3-11
もちろん、と言っていいかのかわからないが、帰りのホームルームが終わった瞬間、彼女の声が聞こえる。
「せ~んぱいっ!」
「なんで来た?」
「歩きです!」
ぼくの質問に対して彼女は、趣旨を理解せずに答える。
「いやいや、そうじゃなくてな?どうやって、じゃなくて、どうして来た?って聞いたんだけど?」
「待ちきれなかったので!」
特別ぼくらのクラスのホームルームは遅いというわけではない。
だから、そんなに待たせた覚えはないのだが……。
ぼくはそんなふうに、自分に非があるかどうか考えてから彼女に言う。
「そう言うのやめてくれ、ホント」
「なんでですか?」
きょとんとした顔で彼女は尋ねる。
「予定とちょっとでもズレるとだめになる性格だからだよ」
「足りない部分は私が補いますよ!先輩!」
「欠けさせてるのは誰だ」
ぼくはボソッとそうつぶやいた。
「それで~、結局私とデートするんですか?しないんですか?」
全く、牡丹はこういうところがあるから厄介なんだよなぁ、だなんて思いながら水筒に口を付けた瞬間、牡丹がそんなことを言うもんだから、ぼくは口に含んだお茶をそのまま勢いよく噴水してしまう。
おまけに気管支にお茶が入って咳まで出る。
クソっ!本当に調子が狂う。
「げはっげはっ!それだとぼくが願ってデート誘ってるみたいじゃないか!」
「違うんですか?この美少女ボタンちゃんに目を付けるなんて、先輩もなかなか見どころありますねぇって思ってたんですけど?違うんですか?」
「ちげえよ!」
ぼくはゲハゲハ咳をしながら彼女に言う。
彼女の方は、ぼくのそんな姿を見てニャハハ、と笑っている。
本当に、こいつは……。
ぼくはそんな思いを噛み殺しながら、彼女に言う。
「で、本題なんだが、人探し手伝ってくれ」
「ああ~、そんな話ありましたね。で、どんな人なんですか?」
「それが、名前わかってないんだよ」
「それは~、難題ですね」
牡丹は、全く全く~、先輩ってばもう~、私がいないと何にもできないんだから~。この天才ボタンちゃんが手伝ってあげますよ~、と言った、ドヤ顔とも、イキり顔ともとれる不愉快な顔をしてぼくの方を見つめる。
何だこのわんころみたいなやつ、ホントに……。
「まあ、とりあえず容姿教えてくださいよ。天才ボタンちゃんなら何でも分かりますから」
「うん、まあ、とりあえず教えるけど……」
「なんですか?不服ですか?」
「いや、そう言うわけじゃないんだよ」
「何が心配なんですか?あ、女ですか?別に旦那さんが女探しててもいいですよ?触れることがあったら即去勢ですけど」
「怖えよ!まあ、女性じゃないからいいんだけど」
「男性ですか。それで、どんな見た目で?」
「なんかこう、ガラが悪い?っていうか、改造制服って言うか?で茶髪で、ポケットからチェーンストラップがあって、ネックレスつけてて……」
「あ~、あいつですか、そんなの探してるんですね、先輩」
ぼくが彼の容姿を説明していくにつれて、牡丹のテンションは下がり、最終的には汚物でも目の前にしているかのような声色に変わる。
「なんでそんな声出すの」
「だって、ロクなやつじゃないですよ~。関わらない方がいいですよ」
「まあ、いろいろあってね」
「ん~、まあ、デート行けるので教えますけど」
ニャハッと彼女は微笑む。
初めてこいつのこと可愛いって思ったわ。
やっぱり素直に言うこと聞いてくれる子がいいな。
いや、決して扱いやすいって意味では言ってないんだけどもね。
「名前は、二階堂 彪馬。女っぽい名前だけど男ね、知ってると思うけど。私と同じクラスだから、いけばいると思いますよ」
「わかった。ありがとうね」
「……本気で行くんですか?」
その牡丹の声は、どこかいつもの雰囲気とは違って本当に警鐘を鳴らしているかのような声だった。
「うん、まあ、用事があるし」
「そう……じゃあ、先輩っ!デート楽しみにしてますね!」
「うん、まあ……考えとく」
ぼくはそんな適当な返事をしつつも、最終的にいつものテンションに戻ってくれてよかったとも思った。
いるとうっとおしいけど、いないと寂しいってあれだな、なんか、おいしいポジションだな……。
ぼくはそんなことを思いつつ、二階堂の教室へと向かった。
とりあえずまずは偵察。
そう思って、教室にいきなり入ることはなく、扉のガラス部分から中をちらちらと確認した。
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