1 趣味が仕事に
本作品のキャラクターと基本設定は、辻堂安古市さまの『【連載版】咫尺天涯戦隊ヒョウリュウジャー ~消えたブラック・プリンセス~』(Nコード:N4462JT)冒頭の「ヒョウリュウジャー メインテーマ&設定資料集」(https://ncode.syosetu.com/n4462jt/1)より、お借りしています。
でもたぶん、平行宇宙のお話。
咫尺天涯戦隊ヒョウリュウジャーの本部基地「NAROU」、その一角では日々なにかしら料理の香りが漂っている。その理由はただひとつ、食に執着するひとりのヒョウリュウジャー、ホワイトがいるからだ。
たまに数日なんの香りもしないときがあるが、大抵の場合、部屋の主が留守にしている。
食材調達という名の漂流……いや、迷子かもしれない。
「いっそのこと、ホワイトが食堂開いてもいいんじゃない?」
とは、誰の言だったか。
鶴の一声に応えた周囲によりあれよあれよという間に基地内の改装が行われ、気が付けばホワイトは特別仕様の厨房に立っていた。皆、食事の支度がそんなに面倒だったか。
気持ちはわかる。わたしも料理は好きじゃない!
そんなホワイトの心の声は、厨房に響く換気扇の音にまぎれて消えた。
趣味を仕事とするのに向いてはいないが「食材調達は経費でできる」というエサに釣られて、ホイホイ引き受けてしまったホワイト。
まさかこれほど苦労することになるとは思いもよらなかった。
自身もそうだが体が受け付けてくれない食材の多いブルーとゴールド、甘党かつクリームソーダを求めてしょっちゅう漂流しているグリーン、クリームソーダの女神さまたちに人生を貢ぎすぎて自分の食事を疎かにしがちなレッド、要望はお酒とおつまみなイエローなど、自身を含めて個性的すぎる面々の健康状態を加味しながら興味をもってもらえる献立を組まなければならない。
しかも困ったことに、ホワイトはいわゆるつまみ飯が得意であった。そんなものばかり提供していては、メンバーを生活習慣病にしてしまう。
「ブラウンさあぁぁぁあんっっ!!!!」
ほとんど泣きつく形で医療担当のブラウンを訪ね協力をあおぎ、基本コンセプトに「目指せ計量器メーカーの食堂なみに健康的な食事メニュー」を掲げる。
その道は、たいへんに険しいものとなった。
なぜならホワイトは、自身の家族を高尿酸血症に導いてしまった前科がある。もっとも彼らの場合は体質遺伝と食べ過ぎに起因しているが。
ぉぅ。
ブラウンが遠い目をしたように見えたのは、はたして気のせいだろうか。
こうして運用の始まった、ヒョウリュウジャー専用食堂しいら亭。思いのほか好評で、ホワイトは日々楽しく調理をしていた。仕事にするととたんにできなくなる性質ながらも、日常だと思えば作り甲斐のある生活が楽しい。
食に貪欲なあまり「食べられない状態」に対して非常に敏感なホワイト。もともと誰かに食の提供をする際はしつこいくらいに食物アレルギーの有無などを質問していた。そんなこだわりの塊が食堂を営むとなれば、どうなるか。
ここは不特定多数相手の商売ではなく、特定少数のメンバーへ日々の食事を提供する場。だったら好き嫌いとは関係なく、アレルギー症状の重い人を基準に食材を選別する。知っているものと風味は変わるが、安全のためならたいしたことではない。「これはこういうものである」と言い張ればいい。
常日頃から「作る人最強説」を唱えているだけあって、こういうときのホワイトは強い。
どんくさいくせに。
できないことは仲間を頼る。
かつていろんなものを背負い込むあまり自滅したことがある反省を踏まえて、ホワイトは誰かに助けを求めることをようやく覚えた。
大袈裟に表現しているが献立決めに次ぐとても重要なミッション、味見要員の確保だ。ホワイトはなんの因果か乳成分と牛肉という「牛まるごと」がNGという体になってしまったが、提供する料理には使いたい。というか作りたい。しかし体内に入れてしまえば百パーセント体調を崩すため、味見すらできなくなっていた。
このミッションには立候補者が多く、毎回争奪戦になる。
毎回白熱しすぎて基地が壊れてしまうため、くじ引きと当番制を併用することにした。しかし、くじ引きの順番を巡ってまさかのバトルが勃発し、とうとう事態を重くみた司令官さまに全員まとめて叱られるのだった。
ある日のこと、基地の廊下を歩いていたグリーンが食堂の扉に張り紙をしているホワイトに出会った。
「あれ、ホワイトさん。何やってるんですか?」
「あ、グリーンさん、こんにちは。そろそろ食材のストックが心許なくなってきたから、仕入れに行こうかなと思って」
謎のこだわりをもつため、ホワイトは目利きができないにも関わらず自ら食材の調達をしたがる。NAROU内には普通に業者さんも出入りしているのだが、できるだけNAROUの場所を知っている人が少ないほうがいいと考えているのだ。そのため、NAROU宛に通販を利用することができないでいる。
こいつは世を忍ぶ仮の姿を忘れているに違いない。
「へえ。なにか面白い食材、見つかるといいですね。この前の杏仁豆腐もおいしかったし」
グリーンが張り紙に目をやると、そこには大きく『しばらく留守にします。』とあり、その下になにやら説明書きがあった。しいら亭が休業中のときの食事の受け取り方が書いてある。
カウンターの読み取り機にIDカードを認識させるとメニューが選べるようになっていた。選んだメニューは適切な温度で取り出し口に提供される。どうなっているのだ、内部構造。
「こんなところに、こんな仕組みがあったんですねえ……」
「うん。しいら亭ができたときはなかったような気がするんだけど、わたし一旦出るとなかなか帰ってこないから。みんなのためにごはんがストックできるよう、いつの間にか改装してくれてたんだね」
なかなかというレベルではないような? とグリーンが突っ込む前にホワイトがポロリする。
「でもほとんど厨房で寝泊まりしてるのに、改装してたなんて全然気がつかなかったよ~」
あはは~と笑うホワイトに、グリーンの目が点になる。自分の部屋に帰れよ、すぐそこなんだから。
ホワイトの中では昔から台所に住み込みたい願望があったからなんの問題もないのだが、外から見れば異様な光景だということに、いい加減気付いてほしい。
「そんなわけで、今ある食材全部つぎ込んでたっぷりごはんを入れてあるから、みんなで食べてね~」
「……いってらっしゃい」
うきうきと相棒のシイラ号のもとへ向かうホワイトを見送りながら、グリーンは思った。
――今回は何日で帰ってくるんだろう、この人。
せめて冒頭だけでも期間内に……ということで、連載になりました。
書けるのか、これ?(汗
§ 補足 §
この前の杏仁豆腐:北杏(苦杏仁)と南杏(甜杏仁)を合わせて作るマジモノ杏仁豆腐。知識としては知っているが予算都合で実際に作ったことはない。