ハロー死神さん
私が彼に出会ったのは、数時間前のことだった。その日は朝から雨が降っていた。
「あーあ、朝から雨で外でも遊べないし退屈だわ」
私が机に突っ伏していると、友人のけいこが近寄ってきた。
「そんなに退屈なら面白い話してあげようか」
「面白い話?」
「これは噂なんだけどね、ちょっと前にこの近くで友達の家に遊びに行こうとしてた子どもが車にはねられたらしいの。しかもその子は自分が死んだことを忘れてずっと遊び相手を探してるんだって。その子がよく見られるのは、いつもこんな雨の日なんだとか」
話が終わった時、私は青ざめた。なんでこんな雨の日にそんな話をするのだろう。私はちらっと窓のほうを見た。すると何かがにやっと笑った気がした。私は慌てて友人のほうを見るとにやにやした顔をしていた。お前か。
「なーに、あんたもしかして怖いの?」
「そ、そんなことないよ。でも暗くなるから一緒に帰ろうよ」
すると友人は、はっとした顔になり両手を顔の前にやって、
「ごめん、今日委員会があって一緒に帰れないの。本当にごめんね」
私はまた青ざめた。ならなんであんな話をするんだ。私は友人に怒りを覚えながら昇降口についた。外を見ると、さっきよりも雨がひどくなったように思う。傘をさしてとぼとぼ歩いていると、前から全身黒い人影が見えた。いや、よく見ると肩から足元まで届くマントを着ているみたいだった。なんだか関わらないほうがいいような気がして、私は傘をちょっと下に向けた。スタスタとその人が横を通り過ぎると、私の耳元で小さくつぶやいた。
「今日はどこにも寄らずに帰れ」
「え・・・」
私が振り返るとその人はもういなかった。私が首をかしげて少し歩いていると、今度はレインコートを着た子どもが水たまりをパシャパシャ遊んでいた。微笑ましいなと思いながら横を通り過ぎようとしたとき、子どもがズベッとこけた。私はさっき言われたことを思い出しながらも見て見ぬふりはできなかった。
「君、大丈夫?」
私は子どもに手を伸ばした。
「うん、ありがとう」
子どもが私に手を伸ばして私の手をつかんだ。
「おねえちゃん・・・」
その手は普通の人間の手ではなく骨だった。
「ひっ・・・!」
私は慌てて手を離した。
「待ってよおねえちゃん・・・どうして逃げるの?一緒に遊ぼうよ」
私はびっくりして腰を抜かしてしまった。動けない。子どもはゆっくりとこちらに手を伸ばしながら近づいてくる。
「一緒に遊ぶ相手を探してるんだって」
あの時の友人の話を思い出した。この子がその時の子どもだ。私はどうすることもできずにガタガタ震えていると、上から何か鋭いものが子どもに向かって振り下ろされた。
「ぎゃああああああ!」
甲高い声を発しながら子どもは消えていった。
「えっ・・・一体何が起こったの?」
「だからどこにも寄らずに帰れと言ったのに」
私が顔を上げると、そこにいたのはさきほど横を通り過ぎたあの人だった。
「あなたはどうしてここに」
「俺はただ仕事をしただけだ」
よく見ると黒いマントの男の人は宙に浮いていた。そしてマントがフワリと舞い上がると、あるはずの足がなかった。私はどんどん恐怖がわいてきて腰を抜かしているのも忘れてしかも傘も放り投げて、一目散にその場から逃げ出した。
「いやあああああ!」
そこにはマントの男と私が投げた傘だけが残された。男ははぁーとため息をつき、
「せっかく助けてやったのに、やはり人間は愚かなものだな」
持っていたカマを持ち直し、ふわりと浮かんでその場を後にした。それから子どもの噂は聞かれなくなったが、そのかわり足のない黒いマントの男の噂が流れ始めたのだった。