3-17
彪馬の剣を右腕から抜いて、それを左手でそのまま彪馬の方向に投げる。
そして霧花の剣を離す。
そうして間もなくぼくは、膝を地面につけ肩で息をしてシュナをついてやっとのことで体を起こしている状態に陥る。
その間に二人は自分の剣を自分の体に戻した。
「あんた無茶しすぎじゃない?どう見たって引き時ってものがあるんじゃない?まあ、最後の攻撃を防いだのは、見込みあるんじゃない?」
「てっきり避けれねえって思ったからよ。つい投げちまったけど、それがいらねえ瞬発力ってのはなかなかやるじゃねえか」
そう二人が言っている間、奈永のほうはあたふたしてぼくの方に駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか⁉全身血まみれで、重傷じゃないですか!」
「ええ、そうね。明らかにこんなにするつもりじゃなかったのにダメージ受けすぎよ!」
そう言って霧花はぼくの肩をドサッと叩く。
「まあ、悪くねえし裏切るつもりもねえらしいし、いいんじゃねえか?」
「ええ、いいんじゃない?」
「よろしくな」
そう言って右手を出す彪馬に対して、ぼくは左手を出す。
「どういうことだ?握手できねえのか?」
「いや、右手血まみれだから」
ギリギリの状態でしゃべるぼくに彪馬は、気にすることねえよ、と言って無理に右手を掴んで握手させる。
「まあ、仲間って認めてあげるわ。よろしく」
続いて霧花とも右手で握手する。
「よろしくです!」
奈永とも握手したのち、彪馬が口を開いて言った。
「お前歩けねえよな。保健室行って包帯とかとってきてやる。待ってろ」
「あたしも行くわ。奈永はちょっと様子見といてくれるかしら?」
彪馬の言葉に追従して霧花が言うのに、奈永は首を縦に振ってこたえる。
そして二人が走っていったのち、ぼくは壁にもたれかかるようにして廊下に座る。
「えっと……どうしましょうか。ガラスは取った方がいいですよね!」
「え~っと、ぼくの右ポケットにハンカチが入ってるから、それを使ってくれると嬉しいんだけど」
ぼくがそう言うと奈永は、はい、とうなづいてぼくの右側に駆け寄って体を丸めてぼくの右ポケットからハンカチを取り出そうとする。
ぼくは邪魔にならないようにと右手を上に上げた瞬間、能力を発動する。
『全知善王の戦術!』
カードが射出されるシュナの大きな円の部分の下に右手を持ってきてカードをキャッチし、シュナを左肩で支えるように立てかけ受け取ったカードを下に落としてシュナを持たなくてよくなった空いた左手でキャッチし、そのまま左ポケットにカードを収納する。
悪いな、本当に。
そう思いつつ内心とんでもないゲスい笑いを出しながら、苦痛に耐えながら笑顔を出して奈永に接する。
『悪い子なのじゃ~』
『まあ、だって命取らないって言ってくれたからね~』
『だからってあんなに無茶するのはよくないのじゃ!』
『まあ、確かにちょっと無茶はしたけど……』
『そうなのじゃ!まあ、結果オーライと言ったらそれまでじゃが、やっぱり主様には無茶してほしくないのじゃ!』
『わかったよ……』
ぼくの無茶なやり方に危機感を抱いたシュナが、ぼくのことを憂いて説教をする。
説教というものは普通は嫌だが、まあ、シュナからの説教なら程よく可愛くてスッと聞き入れられるのが不思議だ。
まあ、今度からは気を付けよう。
本当に死にかねない場所なんだと肝に銘じ置かないとな。
「とりあえずそれで握手した時についた血を取っちゃいなよ」
「え~、いいんですか、でも大切なハンカチが」
「いや、いいよ。ハンカチなら命より安いし。全然使っちゃって問題ないよ」
「ありがとうございます」
そう言って右手を拭いたのち、彼女はぼくの右半身に刺さっているガラス片を取り始める。
「大丈夫ですか?」
そう数十秒に一回、やたら多い頻度で聞いてくる奈永に何度も、大丈夫、と決まった答えを返す。
そんなことをしている間に二人が戻ってきて、本格的にぼくの治療が始まった。
そして数十分後には、顔の右側や上半身の切り傷には複数の絆創膏、右腕の関節から指先にかけては包帯がまかれ、同じく右足にも包帯がまかれてしまって、服を脱いだらそれこそ重病患者のような見た目になってしまった。
しかし、傷の治療が済んでも体力が回復したわけではないので、依然としてぼくはぐったりと廊下の壁に背中をもたれかけている。
「大丈夫かよ?」
そんなぼくの状態を見て、彪馬はぼくに声をかけてくる。
「まあ、生きてるからなんとか」
そう笑ってぼくが言うと、霧花はきまり悪そうに苦笑する。
変に気を使わせちゃったか、と自分の行動を反省する。
「そういえばさ、なんでみんなこのゲームやってるの?」
ぼくは彼らの真意を確かめたくてそんなことを聞いた。
「特別意味なんてねえよ」
彪馬が答えた。
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