃渡り21cmの牛刀なら日常的に使っている。おかげで16cm出刃の出番(ダジャレではない)がない。