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夢の叉三郎  作者: 猫八
田舎道
9/21

海夏

「初めて驚いてくれたわね」

 彼女が、そう、耳元でささやく、彼は揺れた目元を隠して口をわずかに震えさせた、私は彼女が話をしているから、境木の横で一悶着しているさまを笑いながら見届けていた。

「栄木だ」

 すると、榊の枝に近づいた、枝の一つを取りそれを懐へ刺す、元々使っていた玉串の葉は、土に置いた。

「折るのね、神聖な木じゃないの」

 躊躇いの無いシュンに若干引いていた、シュンは私のいじらしい顔を見て顔を歪ませたのだ、折られた榊の木は万全には程遠かったが、欠けた三日月のより美しかった。

「折らないと使えないだろ、玉串として」

 棒状の何かは私が話しているより多くの事を見ていた、銀紙に棒状の玉串を刺してお祓い棒をつくる、

「躊躇したのね」

ただ、ぼーっと榊の枝を見ていた、金縛りにあうより健やかに健全に、一点だけを見つめていたから意識しても体が動かなかった、眼だけを横に動かす、「しめ縄」だった、遠くの扉にしめ縄があった。

「別にいいだろ」

 落とし物は見つかった、ヒナはそれを持ち上げた、ずっしりとしていて、日に当たっていたから熱い、太陽光で日焼けして少し色あせているようだった、縁側に投げてある靴下の切れ端よりは綺麗だった。

「閂の鍵はどうするの」

 鍵は彼女が持っていた彼の家に話していた、施錠のために使われていた錠は円盤系の型をしていた、指で鍵穴をほじくるが一向に鍵が廻る気配はなかった、ヒナは諦めて手から錠を落とす、閂と繋がっているから外すことができなかった。

「閂が外れないから、鍵を持って来るほかないだろう」

 シュンがぶっきらぼうに言う、シュンは自分の衣装を触ると膨らみがあるポケットから、鍵を取り出した、至極まっとうな言葉であるが、鍵が有るのならば最初から言って欲しいものだ。

 シュンは鍵を施錠されている錠に当てる、鍵穴の種類は何十通りのパターンにングがあることを知っている、シュンが取り出した鍵は何個もあり、鍵束としてまとめられていた。十個か二十個あるよう見えた、シュンが鍵穴へ指すごとに鍵穴に嵌るのであろう鍵が少なくなっていく。

「鍵束の鍵が無くなった」

 私は鍵束の最後の鍵をシュンが何度も指そうしている光景を見ていた、哀れでとても泣き出したくなるようだった、ヒナは彼を抱きしめると何度も同じように泣いた、彼と私が感覚を共有できたよう感じた。

「シュンってお祓い棒、振れるの?」

 彼のお祓い棒を彼女に話していた、彼女はシュンの頭を撫でるが、シュンが反れるので一向に慰めることすらできない、凛々しい雰囲気を纏っていたが説得力のかけらすらないのである。

「お祓い棒じゃなくて大麻おおぬさな」

彼が明らかに怪訝な顔をした瞬間であった、私は彼女に話したことがあるが、私には彼女が居ます。

「ん、それで振れるの」

 渋々文句を言うが彼にはとても話せるような事柄ではなかった、彼は何度か小刻み震えながらそのボウを天にかざした、数分もすれば手の中に戻していた。

「降ったことはないけれど、禅が降っているのを見たことがある」

 真顔にならないよう言葉を選んでいたつもりではあるが、顔から力が抜けて行った、顔の爛れも相まって、私は彼女に話をしていたのだ。

「シュンって彼女いないの」

 私は彼に向って彼女の有無をきくが、答えてはくれなかった、誘惑もきかなかった硬い一枚岩があるようだった。

「いない」

 彼はぶっきらぼうに答えるだけで何も答えてくれない。

「どうしていないの」

 追随する言葉をヒナは止めなかった。彼は言葉の藤節に濁すような小さい言葉をぶつぶつ言っていた。

「ここに来るヒトが少ないからだよ」

風鈴の風がなお私の手に話かける、私は彼女にはなしていた、風鈴の風が砂を巻き込んで小さな竜巻を起こす、住み慣れたアオの空の下で永遠に終わらない夏休みで、私にはなしていた。

「順番は右に一回、左に一回、右に一回」

 わたしは話しているより多くの事を話していた、私の事を話しているようだった、彼女の事を聞いていると賽銭箱から樹木が泣く声に似た音が聴こえた、私が玉串を置くと奥から小さい小箱が引き出しから、風鈴の風がなお私の手に話かける、私は彼女にはなしていた、風鈴の風が砂を巻き込んで小さな竜巻を起こす、住み慣れたアオの空の下で永遠に終わらない夏休みで、私にはなしている。


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