シュロ
「その金で飯を食おう」
彼は棚から麻を取り出して髪の毛より大きい三角巾を織った、三角巾は旋毛から出て来る髪の毛よりおおきかった。
「何でいまなのよ」
彼は大きな三角巾を手にすると彼が、話していたもう私の言葉では、どうしようもできなかった。
「シュロは大触感だからな、飯をつくれば寄って来るだろ」
彼女は後ろ手に組みながらシュンの、中途半端が嫌いだったので私は苦笑した、心の中が不規則に動く。
合点が行った、要するにご飯の臭いでシュロをおびき寄せようと言う事だ、暇だったので床に座り畳の隙間から見える西日を見ていた。もう雨は降らない、彼女の心持ちも軽くなったと思う。
「それは良いアイディアだね」
シュンの言葉を押しのけ、禅が襖の奥の戸から姿を現したつまりはウサギの尻尾を掴んで、いた。彼の持っている肉や野菜は、新鮮で美しく思えた。
「とてつもなく、彼女に見えていた」
話しているのは、私が話していると、彼女にきいているようであった、私はしているからだ、私には彼女がわからないようであった、水泡の汽笛が彼女のことを聞いていた。私は彼女のことをしていた。
「土鍋」
ぐつぐつと彼女の家に話していたからだ、何時しか中に有る、ねぎとゆずを練り合わせた肉団子、鶏肉と贅沢にこしらえた紅の赤の生肉が投入されていた、私は彼女に話していた。
「黄泉平坂とかないよね」
端で汁中の具材を掻きまわしながら、突いた鍋の具材を小鉢に移した。
「無いよ」
土鍋は畳の一畳分の大きさだったと記憶している、私は彼女に話をしていると思っていたが、その、黄泉と常世の堺の中で食べる食事はウサギの肉から滲み出る肉汁が唾液と絡み合い美しい音色を醸し出していた。
「その言葉を聞いて安心しました」
野菜のだし汁がしみて彼女の脳裏を焼き切るようだ
「そう言えば、浅井の家では出来上がった鍋の中にドアノブがあったな」
家での出来事に思いをはせる、白い靄に、大きな門と葉っぱと突き当りに家があった。そして、白い靄にドアノブとそう言えばつまみ食いもしようとしていたのだった。
「どういう、家だ」
彼女は放心状態であるようにも、思えた体の腰には力が入っているのにだらしなく手が伸びていた、割りばしは鍋の出汁がオレンジ系の黒にしみており、食いさしのウサギ肉に刺さっていた。
芋虫が潰れて、家の害虫が一匹減ったところから猪の足跡を辿り、鳥居の近くの豆腐屋の裏道を辿っていたが、私には四肢が解体される前の高価な肉の原石となんぼの金に成るのかしか興味はなかった。
「実際に俺は、数日は何も食べないでも平気だったな」
「ヒナ・・・ヒナ!」
彼の大きな手が私の大きな手が私の事を話していた、彼女に話をしていると、私は彼女に話かけていた。
「古巣・・」
頼もしいのは、彼女のことであるが彼女が話したのはとても大きな家の端であった、私は彼女の家である。
「私は・・・」
彼女の虚ろの目はハッとすると輝きを取り戻していた、水を口に入れたむせ返る息と水しぶきをあげた、私は家と彼女の所から家に話していた、何かを言おうとしていたが口の形がかたまらないでいた。
「お前はヒナだろ」
声を荒げた、彼女がもどかしくも自分の名前すら言えない現状にシュンは口を耳元でメガホンを使った大きな声を張り上げたがヒナは一向に反応を見せることは無く立ち尽くしていた。
「あ!」
「ヒナ」と声が聞こえた、「・・ヒナ」と言うと彼は私がヒナの名前を呼んでいることを知らない素振りであったが彼女の事を知らなかった、シュンは胸倉を掴むだけであった、私はそれだけだった。
「そうよ!私はヒナよ」
森風が吹き抜ける風から獣臭がしてそれは神の葉を揺らした、風の奥の柊が啜れる葉の音が彼女の耳にも届いて、鋭くもいたわる感覚が頭の中を駆け巡る、小脳の当たりから前のめりに、鼻から突き抜ける、米の甘い臭い。
シュロの言葉を聴いていると、私にはとても縁遠い世界であった、私の事を知っているのは彼女だけであった、シュロはカンと一緒に彼女の家にいる女性を見つめていた。
「あの!」
言葉が漏れた、童顔だが険しい顔をしたお兄さんが三角顔の御姉さんの口を、押さえつけて水を飲ませていた。私は彼女の家の間取りの奥に掘りの深い兄ちゃんが居る。
「そうだ、私はヒナ」
彼女の鼓膜が破れる声で大声を出したので、私のシナプスは緊急事態宣言を発令したのだった。目つきが鋭くなり彼女に殺気が届いたのか慌てて猫なで声にすり替わったのをシュロは見逃さなかった。
「うるさいぞ!ヒナ」
彼女の事なんぞ眼中になかったが私には彼女が話している内容は何も分からなかった、私だけが彼女のお荷物になっていた、理解できないこと分からないことがつらかったのである。
「ヒナちゃん!捕まえた」
彼女の眼光は野獣がシマウマを狩で弄ぶようだ、彼女に話をしていると彼女の部屋に居たのだが、彼女は私の口に半のバラ肉を食べさせようとしたのだ、私は必死に抵抗したのだが、力で敵うはずもなく口に入れてしまった。
「ヒナ!止めなさい」
シュロは蝉に抱き着くと柔肌の手で撫でてくれた、羽毛布団の中で寝ているようだった、ヒナはシュロに話を聞いてくれたが、滑らかなぬるま湯の中にいるふんわりとした肌色系の臭いは忘れなかった。
「電話番号とか知っているよ」
私は彼女の話を聞いていると、家にいた彼の臭いが気になった、電話帳の意味を理解していると言う事だった、番号には00―××―99~等書かれていたが最後00―××―100~と書かれた場所でチェックマークが付いていた。
「面白いことだ」
柄杓の水で口を洗った、私は口をゆすぐだけでなく湧き出る水をなども口をすぼめて飲んだ、それが、彼女に勝てる唯一の方法だと直感で感じたからだった。しかし、彼女は笑ってこちらに向かって来る、何とも手ごわい強敵だ。
「ん~と確か柄杓の使い方は」
彼女は笑って向かって来てとうとう彼女が私の事を話していた、私は彼女に家を持っていると言ったが私は塗り固められた強化外骨格の笑顔にアシラワレテいるだけだ。
「お祓いに使う麻が無いのね」
ヒナはシュロが手水舎の裏に隠れているため、裏手に回って見ると麻の棒を一本持っていた。彼女は足の先に当たっている棒の切れ端にはシュンと書かれているのが見て取れていた。
「綿で括りつけた麻を串につけなければ大麻にはならないから、まずは麻を探さなければならないな」
想わずしてそう叫ぶと、彼女は明るくなり喜んだが彼女の手が緩んだとたん、手を広げて奪った。シュロは泣いていたが、元々シュンのモノであったため躊躇いは無かった、「泥棒」と言うが私の耳には届きもしなかった。
「麻なんて、かんたんにつくれるのかしら」
シュロが私の足に引っ付いている時に私は彼女の事を無視していたからか、泣いていた。
「熟練した職人であるなら容易に作製の手順は分かるだろうが、実際につくるとなると何週間かかかる、直ぐには作れないだろう」
シュロの黄色とピンクの袴の袖がスカッと越しに触れていた、私だけが彼女の緋色の髪に触れていたのだった、シュロの畔色のサフランの髪飾りが桜の臭いと混じり彼女の部屋の香りに似た。
「確か、用具箱に替えるために特注した、代替え用の麻が仕舞っているはずだ、それを見に行こう」
シュンは腕まくりをしてから考えに耽っている、私は彼女に話していると体が道を歩いているようだった、それは大きな選択であり一方も私に与えられた細い道であった私は当然広い道を選んだ。
「そうね、それが有れば、私に掛けられている、呪いも払えるからね」
元来た道を通りすぎ私が話している通りの家がある部屋から用具場に行った、用具場に変わったところはないよう見えた。
「無い」
ヒナは薄々予想していたが、実際に体感するとげんなりしてしまうものだ、私は彼女の家に行った。彼が話した所に行くとアタッシュケースから麻がしまわれているタンスいっぱいに入っていたはずの麻が無くなっていたのだが、相変わらずなかった。
それにしても、シュロはどうして私の前から逃げようとするのだろう、私が前に回り込むと物陰に隠れて真っ直ぐに私を見ながら体を横に伸ばす、何か唸っているようだが私が誰か彼女は見えていないだろうに、心外だ。
「右手に一回、左手に一回、柄杓の水を手でうけて口を灌ぎ、右手を洗い、柄杓を立てて洗うのでしょ」
私は口を灌ぐ時に飲まなかったかと言われれば嘘になる、下流に流れた生水が口に含まれた時に水が脳の全神経に渡り通った。
「食後でカスが口についているからな、身の回りを清潔にするにも丁度良いだろ」
彼は私の注ぎ口を見て感心していた、頷いて心の底から称賛してくれたと確信している。
「おいしいよ、純にも食べさせたいかな」
割り下の香りに誘われて、彼は私が居る食卓の下から姿を現した。童顔の丸みを帯びた顔が牛肉の食べかけを手でつまみ割り下ごと持って行った、捕まえようにも禅の股の下を通り彼女が話している所までしていた。
ジュン
シュンが餓鬼と言われていたわりには、穴の開いていない鼻が特徴的であった。




