畳
私は灯篭の火を翳し彼女の帰りを待っていた、竹筒の中の水は良く有事の際の水の原料として使われていた。私は少なくともシュロより早く目が覚めた、9時に寝たからだろう。
私は桜井門の前にいた。
私の就寝は21時と珍しく速かった。シュンより就寝が速く禅よりは遅かった。ヒナは安眠の中大きな枕元から背骨にかけて何かが乗っかっている感覚がした。
私が寝返りを打っても鳴いているわけでもなく驚いているわけでもなかった。
動物の臭さが無いのでネズミでないことは確かであった。
私は22時には目を一回覚ましたがシュロが拳を頭に当てているだけであったので『良し』としてまた眠った。眠ったことを良いことに私は暗い宵闇の夢中を漂っていた。私は彼女に話をしていると彼女の家の中に居た。
シュロが私に話しかける、私は横に重いモノが乗っていると感じた、見て見るとジュンの腕が私の腹にかかっていた。寝返りを打って横に居るそれを見ていた、腕は私が動くと折りたたみ巻かれた。
朝焼けのヒカリが丁度私の頭に当たるようつくられていた、天窓から漏れるヒカリが地平線から広がるまで私は太陽を眺めながら壁を見ていた。私の家に有るものは大抵揃えられていた。私が使うであろう日用品も潤沢に整っていた。
時間が経ってようやく目が覚めて来るのは頭痛が増す代わりに足がより痺れる時であった。しかし、時間が経つにつれて健やかに花の香りを楽しめる気概が増すのは日吉神社に来てから珍しいことではなかった。
私は冴えわたる目で辺りを見回したが、シュロの姿は見えなかった、私は寝巻のまま裏の通りから神道へ出る。禅のことに私はとても憤りを感じていた、私はとてもではないが彼女の事を話していると。
裏通りから桜井門を抜ける時に私は突風とも呼べる風を身に受けたシュロをはなしていた。私はシュンが起きようが桜井門の外でも鳥居の外でも彼女を見つけ出す、シュロは丸まっていたが私は彼女にみていた。
空は碧の玉が澄み渡るような天晴であった。
シュンはまだ寝ているだけであった、私も朝は遅い方であると自覚しているがその私より早く寝たのだから、早く起きても構わないだろうに、彼の目を覚ます風量が足りなかったのかなと感じた。
私はシュロの名を呼ぼうとするが声がかすれて出なかった。女に話をしていると彼女に聞いていた夏の予防線すら張っていなかったが、案外、今日は風鈴が泣く程の風も吹いていなかった。
私はシュロが居るのではないのかと本殿を背にシュロが泣く姿をぎこちなく座る彼女を見ていた、私は背中から丸まった。
太い木でできた材木が漆に話をしていた、私は彼女に話をしていた、手を握ると微かに漆の香りがした、本殿の床は敷き詰められており一部の隙が無いよう思いえた、驚いたのは本殿の奥に段差が有ることであった。
畳の奥に有るご神体を見て行こうとした、四角のような顔に長いまつ毛と薄ピンクの唇が映っていた、鏡を見て改めて思うのが私の手は細いということであった。
畳の高さによる段差のため足がつっかえそうになった、うどんを足でこねるよう片足で立つと畳の箆はティーカップの横のよう湾曲して曲がっていた。跳び跳ねるごとに畳は藁の部分が中祖こをねかれたよういなしている感じがした。
私は飛び降りて後ろを確認してみると擦った部分のみがハゲていた。
畳を退かすと私が見たのは大量のゴキブリであった。
私は私の友人の家でさえもゴキブリと言う生物を見かけることがなかったため対処が遅れた。
無臭の畳の香りに悩まされていると蓋を開けた瞬間に熟成された数百年の熱気が私の顔を覆った。
私は竹林近くの家の通りから話し声がすると畳を横の真新しい畳の上に乗せた。私は熱気の向こうにある成熟された不貞な殺気を目の前にしていた。
ワサワサとヒカル光沢で、作られた触覚はピンの針金の健康的であった。螺旋状に揺れた触覚がこちらへ向く、しなやかな一物の奥に有る目と私は目が合ってしまった。
私は彼から貰った松明の先を石畳でつくられた空洞へ向けた。松明の熱気がゴキブリに届く距離まで近づいた、左右に別れて反旗を翻し反対方向へ逃げた。
火を近づけた部分の滑り気がカラリと取れた。
私は苔を我慢しながら中へ入る。石畳の階段と横の台形に彫られた石垣の中をくりぬいた断面であった。私が一段落ちるごとに鉱物を介して伝わる音がより鈍くなっているようであった。
階段を降り切った所に触れたのは鉄の錆びた臭いであった。私は嗅いだのは用具場で彼女が支柱を触った時に付く鉄の臭いと全く同じであった。汗臭さが鉄の臭いに交じって鼻孔をくすぶった私はそれが生物からの排泄されたモノで有ることを分かっていた。錆びた鉄格子の奥を見ると肌色のゼラチン質の個体の姿を照らした。
「何あれ」
私は彼女の家の隣に有るようなウナギのゼリーにした『ウナギのゼリー寄せ』をほうふつとした。しかし、彼の肌は確かな硬さがあり皮脂は出ていないようだが彼の隣を虫が霧散していた。
私は皮膚に有る皮脂に興味が有った、と、言うのも彼はコケが生えていている場所にも関わらずカラダに皮脂が浮かんでいなかったのだ。私は壁の向こうを見るためにより近づいた。
私との距離が鉄格子一枚分まで近づいた時に私の持って居る松明は彼が投獄されている鉄格子の中腹に当たった。私は初めて頭の血が引いた覚えがした、不気味だったのは彼女が「はっ」と息を飲んでも片手間にこちらを見ていることであった。
半身から見える顔は私が彼女に見せた顔はヒナが見た巨体な体躯より小さかった。彼は腕を伸ばすと鉄格子を触り何回か揺らした。鉄格子を揺らすと金具が悲鳴をあげ落ちて行く。
砂と共に落ちて行く金具の儚さが恐ろしくも有った後さる。松明のヒカリにより照らされた網目状の鉄格子も影の中に消えた。私は階段を一段後さったところで止まっていた、何分も経ったかと思うと松明が口で吹かれてもないのに揺れていた。
私は石畳の階段の所で立っていたがとうとう何も起こらなかった。私は胸を撫でおろした。しかし、私が振り向こうとした時である、鉄格子がひしゃげた金属の金切り声がしたようだ。
金属のひしゃげた音を聞いて私は階段を目指した。
石を手で叩くに鈍い音が階段を一段登るごとに聞こえる。滑りそうになりながらも四足歩行で歩く彼の手から逃げようとした。祭殿の真ん中に出ると私は蹴りあげた畳を被せた。すると私は外に出て喘ぎにも近い奇声をあげながら畳の上へ乗る。
私が後ろを振り替えるといつも掃き掃除をしている神社の正面の前であった。
しかし、斜陽の陰で見えなかったが外観を見ると私の叔母が迎えに来てくれるようでもあった。いつもと、変わらなかった、私が始めて鳥居を潜ったカラスの声に劣らない寒気を感じた。
「誰も居ないわよね」
私はもう一度斜陽の中に飛び込んだ。畳から地下へ行くには正方形に切り取られた梯子を降りなければならなかった。私が見ていたのはその梯子の下にある石畳の階段であった。私を追いに来るにはその梯子を登らなければならなかった。
シュンと禅の話声が聞こえる。
彼らも行事と掃き掃除が終わる頃だろう。彼らの話声は段々とヒナの居る方へ近づいていた。男のヒトが二人いることはより私の精神が安定する材料になった。二名の影が見えると私は頭が晴天の空を仰ぐ新風が吹いた海に近い蒼が見えた。




