澄心求記
――僕は泣いていた。いや、泣くことしかできなかったのかもしれない。自分の無力さに、人の儚さに…――
いつからだろう。僕は人と関わることが厭になっていた。心が深い闇に埋まっていた。淋しくて、それでもなぜか心地よくて…。
僕は白川真澄。至って普通の中学生だった。成績も普通、運動神経も特別いいわけではなく本当に普通だった。
そんな僕でもある日恋をした。初恋だ。だがそれから2週間もしない頃、彼女は死んだ。事故死だった。あまりにあっけない終わりに僕は泣きそうになった。
そんなこともあったが僕は高校生になった。何処にでもあるような普通の県立高校だ。1年の時、僕はある教師に思いを寄せるようになった。決して叶わぬ恋。それでも僕は幸せだった。それは夏休みだった。その教師は死んだ。部屋で変死していたそうだ。僕は絶望に染まった。人を愛してはいけないのだろうか?信じてはいけないのだろうか?
今僕は3年生になった。人とは関わらない。たまにこんな僕をクールなのだと勘違いする奴もいる。…迷惑だ。ただの厄でしかない。
そんな僕が毎日通っている喫茶店がある。『DIST COFFE』とほとんど読めないような字でかかれた看板がドアの横に悲しく揺れている。おそらく僕以外に客などいないだろう。
「……いらっしゃい」
ここのマスターも僕と同じようにあまり人と関わろうとしない。それがよかった。僕が唯一心を落ち着かせることができる場所。それがここだった。
「……どうぞ」
マスターはいつもその日の僕が欲しているものを黙っていても出してくれる。長年の勘というやつだろうか。濃いめのブラックコーヒー。今日の気分はこれだった。
僕はここに来るといつも考えてしまう。あの2人は僕が殺したのではないか、と。確かに僕は殺してなどいない。だがもし、殺してしまいたいほど愛していたとしたら…?人の思いは時に想像を遥かに越えた結果を残す。
―――曲がった思いは曲がった結果を生む―――
「!?」
…何だ今のは?頭に直接響くかのような言葉。気味が悪かった。
『……早めに帰るか。』
まだ夕方の5時ぐらいだったが僕は帰ることにした。
その日はあのことが頭から離れなかった。“曲がった思いは曲がった結果を生む”。あれは僕に何を伝えたかったのか……?何も解決しないままに新たな陽が上っていた。
今日も僕はここに来た。あの声の正体を突き止めるために。
「……どうぞ」
マスターは水を置いていった。本当に見透かされているのだろうか?だがそんなことは気にならなかった。僕は彼に呼び掛けた。
『少し…話をしないか?』『………』
『ほんの少しでいい。お前の言葉が聞きたいんだ。』『…全ては無から生まれた……』
『…え?』
『………』
あまりに唐突すぎる。“全ては無から生まれた”?何だかもやもやしたまま家に帰った。
「おかえり〜。お風呂わいてるわよ〜。」
母の純子だ。いつもこんな調子でやっている。息子の僕がいうのも何だが彼女は甘い。この世はそう簡単には進んでは行かない。うちは母子家庭だ。父親は物心ついたときにはもういなかった。母はまだどこかで生きているというが、まぁ死んでいるだろう。それでいい。そうでないと…。
僕は毎日喫茶店へ行き、毎日あの言葉を聞いていた。そしてある日、僕は近くの神社へ来た。特に何かあるわけではないが体が勝手に動いていた。とりあえずお賽銭をして、お参りをしようとした時、僕の意識は闇へ落ちていった。――




