1-2
空が赤いのだ。
火災が起きてるわけじゃない、また月食が起きてるわけでもなく、ただ、空から降り注ぐ光が赤く、それが結果として青く澄み渡り快調な気分にさせる空を反転させたかのような色合いの血液に似たそんな空の色になっているのだ。
「は?え、何起き?まあ、とりあえず写真撮ってあとでSNSにアップするか……」
今の現代人ならではの思考だ。
ぼくはそう思って、携帯の今開いてるゲームをタブにしまってカメラを起動しようとした。
しかし、ホーム画面に戻るボタンを押しても、いくら押してもホーム画面に行かないのだ。
おかしい、このゲームのせいかどうかはわからないが、絶対おかしいぞ。
携帯も、空の色も、妹も!
そんな風に、ぼくがパニックに陥りそうになっているときに、急に携帯のバイブレーション機能が発動する。
「え、なになになになに⁉」
ブルブルブルと携帯は震えながら、画面上に赤い文字で、『warning』と表示される。
「なになになに!何がエラー⁉」
ぼくはそう辺りをきょろきょろしたのち、携帯の画面を見る。
何かが、こっちへ、飛んできている⁉
ぼくはとっさに一歩バックステップをかまして後ろへ下がる。
その数秒もなし後にぼくのさっきいた場所は煙を帯びている。
まるで、宇宙船の不時着のように……。
いや、何かが落ちてきたのだ、何かが……。
「……めっちゃポジティブに解釈すると、運営からのビギナーズラックだな。まあ、ビギナーには支援とかソシャゲの基本だしな……」
しばらくすると、その煙は晴れぼくの目の前に不時着した何かの正体が明らかになる。
それは、思わず見とれてしまうほどのきれいな刀身——鍔がないのが大変不服だが——華美な装飾されたヒルトは、攻撃を防ぐ用途ではないのではないかと思ってしまうほどに美しい。
全体のフォルムとしては、刀身自体はやや長め、それなのにあまり太くなく身軽さを感じさせる、それに対し持ち手の部分はやや短く、両手で持ち構えるとそれだけで余白がなくなるほどだろう。
それもそのはず、この剣で一番目立つポイント、それは持ち手まで侵食し、華美なヒルトを持ち、光り輝く大きな球体の宝石を埋め込まれている円形でガードの位置を中心とした持ち手、刀身にまで侵食するほどの大きな……——なんだこれ、名称がわからん——やつ!
ちょっと回り込んでみてみたがそれ、はどうやら円盤のようなものが刀身と持ち手に挟まっているような感じだ。
「あら、豪華……じゃなくて、ヒルトが剣の最端にくっついていないことってあるのか?それはヒルトじゃないだろ……見たことないな~、こんなタイプの剣」
特別刀剣には詳しいわけではないが、ラノベとゲームで培ったこの知識、オタクの力舐めんなよ?
そんなことを考えていると、誰かに話しかけられる。
「何か文句があるのじゃ?最上位神剣の名を関するわちきの刀身になにか不満でもあるのかの?」
「ん?いや、この剣鍔ないなって。ヒルトもいいけど笹の葉の鍔、あれかっこいいんだよね~。ぼくはヒルトならバスケットより普通のレイピアのようなのがタイプですかね」
「鍔か……鍔は無理じゃの。わちきのお腹のメインエンジンがの、どうしても邪魔になるからの。まあ、わちきはこれで完成品じゃからの~、そう、完全無欠の天下無双、唯我独尊次元最強の名と関する神剣最上位剣なのじゃよ。わかったかの?」
「めっちゃ最強誇示するじゃん。っていうか……さっきから姿見えないけど……ナビゲータじゃないでしょ?さっきと声違うし……誰?」
ぼくがそう言ってあたりを見渡す。
すると、一人の人を見つける。
「あ~、こっちです。こっち、この剣なんですけど~、もらっていいんですかね?」
ぼくはそういって、手招きしながらその人をこっちへ引き寄せる。
辺りには少々霧がかったようになっていてその人の顔はよく見えていなかったが、こちらへ来るにつれてどんどんとはっきり見えるようになっていく。
その顔は少々正気と言える顔ではなかった。
それにどう見ても男性だ、さっきの声の主じゃない。
「ケン、ケンハ、ケンヲ、タタキワルー!」
「なんだお前こっち来るなよ!」
ぼくがそう言いつつ、怖気づき一歩後ろに下がると、またさっきの声が聞こえる。
「わっちじゃ!わっちを引き抜くのじゃ!」
「引き抜く……この剣か?」
「そうじゃ!早く!お主も死にたくないじゃろ!」
「死にたくねえよ!まあ、そうだよな……ぼくの目の前に落ちてきたらぼくの物だよな?ほしかったら力づくで来いよ!ぼくはこいつだけもらって逃げる!じゃあな!」
ぼくは、そう吐き捨てて、剣を引き抜き家の玄関前にいるぼくへ近づいてくるその男から逃げるため、家の花壇を一跳びで超えてとりあえずやみくもに走る。
そうだ、公園がこの近くに……一旦そこの東屋で休もう。
ぼくはそう思ってすぐに駆け出し、一直線で公園へ向かった。
「はあ、何だよあれ、全くなんだこのゲーム」
「お主……敵に背を向けるとは何事じゃ!」
そんな怒号に似た声が聞こえた瞬間、ぼくの後頭部にビンタが直撃する。
「いてぇ!誰だよ、急に。殴るなんて無作法にもほどがあるぞ!」
ぼくはそういって後ろを振り向き、後ろにいる彼女の存在を初めて確認する。